Similarobjects / THNGMJX - Command + V2


本作は、2020年3月にリリースされたCommand + V1の第二弾となる作品で、今回はフィリピン在住 Similarobjectsの未発表曲とブラジル在住 THNGMJXの作品による二曲構成となっている。怪しい暗闇。湿度高く空気がこもった地下のような怪しい雰囲気。どこまでも続く暗闇を熱を帯びた大小異なる金属音と電子音が自由に弾け飛ぶ。ふっと冷やかな微笑みを浮かべたかと思うと、金属音の群れは加速しながらさらに熱を帯び、暗闇をまっすぐ一気に駆け抜けていく。

https://soundcloud.com/kopirecs/sets/command-v2

Patiwat Saraiyam (Bank) - Fah Bo Kan Kue Wa Hang Kan


Fah Bo Kan Kue Wa Hang Kan(壁が私たちを引き離す)
「私たち」は誰なのか?
タイはイサーン地方のモーラム歌手であるPatiwat Saraiyam (Bank)の背景を紐解くと、モーラムの可能性を信じ、歌手として歌い続けようと決意した出来事が浮かび上がる。タイの政治情勢が不安定だった2013年。役者として出演した劇「Wolf Bride」が後に不敬罪に当たると逮捕され、2年6ヶ月にわたって囚われの身となった。その後隣国へ亡命し、現在はモーラムの歌手として精力的に活動している。本作は、Patiwat Saraiyam (Bank)の歌声と伝統的な民族楽器の美しい倍音が、穏やかでノスタルジックな情景を描く一方で、ファニーな電子音が情景を歪ませ、徐々に奇妙な世界観へと変えていく。モーラムにおける「私たち」は恋人なのかもしれないが、本作の「私たち」は、彼自身の運命なのかもしれない。マスタリングとアートワークPisitakun。ジャケットが本作の奇妙な世界観を鮮やかに映し出している。

https://soundcloud.com/iconoclastor/patiwat-saraiyam-bank-fah-bo-kan-kue-wa-hang-kan

King Rambo Sound - Strange Reality 奇妙な現実


シンプルな音が持つ、強烈な熱量と高揚感。
「Strange Reality 奇妙な現実」は、それを存分に感じさせてくれる作品だ。
King Rambo Soundは、仙台を拠点に活動する音楽家でありDJのAtsushi Akamaによるソロプロジェクト。本作品は、ダブ、テクノ、レゲエなどのリズムがベース音とともにループし、静かに淡々と繰り返す空間に人の気配と熱気を感じる。
ループの中に時折ちらりと現れるオーガニックなフレーズ、ガリガリとしたグリッチ音、シンセ音などがとてもファニーで、それらの音とループ音の対話が、まるでブラックユーモアの物語に出てくる人物たちの話の掛け合いのように滑稽で奇妙だけれども、その巧妙さに気づいた瞬間に高揚感のギアが一瞬でドンと上がり、その世界観にどんどん身を任せたくなる。
King Rambo Soundは作品紹介で「僕の目に映る世界はとても奇妙で時にグロテスクだ」と語っているが、本作品の聴衆が高揚感と共に自由に踊る姿は、彼にとっての不思議な世界のひとつなのかもしれない。

metome, uratomoe, speedometer. - Dark, tropical


「Dark, tropical.」は、1990年代より活動を始め、独特のビートアプローチで今もなおボーダーレスなサウンドで魅せ続ける電子音楽家speedometer.(高山純)、バリトン・サックスやクラリネット奏者でありコンポーザーの浦朋恵、気鋭の電子音楽家Metomeの三者によるアルバム。〈P-vine〉よりリリースされた。
「Dark, tropical.」は、トロピカル・ムードに憂いの個性を響かせた作品。自らのアルバムを「鎮静楽園音楽」と表現するように、民族楽器や木管楽器などのプリミティブな音と電子音のグラデーションが暗く穏やかな南国の映像を映し出す。
じっとり汗ばむような音響の中で音たちが有機的な対話を繰り返す。その世界観に身を委ねると、目の前に美しい夕暮れが現れる。沈む夕日と空の色が暗く移ろいで行くのをただずっと眺めていると、穏やかな気持ちでまどろむ時間がやってきた。気が付くと夕日がすっかり沈み、辺りは暗く月の薄明りだけが頼りだ。何かの気配を感じて手を伸ばしてみるけれど空をつかむだけで、なんか虚しい。
・・・でもよかった。
一瞬の小さな勇気と裏腹に安堵して、また暗い世界に戻っていく。南国の夜に同化した身体は、とても穏やで憂いを帯びた闇にやさしく溶け込んでいく。

