前回、音楽NFTの現状について紹介したものの、音楽シーンにおいてNFTの活用はまだ浸透しているとは言いがたい。デジタルアートに比べて音楽は、シーンに根ざしたオンラインのプラットフォームが確立していること、また独自の視点でキュレーションされたレコードショップが各地に根付いていることもその理由だろう。
そんな現状にNFTという技術が何かを付け加える可能性があるとしたら、それは作品性の広がりにほかならない。新しく試みられた実験は、いつでも歴史の新しい枝葉として領域の可能性の拡張する。そしてブロックチェーンはまた、その実践の歴史を、改竄できない形で記録する役割も果たすだろう。そんなNFTの実践のひとつとして、今回はジェネレイティブミュージックを再定義する0xmusicというプロジェクトを紹介したい。
ジェネレイティブミュージックを再定義する
0xmusicは、CryptopianistとElektricにより設立されたコレクティブ。アルゴリズムにって生成された音楽を再生するオーディオビジュアル作品「0xDJ」を発表した。そのコレクションは8人(8タイプ)の独自のスタイルを持つDJに分類される、777個の0xDJsからなる。同時に、Webサイト上でコンセプトとプロジェクトのストーリー、そして3つのステージからなるロードマップが発表された。
0xmusicを共同設立した2人は同級生であり、音楽と同時にコンピューターサイエンスのバックグラウンドも持つ。そして量子物理学者の父が夕食のテーブルの上で繰り返し説明してくれた存在の二重性という考え方が、聴かれるまで曲が「存在している/していない」という二重の状態を持つ作品である0xDJの発想のもととなったという。ジェネレイティブミュージックは通常、録音されて固定してしまったものか、ライブなどで行われるパフォーマンスを鑑賞するという形になる。0xmusicはオンチェーンに刻まれた音楽形式として、そこにもう一つの形式を付け加えようとしているのかもしれない。
各0xDJは、サビとコーラスを持つ無限(10の45乗以上)の音楽を生成する。アルゴリズムの面では、深さ優先探索を行ってランダムな音符の集合を選ぶことで、一貫したメロディーの世界を作り出しているという。
それぞれの0xDJのメタデータ、特性、コードはすべてオンチェーンに保存される。特性の情報は鋳造の過程で割り当てられるため、どのNFTがどの特性を持つか予測することはできない。またアートワークには再生ボタンが設置されており、ユーザーがボタンを押すたびに、新しい楽曲が生成されるようになっている。音楽が再生されると、ジャケットワークであるグラフィックがネオンのようにチカチカと動き出す。そして楽曲が終了すると、以前の楽曲は破棄され、新しい音楽が作り出される。楽譜どおりに音楽が再生されるのではなく、その瞬間にしか存在しない楽曲が生み出されるという、固定した形を持たない作品である。ブロックチェーン上に永遠に存在し続ける作品が、その形を変え続けていくというのもとても興味深い。
ジョージ・フリードリヒ・ヘンデルの日
0xmusicは、バロック時代の作曲家で西洋音楽に計り知れない影響を与えたジョージ・フリードリヒ・ヘンデルの生誕日にちなんで、彼を称える仕掛けを施した。毎年2月23日には、0xDJが0xDJ Handelのスタイルで再生されるのである。生成されたその楽曲は、バロック時代のフーガの配置を反映し、テナーとベースという2つの音楽線の間でポリフォニックな対話、あるいは2声体の鍵盤楽曲のように響く。
https://medium.com/@0xmusic.art/handel-22e46173c8a9
今後の展開
ジェネシス0xDJが鋳造され、コミュニティが構築された0xmusicの第一ステージに対し、第二のステージでは、コレクター自身が音楽を作り出すという体験が準備されているという。各0xDJには、固有のレコード数が与えられており、コレクターはそのレコードを使用して、0xSongと呼ばれる独自のNFTに曲を鋳造することができるようになる。0xmusicのNFTはCC0で提供されているため、リミックスやオリジナルとして販売することも可能となっている。共作を創発する起点となることが、0xmusicの第二段階の目標なのだ。それが成功すれば、0xDJは単なる音楽NFTではなく、2次創作が織りなすエコシステムの中心となるかもしれない。果たしてその創造性はどこまで広がるのか。まだ発表されていない第三ステージの内容も含めて楽しみにしたい。
Opensea
https://opensea.io/collection/0xmusic
0xmusic
https://0xmusic.com/