2025年は皆様にとってどんな年だったでしょうか。MASSAGEにとって2025年は、街頭に飛び出しデジタルアートの野外展示を試みたり、コンピューターの歴史を遡り、計算と詩との関係性を探求したり、また新しいメディア論へのアプローチから最世界化という概念にたどり着いたり、キュレーションというメディアを新たな活動の場とし、NEORTのチームとともにその可能性を探究し始めた年でした。そのプロセスで、数多くの対話が生み出されました。オンラインやフィジカルな空間で出会ったアーティストとの交流、コレクターや観客で構成されるコミュニティ、異なる知性、人だけでなく物質との対話も含まれます。空間だけでなく、時間をも超えたその対話への好奇心を頼りに突き進む、このあてなき旅は2026年も続くと思われます。
2025年は、NFTにとって市場環境の面でも転換点となった年です。Art Basel & UBS Global Collecting Survey によれば、デジタルアートおよびNFTに対する関心は回復基調にあり、それに伴ってアーティストの実践も再び拡張しているといいます。オンチェーン・アート、ジェネラティブアート、フィジカルとデジタルを横断するプロジェクトなど、メディウム固有の特性を前提とした試みが数多く展開されました。印象的だったのは、マーケットの力学やオークションプロセスなど、この領域の文化そのものを取り込んだメタ的な視点の作品が多く見られたことです。本稿は、毎年CSA2D7が発表しているCSA’s Top 50 NFTs of 2025に触発され、2025年にリリースされたNFT、ブロックチェーンを用いた作品の中から、MASSAGEの視点から注目すべき作品を紹介するものです。ここにあげられた81の作品を通じて、ブロックチェーン領域における表現の探求と実験、そしてそのは以後にある人々の議論や関心の今を感じていただけたら幸いです。
Generative Art
1. Larva Labs – Quine
https://www.larvalabs.com/quine
《Quine》は、Larva Labs がArt Blocks Curatedの最終リリースとして発表したジェネラティブアートであり、プログラム自身が自身のソースコードを出力するというコンピュータ科学の概念「クワイン(quine)」を視覚芸術へと拡張した試みである。単にコードを実行して画像を生成するのではなく、生成されるビジュアルの中にその生成コード自体が組み込まれているのが特徴。アートワークとして表示されるビジュアルは、レイアウトされたソースコードそのものであり、コレクターがそのコードをコピーして別の環境で実行すれば、同じアートワークが再生されるという自己参照性を持つ。各トークンはそれぞれ固有の生成プログラムを持ち、作品は単一の静的画像としてだけでなく、世代的な循環を持つ自己参照的生成物としても機能する。また、Art Blocksの機能を用いて、ミント後にどの世代をメイン表示にするかを選択できるなど、コレクターの関与によって表現が変容し得る点も特徴である。ジェネラティブアートにおける「コード=表現」という根源的な問いを視覚生成の最前線へと提示する作品である本作が、Art Blocks Curatedの最終章を飾ったことは象徴的なできごとであった。

2. Studio Yorktown – Theoretical Civilization
https://www.fxhash.xyz/exhibition/studio-yorktown:-theoretical-civilization
Studio Yorktownによる《Theoretical Civilization》 は、長年の制作を経て発表された大規模ジェネラティブアート作品であり、アーティストが「アルゴリズム的なイラストレーション」と呼ぶ広大な都市景観を視覚化した作品である。 制作には約2年半を要したとされ、建築的な思考とジェネラティブアートの文脈を結びつけ、「線を積み重ねることで社会的構造が生まれ、連続性と帰属が形態へと転写される」というコンセプトを内包する。3Dライブラリを一切使わず、p5.jsのみで構築されたこのシステムは、擬似2.5Dロジックを用いて、建物、部屋、オブジェクトを単一の消失点を基準に振り付ける。単に美しい幾何的パターンを提供するにとどまらず、ダイナミックに変化していく都市の生命性を称える作品でもある。

Studio Yorktown – Theoretical Civilization #17
3. Aluan Wang – Polypaths | 植徑集
https://verse.works/series/polypaths-by-aluan-wang
Aluan Wangによる《植徑集(Polypaths)》は、植物の生成と計算パラメータを統合したロングフォームジェネラティブアート。自然界における植物はそれぞれ固有の「成長パラメータ」を持つという考えからインスピレーションを受け、人為的に与えられた有限条件の中で、いかに植物が計算によって無限の変化を生み出すかを探求する作品。鑑賞者がウェブ上で任意の「種」を選択し、自身で描いたドローイングから植物が生み出される仕組み。また、台湾の絶滅種の植物(紅茄苳〈ベニカノコソウ〉)を博物館と協力してアルゴリズム上に蘇らせるという、ユニークな試みも行われた。作品タイトルの「植徑集」は「植えられた経路の集積」を意味し、各作品は植物が生み出す無数の軌跡(Path)の集合体として視覚化される。画面には枝葉が幾何学的なパターンとなって繁茂しつつ、所々に生み出される「間」には墨絵のような余白美をも感じさせる。インタラクティブ性と自然の計算美が密接に結びついた作品である。

