HAKANA - Hardpure


元CICADAメンバーの小川裕史のプロジェクト、HAKANAによる作品。ありとあらゆる音素材をハイテンションでコラージュして抽象的な世界を描く「Hardpure」、やわらかな歌声を響かせるKoiをフィーチャーしたポップス作品「Night Is Over (feat. Koi)」、ユーロビートかハイエナジーライクなシンセサウンド炸裂するダンスミュージック「Rave Infinity」、シネマティックなサウンドで多幸感の入り交じるストレンジな光景を描く「Will B OK」など、冗談とシリアスな隙間をぬいながら、多動症的にあらゆるジャンルを高速で合成し、昇華する独自のスタイルを見せる作品。ジャケットデザインは宇川直宏氏。

NTsKi - Father Divine


京都出身のシンガー/プロデューサーのNTsKiが、東京を拠点に活動するプロデューサーsteiを迎えたダブル・タイトル・シングル。小気味よいラップに野太いビートが炸裂する、UKドリル/トラップ/グライムなどの影響が色濃く反映された「Father」、ローファイなサウンドに叙情的なメロディが響き渡る、大切な友人を偲んで日本語でラップしたという「Divine」など、これまで甘さ漂う歌声を披露してきたNTsKiにしては珍しく全篇ラップのみで構成された作品。Cemeteryによる「Divine」のリミックスバージョンも収録されている。

Aya Gloomy - Micro Creature – Single


シンガー/プロデューサーとして活動するAya Gloomyによるおよそ1年ぶりとなる新曲。「陸の孤島」、「Kanjiru」、「Micro Creature」と髪の色を色とりどりに変化させながら、変貌を遂げてきた彼女の進化を予感させる作品。次第に高まる高揚感ととともに、未来的かつアジア的な感触のあるメロディが響きわたる。神聖な祝詞をあげる巫女がするように、ゆっくりと歌われる謎めいた歌詞が、鈍ってしまったわたしたちの想像力を刺激する。中毒性の高い一曲。

Shiwashiwa - I’m here


shiwashiwaはどこか温かみを感じさせる、不思議な世界観を持ったヴィジュアル作品を発表してきたアーティスト。今回リリースされたのは、GarageBandを用い4年にもわたって制作されたという、フルレングスアルバム。ポップにも響くその歌声は、ときおり繊細な叙情性を覗かせながら、牧歌的ともいえるのどかな世界を紡いでいく。日常の断片を描く彼女の絵と共通した、やわらかな輪郭のぼやけた世界がそこに広がっている。けして斬新なサウンドというわけではないけれど、親しみを感じさせる不思議な魅力をもった音楽。それは、僕たちの日常を少しだけ鮮やかにする、懐かしさのような心地よい感覚を残してくれる。

tentenko - 20200924


テンテンコによる自主制作CDRの、55枚目となる作品。2020年9月24日に行われた、BoilerRoom×DOMMUNEに出演した時のLIVEを、自宅で再録し30分にまとめた作品で、すべてその日のために作られた楽曲とのこと。ささやくようなボーカルに重ねられたホワイトノイズから幕を開け、ローファイでインダストリアルな感触を持つミニマルなテクノへと、鮮やかに展開していく。基本的にはダンストラックだけど、機能的なそれではない。スモーキーで骨太。スルメのように飽きのこないビートには、もたつくような不思議な感触がまとわりつく。シンプルながら、不思議な感触を漂わせた存在感を放つ作品。

Midori Hirano - Invisible Island


ベルリンをベースに活動するMidori Hiranoによる、ピアノの演奏を主体とした作品。ミニマルでアコースティックな音色は耳なれたものだけど、その背後には、張り詰めた透明な音の響きに、かすかに重ねられたテクスチャーが生み出す幻想的な奥行きがある。細やかなテクスチャーが次々と生み出す光景に耳を澄ましていると、どこか知らない国を漂う香りを嗅いだような、音の幻想にいつの間にか没入してしまう。荒ぶる心も平静にしてくれる、柔らかで、繊細な音の連なり。そんな古典的な感触の奥に、静かに広がる豊かなサウンドスケープ。和やかな響きの奥に、密やかな現代性を感じさせてくれる作品。

Kenji - After the Storm


久しぶりに出会えることが嬉しい、Kenjiによるリリース。乱暴に扱ったら壊れて消えてしまいそうな、微細な感覚の集合体。誰にでもできることではないけれど、そんな印象がますます濃いものとなっている。さまざまなところから集められた音の断片とその新たな組み合わせが、儚く脆いけれど、新鮮で柔らかなひとつのニュアンスを作り出している。形をなす前に、次々と姿を変えていく、そのような移ろいに身を委ねることこそ、音楽を聴くという体験だと思いたくなる。静かに放たれる言葉は、ひっそりとだが、作り手の繊細な存在感を映し出す。その背後にはどのような日常や感情が、潜んでいるのだろうか。

