Dirt on Tape Vol.05

カセットテープコレクターDirty Dirtがマンスリーでお送りする、連載第五回。
カセットテープに関するあれやこれやをご紹介します。

Text: Dirty Dirt, Title Logo: ancco

現行カセットテープ入門というかんじでかいていますが、入門者ははたして増えているんでしょうか。MASSAGEを読まれるような方でしたら、とっくに入門をはたして、いいかげんまわりがカセットカセットいうのにうんざり、となっていないか心配すらしていますが。もうそろそろ、深いところのレーベルのはなしもしてみてもよいでしょうか、とおもいながら、今回もまた入門なかんじで。

〈Constellation Tatsu〉を紹介します。いっしょな頃にはじまったレーベルはけっこう活動をやめてしまってさびしいんですが、ここはコンスタントにすばらしいアンビエント作品をリリースしつづけています。

日本では “しー辰” の愛称でよばれる〈Constellation Tatsu〉はアンビエントのレーベルとしてはいっとう知られているレーベルではないでしょうか。いまのカセット界隈全体の盛り上がりの先陣をきってきたレーベルでもあります。コラージュアーティストであるカリフォルニアのSteven Ramseyが2012年に立ち上げたレーベルです。

いまのアンビエントの王道といってもよいレーベルで、現行カセット界隈3大シンセアンビエントとよばれるPanabrite、Günter Schlienz、Pulse Emitterの3人ともをリリースしていたり、日本のHakobuneの作品を毎年リリース、最新のバッチではいまその界隈では最も勢いのあるH. Takahashiも出しています。ほかにも夕方の犬、Chihei Hatakeyamaなど日本人のリリースが目立ちます。

いまのまっすぐなアンビエントのよいところをききたければ、ここのを買ってみてまちがいがないんですが、そこにまぎれたレーベルとしては冒険をしている作品がとくべつおもしろかったりします。

〈Mind Records〉や〈Orange Milk〉からも出しているモントリオールのBataille Solaireのニューエイジなシンセとコラージュ、〈Beer On The Rug〉からのリリースがすばらしかったJames Ferraroと並ぶ存在だと勝手におもっているAngel 1を知ったのはこのレーベルで。そのBOTR主宰のC V L T Sや、Giant Clawがシンセドローン作品を出してみたり、White Poppyの〈Not Not Fun〉デビュー寸前のアコースティック作品は彼女のベストだとおもいます。

もうすぐ〈Kranky〉からリリースされるMJ Guider、きょねんLXVとの共作がすばらしかったKara-Lis Converdale、はじめは何者? となりながらもそのあとからたてつづけにリリースがつづくDang Olsen Dream Tapeなど、ここからのカセットをきっかけに飛躍してゆくひともたくさんいる印象で。

毎回しっかり3、4本のバッチで出してくるあたりがカセットレーベルらしさがあります。そしてはじめのころから300本くらいとしっかりとした本数をつくっているのでしっかりと流通していて。バッチをまとめて買うと、ポスターをつけてくれたりするんですが、いちどレーベルのロゴのはいった蜂蜜がついてきたことがありました。そういうおまけをつけてきてくれるあたり、カセットをレーベルから直接買うたのしみでもあります。そしてここからのものは郵送途中に袋が破れてくる可能性が高いというのも、カセットレーベルらしさがあって。そしてここがレーベル別でいうとこれまでにいっとうたくさん買ったレーベルでもあります。Jカードのデザインもシンプルなのからコラージュなものまでさまざまで、集めるのもたのしいです。

現行のカセット界隈のなかでも、いっとう入りやすいレーベルだとおもいますので、ここへ注文して袋が破けて届いて冷や冷やするという経験をしてみてはいかがでしょうか。

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5月でよかったもの。

買った経緯がおもいだせないんですが、そういうのもときどきあります。レコードよりもそのあたりはとても気軽に買うことができるのもカセットのよいところ。いま調べてみたらCVNさんに教えていただいたUmfang入り〈Sweat Equity〉のコンピレーションに参加していて、気になっていたらふと発売されて買いました。
フィラデルフィアのCouples Counseling、Cc。もこもこした質感のテープがかすれるかんじに、細切れな声のサンプリングと全体的にゆるい雰囲気なんですが、トツゼンな立体感のある電子音がゲームっぽくっていまっぽかったりと、つかみどころのなさがものすごくよいです。


