先日は音のグラフィティについて書きましたが、今回は本当のグラフィティについて。紹介するのはCREWAGAINSTPEOPLEという名前の、グラフィティのクルーです。
彼らはチェコで活動しているグラフィティライターのようなのですが、その作品を知ることになったきっかけはベルリンの書店でこの書籍が目に飛び込んできたからでした。
http://crewagainstpeople.org/index.php?/shop/cap-book-crew-against-people/
色紙に落書きのようなイラストが書いてあるだけの、そっけない表紙。無意識にさっと手が伸びたのはその簡素な作りのせいだったかもしれません。たまに向こうから語りかけてくるような本に出会うことがあるのですよね。そういうものは寡黙な雰囲気を持っていることが多い気がします。ちなみにこの表紙は広げるとポスターになるような装丁になっています。
知っている人は知っているかもしれませんが、僕らは2000年代初頭ぐらいに日本や海外のグラフィティのアーティストを紹介する雑誌を作っていたことがあります。当時は中目黒に大図実験というライターたちが集まるギャラリーがあったり、日本でもグラフィティの文化が盛り上がっていました。ご存知の通りグラフィティの発祥はアメリカですが、その文化は世界中に瞬く間に広がりました。面白いのは地域でスタイルにも特色があることです。なんとなくの感触ですが、今はアメリカ外の方が変な表現をやっている人たちが多い気がします。CREWAGAINSTPEOPLEもそんな存在のひとつなのかもしれません。
実はMASSAGEも一番最初の頃に、Zysという日本のグラフィティライター(光を使ってタギングのスタイルを進化させたような作品)を紹介したりしました。僕は彼らの作り出すアウトラインに、ずっとなにか表現の初期衝動のようなものを感じています。その表現と破壊の間にある謎の部分というか、ずっとこれはなんなのだろう?という疑問があるんですね。それがこの領域に興味を持ち続けている理由です。
さて、このCREWAGAINSTPEOPLEに話題を戻したいと思います。彼らの本を買って以来、ずっとその内容が気にいっていて、たまに作品を眺めていたんですよね。これほど魅力を感じるグラフィティにずっと出会えていなかったからかもしれません。
本の最後に批評家のような人が書いた解説が載っているのですが、その文章によると彼らの作品は当初けっこうディスられていたようです。下手くそだとか、まあそんな内容でした。なんといっても彼らのピースにはスタイルが全然なくて。グラフィティライターといえば、自分の決めたピースや絵柄をさまざまな場所に描くスタイルが多いと思うんですが、彼らが描く内容といったら人を小馬鹿にしたような謎なモチーフ、きわどい表現やらいろいろなんです。もちろんクルー名「CAP」を絵に取り込んだスタイルもあります。
しかし、こういう表現をライターの人たちが悪く言うのもなんとなく気持ちがわかる気もします。なんせスタイルがないのですから。でも僕はそのスタイルがないことに、雷に打たれたかのように衝撃を受けました。グラフィティというスタイルからの呪縛から、その表現が解放されているような気がしたからです。もしかしたらこれはグラフィティではないのかもしれませんが、やはりグラフィティにほかならない。新しいグラフィティだと思うのです。彼らがディスられるのは、そのピースたちが単にこれまでのグラフィティが作り上げてきた基準から語れない場所に存在しているからにほかなりません。
本当はもっと彼らのこと知りたいのですが、メールしても返事はなし。探してみてもほとんど彼らについて触れている人たちも全然いないという具合で。まあそういう神秘的なところも彼らの魅力のひとつなのかもしれませんね。
グラフィティライターはもう一人とりあげたい人がいるので、その話はまた近いうちに書きたいと思います。