日本でも、ことしからカセットストアデイが公式に開催されることが決まりました。レコードストアデイとはまたちがって現行の流れとまったく関係のないところからはじまってたり、リリースされるものは現行レーベルのものよりも過去の音源のカセット化みたいなのが中心だったりと、アメリカでできてからけっこうな議論がなされていて、わたしが追っている現行カセット界隈からは不評だったりするんですが。現行の流れと、なつかしいかんじやカセットの復権みたいな流れとはいつまでたっても溝が深くって、日本での公式の活動ってどうなるんでしょう。わたしがこういうことを書くから溝を深めてるのもありますが。開催が発表されたところなのでどんなかんじになるか見守ってゆきたいとおもいます。
現行カセットテープ界隈で尊敬しているひとがふたりいます。ひとりは過去にFact Magazineで毎月カセットテープのコラムをかいてたくさんの地下のレーベルやアーティストをすくいあげてきたり、たとえば日本のConstellation Botsuや食品まつりなど尖ったひとをリリースして世界へ知らしめるきっかけをつくった〈Digitalis〉のBrad Rose。長い休息期間にはいってしまいましたが。もうひとりはBasic HouseのなかのひとStephen Bishopです。
今回はそのStephen Bishopが運営する〈Opal Tapes〉について。
もはや〈Opal Tapes〉はレコードのリリースも安定していて、カセットレーベルというくくりでは語れない雰囲気ですし、Resident Adviserによる2013年のインタビュー記事で彼のカセットテープ愛についてかなり語られていますが、やはり現行カセットテープ入門という流れでかかせていただいてるなか、いっとう好きなレーベルなのでここはかいておきたいです。
初回で書いたように、現行カセットレーベルの流れでおもしろいのはテクノやダンスミュージックのレーベルが流行の雰囲気をおしあげたかんじがあるということ、そしてUKのレーベルの躍進だとおもいます。〈1080p〉オーナーにいちばん影響を受けたレーベルは〈Opal Tapes〉と語らせるように、〈Opal Tapes〉はその基礎をつくり、いまもかわらずつきすすんでいるレーベルだとおもいます。
黒い靄がかったテクノやノイズ、ダンスミュージックをリリースしてきた〈Opal Tapes〉ですが、はじめからUKということにこだわらずに、メルボルンのTuff Sherm、スウェーデンのD.Å.R.F.D.H.S.、ProstitutesやTraag、PHORKなどアメリカ勢とローカルなシーンから発するものではなくレーベルの色を意識した人選で貫き通されています。
レコードでのリリースが安定してきたいまでも、しっかりとレーベルの色にあったあたらしいひとをカセットテープでリリースするところがすばらしいです。ことしにはいってからだけでも、ペルーのリマ出身のブラックメタル/ノイズ女子CAO、エジプトのカイロ出身$$$TAG$$$、テヘランのハードコアテクノSote、そしてButtechnoの来日が予想をこえた動員で大成功だったりと注目されるモスクワ周辺ですが、〈Opal Tapes〉も春のリリースでロシアとウクライナのまだあまり知られていないプロデューサーを集めたコンピーション “U S S R” をリリースと、世界の流れのさらに深いところをつきすすんでいます。
ここのよいところはPatricia、Body Boys、Metristなどカセットテープのリリースがよかったひとたちをこんどはレコードでリリースしてと、さらに高いところへもってゆくところ。そして〈Tesla Tapes〉や〈Acid Wax〉など周辺のレーベルのマスタリングも引き受けていたりと、人選、リリース、活動がすべて未来へ向かっているかんじがします。一見、閉ざされたような黒いイメージと、未来へむかう明るさのバランスがレコードをだすようになったいまもしっかり保たれていて。ただリリースするだけでなく、カセットレーベルをしっかりと根付かせるモデルとして、すばらしいです。
レーベルの持つ美意識は統一された黒いケースとJカードの黒い背のデザインまですみずみまで反映されていて、その統一感は棚で並んだときにうつくしく買う側もそろそろ日本人もここへくい込んでほしいなとおもっています。UKだけでなく外へも目を向けているレーベルなんで、可能性はあるんじゃあないでしょうか。ポンドが安くなってすこし買いやすくなっていますので、これを機会に日本であまり流通のないカセットテープのほうも買ってみてはいかがでしょうか。
6月によかったもの、いくつか。
東京のCONDMINIMUM主催でBatman WinksのメンバーでもあるKota Watanabeのソロ名義Cemeteryのデビュー作です。さわやかな高揚感とせつないかんじが同時進行なシンセの音のつらなりと、そこに重なるノイズと音の割れるかんじ、そのバランスがかっこいいです。Cemeteryにその周辺の若い子たちの行動力に振る舞いと、いまの東京のインディというかんじがして、これまでどちらかというと日本のひとたちに耳を傾けなかったこちらもどきどきします。石像ジャケットなものってよいものがおおいんですが、Jカードの裏側、白黒で印刷された曲名のところに、A面B面の文字だけカラーとかさりげなく細かいところまで凝っているところもよいです。
Cemetery “DENIAL” 〈CONDMINIMUM〉
https://cemeteryjpn.bandcamp.com/releases
