Senyawa - Alkisah


SenyawaはRully ShabaraとWukir Suryadiによる実験的音楽デュオ。インドネシアのジョグジャカルタにスタジオを構え国際的に活動している。ボーカルのRully Shabaraの地を這うようなうめき声、叫び声、声明のような静かな歌声と、Wukir Suryadiの竹、配管、鐘を組み合わせた自作楽器などによる音が、漆黒の闇に儀式めいた厳かな空間を作り出す。二人が作り出す音楽は、パンク、メタル、ノイズと伝統音楽との融合とも言われている。
本作品は、Wukir Suryadiの改造ギターによるリズミカルなフレーズ、激しい金属音や打撃音とRully Shabaraのストイックな歌声が激しさと繊細さを併せ持つ。純粋で真摯に音楽に向き合う二人が垣間見える瞬間、神域のような雰囲気を醸し出す空間に足を踏み入れたような錯覚を感じる。また、二人が紡ぐ激しいリズムが大きくうねりながら一体化していく様は、自然の巨大なエネルギーが解放されるのを目の当たりにしているかのようで、畏怖の念さえも抱く。
本作品は、Senyawaから各レーベルにグラフィックとオーディオファイルを提供し、ジャケットデザインとリミックスを依頼することで、地方分権のような音楽配信システムを実現した。それにより、本作品は形を変えながら人から人へと受け継がれ、本作品名のタイトルでもある新しい未来の「物語」を作ろうとしている。
現在、およそ44のレーベルからリリースを果たし、同作品は30種類以上、参加アーティストは200人以上にのぼる。

Dalibor Cruz - Riddled With Absence


Dalibor Cruzはアメリカのシカゴを拠点に活動するプロデューサー。本作品は、ダラブッカやパクハヴァジュなどの民族打楽器と電子音やノイズがハイスピードで交錯するエレクトロニックなダンスミュージック。ホンジュラスの先住民であるレンカ族の父を持ち、自身もメレンゲ、サルサ、クンビア、プンタなどを聴いて育つ。特にプンタのエネルギー溢れる音楽とポリリズムなどに大きなインスピレーションを受けたと言う。本作品にもそのリズムの要素が余すところなく散りばめられている。民族打楽器の音はサンプリングベースや自身が演奏したもので、複雑なリズムは情熱的でものすごい熱を帯びている一方、電子音は冷静で無骨なビートを刻み続ける。それぞれのリズムがいつしか攻撃的になったかと思うと共鳴し、時間が曖昧に歪んだような奇妙な感覚に陥る。陽気でユーモラスなのに神聖な空気を纏うのは、それらの音を時間をかけて紡いできた先住民への誇りや自然への畏怖なのかもしれない。アートワークはGabrielle K. Brown。

Cha Hyun - Yokubou Lover


Cha Hyun (Chawood)は韓国はソウル出身の音楽家。自身初のEPとなる本作品は、歪んだギターの音とCha Hyunの切り刻まれた声がノイズや電子音と絡み合い、奇妙なアンビエントの世界観を纏ったクラブミュージックとなっている。
ギターが鮮烈な叫び声を挙げたかと思うと、けだるい雰囲気を漂わせ、くるくると表情を変えていく。荒ぶるノイズと交差するCha Hyunの声は壊れそうなくらい繊細で透明感に溢れている。婉曲的で丸みがあり、ノイズや電子音の隙間から漏れて聴こえてくると、儚く嘆いているはずの姿が艶っぽく感じる。余分な力が入っていない声は、今生きている世界を嘆いているのか嘲笑っているのかわからないままファニーとシリアスの交差を繰り返す。

IX/ON - Wanderer


神奈川を拠点に活動するトラックメイカー/DJのIX/ONによる初のフルアルバム。UKベースミュージックの感触とギターの響きが優しく時に憂いを帯びながら美しいアンビエントの情景を映し出していく。目の前に広がるのは実際に存在しない想像上の自然の風景。一人ぽつんと風景を味わっていると、美しく穏やかな時間がゆっくりと流れ、目に映る景色は色彩に濃淡をつけながら少しずつ変化していく。落ち着いた空間を暮らすように旅をしていると、研ぎ澄まされたリズムと地を這うようなベースが、見知らぬ土地に迷いこんだ時のような感覚を呼び起こす。不安とワクワクが入り雑じった高揚感。次はどの道を選ぼうかと少し天邪鬼な冒険心すら覚えてしまう。この風景を旅する主人公は誰なのか。もしかすると、音と丁寧に向き合い自身の美学を紡いでいるIX/ONその人なのかもしれない。

