Shiwashiwa - I’m here


shiwashiwaはどこか温かみを感じさせる、不思議な世界観を持ったヴィジュアル作品を発表してきたアーティスト。今回リリースされたのは、GarageBandを用い4年にもわたって制作されたという、フルレングスアルバム。ポップにも響くその歌声は、ときおり繊細な叙情性を覗かせながら、牧歌的ともいえるのどかな世界を紡いでいく。日常の断片を描く彼女の絵と共通した、やわらかな輪郭のぼやけた世界がそこに広がっている。けして斬新なサウンドというわけではないけれど、親しみを感じさせる不思議な魅力をもった音楽。それは、僕たちの日常を少しだけ鮮やかにする、懐かしさのような心地よい感覚を残してくれる。

RYU TSURUOKA / 鶴岡龍 - DEMO 2020-8


横浜を拠点に、PPPやトークボックス・デュオなど、数々のプロジェクトのもとで活動を行ってきた才人Luvrawこと鶴岡龍による、新作。本作はムード音楽を探求してきたこれまでアプローチとは異なり、デモというタイトルにも現れている通り、ビートの実験を編んだ作品集と思われる。シンプルな構成要素からなる作品が多いものの、濃密な陶酔感の漂う楽曲が並ぶ。断片的なボーカルサンプルがメロウなグルーブのなかで溶け合う、「MERCEDES BITCH (WHAT YOUR NAME)」、野太いビートとシンセのミニマルなサウンドがサイケデリックなアトモスフィアを形成する「MY UFO IS GAL」など、ファンクやハウス、ブレイクビーツにあるビートのエッセンスを濃縮抽出したかのような才気ほとばしる作品集。

Jobanshi - koume こうめ


ふとした瞬間、自然に思いを馳せることがよくあるのだけど、そういう感覚って都会に生きている者のノスタルジーの一種なのだろうか。人工的なものも複雑度が高くなってくると、どことなく自然物のような感触を帯びてくる。音楽でも、シンプルな楽器の音よりも、作為のない音響のようなもののほうに惹かれる。Jobanshiが、音と戯れるように作り出したというこの作品は、そんな原始的な感覚を呼び覚ましてくれるドローン・アンビエント作品。流れる小川のように優しさに満ちた楽曲から、硬質な電子音が鳴り響く楽曲まで。一筆書きのようにシンプルに描かれた、温かみのある持続音が豊かに鳴り響く。頭を真っ白にして、その音のうねりに身を委ねたくなる全8曲。

toiret status - OTOHIME


〈Orange Milk Records〉からリリースされた、初のヴァイナル作品。高尚なものも、ジャンクなものも、いったん吸収されたら、一緒くたにトイレに排泄されてしまう。そんなプロセスを逆流させるかのように、toiret statusは断片となったサウンドを、新しい音の織物へとリサイクルする。その濁流は、ダイナミックにうねりを持ったリズムとなり、異界のアートのような、未視感に満ちた形態を描いていく。肉体を失ってしまった音の亡霊のように不定形で、抽象化しているからこそ、まばゆいほどの光を放つ。その光で描かれる世界は、キッチュでポップ。そして、どこか原始的な感覚を揺さぶるものがある(生理現象だから?)。相変わらず曲名はナンバリング、そしてCo La、Yoshitaka Hikawaとのコレボレーション作も収録されている。

メトロノリ - Eveningss


約2年間の制作期間経て発表された、3年ぶりのアルバム。消えてしまいそうな微細な感覚を、境界のぎりぎりを縫いながら漂い歌う。日常の光景がかすかに淡く映し出されていくさまは、穏やかな川の流れを眺めているかのよう。リズミカルな電子音が歌声と遊ぶように踊る「ball of fire」、ストリングがシネマティックな光景をえがく和やかな「flesh alone」、静けさをさそうようなピアノの音色がゆったりと広がる「蔦:星」、断片的な音が重なり合い新しいポップスのように響く「車の軋りに」など、心地よい振れ幅を持った楽曲が揃う。ファンタスティックな叙情的な世界観に、かすかに現れる孤独の感触。来たるべき希望を予感させるように、その奥には柔らかい光が差し込んでいる。

emamouse - mou house


もう一つの皮膚といわれるキャラクターを被るそのライブから、独自のスタイルを持った漫画やイラスト、映像まで、その溢れ出す創作力でユニークな存在であり続けるemamouse。本年も多くの作品をリリースしたが、本作はそのタイトル通り、emamouseによる空想の家をテーマに作られた作品。おとぎ話のような特徴的なメロディをゆったりと響かせる「short last Prague」から幕を開け、くぐもった電子音のサウンドが駆け巡る牧歌的な雰囲気の漂う「2rd mou house」、スペーシーなサウンドがドラマチックに寂しげな世界を描く「Lost in the house」、そして心の叫びのような歌詞世界がこの家ソングのラストを飾る「mou house」まで。独自の想像力を下書きにした冗談のような壮大な世界が広がっている。

