koeosaeme – Float

東京を拠点とするryu yoshizawaのプロジェクトkoeosaemeの新作。ニューヨークとボストンで行われた〈Orange Milk〉、〈Noumenal Loom〉、〈Squiggle Dot〉という夢のような組み合わせのショーケースへ出演も果たしたばかりで、今回のリリースはバルセロナのレーベル〈angoisse〉から。スペーシーな感触のあった前作から打って変わり、今作は削ぎ落とされた乾いた音響が印象的。箱庭のような繊細な美しさを保ちつつも、シェイプアップされた明朗さのある作品へと進化を遂げた。エレクトロニックな音色と具体音が渾然一体となって、混ざりながらもぶつかり合って強いコントラスト作り出している。異なる質感のテクスチャーが折り重ねられ、描かれるパターンの組み合わせはどこかフラットな感覚があり、これぞ今の音という感じの仕上がりになっている。

7FO – 竜のぬけがら Ryu no Nukegara

〈RVNG〉からも作品をリリースする大阪を拠点に活動する音楽家7FOの新作。ダブ処理が施された音響に、幸福感をたたえたゆるやかな電子音が交錯する、どこか朗らかで温かみのある不思議なサウンドが凍えた心を溶かす。細野晴臣が作り出した実験のような、乾いたスピリチュアリティと洗練されたピュアなマインドが、変化に富んだ音響の中を満ちわたっている。異世界へのファンタスティックな旅路を見せる、心地のよい全5曲。(S)

ALMA – Tearful Lagoon

この曲を聞いていて、突然「国道20号線」という映画のことを思い出した。国道という普通の風景に横たわる若者たちの生き様の生々しさは、鋭く心をえぐられるものがあった。このハリボテのような現実からの出口のなさ、というかそもそも出口などないという現実を前に、わたしたちはこの生身の体を燃料に生きるほかない。そうやって自分を失いながら、次第に老いながら、感覚を鈍磨させながら、希望を引き換えに生き延びていく。この非現実的でヒリヒリとした刹那の儚さを持つ音楽は、そんな現実を燃やしたあとの夢の残り香ような切なさを響かせている。

Bleed boi – 糞の平和

今年見たイベントの中ではSUBURBAN MUSÏKが主催したCapitalizmが、異端の表現を束ねながらも二人の世界観を爆発させていたのが鮮烈に印象に残っている。覚悟して注文したのだけど案の定届かず、本人からイベントの際に売ってもらったEvian Volvikの新名義Bleed boiによる作品。歪みきったエクストリームな音像に抒情性も垣間見えるとても美しい作品だが、それ以前にいつも音にまだ見ぬ感覚を求めていて、新しい人たちが新しい未来を形作っているのを見ると、変わらない真実を目撃しているような気持ちになる。この向こう見ずな加速感はそのような傍若無人な若さによってのみ引き出されるのだろう。いつも前のめりで、ぶっ飛んでいて、ちょっと儚さもある。そんな存在を美しいと思って眺めてしまう。(S)

Constellation Botsu – susan balmar

島根から東京に居を移したConstellation Botsuによる、〈Psalmus Diuersae〉から出たばかりの作品。タイトルがsusan balmarってイカれてる。フラットになるまで咀嚼されたノイズ音響が連打される、まるで狂気の放出のようなノイジーなエネルギーを無方向に放射し続ける5曲。音楽を無になるまで摩耗させたかのようなその荒唐無稽な作風は健在。カバーアートワークは星川あさこ。

http://psalm.us/botsu.html

charite – In a Trash Bag

北海道在住の大学生と思しきトラックメーカー、シャリテによるセカンドアルバム。壮大なSF映画のサウンドトラックのようなスケール感で描かれたミニマル電子音響。洗練と成熟を極めたそんなサウンドを新しい世代がナチュラルに作り出している、という事実に驚きを隠せない。スモッグのような朝靄のような霧がかった世界で鳴らされる音の響きはすべてが耳に心地よく、ゆっくりとした時間感覚の中で次第にその輪郭を現していく。どこか遠くの景色を眺めているようなゆったりとした時間感覚があり、行くあてもなく現れたフューチャリスティックな音響がその存在を響かせながら消えていく。どこか孤独な感触を持つ音響が特徴的な作品。

