YouTubeに転載されたインターネットミーム頌歌『リサフランク420 / 現代のコンピュー 』の動画はじわじわと再生回数を伸ばし、去年の7月24日の早朝8時半頃に1000万回再生を突破。にわかに再興の兆しを匂わせていたVaporwaveは、その辺りから再び大きな盛り上がり見せ始めました。2016年を経て2017年現在。Vaporwaveはよりわたしたちの身近な存在となったように思えます。5万人以上もの生徒数を誇るアメリカの名門大学ニューヨーク大学がウェルカムウィークに際して制作したビデオを観ても分かるように、もはや一種のスタイルとして定着したのではないでしょうか。インターネット下層の吹き溜まりでナードたちに消費されて消えると思われていたVaporwaveは、信じられないことに今や現実世界へと漂い始めているのです。日本でも〈NewMasterpiece〉がVaporwaveのZine『蒸気波要点ガイド』を発刊するなど、国内でも再び脚光を浴びるようになってきました。そんな現行Vaporwaveシーンにおいて、2017年の上半期のおすすめアルバムを20作品ほど選出しました。オールドスクールなスタイルを貫くものもあれば、新たな解釈によって生まれ変わったものまで様々。現在進行系のVaporwaveを知るきっかけになれば嬉しく思います。それでは、どうぞご堪能ください。
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天気予報 – 現在の地域条件
新興Vaporwaveレーベル〈蒸発音〉からグッドのS1やマカフシキなどの名義でold skoolな作品を発表しているVirtual Polygonによるバーチャル気象観測プロジェクト、天気予報。各地の気象予報に乗せて届けられる深夜のウェザーリポート・ジャム。
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Mute Channel – Unseen Finale〈Chilodisc〉
〈Dream Catalogue〉や〈Bludhoney Records〉などの活動によりレトロなサイバーパンクからフューチャーリアリスティックなフェイズへと移行したVaporwave、〈H.V.R.F. CENTRAL COMMAND〉や〈ANTIFUR〉を主戦場に、懐古主義的なVaporwaveに徹底抗戦の姿勢を表明したHardvapour。日本人コンポーザーCompetorによるプロジェクトMute Channelの最新作『Unseen Finale』は、某惑星のラストシーンを象ったアートワークのごとく、さらにその先に待ち受ける文明崩壊後の未来像を描き出しているのかも知れません。朽ち果てた人工物は、かつてそこに存在した都市の営みを物語り、今はそこに流れることのないコマーシャルの断片が亡霊となって儚げに漂うような、ディストピア・モールソフトな逸品。本作はVaporwave界の『An Empty Bliss Beyond This World』的な位置づけなのでは。
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Zadig The Jasp – プラズマミラー
文字多重
キャプテン
ビデオディスク
パソコン -
Floristic Regions – Vol 2〈Occasionally Tapes〉
近年、インターネットショッピングの台頭により、全米のショッピングモールのうちおよそ数百もの店舗が経営の悪化により閉店の危機に瀕しているそうです。世界各地から消えつつあるショッピングモールのかつての原風景を描き出したDisconsciousの『Hologram Plaza』を筆頭に、買い物客でにぎわう店内の環境音とそこに流れるミューザックを併存させることでバーチャルなショッピングモールを展開した猫 シ Corp.の『Palm Mall』、식료품groceriesの『슈퍼마켓Yes! We’re Open』、超級市場の『On Sale Now!』、そしてLeisure Centreの『High Fashion』へと引き継がれてきたMallsoftの系譜。Vaporwaveの支流であるMallsoftは、ショッピングモールに香るアンビエンスに独自の美学を見出したタームであると言えます。〈Occasionally Tapes〉からリリースされたFloristic Regionsの『Vol 2』は、そんなMallsoftの安寧に包まれるような作品。
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Trademarks & Copyrights – So Hot〈Adhesive Sounds〉
