MASSAGE MONTHLY REVIEW 3-4
現行リリースの作品の広大な大海原から、3~4月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
現行リリースの作品の広大な大海原から、3~4月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
昨年の50 Japanese track maker / musician 201950 Japanese track maker / musician 2019で『JUSCO』を紹介した64controllのニューリリース『Sports Club 64』。“JUSCO”を含む全4曲、期待を裏切らない楽しさのニューディスコEP。ノレる曲、踊れる曲しか入ってないので、これはもう踊るしかない。とにかく楽しく全力でカラダを動かして日々のストレスをちょっと発散するにはうってつけの1枚。「Stay home and listen to this」!
ボリビア生まれで、先住民アイマラの子孫であり、E+Eのメンバーとしても知られるElysia Cramptonの新作。伝統的な楽器群が持つ静謐な響きに、燃える炎のような激しさがほのかに垣間見える、多層的な側面を持つ作品。時折重ねられる催眠的なポエトリーや、クラシカルな楽器から民族楽器、電子音響まで、さまざまな楽器により紡がれる多彩な響きから、ラテンのリズミカルなダンスのグルーヴまで、多彩な文脈のサウンドを取り込み、蜃気楼のように幻想的で豊かで重厚な内的時間を紡ぎ出す。このような多層的な作品が生み出された背後には、ボリビアからアメリカに移住し貧困に苦しみ、そしてトランスジェンダーとして家族内で葛藤を持って育った彼女の持つ、マルチカルチュラルなアイデンティティがある。そして祖父が持ち帰ってきたチャランゴや、キルキンチョ、毛むくじゃらのアルマジロの殻付きギターなどといった、伝統的な楽器に魅力を感じていたという彼女が新たな創造性を見出したのが、何世紀にもわたってトランス・アイデンティティを擁護してきた文化であるアイマラ語族の遺産だった。伝統的音楽が持つ豊かな音楽性とその文化が持つスピリチュアルな奥行きを、より形式化されたクラシックの視聴体験として現代的に昇華させた、古典的な前衛ともいえる傑作。また、このアルバムはカリフォルニアのシエラネバダ山脈で投獄され、消防士として何年も働いていたPaul Sousaの人生に捧げられているという。収益はすべて、AMERICAN INDIAN MOVEMENT Southern California Chapterに送られる。
新型コロナウィルスによるロックダウンのさなか、Erstwhile Recordsの設立者、Jon Abbeyが呼びかけ、Facebookグループで開催された進行中のオンラインフェスティバル、AMPLIFY 2020: quarantineのために録音された作品。HelmことLuke Youngerが自身のフラットとその周辺にて、4月に録音した楽曲が収められている。警察によるロックダウン中の監視のため、頭上を飛び交っていたという航空機の録音サンプルに、MoogのiPad用アプリ、Model Dを使用して作られた低音が鳴り響く。タルコフスキーの映画のようなスローモーションで、想像力を刺激するさまざまな微細なテクスチャーが現れては変化していく。現実の要素、酩酊感を引き起こすような幻想性が立ち込める、硬質な重厚さと張り詰めた空気に満たされた、長尺のドローン作品となっている。
1曲目の美しいハープの音色が閉じていた記憶の扉を開く。そして、誘われるように開いた扉から記憶の中に入っていく。そこに広がっているのは、夏の予感、あの日の期待、かすかな不安、まどろみ…… メディテーションのようなループを聴いていると不思議と心が安らいでくる気がする。心地良いまどろみから目覚めたら、冷たくて甘酸っぱい飲み物でも飲もう。今の時もまた、記憶になる日が必ずくる。
「Dark, tropical.」は、1990年代より活動を始め、独特のビートアプローチで今もなおボーダーレスなサウンドで魅せ続ける電子音楽家speedometer.(高山純)、バリトン・サックスやクラリネット奏者でありコンポーザーの浦朋恵、気鋭の電子音楽家Metomeの三者によるアルバム。〈P-vine〉よりリリースされた。
「Dark, tropical.」は、トロピカル・ムードに憂いの個性を響かせた作品。自らのアルバムを「鎮静楽園音楽」と表現するように、民族楽器や木管楽器などのプリミティブな音と電子音のグラデーションが暗く穏やかな南国の映像を映し出す。
じっとり汗ばむような音響の中で音たちが有機的な対話を繰り返す。その世界観に身を委ねると、目の前に美しい夕暮れが現れる。沈む夕日と空の色が暗く移ろいで行くのをただずっと眺めていると、穏やかな気持ちでまどろむ時間がやってきた。気が付くと夕日がすっかり沈み、辺りは暗く月の薄明りだけが頼りだ。何かの気配を感じて手を伸ばしてみるけれど空をつかむだけで、なんか虚しい。
・・・でもよかった。
一瞬の小さな勇気と裏腹に安堵して、また暗い世界に戻っていく。南国の夜に同化した身体は、とても穏やで憂いを帯びた闇にやさしく溶け込んでいく。
ロンドンを拠点とするイタリアのアーティスト、Davide Del Vecchioの『Paraiso 2020』。目が痛くなりそうなほどに空と海の青がまぶしいアートワークとポルトガル語で「楽園」を意味するタイトルがついた曲は、フロアが恋しくなるような、どこかせつなさも少し感じさせるようなダンスチューン。ドリンク片手に踊りつつ楽しめば、それぞれのいる場所がそれぞれの楽園、2020年のParaisoに。