T5UMUT5UMU - Acid Hazing


T5UMUT5UMUは、東京出身のプロデューサー/DJ。ロンドンのレーベル〈Eastern Margins〉からリリースされた『Unsleep』の記憶が新しい。テクノ、ブレブレイビーツ、ジャングルに軸を置き、今年だけでも多種多様なジャンルの作品をかなり多くリリースしている。今年の締めくくりにリリースされた本作品は、様々なジャンルを幾重にも折り重ねて紡いできた先に見えたビートの本質が感じられる。体が沈みこむような重いベースと熱量を帯びたビートが、重力をコントロールしたかのような突き抜けたスピード感で身体中を一気に駆け巡る。エネルギッシュな音の群れはやがて感情や本能と結びつき、聴く者に遠い昔の記憶と未知の記憶が眼前で一つになってしまうような不安を覚えさせるが、ビートはスピード熱量を維持しながらそんなネガティブな感情を冷静に焼け尽くしていく。

浦上想起 - 音楽と密談


2019年1月頃から活動を開始した宅録/打ち込み音楽家。ジャズベースのポップスで、自由に駆け回るピアノと楽器群が織りなす温かみのある個性豊かなメロディーと、美しい詩のようでいてユーモアに溢れた歌詞が、素朴な空気感を纏わせながら時折凛とした表情を見せる。例えるならば、悩んでいる時にそっとそばに寄り添ってくれる最高の聞き上手のよう。相談相手の気持ちに触れた瞬間に「この子の心はもう決まっているんだなと。」と感じ、否定もせず押し付けがましいアドバイスもせず、ただうんうんとうなずいて自分なりの意見をおもしろおかしく話してながら共感し、最後はポンと背中を押してあげるような存在。うっとりするような美しさと、その音楽に触れてみたくなる親近感を兼ね備えている楽曲は、さりげない優しさで日常の暮らしをキラキラと輝かせてくれる。

WEB - PRESENT


90年代よりデトロイトテクノ、エレクトロ、ドラムンベースなど様々なジャンルの電子音楽家として活動してきたWEBこと杉本卓也の未発表作品が、20年の時を経て鴨田淳主宰のレーベル〈JUN RECORDS〉からリリースされた。ノスタルジックな感覚を覚えるのかと思いきや、浮遊感溢れるサウンドとユニークなリズム、当時の電子音楽が放っていた圧倒的な熱量とグルーヴが今にするりと溶け込む。そのサウンドは色褪せるばかりか異様な色彩とともに変わるものと変わらないものが交差する音楽の魅力を感じさせる。軽やかな雰囲気の中で、90年代のフロアの匂いや温度、肌で感じた揺らぐ感情や高揚感を味わうのもいいかもしれないし、新しい感情と記憶として自分の中に刻み込むのもいいかもしれない。

Chihei Hatakeyama - LE054


Chihei Hatakeyamaは東京在住の電子音楽家/サウンドアーティスト。本作品は、聴く者の感情の抑揚を沈め、静かに心を落ち着かせる清涼感と浮遊感を持つアンビエント作品。果てしなく静謐な空間の中、繊細な美意識を誰かが優しく語りかけるようなテクスチャーで表した音色がじんわりと心地よく広がる。穏やかで温かい音が素直な心と結びつき、どことなくはかなげで透明な記憶を蘇らせる。どんな記憶も懐かしさと新しさが入り交じり、不思議な魅力に溢れている。記憶は色も形もなく自由で、美しい光を浴びながらふわふわと泳ぎ続ける。時折、光と記憶のコントラストが幻想的な世界を織り成す。
光によって映し出された半透明な姿はおぼろげな美しさと瑞々しい生命力に溢れていて、まだつかめない夢を追いかけるようでいつまでも見続けることができる。

SHUTA HIRAKI - Circadian Rhythms Vol​.​1


SHUTA HIRAKIは、長崎在住の電子音楽家。本作は、自身の非24時間睡眠覚醒障害から着想したもの。ごくシンプルな音で構成され、刻々と時間が刻まれる空間で、時折地を這うような音が重く身体にのしかかる実験的アンビエント作品。私たちの1日の生体時計は約25時間。生体は光や時計時刻などをもとに概日リズムを毎日約1時間短く調整している。そのおかげで私たちは1日24時間で生活できている。しかし、この調整がうまくできないと生体時計が25時間となり、睡眠・覚醒のリズムを始め、体内の様々な概日リズムが1日1時間ずつ遅れていく。本作は、そのサイクルの逸脱に着目し、概日リズムの値を音に変換、適用している。淡々とした音が広がる奇妙な世界観は、自身が体験した時間の歪みなのか、まどろみながら感じる日の光なのか。

