多元世界を志向するコレクティブ、versesによる「サイバースペースの相互依存宣言」

Text=Yusuke Shono

2021年10月、versesという名の集団がFacebook社のMetaへのブランド移行を受けて、「サイバースペースの相互依存宣言」というエッセイを発表した。このエッセイは John Perry Barlowが1996年に執筆したサイバーパンクの基礎となるテキスト「サイバースペースの独立のための宣言」のダイレクトフォークである。
※差分はこちら

「サイバースペースの独立のための宣言」が執筆されたのは、インターネットが始まったばかりの1996年。そしてWeb3黎明期とも言える2022年の現在は、その1996年に相当するという意見もある。時代が大きな変化を見せるサイクルの開始期には、その時代を表現したテクストが同時に歴史に刻まれるものだ。1996年と現代の差分を抽出して見せる「サイバースペースの相互依存宣言」は、そんな歴史に残る宣言文になるかもしれない。

Barlowの宣言文は、既成の組織をインターネットに対立させる。しかし、Meta社に代表されるWeb2.0企業がそのほとんどを占有するようになってしまった現在、Barlowの視点は不十分なものになってしまっているとversesは考えた。古いものと新しいものを対立させるのではなく、versesは独占主義と多元主義を対置させることを試みる。Barlowが高度に個人主義的なアプローチを採用しているのに対し、versesは相互主義、互恵主義、集団的創造と並んで、個人の主体性を信じる。またなによりBarlowの宣言が彼個人によって執筆されているのに対し、versesのテキストは単一のビジョンをもとに数十人の貢献者によって執筆され、読者が参加する開かれたテキストを目指して書かれている。


サイバースペースの相互依存宣言
https://www.interdependence.online/declaration

ひらかれたテキストのために

サイトを開いてすぐ、著名ボタンがあることに気がつかれたかもしれない。この宣言文は、MetaMaskの秘密鍵を使って手数料なしで署名し、宣言の支持を表明できるのである。いわば宣誓文の最後にサインして名を連ねるようなものだ。MetaMaskの著名をこのような方法で使うことは、ちょっとした発明かもしれない。

その証拠に、versesにインスパイアされたlensprotcolというプロジェクトが、早速同様の手法を採用した。ソーシャルコンテンツを自分自身で所有し、収益化することを宣言するオープンレターに著名できるサイトをオープンしたのである。その著名をシェアするツイートは、瞬く間にインフルエンサーたちによって拡散された。

lensprotcol
https://lens.dev

話題を「サイバースペースの相互依存宣言」に戻そう。さらに、versesのテキストは改変に対してオープンな姿勢を保持する。新たな提案や意見がある場合には、このドキュメントをフォークして提案することが推奨されている。またこのエッセイはARWEAVEという分散型永久ストレージに保管され、同時に宣言文のフォークも作成時に自動的にARWEAVEにアップロードされる。ウェブサイトそのものが、テキストを進化・発展させていくためのインフラとなることを意図して作られているのである。

まとめ

versesのテキストにおいて核となるのは、やはり「分散主義」の思想だろう。versesはそれをより普遍的な語へと変換し、「多元主義」と呼ぶ。アクセスを阻む境界も門番も存在しないこの創造的フロンティアの前面に立ち、1996年の私たちがその力を信じていたように、この先もたらされる新たな均衡がより良い世界であると信じ続けることができるのか。このテクストを出発点に、その歴史の顛末を目撃するのも悪くはないだろう。

追記(2022.2.10)

verseによる新しい“アーティファクト”が公開されました。著名者が記入したテキストによって、スフィアのパターンが生成されていく、美しいサイト。