分散型自律組織「DAO」を理解する

Text=Yusuke Shono

今回は、来るべきWeb3の世界において中心的な役割を担いつつある「DAO」という概念について取り上げる。Decentralized autonomous organizationを意味するDAOは、その名のとおり、共通の目的を達成するために人々が集う、「分散性」と「自律性」を併せ持った組織の形態として登場した。その概念は、Web2の世界からWeb3の世界への移行を象徴する。今後起きるかもしれないラディカルな変化にスムーズについてくために、この記事では非常に広範囲にわたるDAOという概念について理解することを試みたい。

DAOの歴史

大航海時代、東インド会社が発端となってはじまった株式会社が、組織をスケールさせる主要な方法として、現代の資本主義社会の重要な構成要素であることは言うまでもない。Web3の組織形態であると言われるDAOは、そんな株式会社という形態を置き換える可能性を秘めている。ところが、それは歴史に残る失敗から始まった。

2016年、イーサリアムのコミュニティのメンバーが、営利・非営利企業を組織化するための新しい分散型ビジネスモデルを提供することを目的に、the DAOと呼ばれる組織を設立する。史上最大のクラウドファンディングのキャンペーンを経て、1億5000万ドル以上の調達に成功する。従来の経営構造や取締役会の存在しないその仕組みは、イーサリアムのスマートコントラクト上(イーサリアムブロック1428757)に実装されていおり、DAOトークンを持っている人は誰でもプロジェクトに投票することが可能で、成功すれば報酬を受け取れる、という仕組みになるはずだった。ところが開始からわずか一ヶ月後、DAOのスマートコントラクトの脆弱性を見付けたハッカーにより、全資金の3分の1にわたる7000万ドル相当のETHが盗み出されてしまう。このハッキングにより、DAOトークンの上場は廃止となり、the DAOは事実上消滅。この問題を回復するためイーサリアムはハードフォークを行い、イーサリアムの分岐を引き起こしてしまった。

the DAOは華々しいスタートから一転、転げ落ちるように崩壊してしまった。その失敗はDAOのイメージを悪くしたが、人々が失敗から立ち直るのにそれほど時間はかからなかった。現在では、さまざまなDAO型の組織が群雄割拠している。DAO移行の成功例として語られることが多いUniswapやMakerDAOのような、数十億ドルの資産を保有するDeFiプロトコルから、Friends with BenefitsやBankless DAOのようなコミュニティ主導型のソーシャルDAO、特定の目的のために立ち上げられたConstitutionDAOのようなあり方まで。多様性とその数の増加は、カンブリア期における種の多様性の爆発を見ているかのようである。現代のDAOは失敗から学び、未だ進化を続けているのようである。

なぜ、DAOがイーサリアムから生み出されたのだろうか。それはイーサリアムがオープンソースの運動の一部であることを考えれば、理解しやすい。オープンソース・ソフトウェアは、誰もがアクセスでき、誰もが好きなように変更や配布することができる。開発自体も分散型の共同作業で行われるのが通常である。分散型共同開発の手法により、優れた製品を生み出すことができるだけでなく、短期的な利益にとらわれずソフトウェアと取り巻く環境を継続的に進化・発展させていくことができる。インターネットの誕生から現在まで、わたしたちの寄って立つ基礎となる多くのテクノロジーが、そのようなオープンなコミュニケーションの力により駆動されてきたのである。DAOとは、そのようなオープンソースの手法に、ブロックチェーンの技術によるさまざまな技術的な裏付けが加えられたものと言うことができるだろう。

透明性と分散性。そしてトークン

元々のDAOのアイデアは、ブロックチェーン上に存在するコントラクトの集合として存在する分散型の自律組織であり、物理的な住所を持たず、特定のリーダーによる権力を取り除くことだった。中央集権の組織では特定の人物が物事をコントロールするが、DAOでは、ユーザーがその役割を担う。ほとんどのDAOの意志決定はコミュニティでの投票を通じて行われる。共有されるルールはあらかじめブロックチェーンに実装されているため、製品のオーナーであっても後からルールを変更することはできない。そして、ユーザーの信頼を担保するのが、ブロックチェーンに備わった透明性である。DAOの全てのアクションと資金は、誰もが閲覧できる状態にある。決算ごとに財務を確認できる株式会社と異なり、DAOならばリアルタイムに財務健全性を確認することが可能である。

また、軌道に乗ったDAOならば、トークンの発行という選択肢が視野に入ってくる。トークンは株みたいなもので、貢献度に応じて、ときにはエアドロップのような形で配布されたり、第三者が購入することができる。トークンの持ち主は組織の意思決定に参入することが可能だ。ガバナンスの権利を購入できるトークンの仕組みは、中央集権からスタートした組織に関する意思決定を分散化させる役割を果たす。この仕組みにより、草の根で共通する価値観を持つ参加者を集めながら組織をスケールさせることができる。うまくいけば、共有財産としての富も蓄積されていく。このトークンの仕組みこそ、Web3の世界でDAOが既存の会社形態を置き換えると言われている所以である。しかし、発行されたトークンは売り圧力にさらされる傾向があるため、トークンを保有し続けることを促すインセンティブ設計や、価格をうまくハンドリングするトケノミクスが極めて重要になってくる。仕組みを持続可能とするために、現在もさまざまな検証が続けられているところである。

DAOが何をもたらすか

Web3の時代開始を目の前にして、DAOが人々を惹きつける理由は、この10年間の働き方の変化にその理由があるようにも思う。人々はプライベートを犠牲にしない、より柔軟な働き方を求めるようになった。仕事をするにあたって地理的な制約や、時間的な制約を取り払うことができたら、どんなに素晴らしいだろうか。特にコロナ以降は、仕事がリモートになり、遠隔で共同作業を行うための分業のシステムや、客観的な成果に基づく報酬体系などが必要になってきている。オンラインの組織化の方法論であるDAOでは、お互いに会ったことのない者同士、ときには匿名のメンバーで共同作業が行われる。DAOにおいて求心力となるのは特定のリーダーのカリスマではない。未来に向けて価値を創造するという目的そのものである。会社のために働くのではなく、貢献したいと思うようなコミュニティに所属し、そのコミュニティに能力を提供する。DAOが実現するのはそのような働き方なのかもしれない。

DAOに興味があるなら、まずはTelegramやDiscordで展開されている議論を覗いてみよう。議論に参加したり、提案を行ってみるのも良いかもしれない。貢献度が認知されてくれば、DAOへの参加も視野に入ってくるかもしれない。現在存在するDAOを確認したいなら、イーサリアムベースのコミュニティであるsnapshotを覗いてみると良いだろう。
https://snapshot.org/

DAOについてa16zがまとめたリンク集
https://future.a16z.com/dao-canon/

DAO、DAC、DAなど:不完全な用語ガイド
https://blog.ethereum.org/2014/05/06/daos-dacs-das-and-more-an-incomplete-terminology-guide/