suppa micro panchop - Lucky for Voyage


つるりとしたボカロの歌声が
すっと染み込む不思議
あっ、ポップス聴いていたんだった

suppa micro panchopこと水越タカシは東京在住の電子音楽家。90年代より作曲を始め、電子音楽の枠に捕らわれない色彩豊かで瑞々しい楽曲は今もなお聴く人たちを惹きつけ続けている。
前作のアルバム『UTAUたいたい』では歌声合成ソフト(UTAU-Synth)を使用し、ボカロが日常に溶け込むポップスに焦点を当てた。
今回のアルバムはそんなボカロ、インスト、suppa micro panchop自身の歌声によって構成されており、前作よりもさらにボカロミュージックをポップスへと昇華させた作品。
ボカロのつるんとした声とsuppa micro panchopの歌声はどこまでも自然体で、歌詞がするりと心に入り鮮やかに記憶を呼び戻す。豊かな色彩と美しい空気が音からキラキラと伝わり記憶を愛しく感じさせる。
ユーモアあふれる温かい音と歌詞は凝り固まった何かをほぐし、楽しい夢を見たあとのような心地よい余韻が残る作品。

Similarobjects / THNGMJX - Command + V2


本作は、2020年3月にリリースされたCommand + V1の第二弾となる作品で、今回はフィリピン在住 Similarobjectsの未発表曲とブラジル在住 THNGMJXの作品による二曲構成となっている。怪しい暗闇。湿度高く空気がこもった地下のような怪しい雰囲気。どこまでも続く暗闇を熱を帯びた大小異なる金属音と電子音が自由に弾け飛ぶ。ふっと冷やかな微笑みを浮かべたかと思うと、金属音の群れは加速しながらさらに熱を帯び、暗闇をまっすぐ一気に駆け抜けていく。

https://soundcloud.com/kopirecs/sets/command-v2

Patiwat Saraiyam (Bank) - Fah Bo Kan Kue Wa Hang Kan


Fah Bo Kan Kue Wa Hang Kan(壁が私たちを引き離す)
「私たち」は誰なのか?
タイはイサーン地方のモーラム歌手であるPatiwat Saraiyam (Bank)の背景を紐解くと、モーラムの可能性を信じ、歌手として歌い続けようと決意した出来事が浮かび上がる。タイの政治情勢が不安定だった2013年。役者として出演した劇「Wolf Bride」が後に不敬罪に当たると逮捕され、2年6ヶ月にわたって囚われの身となった。その後隣国へ亡命し、現在はモーラムの歌手として精力的に活動している。本作は、Patiwat Saraiyam (Bank)の歌声と伝統的な民族楽器の美しい倍音が、穏やかでノスタルジックな情景を描く一方で、ファニーな電子音が情景を歪ませ、徐々に奇妙な世界観へと変えていく。モーラムにおける「私たち」は恋人なのかもしれないが、本作の「私たち」は、彼自身の運命なのかもしれない。マスタリングとアートワークPisitakun。ジャケットが本作の奇妙な世界観を鮮やかに映し出している。

https://soundcloud.com/iconoclastor/patiwat-saraiyam-bank-fah-bo-kan-kue-wa-hang-kan

King Rambo Sound - Strange Reality 奇妙な現実


シンプルな音が持つ、強烈な熱量と高揚感。
「Strange Reality 奇妙な現実」は、それを存分に感じさせてくれる作品だ。
King Rambo Soundは、仙台を拠点に活動する音楽家でありDJのAtsushi Akamaによるソロプロジェクト。本作品は、ダブ、テクノ、レゲエなどのリズムがベース音とともにループし、静かに淡々と繰り返す空間に人の気配と熱気を感じる。
ループの中に時折ちらりと現れるオーガニックなフレーズ、ガリガリとしたグリッチ音、シンセ音などがとてもファニーで、それらの音とループ音の対話が、まるでブラックユーモアの物語に出てくる人物たちの話の掛け合いのように滑稽で奇妙だけれども、その巧妙さに気づいた瞬間に高揚感のギアが一瞬でドンと上がり、その世界観にどんどん身を任せたくなる。
King Rambo Soundは作品紹介で「僕の目に映る世界はとても奇妙で時にグロテスクだ」と語っているが、本作品の聴衆が高揚感と共に自由に踊る姿は、彼にとっての不思議な世界のひとつなのかもしれない。