https://youtu.be/WFGVNVhB5WY

Shyqa - HOLLOW


Shyqaはロシアのプロデューサー。「HOLLOW」は、Tavi Lee が運用する上海のレーベル〈Genome 6.66 Mbp〉よりリリースされた。「Anxiety」ではスイスのグライムプロデューサーであるShayuをフィーチャーしている。
音はとてもシンプル。少ない音数ながらドローンでアンビエントな作品。全体的に暗い表情の作品だ。シンプルな音たちが一瞬重なっては違う音に変わり、時には耳に劈くような電子音や破壊音とも重なりながら感情の波を描き、魂を探し求める。
アルバムを通して、人の内生的な感情(混乱、不安など)を表現しているせいか、ずっと暗いのだが、曲を追うごとに感情の変化が見て取れる。「Mess」では破壊、絶望のような破壊音と暗さがつきまとうが、「Liar」が幸せの最高潮なのだろう。破壊音の中に明るい道筋が見える。その後の「Anxiety」ではまた憂いのある表情を見せる。そして憂いを帯びた雰囲気の中作品は終わっていく。しかし、聴き終えた後には悲しみはなくなっていてどこか明るい。

https://soundcloud.com/shyqa000

ssaliva - God Room


ssalivaは、ベルギーを拠点に活動する音楽家のFrançois Boulangerによるソロプロジェクト。「God Room」は、セルフリリースによる作品だ。

まず目を引いたのが苺のジャケット。これまでの抽象的で無機質なアートワークとはまるで対照的でとても鮮やか。これまでの作品には、自身がアートワークを手がけたものもあるとのことだが、今回の苺のアートワークも彼が手がけたのだろうか。

鮮やかなアートワークの一方で、アルバムはこれまで通りの水気をたっぷり含んだ空間でじんわりと音を響かせている。グリッチノイズの旋律が響きわたるアンビエントな作品。グリッチノイズのザリザリした音が何層にも絡み、心地よい空間が広がる。
まるで、輪郭があいまいで憂いのあるモノクロの情景を断片的に見ているよう。情景がゆっくりと移りゆく中に、突如鮮やかな光が辺り一面を照らし出すものだから、不思議と神秘的な昂揚感が湧き上がり、そのままどこかへ昇華されていくよう。
特に、アルバムのタイトルでもある「God Room」は、瞑想中のような夢見心地のようなぼんやりした感覚に陥る。現実から一瞬、無意識に音楽に没入してしまいそうな作品。

https://soundcloud.com/ssaliva

GOODMOODGOKU - GOODMOODGOKU


GOODMOODGOKUは、北海道出身のラッパー/シンガー/トラックメイカー/プロデューサー。
GOKUGREEN名義からGOODMOODGOKUに変わって以来初のアルバムとなる。ボーカルのみならずビートも全曲フルプロデュースしたという本作品は、スローなテンポにメロディアスなフローと残響音が後をひく。ヒップホップが持つアンビエントの要素がメロウな心地よさを作り出し、いつの間にか自然と陶酔感が体を包む。GOODMOODGOKUの甘美でメロウな世界観に身を委ねて楽しみたい。