Oowets - Life & Space


WasaburouWatanabe名義でも活動する、香川県在住のプロデューサー渡邊和三郎によるビートに特化したプロジェクト、Oowets名義でのリリース。現代アートと、スタジオのある香川県の自然からインスピレーションを受けて制作されたという本作は、浮遊感の漂うオーガニックなサウンドと、ミニマルなビートが心地よいエレクトロニック・ビートミュージック。シンセサイザーの柔らかなサウンドとシンプルなビートが、ソフトなグルーヴを育んでいく。ふとんに包まれているような心持ちが持続する安定したサウンド。無重力のなかを遊泳するような慈愛に溢れた世界を描き出していく。

haruru犬love dog天使 - Lonely EP


今年はあまりたくさんラップを聞かなかったのだけど、こちらはとくに心惹かれた一作。タイトル通り、自身の孤独な心境をストレートに歌った作品だが、その言葉にはかすかだが確かな存在感を持つ詩情が広がっている。リフレインされる少しだけユーモラスなワーディングや、率直な言葉で身近な日常を描き出していくそのスタイルは、どこまでもパーソナルであるが、だからこそリアル。そこにはどこか乾いた視点も感じ取れる。共感しやすいテーマへのギャップを強調するように浮かび上がらせる、平静な節回しが心地よい作品。

ウ山あまね - Komonzo – EP


神様クラブのトラックメイカーの個人名義、ウ山あまねによるデビューEP。自由自在にその形を変容させる音の楽しさと、軽やかで色彩豊かな感触を持った作品。その歌声はさまざまに加工され、断片的なつぶやきとなったり、ささやくように歌われたり、インディR&Bのような叙情性を奏でもする。お腹いっぱいにいなるほど多彩な手法が詰め込まれていているのに、捻れたその奥にはしっかりと貫かれたひとつの世界観がある。くぐもった感触の音像は、どこかクラウドラップのような感触も感じる。奇妙さの奥に、ポップネスを漂わせる作品。

CVN - Egg


Nobuyuki SakumaのソロプロジェクトCVNの、新作EP。CVNとしては初の全曲ボーカル入り作品。ラッパーやボーカルとして、valknee、Dos Monosのメンバーである没 a.k.a NGS、DJ/プロデューサーのstei、Le Makeupと共にレーベルPure Voyageを主宰するシンガーDoveらを配し、まさに今ならではの鋭敏な表現を収めようとするかのような鉄壁の布陣。本作のテーマは「複雑な怒り」。加速する情報により、感情の共有と増幅が世界規模に行われるようになった現代。個人的なものだけでなくさまざまな情報が掻き立てる怒りを前に、わたしたちは右往左往せざるを得ない。そんな状況において、わたしたちは自分のものといえる感情をどこに保つことができるだろうか?「迷路のように入り組んだ怒り」と表現される、この作品はそのような均質な感情に、わたしたちの感情が持つ複雑さを呼び戻そうという試みかもしれない。静かな怒り、優しさが共存する怒りなど、固有の感情が持つさまざまな表情のグラデーションがそこに表現されている。

Aya Gloomy - Micro Creature – Single


シンガー/プロデューサーとして活動するAya Gloomyによるおよそ1年ぶりとなる新曲。「陸の孤島」、「Kanjiru」、「Micro Creature」と髪の色を色とりどりに変化させながら、変貌を遂げてきた彼女の進化を予感させる作品。次第に高まる高揚感ととともに、未来的かつアジア的な感触のあるメロディが響きわたる。神聖な祝詞をあげる巫女がするように、ゆっくりと歌われる謎めいた歌詞が、鈍ってしまったわたしたちの想像力を刺激する。中毒性の高い一曲。

GEZAN - 狂(KLUE)


