Tezosチェーンにおけるジェネラティブアートムーブメントの震源地として、その文化の発展と拡大を後押ししてきたプラットフォームfxhash。その特徴は、この領域の様々な技術的や流行を細やかにフォローし、いち早く開発し搭載していくスピード感、そして何よりすべてのクリエイターに門戸を開くオープンなシステムにある。そのあり方がアーティストとプラットフォームの間に他に例のない共創のサイクルを生み出してきた。500万ドルのシード資金の獲得以来、クロスチェーンアーキテクチャを提供するONCHFSを用いてオンチェーン化を果たすなど、マーケットの冷え込みをもろともせず歩を進めてきたfxhash。そのフィナーレとも言えるのが、Ethereumへの進出を果たすマルチチェーン化である。その名もfxhash 2.0。提供されている資料から、アップデートの要点をピックアップしてみた。
- TezosとEthereumの両方(オンチェーンを含む)でミントと収集ができる
- ユーザーが設定値を自分で設定できるfx(params)や、ミントしたトークンをフィジカルアイテムと引き換えることができるredeemablesなど、fxhashの特徴をなすそれらの機能はEthereumで変わらず利用できる
- エディション数の上限を決めず、一定期間だけミントを可能にするOpen Edition機能が追加される
- UI/UXの改善、キュレーションスペースの創設、マーケット統計など、開発計画はまだまだ続く…
そして最も重要なのは、12月1日から行われるfxhash 2.0のローンチを記念した立て続けのリリースである。fxhashの中でも多くのコレクターたちを惹きつける作品たちを残してきたアーティストが久しぶりに復活するとあって、注目度も上がってきている。オープンなプラットフォームにふさわしく、ローンチカレンダーに掲載されたリリース量も膨大だ。ミント期間が始まれば一種の「お祭り」状態となるに違いない。ジェネラティブアートの新たな波の一つとして、歴史に刻まれるであろうイベントである。
今回のローンチの作品リリースは、パートナーとなる様々なグループがキュレーションを主導していく形式をとっている。各プラットフォームがそれぞれの色を打ち出すことで、多様なラインナップを実現する狙いなのかもしれない。ローンチパートナーはTender、ARTXCODE、bitforms gallery、Refraction DAO、Volume DAO、そして日本からKumaleonが参加する。この記事ではfxhashが発表したローンチカレンダーの情報をもとに、筆者の独断と偏見で注目の作品をピックアップする。膨大な作品のラインナップから、自分自身のお気に入りを見つける参考にしてもらえたら幸いである。
※まだ未定な情報も多いため、公開後にも情報を更新していく予定
fx(text)版(en)はこちら。
uesYn – Dance
アンチエイリアスの切られたラインが、画面上を残像を残しながら動き回る。簡素なUIのようでもあり顕微鏡を動き回る微生物のようでもある。その愉快に動き回る様子から「Dance」というタイトルが生まれた。Georges Braqueの作品「Fox」を鑑賞した際に、ヘッドアップディスプレイ(HUD)の格好良さと共通しているのではないか、という気づきからグリーンのラインをモチーフとして選んだ。加えて、「イリュージョンによって不可視になっているピクセルを掘り出す」ことを目的に、線のエイリアスを再現している。ジャギーの大きさはランダムに切り替わり、残像もピクセル単位で制御しているため、作品から与えられる「粗さ」の印象に反して、ディスプレイの最小単位であるピクセルが全面に出る作品となっている。
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ciphrd & znah – Genomes
December 14, 2023 at 22:00
GoogleのエンジニアでDeepDreamの制作者znah、そしてfxhashファウンダーciphrdによるプロジェクト。fxhashの始まりと同じく、fxhash2.0における#0作品となる予定。
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Piter Pasma – Blokkendoos
December 16, 2023 at 23:30
Partner: TENDER
コードと複雑さの実験を通じて自分自身を表現するジェネラティブアーティストPiter Pasma。その彼が、3次元シーンのフォトリアリスティックな画像を生成するためのレンダリング手法であるモンテカルロパストレーサを用いて制作した作品。3Dモデルや外部リソースは一切使用しておらず、コードの総容量は10KB未満となっている。視覚的な面で言えば、ソフトな照明と拡散表面への組合せの賛歌であり、三次元形状とそのネガティブスペースを生成するコードが、図と地の特性を融合させた作品である。アーティストは、10KBというサイズ最適化について、チャレンジというだけでなくそれがコードアートを表現する最善の方法であると述べている。PhotoshopやProcreateはアプリケーションという既存コードの助けを借りて表現を作り出す。つまり「他人のコード」を使用している。それはTouch DesignerやMAX、Bitwigのようなツールでも同じである。さらに掘り下げれば、ジェネラティブアートの多くもP5.jsといったライブラリに依存している。Piter Pasmaは、依存性として、JavaScriptとブラウザのみを使用する。依存性を低くする理由のひとつは、作品の寿命のためである。一方でコードを極限まで短くするのは、ひとつのチャレンジであり、またどれくらいコードが小さくなりうるかを知ることはできないとしても、そこに神秘的な美しさが宿るからである。