Kazumichi Komatsu - Emboss Star


インスタレーションや映像など、京都を拠点にアーティストとして活動するKazumichi Komatsuが、はじめての本名名義での発表となった〈FLAU〉からの新作。これまでの多様な活動で実験してきた蓄積を、凝縮した作品となっている。グリッチ感のある荒れたような粒子感のある音色はそのままに、アルバム全体によりリラックスしたムードが流れている。まどろんでしまいそうな、ゆったりとしたアコースティックな響きに、対極的な角度から差し挟まれる電子音響が異なる関係を切り結んでいく。シンプルながら感覚を静かに刺激する、引き伸ばされたような特異な時間感覚を持った作品。Sean McCannによるマスタリング、そしてDove & LeMakeupや、Cristel Bereを迎えたボーカル曲もその世界観にとてもマッチしている。

Hikari Sakashita, Pueru Kim, Kouhei Fukuzumi - Immersion I


Hikari Sakashitaによるドラム、Pueru Kimによるサックス、そして電子音響にKouhei Fukuzumiを迎えて、即興演奏したものを収めたという作品。穏やかなサックスの分厚い響きに、くぐもったドラムがうねりのあるリズムを穿つ。現れては消える電子音は、どこまでも他人事のように特異な存在感を放ち続ける。驚くほど絶妙な3者の組み合わせは、まるで3つで一つの楽器のように等価に、ゆっくりと波打つ瞑想的なサウンドを紡いでいく。そこには迷宮を漂うような、彷徨の感覚がある。どこにも行き着かないのに、どこまでも進んでいけるような、そんな心地よさ。暗く煙たいライブハウスで、生でぜひ聴いてみたい。浅草橋のツバメスタジオにて、同スタジオのオーナー、君島結によるエンジニアリングのもとで制作された。ちなみに、「Immersion II」はCDでのみで手に入る。

Moment Joon - Passport & Garcon


韓国出身、大阪在住のラッパーMoment Joonの1stアルバム。本人をとりまくさまざまな出来事を描く独白のような作品から、ストーリー仕立てになったスリリングな作品まで、そこにはラップに対する目まぐるしいほどの創造的なアイデアが込められている。出自や独自の立ち位置がクローズアップされがちだが、エンターテインメントとしての側面も十分に強い。ラップというフォーマットの多様な可能性のみごとな結実を存分に味あわせてくれる。もちろん外国人差別をはじめとした醜い現実を巻き込み、ラップという遊びを繰り広げ表現へと昇華していくその手際は鮮やかで、痛快。そのような痛快な思いをさせてくれるヒーローのような存在が、ラッパーの一側面であったことも思い出させてくれる。虚構と現実の関係をひっくり返す、そんな鋭角なヒップホップこそ、今聴きたい作品かもしれない。

CHERRYBOY FUNCTION - suggested function EP#5 – EP


2年ぶりとなる、新作EP。シンプルだが跳ねるように躍動的なビートを、甘さただよう、アーバンな電子音響のメロディが包み込む。安定した力強さを帯びたグルーヴが、アルコールの匂いと熱気に満ちたフロアを記憶のままの鮮やかさで蘇らせる。都市の間の、その時間にしか存在しない明け方の熱狂。どこにいくのでもなく、その狂乱を渡り歩いた日々。そのビートに込められた普遍性は、それでもまだそんなパーティが続いているのだ、と思わせてくれる。リミックスアルバム『Night Flow Remixes』がきっかけで実現したという、パソコン音楽クラブの現代的な感性で昇華された「The Endless Lovers」が新鮮な気持ちで聴けるのも嬉しい一枚。

https://youtu.be/PAo4kHyLL6s

cotto center - 活動


ライブドローイング、生花などを織り交ぜたライブパフォーマンスを繰り広げるcotto centerによる、UKの〈Providence Instinct〉のコンピレーションに収められた楽曲。うねるアナログシンセに重いビートが絡むイントロは、次第にローファイなアコースティックなサウンドへと変化していく。そこに突如として始まる爽やかなラップに、叙情性を湛えた歌声が響きわたる。脈絡なくさまざまな要素を繋いでいくそのサウンドは、それでもなお不思議な一体感を作り出している。奇妙で荒削りな部分も癖になってしまいそうな一曲。