「私はたった1日だけ、あなたに会いました。そして、もう二度とあなたに会えるか分かりません。しかし、この夏で最も素晴らしかったのは、確かにあなたのことでした。イングリッド、このアルバムをあなたに捧げます。」と語るように、Trademarks & Copyrightsの最新作は、彼が心惹かれたイングリッドという女性に捧げられたアルバム。彼女への募る想いを一言で表したタイトルがニクい『So Hot』なサマー・チューン。
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AOTQ – e-muzak
インターネットミーム・プロデューサーを名乗る新鋭シンセポッププロデューサーAOTQの初のフルレングス。すべてのインターネット利用者のためのヴァーチャル・ラウンジミュージック。
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particle dreams – drive carefully〈Gorgeous Lights〉
夜に息づく都市の営みを嫋やかなスムースジャズと “#late night lo-fi” なるタグを添えて描き出したベッドルームの夢想家たち。なかでも、死夢VANITYや蜃気楼MIRAGEなどの作家勢がシーンに与えた影響は大きく、日没後の都市景観に窓明かりがぽつりぽつりと灯っていくように、夜に想いを馳せる多くのフォロワーを生み出しました。マンハッタン在住の作家particle dreamsもそのうちのひとり。そんな彼の最新作『drive carefully』は、COSMIC CYCLER率いる〈Gorgeous Lights〉よりリリース。80年代中期から90年代にかけて放映された深夜の街を散策するスローテレビプログラム『Night Ride』を彷彿とさせる上質なレイトナイト・ドライビングミュージック。
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GenomeTV – ゲノムテレビネットワーク〈Elemental 95〉
Fuji Grid TVの『Prism Genesis』を源流に、This Program is Brought to You, Bye.による『群馬ハイヌーン』、OSCOBの『チャンネルサーフィン1978-1984』などマスメディアが発信する音声、なかでもテレビコマーシャルをサンプルソースとして用いる手法は現在でも脈々と流れています。Vaporwaveが手法として形骸化してしまった現在でも、こんなアルバムを熱心に作り続ける作家が存在するのはとても尊いことだと思います。
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Windows彡96 – Reflections
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骨架的 – Opal Disc
もはや説明不要の生ける伝説、骨架的の3年ぶりの最新作が2作同時リリース。今回はその中から2014年録音のアルバム『Opal Disc』を。相も変わらず懐古趣味的なポップミュージックやスムースジャズにスクリューやエフェクトを施すという一貫した作風ですが、7年もこのような音楽を創り続けるのは畏怖の念すら抱いてしまいます。このリリースをきっかけに、約7年もの間「#vaporwave」というタグ付けを頑なに拒んでいた彼がすべてのアルバムにそのタグを冠したことに関しても、この『Opal Disc』は記念碑的なアルバムとなるのではないでしょうか。
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豊平区民TOYOHIRAKUMIN – リフレクション〈New Masterpiece〉
「あの”思い出”から1年…彼女の物語はまだまだ続く。」と題された日本人コンポーザー豊平区民TOYOHIRAKUMINの最新作は、前作『メモリーレーン』の続編となる『リフレクション』。彼女の新たな物語を演出するのはVaporwaveファン感涙の総勢20名の豪華リミキサーたち。前作の出来事を20通りの解釈で回想していく本作は『The Music of the Now Age』以来の傑作コンピレーションアルバムだと思いました。
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猫 シ Corp. & Mezzaluna – Black Mesa Research Facility〈Midnight Moon Tapes〉
ビデオゲーム『Black Mesa』の舞台となる極秘研究施設を題材に、そこに漂う無菌室のような清潔な空気感をMallsoftへと昇華させた『Black Mesa Research Facility』は猫 シ Corp.とMezzalunaによるスプリットアルバム。もともとBeutewaffenやMesektetなどの名義でノイズやインダストリアル、ダークアンビエントシーンでの活動を行っていた異色の経歴を持つ猫 シ Corp.によるAサイドは文句のつけようがないほど素晴らしく、Mallsoft特有の空間の広がりを感じさせるサウンドスケープはもはや神々しさすら感じられます。〈Advanced Materials〉から唯一のリリースを行い、その存在は完全に謎に包まれていたMezzalunaによるBサイドも必聴。
