MACHINE-MADE AURA展
人間と機械の共創を探求する

Text: Yusuke Shono

7月11日から8月3日にかけて、AIアートの展覧会「MACHINE-MADE AURA」が行われた。AIを制作のプロセスにとりいれた制作手法が急速に一般化するなか、機械と人間の相互作用によってどのような創造性の形が育まれるのか、その共創のあり方を問う展覧会である。洗練された道具が人間の一部として扱われるように、人間の手による創作とAIによる生成の融合は、一見それとはわからない形で行われる。今回の展示では、AIによる生成から手描き、コラージュといったアナログな表現手法までをごく自然に往来するアーティストたちにフォーカスし、一般的な美術作品と等価な鑑賞体験をもたらすことを意図して、デジタルアートを絵画的な体験に変換することを試みた。

一般的にはAIのような表現の民主化を可能とするテクノロジーの出現は、表現の均質化を推し進めるものとして危惧されることが多い。しかし一歩そのシーンの中で生み出されている実践へと視点を進めれば、アーティストの数だけ豊かな表現が開花しているのがわかる。AIの使用にも、生成のプロセスのシステムそのものが作品となっているものや、インスピレーションソースとして用いるやり方、プロセスの一部として、あるいは素材を加工するフィルターとして、あるいはコラージュのマテリアルとして用いるなど、その融合のレベルはさまざまで、多様なアプローチ、可能性がある。そのような、AIの領域に花開いたさまざまな方法論と生み出された作品を通じて、この未来の芸術が持つ可能性を検討することが展覧会の趣旨でもある。

参加アーティストについて

今回の展示作家たちは、先述したように生成AIを高いレベルで作品のプロセスに取り入れているアーティストたちである。2017年よりAIを創作の手法に取り入れた実験を行ってきたTù.úk’zは、ブラジルを拠点として活動するデジタル・アーティストで、不定形で抽象的な形状を自由に構成し、色彩豊かで幻想的なイメージを作り出す。非常に多作な作家であり、そのスタイルは画面いっぱいに広がるさまざまな形と流れるように変化していく鮮やかな色使いである。具象と抽象を行き来するそのイメージは、観る者の感覚を刺激し、様々な解釈を引き出す。

Tù.úk’z / Carcosa / Wooden Panel / UV print

また、Jenni Pasanenもデジタルペインティング、写真、AIツールを駆使したミクストメディアを用いて、芸術におけるAIの可能性を深く探求しているアーティストである。目や手といった身体の一部をモチーフとし、幻想的かつエモーショナルな作品を作り出す。「Live on」「No Evil」はArtbreeder splicerとStable Diffusionを用い、自身の作品から訓練したモデルを使って生成されたイメージとデジタルペインティングの組み合わせによって生み出された双子の作品。身体から流れ出るような色彩が抽象的な背景と融合し、幻想に包まれた物語を具現化する。アーティストのタッチはどこから始まり、機械の入力はどこで終わるのか。その不可視の境界を浮かび上がらせる。

AIと人間の共創は、アートを変革することになるでしょう。AIをプロセスに統合することで、アーティストはこれまで到達できなかった新しい創造的領域を探求することができます。AIは協力者として機能し、ユニークな視点を提供し、アーティストが異なる考え方をするのを触発する驚くべき結果を生み出します。この関係は、アイデンティティ、オリジナリティ、創造性といったテーマの深い探求を可能にします。–Jenni Pasanen

Jenni Pasanen / Live on / Wooden Panel / UV print
Jenni Pasanen / No Evil / Wooden Panel / UV print

また、Nic Hamiltonは建築のバックグラウンドを持つメルボルン在住のグラフィックデザイナーであり、アーティストである。彼のスタイルは、異なる素材とメディアの組み合わせによって多層的な意味を創出する。今回の出品作である「Liffey (Timeframe) 」は、時間の経過、自然と人工の交差、そして創造と破壊といったテーマを探求する作品。異なる次元の要素が融合し合うことで視覚的な対話を促し、観る者に対して多角的な解釈を生み出す。

私にとってAIはデータベースであり、意識を持つわけではなく、アイデアを急速に具現化する初期の新奇性を除けばそれほど驚くべきものではありません。私はそれを、予期しない入力を導入しながらアートワークを作成するための、情報が多少失われる可能性のある包括的なエクセルドキュメントと見なしています。—Nic Hamilton

Nic Hamilton / Liffey (Timeframe) / Wooden Panel / UV print

Studio BraschことAnders Brasch-Willumsenは、日本文化からインスピレーションを受けた作品を多く作り出してきた。3D、そして最近ではAIをメディウムとして用い、芸術的な問いを作り出し、想像の世界を描く。「Yohaku」は、古くから芸術作品の主題とされてきた「花」をモチーフに、伝統的な静物画に新しい解釈を加えた作品である。抽象的で流動的なブラシストロークが、デリケートな質感と強烈な色彩で花の幻影を描き出す。

このシリーズは、表現豊かなペイントのストロークから始まりました。そして、これらのストロークを用いて、過去のすべての花のアートプロジェクトの画像とともにAIを訓練しました。これにより、想像もつかなかったような興味深い組み合わせが生まれ、作品の根幹は私自身の手から、文字通りのサインから生まれました。芸術における花、特に絵画や写真における花は、家具デザイナーにとっての椅子のようなものです。つまり、広く使用されている主題です。そして、ストロークは、伝統的に言えば、アートワークの基盤を形作るものです。AIがアートだけでなく、私たちの存在そのものを変えようとしているという考えに深く傾倒するようになりました。それはアートの基本に立ち返りたいという重要な芸術的決断でした。—Studio Brasch