Nozomu Matsumoto - Phnocentrism


Nozomu Matsumotoは、東京を拠点に活動するサウンドアーティスト/キュレーター。「Phonocentrism」は音中心主義のことで、アーティスト自身が音やスピーチによって言葉で紡ぎ拡げていくことを目的としている。演奏時間がジャスト20分の本作品の参加アーティストは、CEMETERY、DJ Obake、Emamouse、H.Takahashi、Hegira Moya、Hideki Umezawa、Kazumichi Komatsu、Kenji Exilevevo、LSTNGT、メトロノリ(Metoronori)、Rina Cho、toilet status、Y.Ohashi、Yoshitaka Hikawa。作品はSumiko Matsumotoによるボーカルにより展開していく。ラップ、メタル、ボーカル、EDM、ノイズがコラージュのように重なり、ジャンルを特定できないコンセプチュアルな世界観が目の前に拡がっていく。

leedian - love’s reprise


leedianことHitoshi Asaumiは、愛媛出身の音楽家。ゆったりとした時間が流れる空間で、プリミティブな音たちが美しい花のように咲き乱れ幾重にも重なる。残響音が心地よい。一方で、美しい旋律とダークなビート、電子音やノイズなどの破壊音が自由に展開していく。ユートピアとディストピアを行き来し、どこか虚無感があり冷ややかで暗い世界観。聴き終わった後に、自由と破壊が切り替わる狂喜にも似た瞬間をまた振り返りたくなる作品。

Native Rapper - TRIP Remixes


Native Rapperは京都在住のトラックメイカー/シンガーソングライター。ファーストアルバム「TRIP」のリミックアルバムとなる本作品は、リミキサーにパソコン音楽クラブ、TREKKIE TRAX CREW、Batsu、ゆnovation、has &MonoDrumを迎えている。
「TRIP」は、日常をテーマにした歌詞とフューチャーポップの爽やかなシンセサイザーベースのメロディーが、普段何気なく触れる感情(例えば自問自答したり、ちょっと楽しい妄想をしたり、時に大切な人を想うけれども不確かな感情の交錯でもやもやしたり)をダンスミュージックへと昇華させているのだが、今回のリミックスではその世界観をより色濃く鮮やかな色彩で魅せている。日々のなんとなくが、実はとても素晴らしいことなのではないかと思わせてくれる作品。

玉名ラーメン - 空気


玉名ラーメンは、現役女子高生のボーカリスト/ラッパー/トラックメイカー/プロデューサー。Nobuyuki SakumaのソロプロジェクトであるCVNのアルバム「I.C.」内の楽曲「舌下 Zekka (Karaoke)」のボーカルバージョンに玉名ラーメンが迎えられ「舌下 Zekka feat. 玉名ラーメン」としてリリースされたのも記憶に新しい。
玉名ラーメンの訥々と語るような声と歌詞は、感情を抑えながら自身の心情を静かに伝えようとしているようで逆に情熱的ともいえる。時に軽く時にダークで心地よいトラックに身を任せて聴いていると、思わず彼女の心の中を覗きに行ってしまったような感覚になり、背徳感のような淡い戸惑いを覚える。等身大の彼女の心を詩のような世界観へと変化させていく玉名ラーメン。時間の流れとともに、彼女はどのような世界観を創りだしていくのだろうか。

https://www.youtube.com/watch?v=LH7YX_HJOO8

ava* - Blush


“Blush” は紅潮。頬を赤らめること。言葉にできない戸惑いや恥じらいの感情が体を駆け巡った証。
もしかすると ”Blush” は、少女の頃にだけ許される最高の魅力なのかもしれない。
ドイツはベルリンのアーティストでプロデューサーのava*による初アルバム「Blush」は、香港のレーベル〈Absurd Trax〉よりリリースされた。5年間にわたるフィールドレコーディングを織り込んだ本作品は、やわらかで繊細なテクスチャー。水彩画のような曖昧な輪郭を描きながらゆっくりと時に激しく展開するアンビエントな作品。
自由に飛び回るサウンドは、まるで少女の感情を表したかのようにどこかはかなくて、ゆるやかに上ったり下りたりするシンセのメロディーと一緒に聴いていると、瞑想中のような遠い日の記憶を見ているような感覚になり、その曖昧さがまた心地よい。
ぼんやり先に見えてきたのは幼い頃の記憶。空を眺めていると今日はやけに雲の流れが早い。いつもと違う速度で目の前の景色が変わっていく。これから何か起こるのかしら?胸がざわつく…なんだか不安…その感覚を鮮明に思い出すとアルバムは終わっていた。
どこでもいい。どこか遠く離れた場所へ。記憶を辿る旅に出るのもいいだろう。