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ippsketch – Paradigm
December 15, 2023 at 01:30
Partner: TENDER
アーティスト名は、i++ sketchを意味する、芸術とともに常に進化しながら前進するというアーティストの感覚を表しているらしい。「Echos」や「Sketch」シリーズなどのミニマルなスタイルの作品がfxhashコミュニティを魅了してきた。自身の過去作品である「Monuments」シリーズや、エッシャーなどの視覚的操作を行うアーティストの作品からインスピレーションを得て作られた、天と地をつなぐ直方体が並ぶジェネラティブアート作品。
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REAS – No Distance
December 15, 2023 at 02:00
Partner: bitforms
Processingの開発者として知られるCasey REASによる作品。ニューヨークの@bitformsギャラリーで開催される「It Doesn’t Exist (In Any Other Form)」展のために制作された長編ジェネレーティブアート作品で、Still Lifeシリーズの一部。この生成システムは、2015年の木版画HSB-119-006-090-1366-618 / HSB-135-006-090-1232-687を生み出したコードを進化させたもので、シリーズ作品のすべての起源となっている。
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Studio Yorktown – Komšije
Partner: TENDER
「Komšije」という言葉はセルビア語で「隣人」を意味する。建築の要素と黄金比(1:1.618)を組み合わせた作品。Studio Yorktownはセルビアのニューベオグラードのブルータリズム建築がこの作品にとって重要なインスピレーションであると語る。その美学は一時的な流行からはずれているかもしれないが、非常に堅固でよく設計されており、時間の試練に耐えている。独自の空間を持つ多数のプライベートな世界それぞれが、共有されながらも個別の空間に浮かぶ、縦のエコシステムを代表している。黄金比は、Studio Yorktownの創作物に繰り返し登場する要素で、自然界に頻繁に見られる比率。貝の螺旋や人間の体の比率に見られるように、美的にも快適で親しみやすい。「Komšije」では、この比率を使用して主に住宅の建築形式を立面図で配置し、ミッドセンチュリーのモダニズム、日本のポストモダニズム、東ヨーロッパのブルータリズムを融合している。作品は黄金比で幅と高さを繰り返し分割することによって作られ、すべての要素が全体の比率に関連していることを保証している。この方法で、柱の幅や床の高さを整え、統一感のある構造を維持している。描かれている構造物は建築上実用的でないかもしれないが、遊び心のある幾何学と質量感を通じて驚きと喜びの感覚を呼び起こすようにデザインされている。
senbaku – Color of my sheets
December 15, 2023 at 21:00
Partner: KUMALEON
トレードマークであるおばけは、特に誰、と明言しない「誰か」の象徴。過去に発表した「魂の色」という作品を、シーツで魂の色を隠しているおばけが、逆にシーツで自己表現をしたら?という発想から生み出された作品。地図の格子モチーフは、一歩外に踏み出して、歩んでいく空間を表現している。試行錯誤しながら歩んでいる足取りや、シーツのたゆたい、おばけのふわふわした動き感をイメージして制作した。
「東京での学生時代、雑踏の中を毎日歩いていました。そして家に帰ってきて、確かにわたしは街にいたのに、誰とも話さず、だれにも気に留められずに歩いていた。まるで自分は透明な幽霊のようだった、と感じました。都会を歩く人達はシーツおばけのようです。見えないシーツを境界にして、シーツに開けた穴から、自分を隠して安全に外を見ています。魂の色は隠したままです。わたしは街の中にいて、おばけのようにぽつんと透明でいることに寂しさを感じていました。シーツを剥いでさらけ出すまではいかなくても、自分を表す色のシーツを選んで、外に出てみてもいいかもしれない。すこし人間であることに歩み寄る。そう、すこし自己表現をしてみても、いいかしら? わたしはこんな魂の色をしているの、と。そして、これは期待ですが、一歩外に出たら、そのままどこへだって歩いていけます。きっと。色んな人とすれ違って、時には交流して。その過程で魂の色も変化するかもしれない。」
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SamuelYAN – unTie
December 14, 2023 at 23:15
Partner: Volume DAO
12月15日(金)から17日(日)までの3日間、Volume DAOが台北のギャラリーで展示会を開催する。その展覧会のテーマ「Ties」という言葉を受けて、「結び目」と「絆」をイメージし、イメージの中のねじれた線を通して、何らかのつながりを表現した作品。キャンバス上の一点が、花火やリボンのように絶えず線や点を放つ。それらの色彩は、まるで何かを祝福するかのように、キャンバスの上で旋回し、踊り続けている。それはまた、抑圧された感情が一瞬にして解放されるかのようでもある。過去のあらゆる経験の記憶の結び目が、この瞬間にほどかれ、思い切り解き放たれるのである。結び目によって大切な瞬間や経験を心に封じ込めることが重要な一方で、その結び目をほどいて長い間溜め込んでいた感情を手放すことも同じく大切である。そうした意味を込めてタイトルは「unTie」となった。
