Interview with Emi Kusano
ポストトゥルース時代のアートの行方

Text: Yusuke Shono

高校時代からストリートスナップを撮影するフォトグラファーとして活動し、起業や音楽活動など、多様な領域で活動を行うアーティストの草野絵美。2014年に結成した主宰・歌唱を務めるエレクトロユニットSatellite Youngでは、ノスタルジックでレトロな世界観を作り出し注目を浴びた。そのユニットの初シングル「Glass Ceiling」のMVでアニメーションを担当した大平彩華とのコラボレーションにより生み出されたのが、日本の魔法少女アニメのスタイルで描かれたPFP「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」だった。ネット社会や現代のテクノロジーをテーマに活動を続けてきた彼女が、日本で開催予定のBright MomentsのためにジェネラティブAIの技術を用いた新しい作品を制作しているという。ストリート文化が華やかだった時代の文化に惹かれ、あり得たかもしれない過去の文化を生み出そうとする彼女に、その作品の生まれた背景について聞いた。

ちょうど新星ギャルバースの一周年ですね。一年活動を続けきて何か感想はありますか?

ちょうど一年前、発表のタイミングがラッキーだったというのもありますが、流行りに乗るのではなく自分たちが一番好きな世界観をど真ん中で表現した作品がギャルバースでした。どの作品もフロアプライスが下がってきているなか、それでもその先を信じて支えてくれるファンの方々に出会うことができて本当に良かったです。今はアニメ製作の段階に入っているのですが、フォルダーさんが二次創作をしてくれたり、コミュニティが自然と広がっていく感覚が非常に新しく、ありがたいなと思っています。

NFTの前には音楽活動をされていましたね。Satellite Youngのミュージックビデオでも昔の日本のアニメのスタイルで世界を表現していましたが、当初からそうした昔の文化に興味があったのでしょうか?

過去の文化に子供の頃から取り憑かれています。父親がファッションデザイナーで、50年代のファッションを再現して革ジャンに絵を書くというニッチな仕事をしていました。それで家にたくさん画集やファッションのアーカイブがあったんです。「このパンツのこの裾の広がり方は70年代だ」とか「このミニスカートはスウィンギング・ロンドンでツィギーが着てた」といった感じで、年代でカテゴライズするようなマニアックな小学生でした。周りの皆がモーニング娘。を聞いてたなか、自分はその元ネタとかを調べるのがすごい好きで、元になった歌謡曲などを聴いてました。バブル時代のキラキラしたアイドルに憧れを抱いたり、過去のテレビばかり見ているような子供時代でしたね。

Emi Kusano – Neural Fad

そうした趣向から自然と音楽活動に繋がっていったのでしょうか?

音楽活動をしたかったというより、80年代の世界観を再現したかったんです。Satellite Youngを始めたのは、アーティストのスプツニ子さんにそのことを相談したときに、「もう自分で音楽作りなよ」と言われたのがきっかけです。それ以前は写真を撮っていました。アメリカ留学から帰ってきたとき、日本人の洋服の着方が他の国と全然違うなと感じて、ストリートファッションを撮り始めたんです。その頃は原宿に行くと自分のスタイルを貫いている人が多くて、とても面白かったです。

特に惹かれるのは、雑誌やテレビの影響が強い時代の服装です。ストリートスナップを撮っていた2000年代の後半は、徐々に服装が地味になり、H&MやZARA、UNIQLOが流行り出して小さい店が潰れてしまいました。自分が大学生の頃は雑誌ごとに服装が分かれていたんですけど、どんどん同じようなスタイルになっていったんです。個性的なスタイルのない時代になってしまったと思いました。

今はもうなくなってしまった文化への憧れが、創作のモチベーションになっているのでしょうか?

そうですね。何をやってもレトロなものになってしまうんです。1990年代のSFアニメに出てくる女の子はみんな魅力的ですが、やっぱり男性の視点で描かれてることが多かった。そこに魔法少女の要素を入れることで、新しい過去を再構築したいという思いがあります。アニメーターの大平彩華と、当時のアニメには登場しないような私たちが考える強々なギャルを作ろうという話になりました。そうした考え方が、ギャルのマインドセットに近いということで、ギャルバースの「ギャル」という表現を選んだんです。過去を完全に再現したいというよりは、ある種のポストトゥルースみたいな作り方ですね。本当の過去とは別の次元の過去があってもいいんじゃないか、という思いを作品に込めています。

Emi Kusano – Neural Fad

Bright Momentsのために作られた作品にも、共通するコンセプトを感じます。今回の作品に表現手法としてPost Photographyを選ばれたのはなぜでしょうか?

ジェネラティブAIを使ってみたいと思って、最初は特にコンセプトは決めずに触っていました。何千回もジェネレートを繰り返していくうちに、自分が見たいものが偏って出てくるようになっていったんです。ジェネラティブAIは自分の欲望や見たい世界を表現すると思っていて、私にってそれが過去の若者文化なんです。オリエンタリズムやカワイイ文化のようなものではなく、実在していた文化を参照して、さらに当時の日本人が元々持っていたSF感や未来感を加えたらどんな感じになるか、ところから始まっています。

そこには現状に対する批判や、こうあって欲しいという希望などがあるでしょうか?

批判という意味で言うと、雑誌文化や個性的なファッションを壊したのはインターネットやアルゴリズムだと思っています。よりニッチで細分化された人たちがネットで繋がるようになり、それによって解放された人たちもいると思うのでもちろん悪い面だけではない。でもそれを逆手に取って、アルゴリズムから新しい若者文化を作ることができたら逆に面白いんじゃないかなと。

Emi Kusano – Neural Fad

面白いですね。今後ジェネラティブAIは社会にどういう影響を与えていくと思いますか?

AIは、人の頭の中の何通りもの欲望を見ているみたいで面白いです。でも無限にコンテンツが増えていく可能性があるので、その事実が本当に歴史上に実在したかが曖昧になってしまう可能性も感じます。フィクションも実在する過去も、もはや境目がなくなってしまうんじゃないかと、漠然とした不安も感じますね。

NFTの盛り上がりでデジタルアートが注目を浴びましたが、その可能性についてはどう思われますか?

ジェネラティブAIの登場で、これからは誰もが自分の頭の中を表現できるようになって、デジタルアートも幅がもっと広がっていくんじゃないかと思います。それが楽しみな一方で、作品が増えた結果、それが最新技術かどうかがどんどん分かりにくくなっていく。もちろん最初に新しいことをやった人は注目されると思うんですけど、似たものが次の瞬間にどんどん出てくる世の中になっていくと、誰が作ってるか、あるいはどんな思いで作ってるかが重要になる気がします。人間は永久に生きられないので、その人の人生がちゃんと出てくるような作品が次の世代に残っていくんじゃないでしょうか。

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草野絵美
東京を拠点に、レトロフューチャリズム、テクノロジー、日本の若者文化やアニメへのノスタルジアを探求するマルチディシプリナリーアーティスト。原宿で10代のストリートフォトグラファーとしてキャリアをスタート。Satellite Youngのリードボーカル兼プロデューサーとして音楽活動も行う。2021年、8歳の息子のNFT作品「Zombie Zoo」が注目されたことをきっかけに、NFTのキャリアをスタートし、コミュニティ主導のアニメプロジェクト「新生ギャルバース」をアニメーターの大平彩華らと立ち上げる。現在は、ポストフォトを中心に、架空の過去の流行の世界をを創作。芸術活動のほか、作家、東京芸術大学講師、グローバルメディアでNFTやWeb3について語る活動を行なっている。

Bright Moments
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