Bright Moments Tokyo – Behind the scenes
人とアートを相互接続する空間

Text: Yusuke Shono, Translation: Goh Hirose

6日間にわたる祝典が幕を閉じた!煌びやかな都市の夜景を背景にしたジェネラティブアート/AIアートの鑑賞から、緑に囲まれた伝統的な日本の家屋での世界的なアーティストたちと行う対面でのミント体験、作品の背景に横たわる歴史やコンセプトに触れることのできるゴージャスなトークやワークショップ、そして人々の旅の疲れを癒すディナーまで。時間と空間を超えた人々の出会いと対話が繰り広げられた、濃密な日々はあっという間に過ぎ去った。キュレーターのKalohは、世界を股にかけながらローカルのシーンとインスピレーションを交換しながら勢力を拡大し続けてきたBright Momentsの影響力を、旅するサーカス団であるシルク・ドゥ・ソレイユに例えた1。その彼らが世界最高峰のNFTアートを携えて、東京にやって来たのである。彼らが東京で成し遂げたものとはなんだったのか。Bright Moments創設者のSeth Goldsteinに、東京での開催の経緯、そしてP.I.C.S. TECHが手掛けた細部までこだわり抜いた空間について話を聞いた。

東京とBright Moments

最初に時を遡らせてほしい。創設者のSeth Goldsteinが来日を果たしたのが、展示会場にもなったPARCOビルで行われたトークイベントRIGHT CLICK LIVEに出演するためだった。2022年の12月に行われたそのトークの場で、Bright Momentsが翌年5月にここ東京で開催されることが発表されたのである。現在のBright Momentsは、メンバーによる投票で意思決定を行う分散型の組織(DAO)となっているのだが、メキシコシティの次に当たる7番目の都市をどこにするかという投票が2022年10月に行われ、実に8割近くの票を東京が集めたのである2。なぜ、今東京だったのか。Seth Goldsteinはその理由を以下のように答える。

東京は常に技術革新、芸術的実験、デジタルカルチャーの重要な拠点として位置付けられてきました。ですから、東京が私たちのコミュニティの中で最も人気のある都市候補となったことに驚きませんでした。

今回の展覧会は、空前のAIブームが起きているさなかの開催でもあった。漫画やゲームなどの想像世界を通じて、VR、ロボティクス、AIのイメージに親しみを持つ日本がこのタイミングで選ばれたのも偶然ではない。今回のキュレーションにAIがテーマとして含まれているのも、そうした状況をいち早く反映してのことだろう。

ベニスからの旅立ち

突然の東京開催の発表で、日本に住むNFT愛好家たちを驚かせたBright Momentsだったが、そのフェスティバルが生まれた背景についてここで振り返りたい。今では多様な人々が集まり各都市にサブDAOと呼ばれる各地の拠点を置く彼らも、始まりは小さな組織だった。

2021年1月のある日、Seth Goldsteinがベニスビーチの写真をもとに制作した作品3をマーケットプレースFoundationに出品する。GANモデルを用いて生成された映像作品だったが、ある朝それが1ETHの価格で売れていることに気がついた。パンデミックの影響で人々が自宅に閉じこもる憂鬱な期間を経て、ワクチンの接種によりようやく外出できるようになった時期である。その出来事が彼を一つのアイデアに導いた。それは「フィジカルな絵画や芸術を展示する代わりに、ディスプレイを用いてデジタルアートを展示するアートギャラリーを作ったらどうか」というものであった。

拠点となるのはカルフォルニアのベニスビーチに面した小さなギャラリー。2021年4月、その場所で設立されたのがBright Momentsだった。名前は、ジャズミュージシャン、ローランド・カークの名盤アルバムから。直接展示会場を訪れた人々だけが作品を購入できるミント方式「IRL(In Real Life)」もその場所で生み出された。

Bright Momentsを始めた直後、夕方の来場者が少ないためにNFTをプレゼントするというアイデアを思いつきました。これが私たちのCryptoVenetians(のちのCryptoCitizenコレクション)の誕生です。コレクターはその会場にいなければNFT作品を手にすることができないという制約を設けたのです。2021年9月に開催したAaron PenneとBoretaの「Rituals in Venice」、2021年12月のTyler Hobbsの「Incomplete Control in New York」など、その後のアート展示でも私たちは絶えずIRL ミンティングを体験する新しい方法を探求し続けました。

