Boomkat Editionsの新シリーズ「12×12」がスタート。第一弾はRaimeの新名義、Yallyによるシングル。

イギリス、マンチェスターを拠点として、クラブトラックから実験的なベッドルーム・ミュージックまで幅広い電子音楽を取り扱うレコードショップであるboomkatが新しい12枚の12インチをシリーズでリリースする、『12×12』をスタートさせました。本シリーズは2017年でレコードショップとしての経営が20年目を迎え、またセルフレーベルboomkat editionsのスタート5周年を記念するものです。

その第一弾を飾るのはRaimeの新名義、Yallyによるシングル。いまだ1枚の7インチしかリリースされていない姉妹レーベルも含め、これまで『Blackest Ever Black』のみでリリースをしてきた彼らにとっては初の「外仕事」とも言えるでしょう。

ジャングルや2ステップなどのクラブ・ミュージックから小杉武久や裸のラリーズ、またFugaziやSlintといったハードコア、スロウコアのバンドからの影響についても公言してきた彼らは、これまでの2作のアルバムではインダストリアル,ノイズといったサウンドを主として展開してきました。yallyの名義での本作ではグライムやジャングルといったイギリスのストリートから産まれた音楽を主軸としたものとなっています。boomkatによるノーツでは,本プロジェクトは「ベース・フューチャーの開拓」と称されており、これまでのイギリスの音楽において常に重要なエッセンスであった「暗さ」がしっかりと受け継がれていることが感じられます。

さらに,Boomkat editionsの第2弾を飾るのは,先述のYallyと同じくロンドンを拠点として活動を続けるBeatrice Dillonです。

これまで〈The Trillogy Tapes〉や〈Where to Now? 〉のようなレーベルから,ゆっくりしたペースでリリースを続けてきた彼女は,半世紀近くの間、イギリス国内外の現代美術家の一つの重要な居場所となってきたLisson Garalleyなどでプレイするなど,先鋭的な音楽を芸術などの他のフィールドへ繋げていく(もちろん、音楽はそれ自体が非常に芸術的なものだけれど)活動を続けてきました。

第1段のYallyとは異なるアプローチながら,クラブミュージックの周縁を開拓し続けている彼女のリリースには,レフトフィールドと呼ばれるような音の実験と、音楽の革新の場であったクラブという空間を繋げてきたレーベルの先鋭的な姿勢を見ることができると思います。まさに本シリーズにふさわしい記念碑的なリリースです。

2017年となり、今後数ヶ月に渡って合計12枚のリリースを完成させる予定のBoomkat Editionsの『12×12』シリーズ。今後、どのようなアーティストやミュージシャンが我々の耳を驚かせてくれるのか、期待して待ちましょう。レーベルにとって記念すべき年となる2017年の電子音楽の台風の目となるかもしれません。

(Text: 中村繁)