Dirt on Tape Vol.07

カセットテープコレクターDirty Dirtがマンスリーでお送りする、連載第七回。
今回はLAのインダストリアル、ノイズ、EBMなどをリリースするカセットレーベル〈Nostilevo〉について。

Text: Dirty Dirt, Title Logo: ancco

8月のあいだカセットテープをつかってDJをさせていただく機会が毎週ありまして、ちょうど〈Awesome Tapes From Africa〉のBrian Shimkovitzも来日していたので、カセットテープのDJのことをすこし。

Brian Shimkovitzは2本再生できるデッキを用意してきて、発掘音源をつなげてゆくっていうスタイルで、現場へはゆけなかったんですが、これまでのBoiler Roomなどの動画をみて、うまくつなげられるのが奇跡的で驚かされます。頭出しもその場でやってるようにみえますし。

こちらはどうやっているかといいますと、ラジカセとポータブルプレイヤーをイヤフォンジャックから赤白のライン入力。あとはあらかじめかけたいカセットテープを頭出ししていってます。カセットMTRなどがあればもっと複雑なこともできるとおもうんですが、レコードをつなぐ感覚で、カセットをつないでゆきます。テープによって音圧やヒスノイズなど個体差がかなりありますし、その音を流す環境にもよるとはおもいますが、おもいのほかしっかりと音がなります。ただし、ポータブルプレイヤーの場合は、テープを巻き込んだり、音圧のこともありますので、ラジカセ推奨ですが。カセットテープを買ってらっしゃる方はぜひいちどDJに取り入れてみてはいかがでしょうか。

今月は〈Nostilevo〉のことを紹介したいとおもいます。

2011年にデトロイトで発足、現在はLAへ移ったインダストリアル、ノイズ、EBMをおもにリリースするレーベルです。ノイズのレーベルといったらふだんきかれない方にはとっつきにくいかんじがあるとおもいます。そしてノイズは現行のカセットが盛り上がる盛り上がらない関係なくずっとリリースされてきていました。でも、ここは現行のレーベルという意味で特別なところだとおもいます。

パワーエレクトロニクス、ノイズのL.F.A.ことKhristopher Reinshagenが主宰で本人のリリースからはじまりましたが、ここのレーベルといえばやはりSiobhanことTravis Gallowayです。テープが腐食してしまったかのようながびがびとしたノイズが重なるとんでもなくローファイな録音のなか、すかすかなダンスビートが不気味な陽気さをともなってつきすすみ、そのあいまに垂れ流されるこれまたがびがびな本人の声が呪いのようで。別名儀のTraagでは〈Opal Tapes〉のはやい時期からリリースされ、のちにここからSiobhan名義でもレコードをリリース、Jカードの印刷が現行カセット界隈でいちばんうつくしい〈Goaty Tapes〉や、最近ではほぼ毎月くらいなリリースを重ねる〈German Army〉とともにUS、UKに限らずデンマークの〈Speaker Footage〉などさまざまな国やレーベルからリリースされるようになり、地下インダストリアルのヒーローを作り上げました。

ほかにも映像や鏡をつかったインスタレーションなどで活躍するPod Blotz、Body Of Lightの片割れによるダブテクノBlue Krishna、がびがびノイズレイブのXakatagawaなどもリリースし、Destraction UnitのJ.S. Aureliusソロ別名儀Pleasure KorpsもはやくにリリースするなどブルックリンやLAのほかのレーベルともつながりながらも、絶妙な距離感を保ちローファイな姿勢を崩すことなく、黒い美学を貫きとおしています。

Jカードの印刷も音にあわせてがびがびな粗い印刷で、ときおりさわっていると手にインクがついて黒くなるくらいの粗さなんですが、そういうあたりも音をあらわしていてよいですし、12面パネル(折り返している面の数)だったりとつくりもかっこいいです。

ノイズときいてハードルが高いとおもわれるかたも、カセットできいてこそなローファイな質感をたのしめるとおもいますので、ぜひカセットを手にとって、耳も手も黒くがびがびになってみてはいかがでしょうか。

https://nostilevo.bandcamp.com/

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7月に買ってよかったもの、いくつか。

3月にレーベルへ直接注文したのにまったく送ってこないんで、どうなってますか? とメールしてみたら、ちゃんと送るよと返事をいただいて、そこからももはや2ヶ月たってしまい。日本のお店で売られてるのをみて、あきらめて買いました。こういうのって、あきらめて買ったらその翌日届いた、っていうオチがあるもんなんですが、いまだに届きません。