emamouse – Closing Dog’s Gate

emamouseによる〈Psalmus diuersae〉からの久々のリリース。Bandcampにインタビューが掲載されたり海外からの注目度が高まっているものの、唯一無二の世界観をマイペースに生み続ける彼女のめくるめく不思議の国に安心して身を浸すことのできる3曲。不安や希望のようなかすかな感情が、おとぎ話のような複雑さの中に入り交じる。その奇妙なサウンドから溢れ出てくる生命感が放つ、暗い躍動がほのかに眩しく、そのお話しの終わりには、どこか切ない感情だけが残される。

http://psalm.us/closingdogsgate.html

H.Takahashi – Low Power

アンビエントの持つ現代的な可能性を更新し続ける特異な音楽家H.Takahashiによる、〈White Paddy Mountain〉からの新作。控えめな感触を持った電子音響がミニマルな世界を構築する本作のタイトルは「Low Power」。都市文化の持つハイテンションなエネルギーにかき消されがちな、低層にあるさまざまな豊かな感覚を掘り起こすかのような、プリミティブな感覚に触れるラディカルな優しさに満ちた作品。箱庭的ともいえるその小さな空間の価値を、稀有なバランス感覚によって浮かび上がらせている。(S)

Foodman – Moriyama

マンスリーでは「ARU OTOKO NO DENSETSU」を取り上げたのだけど、個人的には〈Palto Flats〉からリリースされたこちらも押したい。「ARU OTOKO NO DENSETSU」がさまざまな試みを詰め込んだ実験作だとしたら、「Moriyama」は包容力で聴く者を包み込む安心感をまとった聴き心地のある作品。もちろんほかの何者でもないいつものぶっ飛んだ食品まつり節であるのだが、そのスタイルはより洗練度を増して、その独自性を確固たる領域として出現させている。ファンタジックな架空性を纏っていたテクスチャーの現代味やリズムのなかにある歴史性がリアルさを獲得して、わたしたちの持っていた音楽の概念を上書きするような、普遍的な確からしさを獲得したかのような。何時も常に軽やかで、ミニマルな要素にも、森の生態系のような複雑性や彩りが広がっている。彼の音楽性の持つその豊かさの中には、いつでも明るい未来を感じることができる。

Hitoshi Kojima – Clouds

O.N.Oが主催するレーベル〈STRUCT〉からのリリースなどで注目される宇都宮を拠点に活動するトラックメイカー。弾むように打ち鳴らされる変則的で硬質なビートに、荒れた質感に包まれたインダストリアルな電子音響が絡み合い、荒涼とした迷宮のような入り組んだ世界を描き出す。歌詞を聴き取ることができないが、その歪んだボーカルワークも際立っている。抑制された緊張がどこまでも心地よい、いつか大音響で聴いてみたい作品。

Kazumichi Komatsu – I Didn’t Do It Nobody Saw Me Do It There’s No Way You Can Prove Anything

2018年の1月1日にリリースされた作品だが、最後の曲を除いて2013年に作られたもの。5年も前となると随分前に感じるが、まったく古びてはいない。どこか遠い世界に迷い込んだような寂しさと情緒、感情の奥をくすぐられるような儚さと奇妙さを持つメロディがい響きわたり、ゆっくりとくぐもった視界の先に抽象的なビートが姿が現しては消える。内省的といってもよい繊細な作りをしているけれど、もうすでに揺るがない世界観を獲得している。ラテンアメリカ文学のような幻想性を持つ印象的な作品。

