Dirt on Tape Vol.04

カセットテープコレクターDirty Dirtがマンスリーでお送りする、連載第四回。
カセットテープに関するあれやこれやをご紹介します。

Text: Dirty Dirt, Title Logo: ancco

ユニコーンまでもがカセットテープを出すっていうなんだかわからない状況になってきていますが、今月もみなさんは現行のカセットテープを買われましたでしょうか? 現行カセットテープ入門というかんじで書いていますが、4ヶ月目なんで今回はもうすこしつっこんだところに。

デンマークの〈Phinery〉と〈Speaker Footage〉を紹介したいと思います。デンマークにはIceage周辺の説明不要だけれど説明がすくなすぎていったい誰なのかこれはというものが多い〈Posh Isolation〉、Poshともつながる〈Infinite Waves〉、そして発足からそこそこ長くシンセ中心にリリースを重ねる〈Metaphygical Circuits〉などすばらしいレーベルがいくつかあって、カセット好きな方はデンマークなものをいくつか耳にしていると思います。そのなかで現行のカセット界隈の流れを総括しているようなリリースを重ねるのが〈Phinery〉と〈Speaker Footage〉です。

親レーベルである〈Phinery〉が2014年発足、そして姉妹レーベルである〈Speaker Footage〉が2015年に発足とまだはじまってから長くはないレーベルです。〈Phinery〉はアンビエントが中心、〈Speaker Footage〉はビートものが中心という特徴があります。

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〈Phinery〉がはじまったころはアンビエントなレーベルがまたひとつ増えたくらいの印象だったんですが、2015年はじめのzine付の2本組コンピレーション “Somehow Commissioned # 2 : TEXTURE” がD Hansen、FDG-、AyGeeTee、Gora Souとカセット界隈常連から、日本のミニマルテクノTAKAHIRO MUKAI、ノイズ/インダストリアルの最重要なレーベル〈Nostilevo〉のヒーローSiobhanまでとジャンルとシーンと国を越えた45組収録で驚かされました。現行カセットテープの全シーンの見本のような。

それから、〈Phinery〉がすこしアンビエントによりすぎたかなとおもったころにビートやダンスミュージックに特化した姉妹レーベル〈Speaker Footage〉を立ち上げて、秋には2015年のアンビエント女子いっとうなひとりCORINやSiobhanを、そして年末には〈Phinery〉から、ヴェイパーウェイヴの現在進行形Golden Living Roomに、3月に来日もはたしたオーストラリアのインディレーベル〈Moontown〉主宰Danny Flung、CORINとJu Caのsplit、〈Orange Milk〉からのリリースで驚かされたNico Niquoらをリリースしてと、2015年をふたつのレーベルをつかって総括したようなリリース群でした。

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デンマークという位置だからか、UKだったり、USだったりのシーンの垣根を越えてる自由さがあります。日本人にも声がかかっていてTakahiro Mukaiがリリースしていたり、Bun Fumitakeがコンピレーションに参加、あとこれまでにも誰々がリリースするやもというはなしがいくつかあがってましたし、そしてこれからもまだ秘密な予定がいくつかで、たのしみです。2016年にはいっても先月のでかいたポーランドのRSS B0YSなどかゆいところに手が届くリリースで、まだ届かないけれどUmfangにWanda Group参加なsplitもリリースと勢いとつながりはとまりません。

そして、ここのすごいところは、どちらかのレーベルでほぼ毎月バッチリリースをしています。バッチとはカセット界隈ではなじみなことば、まとめていちどに数本をだすことで、まとめて買ったらすこしお得なうえ、目当てなもののほかにそれまで知らなかったひとのもいっしょに届いて、また好きなものが広がってというカセットが増え続けるひとつの原因であり、たのしさで。それも毎回4本から5本。レーベルがはじまって2年ですでに80本をリリースとかなりなペースです。すごいのをリリースするっていうのもだいじですけれど、出し続けることにも意味があります。

〈Phinery〉もしくは〈Speaker Footage〉からのカセットをバッチ買いして現行カセットの深みにはまってゆくきっかけにしてはいかがでしょうか。

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4月にきいてよかったものいくつか。


食品まつり aka FOODMAN “EZ MINZOKU” (Noumenal Loom)
https://noumenalloom.bandcamp.com/album/foodman-ez-minzoku