Dean BluntとInga CopelandのコラボレーターでもあるJohn T. Gastの新作は自身のレーベルから。これまでも映画『ウォーターワールド』の日本版ポスターをそのまま盤面に転写したCD-RをリリースするなどHype Williams周辺なひとだけあっておかしなことをしてましたが、今作はけっこうまっすぐかっこいいのでは。全体的に不穏なアンビエントな質感、そこに破裂するようなビートに、話し声のサンプリング、鳴り響くブラス、いまっぽさをたくさん詰め込みながらもおかしな脱力感があって。最後のボーナストラック扱いの曲がパーカッションとギター? 爪弾きの不協和音っていういきなりな生な楽器だったりとつかみどころがないです。ひさびさなタッパーみたいなケースです。あまりこれは好きではありません。
John T. Gast “INNA BABALON” 〈5 Gate Temple〉
https://5gatetemple.bandcamp.com/album/5gt0025-john-t-gast-inna-babalon
限定25本リリースをつづけてきたポルトガル、コインブラの〈Exo Tape〉の姉妹レーベルから。DJWWWWなど複数名義で活躍し、7月からアート、音楽に関するメディアSim MagazineをはじめたLil $egaことKenji Yamamotoの+you名義と、レーベルオーナーであるjccgの別名義xccgのsplit。それぞれのサイドに相手へあてた曲がはいっていたりと、個人的な関係性もかいまみえて、カセットテープでのリリースってこういうひとのつながりが色濃くみえてたのしかったりします。+youサイドはあたたかく、木漏れ日のようなすこしまぶしい光のようなアンビエントに、かさこそと物音、水の音、鐘の音、話し声などが溶け込んでゆくような。“sad” にはその深海アンビエントにノイズが弱いながらも破裂していて、ただアンビエントではないかんじ。xccgサイドはあたたかくすこしさびしいギターのアンビエントの重なりから、ゆったりと水のなかをすすむようなシンセのアンビエント。Lil $egaさんいわく初夏に向けた作品ということで、ぜひいまの季節に。Jカードがカセットをつつむかんじで、ケースの突起が突き抜ける仕様で、ちょっとどきっとします。
+you / xccg “buranko” 〈A Q U A E〉
https://aquaardens.bandcamp.com/album/you-xccg-buranko
AngoisseにCønjuntø Vacíø、そしてそれらを扱うDeadmoon Recordsなど、黒い雰囲気のEBMやノイズだったらいまはスペインのレーベルが熱いです。この〈B.F.E. Records〉もスペインのヴァレンシアのレーベルで。このあたりを追ってるひとたちにとっては現時点ベストななまえのならび。〈Nostilevo〉からもだしてるSiobhan、Craow、Ariiskに、ことしすでに10作品は越えてるGerman Army、UKでいまいっとう信用できるレーベル〈Night School〉オーナーのApostille、ことしベストレーベルのひとつ〈Seagrave〉運営コンビによるIXTAB、ContainerとForm A Logも結成し〈Not Not Fun〉からもリリースしていたProfligate、大阪〈birdFriend〉からもリリースしていたベルリンのテクノ女子Wilted Womanなど、個人的にはことしのコンピレーションベストです。
V.A. “MATERIAL ELÉCTRICO VVAA” 〈B.F.E. Records〉
https://bferecords.bandcamp.com/album/b-f-e-37-material-el-ctrico-vvaa-cs
Minimal ViolenceはバンクーバーのAshlee LukとLida Pの女子二人組。これまでカナダのこれから注目していきたい女子ばかりだす〈Guenero〉からリリースしていました。ローファイでけっこう荒削りなテクノをやってるんですが、前作から1年たった今作はハイハットやクラップ音が過剰にリヴァーヴがかっていたり、ドラマティックなシンセの反復だったり、音はしっかりしてきたけれども打撃が唐突だったりとさらに暴力的なかんじになっていて。Marco Lazovicは知らなかったんですがモスクワの方みたい(調べてもいまいちでてこない)。いまのモスクワのひとたちと共通するような靄がかったテクノからちょっとダサめなハウス。
Minimal Violence / Marco Lazovic “MV x ML” 〈Jungle Gym Records〉
https://junglegymrecords.bandcamp.com/album/udg-005-mv-x-ml
ベルリンのレーベルから。Pete SwansonやThurston MooreとライブしていたりなイタリアControl UnitのSilvia Kastelソロです。Control Unitではヴォーカル、というか叫び声というか、それとシンセを担当していて、片割れのNinni Morgiaの前衛ギターとあわさって、きいててぽかんとしかならなくって、たのしかったんですが、おととしバンドな音色になって、人気がでるかとおもったら、そうでもなかった。久々のソロ作は、明滅、暴発するシンセやドローンにポエトリーリーディングや声のループが重ねられて。Jカードが本人写真でとてもよいです。
Silvia Kastel “The Gap” 〈Noisekölln Tapes〉
https://noisekoelln.bandcamp.com/album/the-gap
Dirty Dirt
現行のカセットテープコレクター。2015年は450本購入。カセットテープに関するブログ、zine、雑誌への寄稿、たまにカセットDJなど、現行のカセットテープのことならなんでも。 http://dirtydirt2.blogspot.jp