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Psychic LCD – FACADE〈Ailanthus Recordings〉
Lasership StereoやDiskette Romancesなどの名義でも知られるPsychic LCDによる4年ぶりの新作『FACADE』が〈Ailanthus Recordings〉から。2013年に〈Fortune 500〉からリリースされた前作『Nexxware』で発揮されていた審美性はより研ぎ澄まされ、ヴァーチャル・リアリティ空間に溶け込んでいくようなサウンドスケープが展開されていきます。彼はもともと、Lasership Stereo名義で『Soft Season』『Meet Local Singles』の2作を同レーベルから発表しており、本作『Facade』によって6年ぶりに〈Ailanthus Recordings〉へと復帰を遂げることとなります。……6年も続くVaporwaveレーベルってやばくないですか。
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glaciære – water slide
スウェーデンの作家Stevia Sphereによるプロジェクトglaciæreの2作目『water slide』。清らかな水面にしずくが弾むような繊細なレタッチで描出されるプールサイド・アンビエンス。これからの季節にぴったりなとてもクールなアルバム。
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Elite Geographic – Synthetic Environments
テネシー州の新鋭シンセストElite Geographicのデビューアルバム『Synthetic Environments』は耳当たりの良い超正統派シンセポップに仕上がっています。Vaporwave出身のシンセ使いといえばEyelinerやDonovan Hikaruなどが有名ですが、Elite Geographicもまた彼らのような文脈で語られることになりそう。近く〈Elemental 95〉からのリリースも予定されているそうで、今後の動向が楽しみな作家のひとりです。
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Phantom ’97 – Melancholy Moonlight
オハイオ州のプロデューサーRyan QueenのプロジェクトPhantom ’97による最新作。1999年の秋、とあるゴミ処理場に廃棄されていたeMachines社製コンピューターのハードドライブから、いくつかの音楽ファイルが見つかったという。それらは『Melancholy Moonlight』というフォルダに入っていたそうだが、のちにハードドライブの故障によってファイルは破損。たまたまその音源をカセットテープに残していたそうで、このアルバムはそのリッピングである。という、真偽のほどの分からない設定の作品ですが、往年のスーパーファミコンを彷彿とさせる人懐っこいシンセに乗せて奏でられるメロディがとても楽しい一作。
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Club Fantasy – Rainy Night in Hachioji〈Kaiseki Digital〉
日本とロンドンを股にかけ「Onsen Vapour ♨」な音楽活動を展開するKelmanixによるプロジェクトClub Fantasy。「眠らない大都市、八王子」を主題に物語が展開されていく『Rainy Night in Hachioji』は、シティホテル、早朝の街、雨の降りしきる八王子、京王線などを舞台に、そこに聞こえる街の喧騒や雨音などを大胆なフィールドレコーディングと共に描いた作品となっています。
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SAYOHIMEBOU – 卡拉OK♫スターダスト東風〈Business Casual〉