Studio Brasch/ Yohaku / Wooden Panel / UV print

Felipe Filgueirasはサイケデリックな創造世界を作り出すブラジル出身のアーティストである。その作品は、視覚的な物語を語るかのように、複数の層と次元を持つ。自然界の要素と超自然的な要素をコラージュし、現実と非現実の境界を曖昧する。目に眩しい鮮やかな色使いと有機的な形象が入り乱れた、幻想的な宇宙を描く。視覚的に突き刺さる圧倒的な綿密さで、さまざまな要素が交錯する独特の世界観を展開している。

AIコラージュ、デジタルペインティング、生成イメージングを使用して制作した作品です。自己の存在の小さなマイクロバースを創造するためにこれらを融合させました。私の多くの作品と同様に、この作品はNEONパラコスムの概念を探求しています。そこでは、あなたの内なる自己が、色彩豊かな幸福のフローラのようにきらめきます。—Felipe Filgueiras

AIアートの短い歴史

今回の展示コンセプトの背景を理解しやすくするために、少しだけAIアートの歴史について振り返っておきたい。重要な出来事は、イアン・グッドフェロー(Ian J. Goodfellow)が2014年に提案した敵対的生成ネットワーク(GAN)の登場である。AIアートにおける転換点ともいえるGANの技術は、リアリスティックな画像を生成する能力を飛躍的に向上させ、AIアートの発展に大きな影響を与えた。その後、GANから派生した技術が数多く登場する。顔や他の複雑なイメージを非常にリアリスティックに生成できるStyleGANや、画像を一つのスタイルから別のスタイルへと変換できるCycleGANなど、さまざまなAI技術の登場が、創造的なAIの応用の可能性を広げていく。

2018年には、世界で初めてAIによって生成された作品がクリスティーズでオークションにかけられる。パリのアーティストグループObviousによるウィキアートのアートワークデータベースからGANを用いて構築された肖像画「Edmond de Belamy」は、約43万ドルという価格で落札され、アート界に衝撃が走る。アートマーケットでAIアートが地位を確立するきっかけとなった出来事である。

Obvious / Edmond de Belamy

同じ2018年、AIアートのパイオニアの1人マリオ・クリンゲマン(Mario Klingemann)が作品「Neural Glitch / Mistaken Identity」を発表。トレーニングされたGANをランダムに変更、削除、または交換することでマシンに誤った解釈を与え、モデルの一部にグリッチを導入する作品である。またアーティスト兼研究者のアンナ・リドラー(Anna Ridler)は、GANを用いて作られたビットコインの価格変動に連動してチューリップの模様や色が変化する作品「Mosaic Virus」で、投機の歴史と経済の関連性を考察した。MoMAでの大規模展示などで知られるレフィーク・アナドール (Refik Anadol)も2019年にはAI作品を発表している。彼の出世作とも言われる「Machine Hallucination」は、 SNSで公開されているニューヨーク市の写真記憶1億枚以上に機械学習アルゴリズムを適用し、都市の集合的記憶を可視化した。彼はまたAIを用いた一連の作品群を「AIデータ・ペインティング」と「AIデータ・スカルプチャー」という造語で呼んでいる。

Mistaken Identity (Excerpt)

Anna Ridler – Mosaic Virus from m-cult

Unsupervised – MoMA – NFT Colletion Teaser from Refik Anadol

AIアートの躍進のもうひとつのきっかけは、プロンプトからイメージを生成するAIモデルの登場である。Midjourney、DALL-E 2、Stable Diffusionなどの登場は、AIアートの流れを一層加速していく。細かなディテールと高い解像度の画像を効率的に生成できるモデル、そしてテキストベースの入力で高品質な画像を生成するアクセス性は、多くのアーティストのAIアートへの参入を後押しした。

例えば、Claire Silverはテキストベースのプロンプトから独自の美術作品を創出するAIアーティストのひとりである。彼女の作品は、AIの解釈とアーティストの意図との間のダイナミックな相互作用・コラボレーションの可能性を広めた。また、AIと写真の交差点であるポストフォトグラフィは、現代アートのシーンで急速に発展している領域として注目されている。例えば、草野絵美は自身の日本のファッション文化への愛着から、過去にあり得たかもしれないファッションスナップのイメージを生成し続けている。彼女の作品は、現実と虚構の境目が曖昧になりつつあるポストトゥルース時代に生きる現代の人々の置かれている状況とそのあり方を表現した。ポストフォトグラフィは現実に対して多様な視点を与える一方で、写真とは何かという問いを生起する。ポストフォトグラフィは、カメラを用いない写真であり、そのことにより現実の記録を超えた新たな表現形式となり得るのである。

まとめ

生成AIに代表される機械と人間が一体となった創造的システムの登場は、私たちの文化的風景を根本から変える可能性がある。人々の創造性を補完し、拡張するだけでなく、創造的な表現や教育を多くの人々に解放する可能性もある一方で、急速すぎる技術の拡散は、アーティストの著者性やオリジナリティのあり方を変質させ、手仕事の価値を破壊してしまうかもしれない。テクノロジーが地球規模で世界を覆い、私たちが生きる環境すら変えていく現代の社会において、人間と技術の関係性について考えることは緊急の課題になりつつある。そのような状況で、新しい知性のあり方が登場したことの意味を私たちは問うべきではないだろうか。