そのCryptoCitizenも、今ではBright Momentsのトレードマークとなった。現地に行かなければ買うことができない。そんなIRLという方式が、コレクターの収集熱に火をつけたのかもしれない。NFTの盗難という事件に見舞われたりしたものの、国外の人々からもCryptoCitizenを求める声が聞こえるようになった。しかしその場でしか鋳造することができないNFTを、遠方の人々が手に入れることは難しい。そこで彼が考えたのが、世界中を回りながらIRLを行いCryptoCitizenを増やしていくというアイデアだった。

ベニスの看板の下、Windward Ave.に最初のギャラリーをオープンしたとき、私たちは世界中を旅する第一歩を踏み出すことになるとは思ってもいませんでした。砂浜のギャラリーでの最初のショー、CryptoVenetianの鋳造の毎日の儀式、そしてベニスビーチの自宅からニューヨークへと我々を駆り立てた盗難事件など、あの夏は我々のDNAの一部となっています。
Venice to Venice / April 21st, 2023

CryptoTokyoite #1

P.I.C.S.が手掛けた空間デザイン

Bright Momentsの最大の功績はIRLミンティングを発明したことであると言われる。鑑賞から購入までオンラインで完結しているものに制約を設けるのは、一見不自由に思われるかもしれない。しかし実際の展示空間でのミント体験には、作品がランダムに生み出される瞬間に、いつ/どこで/誰といたかという出来事の記憶も伴う。ブロックチェーンに記録されるトランザクションに、「思い出」という新しい次元が付け加わるのである。そのためには、アーティストとその作品と実際に出会った記憶をより価値あるものにするような空間が必要となる。

その大役を担ったのが、映像制作会社P.I.C.S.の一部門であるP.I.C.S. TECHだった。MTV JAPANを出自とし、数々のミュージックビデオを手掛けてきたプロダクションだったが、東京駅の大規模プロジェクションマッピングを手掛けたことをきっかけに新しいテクノロジーと空間デザインを融合する専門家たちを集めた集団を立ち上げる。映像という二次元の表現が、空間へと拡張して行く。そうしたメディアの変化に敏感に対応するための選択であった。デジタルな表現が氾濫し、その生息域を広げつつある今、デジタルとフィジカルの間を取り持つ何かが必要になる。それにはディスプレイの大きさや種類だけでなく、それを取り巻く環境自体をデザインしなくてはならない。

P.I.C.S.とBright Momentsとの出会いは、旅の中間地点、5番目の都市ロンドンでのことだった。展示参加者の一人であったSputniko!の展示を担当したのがきっかけである。Sputniko!の展示では鑑賞者が子宮の内部にいるかのような効果を作り出すため、空間全体を白い膜で包み込み、背後から映像を投影するということを試みた。日本でシミュレーションを繰り返し、少人数のスタッフで本番に臨むというコロナ禍の制約の中での仕事となった。その縁が繋がり、東京での空間デザインを担当することになる。それは鑑賞体験がどのようにあるべきか未だ定まっていないNFTアートをどう扱うか、という一種の挑戦でもあった。

今回の展示テーマに設定されたのは、「OMAKASE」というキーワード。お客は料理人を信頼し、料理人はそのお客の信頼に応え、季節やその場の状況に合わせて最も上級の料理を提供する。アートをコレクションするという行為もそれに似ている。作品をミントするとき、私たちは作品と同時にアーティストとも出会っている。その出会いは、まさに「一期一会」。作品と人、人と人の関係。その関係を特別なものにするのは信頼の存在である。Bright Momentsの周りで動く人々を見ていて、それを実感できた。Sethは今回の東京の展示について次のように言う。

東京でのBright Momentsは、これまでで最も素晴らしいイベントになりました。これまでの都市での経験を活かして、アート、教育、食事、エンターテイメントを統合し、WEB3のコミュニティを高めるために必要な要素を取り入れました。P.I.C.S.という世界クラスのプロダクションパートナーと協力し、会場となったDigital Garageを紹介してくれたJoi Itoや、旧朝倉家住宅の利用では渋谷区役所、サントリー、そして私たちのコンシェルジュであるJames Higaのサポートを得ることができたのです。東京での細部への気配りと職人技のレベルが、その体験を通して独自の芸術形態を大きく高めてくれました。そしてもちろん、このイベントの歴史的な意義に大きく貢献してくれたのは、30人以上にわたる最高のジェネレーティブアーティストとAIアーティストの作品です。

