ロンドンを拠点に活動するMatt Lewisは、社会問題を主題としたサウンドアートの実践を展開するアーティストである。都市計画や障害者の権利といったテーマに鋭く切り込む彼の作品は、アクティビズム的性格を帯びており、社会的意義をもつ芸術活動として位置付けられる。Lewis自身、サウンドアーティストであると同時にミュージシャンとしての顔も持つため、作品には純粋な体験構築型アートとは異なる視点が現れている。さらに彼は、サウンドアートを専門とするギャラリー「C&R」を設立し、アーティストとしての活動に加え、キュレーター的役割も果たしている。
今回取り上げる作品は「Audio Graffiti」である。Lewisが「オーディオ/ソニックグラフィティ」とも呼称するこのプロジェクトは、グラフィティという視覚表現を音響に置き換えたものである。公共空間に無許可で設置された安価な音響装置から突然発せられる音は、そこを通過する人々に対し、不意打ち的な音の体験をもたらす。Lewisが目指すのは、資本主義的な秩序によって構築された都市空間に、あえて異質な要素を挿入し、その反応を通して都市のオルタナティブな可能性を探ることにほかならない。この試みは、都市と音響環境の相互作用を問題化し、新たな感覚的経験の可能性を示唆する興味深い実践である。
http://www.mattlewis.info/