Pelada – Movimiento Para Cambio


Peladaは、プロデューサーのTobias RochmanとボーカルのChris Vargasによるデュオで、カナダのモントリオールを拠点に活動している。ベルリンのレーベル〈PAN〉では初めてのリリースとなる「Movimiento Para Cambio」は、Tobias Rochman のブレイクビーツやジャングル、アシッドハウスなどビート感溢れるサウンドとChris Vargasの自由で解放的で感情的なボーカルが社会や政治への不満などの強いメッセージを歌い上げる、非常にエモーショナルでパワフルな作品。 メッセージは、社会における女性のあり方やセクシャルハラスメントの克服への道、経済がビッグデータで個人を監視する時代を迎えたことへの不満や、グローバル資本主義への不満など実に多岐にわたるが、まさに今目の前で起こっている現実そのものなのだろう。PELADAは、自身らの音楽を通して社会や政治への不満や警告を個人に呼びかけ、彼らのアイデンティティや自己再帰性を呼び起こしたいと考えているのだろうか。アルバムの前半は、冷静かつ疾走感溢れるビートと怒りとも感じられるボーカルとのコントラストが彼らのメッセージを強調しているように感じる。中盤~後半につれてボーカルとビートが一体化しさらに疾走感を増す。ラスト2曲の落ち着いた曲調の中、何かを呼びかけるようなボーカル。アルバム全体を通してPELADA伝えたいものへのパワーを十分に感じられる作品。ライナーノーツに書かれている ‘ABRE TUS OJOS, LA BESTIA SE ALIMENTA DE LA EXPLOTACIÓN’ (“OPEN YOUR EYES. THE BEAST FEEDS ON EXPLOITATION” ) こそが、彼らが皆に伝えたいメッセージそのものなのかもしれない。

S S S S – Walls, Corridors, Baffles


S S S SことSamuel Savenbergは、スイスはルツェルン在住の音楽家であり音楽プロデューサー。「Walls, Corridors, Baffles」は、スイスのルツェルンを拠点とする〈Präsens Editionen〉からリリースされた。〈Präsens Editionen〉は、クラブカルチャーや音楽、アートなど発信しているzweikommasiebenの書籍やアルバムなどを発表している。音楽は概念的で象徴的なものではなく、その具体性が重要だと考え作成したアルバムの表情は全体的にとても暗くて重い。しかし、予定調和のない旋律や冷やかな金属音やノイズ、緻密なリズムが時に交錯し、時に一つに重なり調和すると、エネルギーに満ち溢れた緩急のある音のうねりを生み出す。音のうねりが押し寄せてくるたびに感情の高揚を誘っているように感じる。アルバムを聴き終えると、不思議と耳元を心地よい風がふっと駆け抜けるような感覚に陥る。アルバムのタイトル「Walls, Corridors, Baffles」はフランスの哲学者であるロラン・バルトの一節から引用されている(おそらく「Empire Of Signs」『表徴の帝国』からと思われる)。音楽は聴き手の感じ方次第という考え方も、もしかしたらロラン・バルトの影響があるのかもしれないと考えると、アルバムの聴き方が少し変わるかもしれない。Han Le Hanによる生け花のアートワークもアルバムの暗い表情を美しく表現している。(TN)

Ayankoko – Kia Sao ກ້ຽວສາວ


Ayankoko は、フランス在住の音楽家/作曲家/プロデューサーでありギター奏者でもあるDavid Vilayleckによるソロプロジェクト。「Kia Sao ກ້ຽວສາວ」は、アジア系のアーティストの音楽や文化をハイブリット化するレーベル〈chainabot〉からリリースされた。電子音とラオスの伝統音楽が、穏やかでありながらどこか憂いを秘めた作品。ラオスをルーツに持つAyankoko 。サイケデリックなジャズフィージョン、ノイズ、電子音をラオスの伝統音楽や現地で録音したサンプリングとミックスさせた本作は、ノスタルジックな音響が、明るく穏やかな表情から破壊や絶望、そして希望へと展開していく。自身のルーツであるラオスへの想い、忘れてはならないラオスの歴史、現在もなお続く厳しい状況を色彩豊かな曲調で描いている。自身のルーツへの強い思い、深い歴史を自身の創造に変え明るく優しい世界観で我々を魅せていく。