今回の展覧会は、Bright Momentsが旅の途中で出会って来たアーティストに加え、日本のローカルなアーティスト、そしてAIアーティストなど、計30人以上のアーティストが展示を行う大規模なものとなった。会場も2カ所で展開され、最も大きなDigital Garageでは、3つの空間に分割されていた。各空間は独自のコンセプトに基づき、細部に渡るまでデザインが施されている。般的な展覧会に比べて、かなりゴージャスな作りの展示であると言えるだろう。ここからはそんな会場ごとのコンセプトと空間デザインの詳細について解説したい。

光が照らす空間とアート

最初にP.I.C.S.が意識したことは、「日本らしさをいかに表現するか」という点だったという。夜の開催というのもあり、照明の用い方に工夫を凝らした。古来より光と影を対立するものではなく混ざり合ったものと捉える、日本の美意識を表現するために、「光と影」にあるグラデーションを意識した空間作りを行った。「パサージュ」と呼ばれる最初の廊下、そしてその先に広がる人々の交流する空間として使われた「ホワイエ」では、会場にやってくる人々の影を取得して色彩を変化させる仕掛けが施された。色彩は全て日本の春の伝統色から選ばれており、日本らしい色彩と季節の気分を味わってもらうことも意図されている。

その光の洗礼を受けてたどり着くのが、この会場のシンボル的な存在、鏡の上に置かれ宙を浮いているように見えるゲーム筐体である。これはCryptoCitizenの東京版であるCryptoTokyoitesをミントするための仕掛けで、コインを入れることで台形に広がるスクリーンに映像が映し出され、ミントによりジェネレートされるピクセルアートをその場にいる全員で鑑賞できる仕組みとなっている。向かいのバーではクリプトで購入できるアルコールが提供されており、場の高揚感を掻き立てる。CryptoCitizenがリビールされるたびに歓声が上がり、現れる作品に合わせて観客たちはさまざまなリアクションを見せていた。

日本の現代アート

展示スペースへと歩を進めると、空気は一転して静けさに包まれる。東京の夜景を眺めながら作品を鑑賞できる「JAPANESE CONTEMPORARY Collection」は、日本から選び抜かれたアーティストたちの作品がラインナップされた区画。ローカルの視点からも脚光を浴びるアーティストたちが並ぶきめ細やかなセレクトが印象に残った。Bright Momentsが得意とするジェネラティブアートだけではなく、ポストフォトグラフィ作品や、1/1作品、コンセプチュアルなオンチェーンアートまで。これまでの旅で出会った人々からの紹介や、ミートアップで出会ったアーティストからの起用だったという。そのセレクトの幅広さには分散化された彼らのキュレーションのプロセスが現れているように見えた。

空間デザインに関しても、東京らしいゴージャスな演出となっていた。光が浮かび上がるような板状の照明が夜の街にレイヤー状に重なり合い、鏡面仕上げされた脚部分の効果で作品のイメージが浮かび上がったように見える。その面照明は、RAYCREAというフィルムをアクリルに貼り発光させたオリジナルの照明。その光の色も春の色を東京の夜景に纏わせるイメージで、日本の春の伝統色から選ばれている。ここでようやく17時というオープン時間が、高層階からの東京の夜景を最大限に生かすためであるということに気が付かされた。実際の夜景の光の変化率のデータをカメラでリアルタイム取得し光を変化させる仕掛けが施されていたり、作品のイメージを引き立てるだけでなく、作品と環境が融合した新しい形の鑑賞体験を作り出しているのが印象的であった。

AIアートコレクション

その隣にある区画は、黒を基調としたシックな空間「AI ART Collection」。壁面の下部にはライトが仕込んであり、展示面が宙に浮かぶような効果を生み出している。空間デザインのテーマは「禅」。今回のために特別にキュレーションされたAIアーティストたちの作品を鑑賞することができる。今まさに注目を浴びているAIアートだが、これだけのアーティストたちが一堂に会するのはおそらく初めてのことだろう。先駆者たちの作品に加え、生成AI以降現れた新しい感性を持つ若手アーティストたちが並べられている点も興味深かった。このパートだけとっても歴史的に貴重な展示であることは間違いない。

空間の最奥に置かれているのは、AIアーティストでありロボット工学者でもあるPindar Van Armanの作品「AI Imagined Face」。ロボットが筆を奮ってフィジカル作品を描く記録映像と、実際のキャンバス作品が並べられている。ブロックチェーン上に全てのデータを置くフルオンチェーン方式のNFTであり、購入者はロボットが描いたその絵画の実物を獲得できた。大きなデータ容量を必要とするAIアートはオンチェーン化に向かないと考えられているが、オンチェーンでAIアートを実現した本作品は、その意味でも稀有な作品であると言えるだろう。