metome, uratomoe, speedometer. - Dark, tropical


「Dark, tropical.」は、1990年代より活動を始め、独特のビートアプローチで今もなおボーダーレスなサウンドで魅せ続ける電子音楽家speedometer.(高山純)、バリトン・サックスやクラリネット奏者でありコンポーザーの浦朋恵、気鋭の電子音楽家Metomeの三者によるアルバム。〈P-vine〉よりリリースされた。
「Dark, tropical.」は、トロピカル・ムードに憂いの個性を響かせた作品。自らのアルバムを「鎮静楽園音楽」と表現するように、民族楽器や木管楽器などのプリミティブな音と電子音のグラデーションが暗く穏やかな南国の映像を映し出す。
じっとり汗ばむような音響の中で音たちが有機的な対話を繰り返す。その世界観に身を委ねると、目の前に美しい夕暮れが現れる。沈む夕日と空の色が暗く移ろいで行くのをただずっと眺めていると、穏やかな気持ちでまどろむ時間がやってきた。気が付くと夕日がすっかり沈み、辺りは暗く月の薄明りだけが頼りだ。何かの気配を感じて手を伸ばしてみるけれど空をつかむだけで、なんか虚しい。
・・・でもよかった。
一瞬の小さな勇気と裏腹に安堵して、また暗い世界に戻っていく。南国の夜に同化した身体は、とても穏やで憂いを帯びた闇にやさしく溶け込んでいく。

https://youtu.be/WFGVNVhB5WY

Shyqa - HOLLOW


Shyqaはロシアのプロデューサー。「HOLLOW」は、Tavi Lee が運用する上海のレーベル〈Genome 6.66 Mbp〉よりリリースされた。「Anxiety」ではスイスのグライムプロデューサーであるShayuをフィーチャーしている。
音はとてもシンプル。少ない音数ながらドローンでアンビエントな作品。全体的に暗い表情の作品だ。シンプルな音たちが一瞬重なっては違う音に変わり、時には耳に劈くような電子音や破壊音とも重なりながら感情の波を描き、魂を探し求める。
アルバムを通して、人の内生的な感情(混乱、不安など)を表現しているせいか、ずっと暗いのだが、曲を追うごとに感情の変化が見て取れる。「Mess」では破壊、絶望のような破壊音と暗さがつきまとうが、「Liar」が幸せの最高潮なのだろう。破壊音の中に明るい道筋が見える。その後の「Anxiety」ではまた憂いのある表情を見せる。そして憂いを帯びた雰囲気の中作品は終わっていく。しかし、聴き終えた後には悲しみはなくなっていてどこか明るい。

https://soundcloud.com/shyqa000

ssaliva - God Room


ssalivaは、ベルギーを拠点に活動する音楽家のFrançois Boulangerによるソロプロジェクト。「God Room」は、セルフリリースによる作品だ。

まず目を引いたのが苺のジャケット。これまでの抽象的で無機質なアートワークとはまるで対照的でとても鮮やか。これまでの作品には、自身がアートワークを手がけたものもあるとのことだが、今回の苺のアートワークも彼が手がけたのだろうか。

鮮やかなアートワークの一方で、アルバムはこれまで通りの水気をたっぷり含んだ空間でじんわりと音を響かせている。グリッチノイズの旋律が響きわたるアンビエントな作品。グリッチノイズのザリザリした音が何層にも絡み、心地よい空間が広がる。
まるで、輪郭があいまいで憂いのあるモノクロの情景を断片的に見ているよう。情景がゆっくりと移りゆく中に、突如鮮やかな光が辺り一面を照らし出すものだから、不思議と神秘的な昂揚感が湧き上がり、そのままどこかへ昇華されていくよう。
特に、アルバムのタイトルでもある「God Room」は、瞑想中のような夢見心地のようなぼんやりした感覚に陥る。現実から一瞬、無意識に音楽に没入してしまいそうな作品。

https://soundcloud.com/ssaliva

GOODMOODGOKU - GOODMOODGOKU


GOODMOODGOKUは、北海道出身のラッパー/シンガー/トラックメイカー/プロデューサー。
GOKUGREEN名義からGOODMOODGOKUに変わって以来初のアルバムとなる。ボーカルのみならずビートも全曲フルプロデュースしたという本作品は、スローなテンポにメロディアスなフローと残響音が後をひく。ヒップホップが持つアンビエントの要素がメロウな心地よさを作り出し、いつの間にか自然と陶酔感が体を包む。GOODMOODGOKUの甘美でメロウな世界観に身を委ねて楽しみたい。

Nozomu Matsumoto - Phnocentrism


Nozomu Matsumotoは、東京を拠点に活動するサウンドアーティスト/キュレーター。「Phonocentrism」は音中心主義のことで、アーティスト自身が音やスピーチによって言葉で紡ぎ拡げていくことを目的としている。演奏時間がジャスト20分の本作品の参加アーティストは、CEMETERY、DJ Obake、Emamouse、H.Takahashi、Hegira Moya、Hideki Umezawa、Kazumichi Komatsu、Kenji Exilevevo、LSTNGT、メトロノリ(Metoronori)、Rina Cho、toilet status、Y.Ohashi、Yoshitaka Hikawa。作品はSumiko Matsumotoによるボーカルにより展開していく。ラップ、メタル、ボーカル、EDM、ノイズがコラージュのように重なり、ジャンルを特定できないコンセプチュアルな世界観が目の前に拡がっていく。