KING OF OPUS - I STILL LOVE YOU FEAT. 鶴岡龍


テクノ黎明期より唯一無二の和製エキゾ・ダブへと昇華させてきたユニットKING OF OPUS。本作「I STILL LOVE YOU FEAT. 鶴岡龍」は、2018年にリリースされたアルバム「S.T.」からの7インチ・シングル・カットだ。ダブの浮遊感溢れるリズムに鶴岡龍のトークボックスが立体的に重なり、聴くものを熱帯夜でしっとり汗ばんだ時のような不思議な高揚感へと導く。一方、カップリングのchisha「macha macha」は、エキゾチックな音とシンセがコロコロ笑っているようで、穏やかな曲調がなんともかわいらしい。淡い恋心を歌った歌詞は80年代J-popとも異国の大衆歌謡とも感じられる。心地よい湿度と熱気を帯びた本作。遠く熱い国を想像して聴くのもよいが、敢えて梅雨シーズンに聴いて、幻想的なユートピア感を味わいたい。

https://www.youtube.com/embed/VxCGxh37EJw

Future Proof : 面向異日 – in city stone


〈Future Proof : 面向異日〉ことLars Berryは、カナダ出身で台湾在住のアーティスト。同名のレーベルを主宰し、別名義Colour Domesとしても楽曲を発表している。「in city stone」は、台湾を拠点に活動するレーベル〈swivelized sounds〉よりリリースされた。また、アルバムの2曲目「iandu」は、ドイツはベルリンのレーベル〈NO DISK〉のインスタグラムにて映像3部作品として公開されている。映像は、Ferox Neutrino (Radiant Silver Labs)とColour Domesによるもの。連続的に細かく配置された電子音に艶やかな残響音、金属音、ノイズ、人の声が折り重なり、静けさの中にどこか人の気配が残り、アンビエントな景色が広がる。このアルバムを深く聴くと、音のマイクロカルチャーが見えてくる。フラクタル図形の一つの海岸線のように、細部を見ようと近づけば近づくほど複雑で同じ形状が続いている。空虚な巨大企業のビルを見上げながらヘッドホンで聴きたくなる音だ。アルバムのタイトル「in city stone」はまさに都市を構成するものだ。有機化合物は含まれていない。トラックはおそらくグループリスニングには向いていない。人目につかず物思いにふけるのがいい。またトラックは手術後、誤って患者の体内に取り残された医療機器を追求している。患者は異質な医療機器が体内に残存する状態で、金属探知機を避けて歩き回るしかできないのだ。廃墟や建物、体内に残された医療器具のように、使用されずそのまま放置され朽ちて崩壊していく虚しさやその過程の奇妙な光景を描いているのかと深く考えたくなるが、この映像を見て彼の母が言った「何か気になるわね…。」が正解なのかもしれない。

雨田光平、SUGAI KEN - 京極流箏曲 新春譜


「京極流箏曲 新春譜」は、彫刻家/京極流2代目宗家 筝曲者/ハープ奏者の雨田光平が、昭和30年頃に青木繁が描いた神々のイメージを創作源に作曲したもの。本作品は、昭和45年に自主制作LPのために琴、笙、ハープを含めた6名で合奏・歌唱して収録したものと、日本古来の美や伝統芸能・民族芸能を電子音楽に昇華する音楽家SUGAI KENによるリワークが収録されており、大阪のレーベル〈EM Records〉よりリリースされた。かすかな心覚えをたどって聴くと、ハープと箏の音色が生み出す不思議な質感の倍音や、雅楽風の調弦や奏法を超えた古の明るく美しい世界観に心が洗われる。
一方、SUGAI KENのリワークは、暗くうっすら光が入る空間でどんどん物語が展開されていく。静けさ中に広がるけだるいリズム、縦横無尽に走る電子音や和の気配を纏ったフィールドレコーディングの群れたちが現代に「新春譜」を紐解き、聴こえないはずの演者同志の間合いや音の余白を体現している。終盤のモールス信号にはどんな意味が込められているのだろうか。