新体制で作り上げた前作「Silence Will Speak」から2年たち、「全感覚祭」の開催などインディシーンに熱狂的な渦を巻き起こしたGEZANによる、5作目のアルバム。聴くものに革命について問いかけるように迫る「狂」、魂に奥にある情熱を抒情性を湛えた詩とともに優しく歌いあげる「Soul material」、今を生きる人々のリアルな姿を、切なく祈るように描いた「東京」など、その全ての楽曲に、時代と差し違えるほどの気迫が満ちている。この世界の何かを変える表現があるのだとしたら、まさに2020年のこれがそうなんだと思わせてくれる作品。アルバムを包み込むダビーな音像は、ダブの巨匠、内田直之によるもの。

〜離 - 幽霊を見た


新潟出身で、東京を拠点に活動するビートメイカーであり、ラッパーでもある〜離によるアルバム。少しレトロな風味の効いたアトモスフィアに、インターネット以降の感覚とも言ってもよいような、静止した時間の中で白昼夢を眺めているような感触もある。「幽霊を見た」という奇妙なタイトルが象徴するとおり、実在感の淡い儚い感触を帯びた作品。クリアな響きが心地よいシリアスなアンビエント的な楽曲から、ワーディングセンスの光るポエトリーのようなラップが交錯する楽曲まで、異色なアプローチが印象に残るアルバム。

YeXuQo - live at “kosu” YeXuQo


神奈川県在住、YeXuQoと書いてえずこと読む。ミュージシャンとしてだけでなく、グラフィックデザインの制作も行い、最近は多肉植物やサボテンの栽培に熱中しているらしい。この音源は、大阪の音ビルにて行われたイベント”こす”での短い演奏の録音。ふと現れては消える、ファンタスティックな音響の彫刻たち。その可愛らしいピュアな音の響きは、リズミカルに話される会話のように、聴くものを生き生きとした不思議な物語の世界へと運んでいく。もっとたくさんの作品を聴いてみたいと思わせてくれる作品。

seaketa - すぎる


京都を拠点に活動するseaketaによる、〈Kumo Communication〉からのリリース。日常の心に引っかかった出来事を記録したかのような、スケッチのような作品集。ときに乱暴に、ときに繊細に、細やかなモノたちが散りばめられ、なにか神聖な祝祭を繰り広げているかのようである。その静かで、騒々しい世界を覗いていると、身近にある小さな感覚が変転していくのを感じる。そこには耳をそばだてると聴こえてくるモノたちの美しさが広がっている。

HAKANA - Hardpure


元CICADAメンバーの小川裕史のプロジェクト、HAKANAによる作品。ありとあらゆる音素材をハイテンションでコラージュして抽象的な世界を描く「Hardpure」、やわらかな歌声を響かせるKoiをフィーチャーしたポップス作品「Night Is Over (feat. Koi)」、ユーロビートかハイエナジーライクなシンセサウンド炸裂するダンスミュージック「Rave Infinity」、シネマティックなサウンドで多幸感の入り交じるストレンジな光景を描く「Will B OK」など、冗談とシリアスな隙間をぬいながら、多動症的にあらゆるジャンルを高速で合成し、昇華する独自のスタイルを見せる作品。ジャケットデザインは宇川直宏氏。

woopheadclrms - Empty Maria


woopheadclrms  Empty Maria

音の持つ面白さを探求する純粋な姿勢はそのままに、アンビエント的な空間性をもった作品へと変貌を遂げた。色鮮やかなキッチュな世界から、クリスタルが反射する光のような透明度の高い色彩へ。そのクリアな音の響きは、多幸感に満ちたその空間を、ゆったりと満していく。ランダムに織られたような、音の抽象画のようだが、その奇妙な組み合わせの中に、瞬間的に美しさが垣間見える。それは、偶然という要素だけが持つ美しさかもしれない。静けさの奥にある、眩しいほどの強烈な異世界的な感覚に、ゆったりと身を委ねたい。

NTsKi - Father Divine


京都出身のシンガー/プロデューサーのNTsKiが、東京を拠点に活動するプロデューサーsteiを迎えたダブル・タイトル・シングル。小気味よいラップに野太いビートが炸裂する、UKドリル/トラップ/グライムなどの影響が色濃く反映された「Father」、ローファイなサウンドに叙情的なメロディが響き渡る、大切な友人を偲んで日本語でラップしたという「Divine」など、これまで甘さ漂う歌声を披露してきたNTsKiにしては珍しく全篇ラップのみで構成された作品。Cemeteryによる「Divine」のリミックスバージョンも収録されている。