suwakazuya - exe


さまざまな形を持った音の命が、次々と湧き出すように現れて全然、終わりがない。ときにリズミカルにグルーヴを刻み、ときにノイズのように聴覚を麻痺させる。想像できる限り多様な色彩を用いながら、あふれ出る想像の喜びを表現するかのように、形式にとらわれない抽象の世界でしか描けない、ユトートピアを綴り出していく。踊りを踊るように、飛躍する創造の跳躍。その喜びに満ちた豊穣は、動物のというよりも植物の世界に近い。生も死もカオティックな入り混じりの中ですべてが一体化し、その中に広がる世界を、ひとときも休まず自らの生命で装飾し続ける。動きが作り出すアニメーションの生き生きとした感触のような、原始的な原動力に触れて目がくらむような、どこまでも広がる音の細動に安心して包まれることができる楽曲集。

YPY - 551


日野浩志郎のソロ・プロジェクトYPYによる作品も本年はいくつもリリースされているが、個人的に好きだったのは〈ACIDO RECORDS〉からリリースされた本EP。フロアでも威力を発揮しそうなグルーヴ感弾けるファンキーなダンストラック「Tamanojo」、トライバルな反復ビートが楽しげに鳴り響く「Franken」、変速ビートが疾走しながらメビウスの輪のように入れ替わっていく「Sennengo」など、ビートと電子音響の実験が、独自の次元を切り開く4曲入り作品集。

Kentaro Minoura - 今戸焼


東京を拠点に活動するアーティスト、箕浦建太郎が2年の歳月をかけて制作したという4枚目のアルバム。ノイジーなビートが重いリズムを刻む「レオポン」から始まり、高速に反復する発振音が歪んだ世界を描き出す「吾妻橋」、轟音がうねるように波打ちながら壮大な音の空間を作り出していく「イチカワヤ」、ゆっくりと共鳴する電子音響が黙示録的世界を描く「桜橋」まで。ローファイなテクノと、アンビエントがシームレスに編み合わさった、異彩な感覚を放つ作品。

Atoris - Atoris


Atorisは、東京を拠点に活動するYudai Osawa、Kohey Oyamada、そしてH. Takahashiらにより、2019年に自然発生的に結成されたトリオ。サンプリング、サウンドコラージュ、ロングミックス、即興演奏などを駆使して、想像上の音楽的風景を立ち上がらせる。本作も30分の長編アンビエント2曲からなる、牧歌的世界をただゆっくりと浮遊するように漂う、心穏やかな世界が広がる作品。生暖かなくぐもった電子音響の繊細な変化とともに、無重力で常温の水の中を流されていくような、優雅な感覚が持続する。時間が立つのを忘れて、音が作り出す心の風景を巡る旅路に存分に浸りたい。

Hideki Umezawa & Andrew Pekler - Two Views of Amami Ōshima


画家の田中一村は、1958年に奄美大島に移住し、亡くなるまで孤立した環境で自身の芸術に専念していたという。2018年に奄美大島を訪れた梅沢秀樹は、彼の閉鎖された生活をテーマに映像イスタレーションを制作し、彼の心のエコロジーを再現するため、そこで多くの自然音を録音した。この作品は奄美大島を訪れたことのないAndrew Peklerが、その録音された自然の音をもとに奄美大島の夢の光景を映し出すという試みを行うという、二人の共作作品である。Andrew Peklerが文化人類学者のStefanie Kiwi Menrathと立ち上げた共同プロジェクト「Phantom Islands」にも通じる試みでもある。他者への想像力がそうであるように、音の喚起する力は、歴史の間にある断絶を架構する。しかし、その生命に満ちたサウンドは、奄美大島だけでなく、どこか知らない場所へもわたしたちを誘いこむだろう。音の中を反響するように、想像の中で反射して浮かび上がるどこでもない光景。それは過去でも、未来でもない。それが彼が「亡霊」と呼ぶものなのかもしれない。

玉名ラーメン - sour cream


いくつかのリリースを積み重ね、変貌を遂げながら進化しつつあるアーティスト/プロデューサー玉名ラーメン。そんな彼女の想像力を刺激する新作EP。神秘的なアトモスフィアをまとった歌声が響く「angels garden」、けだるい歌声と反復するビートが宇宙的世界を描く「planet」、切り取られた日本語詩がどこか切ないエモーションを響かせる「rasca」など、全体を通してダンスミュージックの影響を感じさせるフューチャリスティックな楽曲が続く。どのトラックも独特のメランコリックな空気感が覆い、そのささやくように響く透明な歌声にはどこか神秘的な感覚が宿っている。暗闇に指す一筋の光を追いかけるようなかすかな響きを手がかりに、どこでもない世界の輪郭を浮かび上がらせる。