まるでグリッチにかけたような独創的な言語感覚、ネオン街のような極彩色の輝きを放つ奇抜なアートワーク。鬼才さよひめぼうによる2ndフルアルバム「卡拉OK♫スターダスト東風」はそんな装いに相応しく予測不可能・奇妙奇天烈なサウンドが展開されています。Kool & The Gangの往年の名曲をカバーした #2 “せれぶれーしょん” では、まさかのアーメンブレイクが炸裂し、緩やかなピアノの旋律がアンビエントを燻らせる #3 “HOTEL♥プレタポルテ1987”、MCヘブンズドア&ヘルズエンジェルをフィーチャリングした表題曲 #5 “卡拉OK♫スターダスト東風(feat.MCヘブンズドア&ヘルズエンジェル)”では突如として女性の悲鳴がトリッキーなビートを刻み、#11 “深海スペースデブリ監視ネットワーカー”では深い深海に潜り込んでいくかのように轟くドープなビート。超展開に次ぐ超展開が怒涛の勢いで耳に押し寄せ、やっと掴んだと思ったグルーヴは即座にそこで崩壊し、また新たな地平へと暴走していく……。もはやこんな文章を読むより、再生ボタンを押したほうが早いですね。本当に必聴のアルバムなのでぜひ。
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Jerry Galeries – Quartz Plaza〈Batalong Productions〉
シンガポール在住の作家、Jerry Galeriesの最新作『Quartz Plaza』。 VaporwaveやMallsoftの代名詞でもあるプラザを讃える表題に、古代ギリシャの石柱、ヤシの木、イルカ、フィジーウォーター……。一見するとVaporwaveのテンプレートに則ったアートワークにも見えますが、かき鳴らされているのは、そのサンプルソースとして提示されても違和感がないほどの高純度なポップス。本作は、表題を冠したイントロダクション#1 “Quartz Plaza” から幕を開けます。天気予報のBGMのような飾り気のないフュージョン調の楽曲であるが、終盤、穏やかなプラザの景観は徐々にきらめきを帯び、燦然とミラーボール輝くダンスフロア #2 “In For A Long Night” へと鮮やかにクロスフェードしていきます。夜を彩るネオンサインのように彩色豊かなシンセがスパークし、繰り返される陶酔的なリリック “We are in for a long night for a long night” は週末の華やいだ夜の訪れを祝福するかのような多幸感に満ちていて。場面は一転し、#3 “Wishing Well” では、過ぎ去りし彼女を想い続け、再会を強く願う男の後悔をノスタルジックに描いた静かな夜の抒情詩のような趣。”Quartz Plaza” を舞台に繰り広げられるストーリーはじつに様々。どの楽曲にも往年のソウル・ファンク、AOR、シティポップの旨味をふんだんに盛り込まれており、Jerry自身も日本のシティポップに強く影響を受けたと語っています。”vibes machine from the lost summer of ’85” を自称するJerry Galeriesの奏でるサウンドは、我々を過ぎ去りし80年代の都市風景へと誘ってくれます。
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chris††† – social justice whatever
現行Future Funkubeシーンを代表する〈Business Casual〉を主宰する一方、SNS上では自身の存在すらミームと化し、圧倒的な存在感でVaporwaveシーンに君臨するインターネットミームの権化、chris†††ことJohn Zobeleの最新にして最低のミックステープ『social justice whatever』が自身のBandcampからリリースされました。彼自身も「the worst album ever.」と称すように、その内容は、商業的にヒットを収めた往年の名曲や、著名なインターネットミーム動画をmp3でぶっこ抜き、歪ませ、切り刻み、繋ぐというよりも雑多にぶちまけたかのような――もはや、完膚なきまでにクソを貫いたような様相を呈しています。用いられている楽曲はスクリューによって捻じ曲げられ、原型を留めていません。この時点で元ネタへのリスペクトは皆無ですが、極めつけは、再生されている音楽は、聴いている最中にまるで飽きたとでも言わんばかりに突如としてスキップされ、次の曲、次の曲へとせわしなく転換していきます。アメリカのレコメンドエンジンEcho Nestは、膨大なビッグデータをもとにSpotifyユーザーの視聴傾向を分析したところ、48.6%のリスナーが音楽が終了する前にその音楽をスキップしているという結果を発表しました。カット&ペーストされたEDM楽曲のドロップ部分のみが寄せ集められたジャンクフードのような動画が無数に蓄積するYoutubeチャンネル。おびただしい数の情報が流れ行く濁流のフィードに乗ってWebブラウジングをしていくような不健全さ、それによって生じる多幸感。これは大量消費社会への賛美歌なのか? はたまた鎮魂歌なのか。
ベスト・トラック。
t e l e p a t h テレパシー能力者 – Agia’s Theme
ベスト・ビデオ
17-03-02 I’m Just a Kid
ベスト・ジャケ
Costanza – Assman
捨てアカ 島根県在住のVaporwaveリスナー