もつれのパターン / Patterns of Entanglement – On Media Ecologies

Text: Alex Estorick and Yusuke Shono
Image by Kazuhiro Tanimoto

12月5日から21日にかけて、馬喰町NEORT++で開催される「もつれのパターン / Patterns of Entanglement」は、マシュー・フラーの理論である「メディア・エコロジー」への探究から始まった。メディアを単なる情報伝達の装置ではなく、動的なシステムとして捉え直す彼の思想は、デジタルアートをめぐる今日の議論にきわめて重要な枠組みを与えている。彼の視点によれば、メディアはもはや「道具」ではない。それは生物圏・経済圏・技術圏にまたがりながら、現実を変容させるプロセスの網目なのである。その視点は、人間の活動が惑星規模の地質過程に刻まれていく「人新世(アントロポセン)」と呼ばれる時代区分が到来した現代において、ますます重要なものとなっている。本展は、そのようなメディア・エコロジーの思考を、互いに解くことのできない関係から「存在」が立ち上がるという量子力学者でフェミニスト哲学者のカレン・バラッドが唱えた世界の見方に接続する。そして異なる時間軸、空間にまたがる10組のダイナミックなデジタルアートの実践を通じて、世界に存在する不可視のつながり合いをもう一度「編み直す」ことを試みる。2人のキュレーター(Alex Estorick、庄野祐輔)によって書かれた以下のステートメントは、展覧会の背後に流れるそのような思考を、来場者と共有しようとするものである。本展のために執筆された研究者Sy Taffelによるもう一つのテキストと共に、本展を理解する一助としてもらえたら幸いである。

On Media Ecologies

人新世(アントロポセン)は、人間が非人間の生態系との深い結びつきを理解せざるを得ない時代である。加速する金融資本主義のもと、人間世界は拡大・搾取・抽出の論理にますます支配されつつあるが、そうした論理は、より遅く、生成的なプロセスによって形づくられる生きた世界とも複雑に絡み合っている。有機的なものと義肢的なものが交差し、人間が炭素とシリコンのハイブリッドへと近づく現在、アーティストたちは、この新たに多層化した存在を理解するための大切な手がかりを提供してくれる。

文化・メディア理論家Matthew FullerとOlga Goriunovaは、著書『Bleak Joys: Aesthetics of Ecology and Impossibility』(2019)で、「ecology」と「economy」という語が、ともに古代ギリシャ語の oikos(家・財産・家族)に由来することを指摘した1。以降、多くのアーティストが、ソーシャルメディアに埋め込まれた経済的要請によって、人間のアイデンティティや身体がどのように商品化され、再編成されているかを明らかにしてきた。また他の文化実践者は、バーチャル世界と「現実」世界の共生的な関係性、そして前者が後者をいかに再世界化(reworld)しうるかを強調している。

2005年、Matthew Fuller は「メディア・エコロジー」という語を導入し、メディアが現実を形成する性質、そしてそれが「存在者・物・パターン・物質」2から成る広大なネットワークの中でどのように働くのかを論じた。その議論は、デジタル・オブジェクトやアートワークが「情報的であると同時に物質的でもある」3という、当時大きく広がりつつあった理解への道筋を整えた。

2025年の現在、アナログとデジタルの両方を扱わないアーティストを探す方がむしろ難しい。研究者・文化実践者 Ashley Lee Wong は、このハイブリッドの時代が「位置づけられた文脈のなかで芸術実践を見ること」、そして「文化的エコロジーを、生きた/生きていない他の存在と私たちを結ぶ関係として捉えること」4を促すと述べている。多様な創造的実践を行う本展のアーティストたちを理解するうえで、とりわけ有効な視点である。

メディア・エコロジーという概念と同様に、本展の参加アーティストたちは、世界を、倫理的・生態学的・社会的・政治的プロセスが媒介された空間として提示する。そこは人工と生物、人間と非人間のあいだで、絶えず再生・変容・伝達が生じる場である。彼らはメディアを、創作・コミュニケーション・監視の手段としてだけでなく、新自由主義的な「現実」を別のエコロジーへと絡み合わせる契機として再考する道を示している。

sensorium – Breathing Earth

絡み合いのパターン —— Patterns of Entanglement

…生態学とは、個体から生態系のスケールまで、エージェント同士の絡み合い・接続・相互作用・共生のパターンを研究し、地球という“家”のさまざまな部分がどのように関係し合うかを探るものである。5
——Sy Taffel

Sy Taffel は、著書『Digital Media Ecologies』(2019)で、「ecology」が「environment」よりも優れている点として、人間が外部に立つことを前提にしないことを挙げる。フェミニスト科学哲学者Karen Barad、社会人類学者Tim Ingoldの議論に依拠しながら、エコロジーの概念を絡み合い(Entanglement)と結びつけ、主体/客体、自然/文化、表象/現実といった古い二項対立に抗う形でメディア・エコロジーを強化しようとする。