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.conatus – .empathy
January 3, 2024 at 22:00
不規則性の収束から新しい規則を見出すこと、幾何学アート、光の三原色、加法混色に関する芸術的研究を行っているジェネラティブアーティスト.conatus。今回の「.empathy」は、ポロックに敬意を表して、加法混色による光の加算を伴い、黄金角に基づく不規則な線を調和させることを目指した作品。ジャクソン・ポロックの感性におけるフラクタルが見出されたように、ジェネラティブアートの中にもカオス理論の黄金比を見出すことができると信じている。
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andreasrau – Duet (Preview)
Partner: PARAMETA
即興と作曲の間、正確な指示と自由な解釈の間、合成音と自然音の間、人間と機械の間で繰り広げられる生成的パフォーマンス。コンピュータが作曲家、指揮者、演奏者となり、人間の音楽家が演奏する楽譜とともにサウンドとビジュアルの絶え間ない流れを生成する。パフォーマンスから派生した静止画、音楽スコアの解体バージョンなど、儚いものを思い起こさせる時間ベースの作品。
Gin_ – (No)Color
December 16, 2023 at 21:00
Partner: KUMALEON
数理的な手法を用いた描画表現を探求している日本のジェネラティブアーティスト。これまで取り組んできたフラクタル図形を応用した描画手法により点描による対称な図形を生成。今回のKUMALEONのテーマ「COLORFUL」に合わせて、色に焦点を当て、描画の過程と結果の視覚的な食い違いを生み出すことで、過程と結果のどちらが大事なのかを問いかける。
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Kazuhiro Tanimoto – Yuragi
December 14, 2023 at 23:00
Partner: Volume DAO
一見安定しているように見える現象であっても、サイズや時間の異なるスケールで見ると常に変化しており、変化しないものごとは存在しない。全体として見た場合、各物体は砂粒ほどに小さく、一つの物体だけでは全体に影響を与えることはできず、より大きな流れに飲み込まれて一瞬にして消え去り、はかない色を放つ。それはまるで人の人生のようである。アニメーションとオーディオを通して、さまざまなスケールの物体の相互作用と流れを表現した作品。
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Roni Block – Slott
December 12, 2023 at 21:00
Partner: KUMALEON
スウェーデン在住のクリエイティブコーダー、ジェネラティブアーテイスト。以前のfxhashプロジェクトである「Luft」の姉妹プロジェクトで、新しい色の組み合わせ、より複雑なタイル、そして対称性を探求した作品。カラフルな曲線のモチーフが繋がり合いタイル状のパターンを作り出していく。
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HAL09999 – The WRK Paradox
これまでの作風を大きく転換した前作「The Bridge」では、自身のパーソナルな体験から、気分の上向くような作品を作る必要があったという。連続した作品の第一部をなすこの作品は、ギガンティックなカラフルな宇宙に没頭し、小さなモノリスを操作して星々を探索するインタラクティブな宇宙旅行を作り出した。ビデオゲームや、Windowsに搭載されていたスクリーンセーバー「starfield simulation」のような、デジタルアートの異なる分野を結び付けることを意図した作品でもある。現在取り組んでいる第二部は、この定義の融合・拡大を図る試みである。アルゴリズム音楽ビジュアルの先駆者であるジョン・ホイットニー、オーディオ技術を開発したテリー・ライリー、そしてスタンリー・キューブリックが作り出したイメージなどを参照し、グラフィカルで極めて大きな色空間、SFのタッチの宇宙、そしてジェネラティブオーディオを融合する。
「純粋に視覚的で静的なものであれ、時間ベースのメディアに傾倒しているものであれ、アルゴリズム的実践への賛歌だと思っています。これまでの作風から大きい転換を見せたこの作品が、異なる概念領域を癒し、和解させ、また観客にも響くことをっています。」
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Geoff Davis – Time Spectrum
January 18, 2024 at 02:00
Partner: EXPANDED.ART
80年代から活動するジェネラティブアーティストGeoff Davisによるロングフォームジェネレーティブ・アートアニメーション作品。「ABSTRACT ORIGINALS」に収録されている「MA1 LINES」を現代的に再構築したもので、p5jsを用いて制作した初のオンチェーン作品となる。7つのパレットを使い、それぞれが宇宙の歴史を表す7つの異なる色の作品を生み出す。7つの異なる色彩は、ビッグバン、生物学、人類のディアスポラ、モノメディア、カラーメディア、サイバーパンク、超越という7つの時代を表現している。