Cc “Haha Panorama”
https://couplescounseling.bandcamp.com/album/haha-panorama

Lil $egaの運営する〈Wasabi Tapes〉からきょねん末にリリースされた “美しい (Utsukushii) ” にも参加していたDavid WinklerのJulienが〈Orange Milk〉入り。大胆すぎる無音なスペースの挿入と、そこから一気にたたみかけてくるビートの緩急がすばらしいです。ビートもフットワークから四打ち、声のサンプリングも赤ん坊からメタルの叫び声までたくさん。全体的にかなりせわしないかんじでたたみかけてくるんですが、ビートの鳴っていないところのシンセの質感がよいのと、つめこんだ内容だけれどすごくポップなきこえ方で、〈Orange Milk〉っぽさ全開です。


Julien “FACE OF GOD” (Orange Milk)
https://orangemilkrecords.bandcamp.com/album/face-of-god

〈Primitive Languages〉周辺Lolitoのレーベルから。音楽だけでなく映像にコラージュや3Dなアートワークのフライヤーをつくっていたりと多才なセント・ルイスのBlack JamesことIce。チープなシンセとビート、そこにささやきヴォーカルが主な流れなんですが、唐突な本人演奏のバンジョーによるフォーク、ピアノやら会話のサンプリングをはさんできたり、男性のラップがのせられたりと、展開がはちゃめちゃで、ひとつのものがたりを読んでいるような。
このレーベルはJカードのデザインが統一されていてよいです。ただ紙の表面がつるんとしてるのがマイナスではありますが。


Ice “Scream Club” (More Records)
https://morerecords.bandcamp.com/album/scream-club

いまいっとう好きなひとのひとり、rkss新作です。〈Reject & Fade〉、〈Seagrave〉からでたこれまでの作品はノイズにビート、かりかりした金属音があわさってとよくわからないテクノをやっていたんですが、今作でさらにつきすすみました。全編、早回しのようなかすれたノイズ、そのなかを立体的に跳ね回る電子音、もこもこと浮び上がってくる欠落したビート。はっきりとした音がとりはらわれながらも、空間いっぱいにつかいながら立体的に様々な音が不規則に暴れ回り、全体をとおしてうっすらとしたビートになりきらないリズムがかんじられて、ふしぎなかんじ。〈Where To Now?〉なのでカラフルな色で文字をあしらったリゾグラフなJカードがきれいなんですが、さすがにすこし飽きてもきました。かえられても困りますけど。


rkss “Top Charted” (Where To Now?)
https://wheretonow.bandcamp.com/album/top-charted

まえから交流のあった2人のsplit。Jカードのアートワークもそれぞれのをあわせていて。しー没サイドはBotsu500番台。作品番号が曲名になってるんですが、これまでみさせていただいたライブなかんじがいっとう濃く反映されてるので、きょねんの夏頃につくられた曲でしょうか。飛び散り続ける金属質なノイズ、そこに重なる立体的でクリアな電子音、それらを高速でタブレットの画面に向かって絶え間なくちからづよく打ち続けるかんじ。公開されてる600番台後半から700番ではノイズがおさえられて歌がはいってきてとあたらしい展開をみせているので、つぎのリリースもたのしみです。
先月も取り上げたGood WillsmithメンバーMaxソロMukqs側はしー没さんにあわせたのか、20分にわたる金属質なノイズの裏で、サンプリングな音声、ビートがつぎつぎといれかわる前作よりも攻めた内容。いつかこのふたりで日本ツアーをしていただけたならうれしいです。


Constellation Botsu / Mukqs “Miracle Hentai” (Suite 309)
https://suite309.bandcamp.com/album/miracle-hentai

キリがないので毎月5本と決めてるんですが、これもよかったので。カセットテープは好きなんですけれど、ミックステープってほとんどきかない、どちらかというと個々の作品が好きで、でもこれはすごく気に入って歩きながらよくきいていました。Low Jackつながりのベルギーが拠点のふたり。Low Jackなどいまいっとう変でかっこいいあたりからLiaisons Dangeereusesまでと新旧な曲を、ガバな雰囲気もはさんでみたりしながら、終始ものすごいテンションなままつないでゆきます。Jカードなしっていう簡素なつくりもミックステープっていうかんじがしてこれだとかっこいいです。

DJ Coquelin & MC Cloarec “Je M’en Tape” (PRR! PRR!)

Dirty Dirt
現行のカセットテープコレクター。2015年は450本購入。カセットテープに関するブログ、zine、雑誌への寄稿、たまにカセットDJなど、現行のカセットテープのことならなんでも。 http://dirtydirt2.blogspot.jp