MASSAGE MONTHLY REVIEW 1-2
現行リリースの作品の広大な大海原から、1~2月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
現行リリースの作品の広大な大海原から、1~2月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
吹き抜ける風の湿度、土の匂い、生い茂る植物のざわめき、あるがままの自然から聴こえてくる呼び声には、やけどするほどの熱い混沌が渦まいている。ペルー出身でポルトガル在住のマルチ奏者Tomás Telloが奏でるエクスメンタルミュージックは、ギターとペルーの伝統音楽、そして彼が生まれ育ったアンデス文化についての調査に基づいて作り出したもの。動物あるいは薬草植物などの助けを借りて、Arturo Ruiz del Pozoや、Jorge Reye、Walter Maioliなどの初期実験家が試みたような、音楽により調和した意識状態を生み出すというビジョンのもと制作された。ケーナや、ドラム、チャランゴなどの民族楽器から、フィールドレコーディング、電子音響、エフェクトペダルのループまで、あらゆる素材がゆるやかなチューニングの中で静かに折り重ねられていき、湯気のなかの幻のような五感を刺激する多彩な感覚を立ち上らせる。その微細なチューニングの果てに響く神秘的な共鳴の世界は、聴くものを瞑想状態から自然が奏でる多弁的世界へと誘うだろう。
Tomás Tello – Cimora
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Arturo Ruiz del Pozo – Estudio para quena (1978)
Arturo Ruiz del Pozoがペルーの民族楽器をテーマに、ロンドン王立音楽大学の電子音楽スタジオでレコーディングしたミュージックコンクレート作品。
Jorge Reyes Nierika Ek Tunkul (1990)
メキシコのエレクトロニックのパイオニア、Jorge Reyesによるファーストアルバム。
Walter Maioli & Agostino Nirodh Fortini – Suoni ottenuti soffiando dentro due gambi di taraxacum
イタリアの音楽家、古代音楽研究家Walter Maioliとミュージック・セラピストAGOSTINO NIRODH FORTINIによるコラボレーション音源。
ドイツのDJ、Rainer Truebyのコンピレーションアルバム『Soulgliding』。タイトルの“Soulgliding”はTruebyの造語で、ソウルフルなレコードをシェアするSNSの小さなグループとして始まった。そこにSoulgliderたちによってポストされる音楽は、jazz、funk、AORなどのいい感じに「グルーヴィング」で「グライディング」な感覚を感じられるもの(bpmにして110くらい)であればなんでもオーケーだったそう。確かに、どの曲をとってもふんわり気持ち良く、ジャケットのイメージそのままに空に浮かぶハンググライダーの浮遊感があったり(ハンググライダーをやったことはないのであくまで雰囲気での話だが)、緊張から解放されてくつろげている時間のような感覚があったりする。中でも、Donna McGheeの“It Ain’t No Big Thing”はきらめく多幸感があふれる最高にグルーヴィングでグライディングな1曲。
Shyqaはロシアのプロデューサー。「HOLLOW」は、Tavi Lee が運用する上海のレーベル〈Genome 6.66 Mbp〉よりリリースされた。「Anxiety」ではスイスのグライムプロデューサーであるShayuをフィーチャーしている。
音はとてもシンプル。少ない音数ながらドローンでアンビエントな作品。全体的に暗い表情の作品だ。シンプルな音たちが一瞬重なっては違う音に変わり、時には耳に劈くような電子音や破壊音とも重なりながら感情の波を描き、魂を探し求める。
アルバムを通して、人の内生的な感情(混乱、不安など)を表現しているせいか、ずっと暗いのだが、曲を追うごとに感情の変化が見て取れる。「Mess」では破壊、絶望のような破壊音と暗さがつきまとうが、「Liar」が幸せの最高潮なのだろう。破壊音の中に明るい道筋が見える。その後の「Anxiety」ではまた憂いのある表情を見せる。そして憂いを帯びた雰囲気の中作品は終わっていく。しかし、聴き終えた後には悲しみはなくなっていてどこか明るい。
ssalivaは、ベルギーを拠点に活動する音楽家のFrançois Boulangerによるソロプロジェクト。「God Room」は、セルフリリースによる作品だ。
まず目を引いたのが苺のジャケット。これまでの抽象的で無機質なアートワークとはまるで対照的でとても鮮やか。これまでの作品には、自身がアートワークを手がけたものもあるとのことだが、今回の苺のアートワークも彼が手がけたのだろうか。
鮮やかなアートワークの一方で、アルバムはこれまで通りの水気をたっぷり含んだ空間でじんわりと音を響かせている。グリッチノイズの旋律が響きわたるアンビエントな作品。グリッチノイズのザリザリした音が何層にも絡み、心地よい空間が広がる。
まるで、輪郭があいまいで憂いのあるモノクロの情景を断片的に見ているよう。情景がゆっくりと移りゆく中に、突如鮮やかな光が辺り一面を照らし出すものだから、不思議と神秘的な昂揚感が湧き上がり、そのままどこかへ昇華されていくよう。
特に、アルバムのタイトルでもある「God Room」は、瞑想中のような夢見心地のようなぼんやりした感覚に陥る。現実から一瞬、無意識に音楽に没入してしまいそうな作品。