本展参加アーティストの Libby Heaney は、独自の「絡み合い」を作品の核心に据えている。

量子エンタングルメントは、一般に絡み合いという語が含意する複雑な意味よりもはるかにラディカルであり、複数の存在(原子や光子など)のあいだで非局所的に共有される現実の層を指す。「Patterns of Entanglement」は、この絶えず形を変える対話のなかにある複数のパターンと経路を認識しようとするものである。
——Libby Heaney

元量子情報科学者であるHeaneyのハイブリッドな素養は、異なる領域が交差することでのみ生まれる奇妙で新しい成果を可能にしている。本展のほかのアーティストたちも、それぞれ固有のリテラシーを通じてメディア・エコロジーの議論に独自の視点をもたらしている。

ここには、シリコンバレーでの経験をもとに覇権的アルゴリズムの仕組みを可視化する Gretchen Andrew、コードから別様の自然を生成するMatt DesLauriers、生きた世界を感知する回路としてインターネットを探求した先駆的メディアアート・コレクティブsensorium6、ブロックチェーン生命体を10年にわたって育て続けるPrimavera De Filippi、森林に経済主体性を与えるためトークン化を用いるTerra0、粒子システムとベクターグラフィックス、AI生成イメージを重ね合わせ、自然現象とデジタル体験を照応させるYoshi Sodeoka、技術が過去・未来のエコロジーの物語をいかに構築・抹消するかを検討するDeborah Tchoudjinoff、新技術の倫理や非人間・超人間的存在との関係性を探求するHelen Knowles、そして化学とジェネラティブアートを横断する視点から物質とデジタルを融合させた視聴覚表現を生むKazuhiro Tanimotoなどが含まれている。

Tanimotoの参加は、本展を、日本のジェネラティブ・アーティスト10名の作品を先駆者・川野洋の作品とともに展示したインフォーマルな対の企画「Patterns of Flow」(NEORT++、2024)へと接続する役割を果たしている。同展が日本の実験美学の系譜に光を当てたのに対し、本展は、テクノロジーや自然を美化せず、多様な仕方で絡み合っている人間と非人間の関係性を可視化する国際的なアーティストの姿を浮かび上がらせる。本展を通じて、来場者はデジタル生態系と自然生態系の交差点を探索し、人間中心主義を超えたオルタナティブな現実へ向かう経路を考えることができるだろう。

Libby Heaney – Qlimates

Yoshi Sodeoka – 21.000

  1. Matthew Fuller・Olga Goriunova『Bleak Joys: Aesthetics of Ecology and Impossibility』University of Minnesota Press、2019年、p148
  2. Matthew Fuller『Media Ecologies: Materialist Energies in Art and Technoculture』MIT Press、2005年、p2
  3. 同上、p2
  4. Annie Lai Kuen Wong『Ecologies of Artistic Practice: Rethinking Cultural Economies through Art and Technology』MIT Press、2025年、p3
  5. Simon Taffel『Digital Media Ecologies: Entanglements of Content, Code and Hardware』Bloomsbury、2019年、p1
  6. sensorium《Night and Day》1998年。https://www.artthrob.co.za/sept98/project.htm(2025年11月4日アクセス)

RIGHT CLICK SAVE
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Alex Estorickはロンドンを拠点とするライター、編集者、キュレーターである。Right Click Saveの編集長として、新たなテクノロジーに対して批評的かつ包摂的なアプローチの構築に取り組んでいる。また、ロンドン大学ゴールドスミス校コンピューティング学科の招聘研究員でもある。近年のキュレーションには、Artverse(パリ)にて開催された「FEMGEN」、Bonhams(ロンドン)における「Cure³」、NEORT++(東京)での「Patterns of Flow」、Unit(ロンドン)での「The Pixel Generation」、そしてFeral Fileで開催された「Ecotone」などがある。ArtforumからFinancial Timesまで幅広い媒体に寄稿しており、クリプトアートの美学に関する初めての包括的テキストの筆頭著者も務めた。彼が編集した『Right Click Save: The New Digital Art Community』(2024)はVetro Editionsから刊行されている。2025年には、アート界で最も重要な人物を選出するMonopol Top 100にも選ばれた。

庄野祐輔は、日本国内外のグラスルーツ文化を発信するインディペンデント・マガジン『MASSAGE MAGAZINE』の発行人である。メディア運営に携わるかたわら、数多くの展覧会をキュレーションしてきた。主な企画に、NEORT++で開催された「計算する詩」、「Patterns of Flow」、「Web as a Medium」、K Art Galleryでの「Machine-Made Aura」(2024)、代官山で開催された「Proof of X — Blockchain As A New Medium For Art」(2023)、そしてラフォーレ原宿「PHENOMENON: RGB Exhibition」(2019)などがある。オンライン世界に広がる多様な文化を探求し、その知見を発信し続けている。

開催期間:2025/12/5 _ 2025/12/21 月, 火, 祝日は終日休館
アクセス:東京都中央区日本橋馬喰町2-2-14 maruka 3F

https://two.neort.io/ja/exhibitions/patterns_of_entanglement