Vineの共同創設者Dom Hofmannが作り出したNFT、「Blitmap」そして「Loot」の革新性

Text=Yusuke Shono

NFTに存在するさまざまな逸話の中でも、特に際立って輝いているのが「Loot」という作品である。今回は、その「Loot」、そして同じ制作者が作り出した「Blitmap」の提示した革新性について解説してみたい。

「Loot」とは、Vineの共同創設者の1人で、プログラマーのDom Hofmannが作り出したテキストNFT。2021年8月、彼は合計8000の「かばん」を鋳造した。かばんといってもそれは、ランダムに生成されたと思しき冒険のアイテムを表した単なる文字列のリストにすぎなかった。

Lootとは、ブロックチェーンに格納されるランダムに生成される冒険者のための装備。イメージやステータス、その他の機能は、解釈できるように意図的に省略されています。Lootの使い方は自由。

冒険者が発見した8,000個のバッグの中には、たくさんの戦利品が入っている。それらはどこから来たのか?どんな物語があるのか?バッグを集めてストーリーを知り、冒険を始めよう。

https://www.lootproject.com

「Loot」以前の3月にDom Hofmannは、「Blitmap」という名のプロジェクトを発表している。「コミュニティで作られるSFファンタジーの世界」と銘打たれたそのプロジェクトは、最初に作られた100のオリジナルの画像と、それを用いてコミュニティ内で作り出された1600の「シブリングス」と呼ばれる画像群からなる。その画像はIPFSに依存しない、フルオンチェーンで鋳造される。作品を掛け合わせると、親の画像に掛け合わされた画像の色彩が受け継がれる。「シブリングス」は0.1ETHの手数料を支払えば誰でも作ることができるが、オリジナルの使用には16回という制限がある。

そして、限定されたコレクションのリリースののち、その「Blitmap」を持つコレクターが無料で体験できる拡張パック「Blitnauts」が公開された。この拡張パックには、全く新しいクラフト可能なコレクションと、「Blitmap」を見つけ出して守ることを誓うロボットが登場する。

https://www.blitmap.com

この作品はCC0パブリックドメインとして公開されている。つまり個人的にであれ、商業的にであれ、このコレクションを制限なく利用できる。彼らは、ブロックチェーンが可能にする非中央集権の理念に基づき、作品を囲い込もうとするいかなる枠も取り払い、作品自体を自立した存在として拡散させていこうとしている。彼らが示そうとしているのは、Web3.0の世界における作品像のようなものである。それは派生物を生み出すプラットフォームであり、エコシステムとなるようなアートである。

この「Blitmap」の成功は、「Loot」にも引き継がれていく。彼が作り出したのは、アイテムを表した文字列のリストを生成し、無料でNFTに鋳造できるアプリケーションである。彼のアイデアとは、遊び方やルールの存在しない、その想像力を掻き立てるテキスト入り「バッグ」を配ることだった。彼が提供したそのテキスト入り「バッグ」は即座にNFTに鋳造され、その2次流通の価格は一晩で2倍以上となった。

そしてDom Hofmannの思惑通り、「Loot」は二次創作の舞台となっていく。Loot宇宙を拡張するべく、ギルドのようなコミュニティが次々と生まれていった。イラストレーションなどの2次創作や、作品にまつわるさまざまなサービスだけではなく、Lootインスパイアと呼ばれるような、類似のプロジェクトも生み出されていく。その数と多様性は、正直追いきれないほどである。今や「Loot」はひとつのジャンルとなった。その作品はまさしく派生物を生み出すエコシステムとなったのである。

https://www.lootproject.com/resources

このような過熱は、投資を呼び込み多くの人々の金銭を失わせる可能性があることにも注意を払う必要がある。「Loot」や「Blitmap」だけでなく、NFTのマーケットで成功した初期の作品たちは、初期のシーンを楽しんだセレブたちが戦利品を見せびらかすアイテムのようなものなりつつある。たった一年かそこらの出来事ではあるが、それらは輝かしい歴史の証明のようなものかもしれない。もちろんそのような扱われ方もアートの一側面であり、否定すべきものではない。しかし異なるのは、「Blitmap」、そして「Loot」は多くの人々に開かれたものであったからこそ成功した、という点である。それを「自立分散型のアート」と呼ぶこともできるだろう。その存在様式は、今後さまざまな作品へと受け継がれていくに違いない。