Koeosaeme – Float

こちらもマンスリーでも取り上げた作品。東京を拠点とするryu yoshizawaのプロジェクトkoeosaemeの〈angoisse〉からリリースされた作品。カットアップコラージュのように音の断片が抽象的なイメージを描く、明朗さに貫かれた作品。ぶつかり合う音の要素は強いコントラストを放ち、常に新鮮な面白さと驚きに貫かれたパターンを描き出す。フラットかつ乾いたエレクトロニックな音の断片が、具体音と混ぜ合わされる。高度に洗練された職人芸のような構成で、箱庭のような繊細な美しい世界観を浮かび上がらせている。

kyomdarak – 月の光と幻想

岐阜県のポストブラックメタルバンド、虚無堕落の通算9作目のフルアルバム。BGMのように背後で鳴り響くリズミカルなドラム、重金属のように重厚なギターの轟音がエコーのように深く沈み込み、ドローン・アンビエントのようなさざなみで聴くものを包み込む。終末の向こう側に来てしまったかのような、崩壊した世界が見せる耽美的な美しさ。その暗さへの安堵に意識を溶解させたくなる。

Le Makeup – Matra

マンスリーでも紹介した、大阪を拠点に活動するLe Makeupの6曲入りのEP。汎アジアを掲げ活動するコレクティブ〈Eternal Dragonz〉より。何よりも印象的なのは彼の甘い響きを持つボーカルだろう。エレクトロニックで複雑なテクスチャーを持つトラックに、ささやくように歌われるのは、どこか切なさhttps://themassage.jp/wwp/wp-admin/media-upload.php?post_id=12984&type=image&TB_iframe=1を感じる詩の世界。そのヒリヒリとした青さを放つ情景は、Instagramによって切り取られた日常のような、見知らぬ人々の感情を眺めているような感触がある。さまざまな感情がかつては存在したことを示す淡々とした記録のように、残されたそれはまるで物質のような存在感を放つ。失われた過去の時間という記憶が持つ感傷とその美しさが、結晶のように閉じ込められた作品。(S)

Metome – Dialect

大阪を拠点に活動する音楽家Takahiro Uchiboriのソロプロジェクトの、3作目となるアルバム。丹念に描かれたソウルフルな11枚の風景画。空間を保ちながら飛翔し、けして着地を踏み外さない研ぎ澄まされたビート、ハンドクラップから断片的なボーカルまで、すべてがパズルのように有り得べき場所に収まり響き合う。その完成度は凍えるように硬質で、音そのものが孤独を描くようだ。ほかには誰もたどり着けなかったエレクトロニックの極北を行く、洗練された楽曲が鳴り響く。

メトロノリ – works ’14-’18 ペール Metoronori メトロノリ

〈Orange Milk Records〉よりメトロノリの作品選。儚くささやくような彼女の聴き取ることのできない抽象的なボーカルに、触れたら壊れてしまいそうな繊細で構築された音響が織物のように組み込まれ、張り詰めた美しさを響かせる。どこまでもなにも出来事が起こらない、終わりのない夢を見ているような感覚が持続していく。ただそこに音が存在することが許されるような、ポップを超えて胸に響く作品。

NTsKi – 真夏のラビリンス

今年は数作のシングルをセルフリリースしたNTsKiの作品から、夏の楽曲。レゲエビートに載せて独特の甘くドリーミーなボーカルを響かせる、夏らしい一曲になっている。どのシングルも良かったけれど、この曲はゆったりとしたリズムと日本語の歌詞の響き合いが印象に残った。古びた写真にかすかに残る切ない記憶のような、ちょっぴり切ないメロディに心を締め付けられる。

Photon Poetry – 風の王国

Dark Jinjaを主催するsoujによる、新しい名義Photon Poetryによるリリース作品。荒廃した都市の持つ廃墟的な美しさが迷宮のように複雑に織りなされ、コラージュのように浮かび上がる。その先端性たるが故に劣化も早い世界のエレクトロニックのシーンにあって、久しぶりに耳を更新される感覚を覚えた。前衛的なグライムや抽象的なインダストリアルといった現代のモードを手中にしながらも、アジア的でもあり、独特の叙情性とファンタジックな空想性もあり、数少ない楽曲の中に多様な今の先端が詰め込まれている。