旧朝倉家住宅

2つ目の会場は場所を移して、代官山の駅近に存在する重要文化財に指定されている大正時代に建築された邸宅の内部。当時のままを残した畳敷の部屋を巡り、最後に辿り着くのがBright Moments Tokyoが誇るジェネラティブアーティストたちの展示である。日本からはShunsuke TakawoとQubibi、そしてAlexis Andreが選ばれていた。すでにBright MomentsのレギュラーであるJeff Davisや、自然や環境をテーマにした作品づくりを行い、Tezosで不動の人気を誇るアーティストのZancan、ピクセル操作による予測不可能で動的なヴィジュアルを作り出すKim Asendorfなどが参加。まさにジェネラティブアートの歴史がたどり着いた最新形の見本市のようなラインナップである。デジタルアートと伝統的な家屋というと相反する気もするが、木製の箱に入れられたディスプレイはその静かな空間の雰囲気とよくマッチしていた。電源などのケーブル類が何もないシンプルな作りは、箱の中にバッテリーを仕込むことで可能になったのだという。都市のど真ん中に突如広がる時間が静止したような空間で、歴史を感じながら最も先駆的なアートであるジェネラティブアートをミントする。その対比はとても新鮮で、また日本ならではの体験だと感じた。

まとめ

お祭りが終わったあとは、寂しいものである。こうしている今も記憶に刻まれた様々なシーンが思い出されてくる。出会えるとは思っていなかった伝説のクリエイターたち。日毎に成長を見せる日本のアーティスト。展示に参加していないNFTアーティストたちも、数多く日本を訪れていた。作品の購入を楽しみ、毎夜集まってOMAKASE料理に舌鼓を打つ。コレクターたちも貴重な機会を逃すまいと、コレクションしているアーティストたちとのコミュニケーションを楽しんだ。Bright Momentsの展示が一般的な展示と違う点があるとしたら、そうした瞬間の連続にこそあるのではないか。自律的に動く人々が主体となり草の根の文化を生み出す。その場に居合わせた全員が等しく、その文化を作り出す担い手だったように思う。

そんなBright Momentsだが、彼らの今後の展開も気になる。次の開催都市はどこになるのだろうか。

次の都市アクティベーションは11月にブエノスアイレスで行われます。ちょうど今週そこに向かい、場所の下見や地元のアーティストとのミーティングを開始します。また、最も影響力のあるジェネレーティブアーティスト兼教育者の1人とArtBlocks x BrightMomentsの次のコラボレーションを8月に計画しています。より没入型の体験を通じてAIをコレクターに紹介する新しい方法を試行し続けます。来年2月にCryptoCitizenのロードマップを9番目の都市で完了し、ロードマップの10番目で最後の都市として4月にイタリアのベネツィア(英名:ベニス)を予定しています。東京のコミュニティに対しても、今夏後半に最初のショーを開催する予定です。

Bright Momentsの旅は東京の後も続いていく。カルフォルニアのベニスから始まったBright Momentsは、最後にはイタリアの同名の都市ベネツィアに辿り着く。彼らの旅もすでに後半。見知らぬ都市で息づくアートとの出会いの旅に同行するのは、とても貴重な体験となるだろう。その場所にしかない輝かしい瞬間と出会いに、少しばかり遠くへと足を伸ばしてみてはどうだろうか。

Bright Moments Tokyo Artists

Tokyo Collection: Zancan / Shunsuke Takawo / Spongenuity / Qubibi / Melissa Wiederrecht / Licia He / Lars Wander / Kjetil Golid / Kim Asendorf / Jeff Davis / Alexis André

AI ART Collection: Sofia Crespo / Pindar Van Arman / Mario Klingemann / Kevin Abosch / Jenni Pasanen / Ivona Tau / Huemin / Holly Herndon & Mat Dryhurst / Helena Sarin / Ganbrood / Claire Silver

Japanese Contemporary Collection: A-Mashiro / Ambush / A.A.Murakami / 0xhaiku / Emi Kusano / Joi Ito x Kawaii Skull / Kaoru Tanaka / Kazuhiro Aihara / ykxotkx / Okazz / Saeko Ehara

Bright Moments https://www.brightmoments.io/
P.I.C.S. TECH https://www.pics.tokyo/tech/