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Wren + Kitel - Edge
風景を題材として作品を制作するAIアーティストWrenとジェネラティブアーティストKitelという、それぞれが独自の創作アプローチとスタイルを持つアーティストによるコラボレーション。「Edge」は、対立するのではなく、わずかに異なる何かを意識下で繋ぐ繊細な線を展示するプロジェクト。運転する車の窓から見えるホコリっぽい田舎道と、美しくカラフルな風景を隔てる境界。日の出と日の入りの際に、ほとんど気づかれずに昼と夜を分ける境界。それは、AIとジェネラティブアートが収束した場所でもある…
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loackme – stranded(ness)
December 19, 2023 at 02:00
モノクロのディザという特徴的なスタイルを持つ、フランスのジェネレーティブアーティスト。閾値のない空間という感覚を与える、ループする白黒の構図についての作品。時間自体が掴みどころのない、純粋な抽象性を持つ作品を創造することを目指している。
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takawo – Snail Trails
December 22, 2023 at 03:00
Partner: ARTXCODE
デイリーコーディングやNFT作品「Generativemasks」などで知られる神戸在住のクリエイティブコーダーtakawoによる、初のfxhashリリース作品。10PRINTや再帰など基本的な画面構成のアルゴリズムを用いながら、色彩の移ろいを表現。ある種の生き物としてのセクシーさを、コードで表現したいと考えて作られた作品でもある🐌。
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Okazz - Turn Over
December 14, 2023 at 21:00
Partner: KUMALEON
日本のクリエイティブコーダー、ジェネラティブアーティスト。ポップなテイストが特徴で、代表的な作品としてKUMALEONなどがある。
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sakamura – ephemeral
December 24, 2023 at 21:00
日本を拠点に活動するジェネラティブアーティスト。アートとテクノロジーの交差点への興味から、創造性を表現する新しい方法を探求する。今回の作品は、これまで培ってきた単純図形の組み合わせの模索から一旦離れ、以前から興味があった日本画の朦朧体の表現とそのアップデートをジェネラティブアートで試みる。
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KilledByAPixel – fxVase
December 14, 2023 at 02:00
KilledByAPixelはコンピュータグラフィックスとゲーム開発の分野で幅広いバックグラウンドを持つジェネラティブアーティスト。「fxVase」はユーザーが造形し、釉薬をかけ、自分だけのバーチャルな花瓶をミントすることができるオンチェーンのデジタル陶芸ツール。前作「fxPottery」を発展させ、今作では取っ手をつけることができるようになっている。
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DistCollective – Focus (wip title)
January 24, 2024 at 09:00
イスタンブールを拠点に活動するアーティストデュオ。アルゴリズムを通じて計算美学の有機的要素を探索することに焦点を当てている。今回の作品「Focus」は、その名前から想像できるように、対象物に非常に近づいたり、ズームインしたりすることで、時には焦点を失い、他のディテールを発見するといった現象に焦点を当てたタイトル。p5.jsのパーティクルシステムを使ったテクスチャ探求の一環として、5つの異なる色をそれぞれ異なる周波数のパーティクルシステムに割り当て、音楽の和音が構成されるような効果を生み出している。音楽のハーモニーと視覚的な色彩の間に、相補性に基づく相関関係を見出すことを目指した作品。
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qubibi – Rehabilitations 1
February 1, 2024 at 00:00
デジタルな作品を制作するアーティストで、独自の世界観を持つインタラクティブな作品も多く手がける。ミミズと本人が呼ぶ特徴的なジェネラティブアートは、世界のコレクターが収集に熱狂する作品となった。本作「Rehabilitations 1」は、タイトルの通りリハビリテーションをコンセプトにした作品。リハビリテーションのプロセスには、困難と希望、そして徐々に進む回復の過程が含まれる。ではアーティストにとってのリハビリテーションとは? 社会への復帰、疲弊した心の回復、あるいは新たな創造性を開拓するプロセス?
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