〈Orange Milk〉からな祝初レコードなんですが、カセットのほうも買いました。きょねんの〈Patient Sounds〉からの “Hot Rice” ではかなり音を削ぎ落としてハウス化してましたが、今作もA面では削ぎ落とした印象があり、その分1音1音が濃ゆくなってる気がします。Uoxtuの耳を通過して脳に突き刺さってくる高音だったり、彼が敬愛するVektroid展開のようなHikariだったり。音を削ぎ落としても、どうきいても食品さんの音っていう。B面で厚く、そして加速するかんじもよいですし。レコードとカセット、どちらもぜひ。


Nick Klein / Enrique “Every time you wish it was louder an angel loses their wings” (Angoisse)
https://angoisse1.bandcamp.com/album/every-time-you-wish-it-was-louder-an-angel-loses-their-wings-2

スペインのレーベルからのsplit。執拗な打撃の反復のNick Kleinと、おなじくな雰囲気をもちながらその反復から逸脱してゆくEnriqueのおもしろさ。EnriqueはMiguel Alvarino名義で〈Hot Releases〉などからおかしなテクノをリリースしてましたが、Enrique名義ではかなり暴力的。新鋭レーベル〈Bank〉からもレコードをだしていたり、この先かなりたのしみです。Splitなんだけれど、Nick KleinのA面のはじまりとEnriqueのB面終わりが会話フィールドレコーディングとひとつの作品になってるあたりもよいです。Jカードの写真がふざけていてよいです。


Airport “Lorde Playlist” (Afternoons Modeling)
https://afternoonsmodeling.bandcamp.com/album/lorde-playlist

ヴェイパーウェイヴ絡みや〈Exo Tapes〉などカセット界隈では馴染み深いJónó Mí Lóのレーベル〈Afternoons Modeling〉から。ポップな歌、映画、ゲームなどからのサンプリングに、荒いノイズと重い打撃を重ねていて。RabitやらNON方面の雰囲気がありながら、サンプリングされた歌にことばで混乱します。A面2曲目が日本のアニメーション『カウボーイビバップ』のサンプリングで、日本語がわかってしまうこちらにとっては、より狂ったものにきこえます。そして、ノイズとポップな歌との妙なバランス。訴えられてもおかしくないかんじなJカードのデザインでもカセットだったら余裕です。こういうあたりもカセットのおもしろいところだとおもいます。


Mukqs “石の上にも三日”
https://apothecarycompositions.bandcamp.com/album/-

〈Hausu Mountain〉も運営するGood WillsmithメンバーMaxwell Allisonのソロです。買おうかとおもってすこしきいたときはローファイなシンセアンビエントな印象でしたが、とんでもなかったです。そこにからみつく立体的なサンプリングのループと、加速してゆくビートに暴発するノイズ。それでいてしっかりアンビエントな質感はたもっていて。日本語なタイトルに曲名もよいです。そろそろ日本にきてほしいです。オハイオの〈Apothecary Compositions〉はレーベルとお店もかねていて、日本のDJWWWW / Nicole Brennan / OrokinのCDをリリースするなど、いまいっとうおもしろいレーベルのひとつだとおもいます。ここのはMASSAGEでもとりあげられていたナイスショップスーさんで定期的に取り扱われてるので、ぜひそちらものぞいてみては。


Gobby “No Mercy Bad Poet” (DFA)
https://gobbygobby.bandcamp.com/album/no-mercy-bad-poet

〈1080p〉からのエビカセット以来のひさびさなフィジカルが〈DFA〉からのカセットテープっていう。Hype Williamsでドラム叩いてたっていう経歴だけで意味不明ですばらしいんですが、これまたとらえどころなさすぎてことばが追いつかないです。今作はけっこう靄がかったなかでの歌が全編に散りばめられていて、そのまわりで泡立ちはじけるシンセに、おたけび、暴発するビートにと、ゆるいのか激しいのかわからない感覚。ただとっ散らかってるかっていうと、絶妙なポップさもあって、インディ方面、テクノ方面とどちらのひとがきいてもおもしろいしどちら側からきいても意味わかんなくって、すばらしいです。タトゥーなJカードもすばらしい。

Dirty Dirt
現行のカセットテープコレクター。2015年は450本購入。カセットテープに関するブログ、zine、雑誌への寄稿、たまにカセットDJなど、現行のカセットテープのことならなんでも。 http://dirtydirt2.blogspot.jp