Dirty Beachesがはじめて来日したときにシンセ担当で帯同していたモントリオールのBernardino Femminielli。ことしになってから〈Total Black〉からもリリースしていたり、〈Mind Records〉からレコードもだしていたり(これも届かない)とソロでの活動が活発になってきました。

2月の〈Total Black〉からのカセットはバロックなシンセもので、彼の趣味全開な雰囲気でしたが、その分今作はさらに振り切れてました。コズミックなシンセと怪しいささやきフランス語ヴォーカルはこれまで通り、そこに暴走するノイズをはらんだビートがすさまじいし、Jカードの紙質もよいし、ちゃんと送ってくれさえすれば最高なレーベルです。

Bernardino Femminielli “L’ENFER ET SES FILS” (Mind Records)

うえのFemminielliとおなじくカナダのモントリオール出身のPhoebe Guillemot新作。これまで〈Total Stasis〉や〈1080p〉からとよいレーベルからのリリースがつづき、新作は〈RVNG〉からと躍進しています。

密林をおもわせるエキゾティックなシンセが飛び交うなか、パーカッションのビートに、自らの声やサンプリングした声をダブ処理して重ねていて。こういう音ってけっこうありそうなんですが、飛び交うシンセにちょっとゆるめのビートがどの作品も彼女独特な間と音の質で。初期はもうすこしビートが強めだったんですが、今作はそのビートもゆったりめ、南国アンビエント感が増していて、夏にとてもあいます。これも直接注文したものが届かなかったので、日本のお店で売られていたものを買いましたが……。

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Ramzi “For Haku” (RVNG)
https://rvng.bandcamp.com/album/for-haku

MASSAGEでもとりあげられていたオーストラリア? のレーベルからデジタルで発表されていたものがカセットテープ化。レーベルの方からロシア語でこちらのTwitterにコメントがついたりと、ほんとはどこのひと? なかんじがおおいのも謎でたのしい。

カセットのレーベルは、メーリングリストに登録しておいてそのお知らせを受け取らないと注文できないとか、秘匿性の強いところもあったりと、そういう謎がおおいところほど追っていてたのしかったりします。

エコグライム、っていうことばどおり、ニューエイジなアンビエントにグライムなビートが攻撃的にのっかってきます。どれも短めな曲なんですが、立体的な自然空間を切り裂くビートがかっこいいです。カセットテープにはリミックスが収録、とおもいきやデータがダウンロードできるだけでA、B面ともにオリジナルの音源が収録されていました。日本のDJWWWWやCVNもここのレーベルと絡んでいたりしますし、これからもたのしみです。

HERBARIUM “DIVINE HERBA” (Eco Futurism Corp. / Genot Centre)

直筆ジャケットでレコードを20枚限定でリリースしたり、DJ NJ Droneなどおなじくブルックリンの〈Bootleg Tapes〉と近い人たちをリリースPurple Tape PedigreeがはじめたカセットZINEシリーズ “CELL” の1本目。A面にその号の音楽を。B面は音楽ではなくそのときのテーマにあわせた声のコラージュという構成がおもしろいです。

今号はBaby Blue。Chino Amobiなどと同系列なゲームサンプリング音に、アンビエント、唐突で攻撃的なビートがつなぎ合わさっていて。カセットや映像で活躍するJónó Mí Lóも1曲参加しています。

正直なところ、英語が堪能ではないわたしにはB面をまともにきけるかっていうとしんどいですけれど、購入時にレーベル主催者によるスムージーのレシピがPDFでダウンロードできたりと、カセットではなくレコードのほうで注目をあびはじめているここがカセットテープでもおもしろいことをやってきていて、これからも注目です。

“CELL, Issue 01: Baby Blue – Void Gate / CELL 01 (Audio Codex) ” (Purple Tape Pedigree)

Blood RoomとのユニットIXTAB、Best Available TechnologyとのユニットBOAでも活動するGary Geilerのソロ新作はアイルランドの〈Fort Evil Fruit〉から。いま最もおもしろいレーベルのひとつ〈Seagrave〉からもリリースがあるので、乾いた立体的な質感のビートがミニマルに反復、空間をうめてゆくシンセドローンの重なりに、所々に浮び上がってくるかさかさとした物音に、かなりローファイにくぐもった音質のミニマルな曲にと、これまでのかろうじてテクノなかんじをこえて、かなりエクスペリメンタルな方向へすすんでいます。同時リリースに日本のTAKAHIRO MUKAIのなまえもあったりとUKのあたらしいところによりエクスペリメンタルな濃さを足したような人選がすばらしいレーベルです。

Ovis Aurum “Nocturnal Pools” (Fort Evil Fruit)