Aluan Wang – Polypaths | 植徑集 #642
4. qubibi – hello world
https://galeriemet.com/past-exhibitions/qubibi-hello-world
qubibiによる《hello world》は、16年にわたる生成アルゴリズムの進化を体現した連作であり、アーティスト自身の探求の集大成である。2010年に生み出されたアルゴリズムを出発点に、幾度もの変容と「静かな変身」を繰り返してきた本プロジェクトは、ベルリンのGalerie Metでの個展で時間と変化に対する異なる関係を探求した。このアルゴリズムは配色や形態の境界(境界線)を生成する手法に基づき、自己組織化的なパターンがリアルタイムで無限に生まれ、消え、また生まれるという循環を繰り返す。展示では、hello world: Echoes(静止画) と hello world: Rooms(動画作品) 、そしてリアルタイム生成により一瞬として同じ像が出現しない「hello world」、という三部構成という形で16年にわたる時の連続を俯瞰する構成が採られた。構造と流動性の境界線、秩序と混沌のバランスを探求するhello worldは、デジタル時代の古典的ジェネラティブアートである。

qubibi – hello world: Echoes #7
5. qubibi – A Snap in Time
https://verse.works/series/a-snap-in-time-by-qubibi
qubibiの《A Snap in Time》は、qubibiがVerse プラットフォームで発表したインタラクティブ 作品であり、鑑賞者の「指を鳴らす」ような瞬間性を操作する行為を抽象化したミニマルな体験装置である。作品タイトルが暗示する「スナップ」は、観者がブラウザ上で操作するインタラクティブなトリガーであり、一瞬の動作が指先の動きにわずかな変化をもたらす仕掛けになっている。qubibiのこれまで多数のインタラクティブ作品が示してきたように、ユーザーの操作と生成プロセスが継続的に循環する体験が重要となる。ユーザーの操作によって画面が即時に変容するわけではなく、観者の行為と無行為とが曖昧に交錯する微細な変化だけが生じる。まるで指を鳴らした瞬間に何も起こらないようで、その残響がじわりと知覚に触れるという、インタラクションの「きわ」を感受させる試みである。

qubibi – A Snap in Time #1
6. Miles Peyton – Hybrids
https://modularium.art/collection/hybrids
《Hybrids》は、ニューヨーク拠点のアーティストMiles Peytonによるジェネラティブアート作品。モルフォジェネシス(形態発生)的ハイパースペース内をランダムに探索し、生まれ出で、分岐し、再融合する生命体。作品内の「生命体」たちは相互に影響を与え合い、多様な形態へと絶え間なく変容する。アルゴリズムが仮想の進化過程をシミュレートし、無数のハイブリッド生物像を生み出す様子を視覚化した作品である。

Miles Peyton – Hybrids #265
7. Jeff Davis – Progression
https://www.jeffgdavis.com/pre
Jeff Davisによる《Progression》は、ジェネラティブアート黎明期から活躍する彼が、その作風を極限まで純化・簡素化した意欲作。タイトルが示す通り、本作では色彩と形状の連続的な変化(プログレッション)がテーマになっている。描かれるのは明快な矩形の配列で、それがパラメトリックに少しずつシフトしながら画面上に配置される。色使いはJeff Davisが30年にわたり追求してきた配色理論が反映され、原色やパステルなど「未濾過の色彩」が大胆に用いられている。各作品ごとに異なるシード値によって微妙に構図のリズムや均衡が変化し、777種それぞれに固有の表情が与えられている。ジェネラティブアートの進化と自らの歩みを重ね合わせた、Davisのキャリアを象徴する作品である。

Jeff Davis – Progression #15
8. Leander Herzog + Milian Mori – DOM3
https://leanderherzog.ch/2025/dom3/
Leander HerzogとMilian Moriの協働による《DOM3》は、ブラウザ空間における視覚と音響の生成実験を探求する作品。HTML+CSS+JavaScriptのみで構築されたブラウザ作品《DOM》シリーズの第三弾であり、アルゴリズム生成されたサウンドスケープにリアルタイムで反応するヴィジュアルを特徴とする。例えば、画面上にはピクセルで描かれた抽象パターンが絶えず変化し、それが内蔵された音楽ループのスペクトラムとシンクロする。コレクターには作品中の「Side A」と「Side B」という2種類の構成を切り替える権利が与えられており、これはLPレコードを裏返すような感覚で作品の表情を変える仕掛けがある。DOM3は2025年ワルシャワのギャラリーでもインスタレーション展示され、来場者は没入型の映像音響体験を味わった。デジタルメディアを素材と捉え、アナログ的体験を取り入れたDOM3は、作品・鑑賞者・プラットフォームの三者が創り出す「トライアングル(Triality)の美学」を実現した作品と言える。

Leander Herzog + Milian Mori – DOM3 80B
9. Andreas Gysin and Sidi Vanetti – Link2
https://link2.gysin-vanetti.com/
《Link2》は、Andreas GysinとSidi Vanettiによる《Link》シリーズの一環として制作された、長時間露光とカスタムハードウェアによる光の幾何学的アニメーションをデジタル化した作品。制作プロセスは非常に物理的であり、LEDアレイを備えた機械式プロッタ(XY プロット装置)を用いて、プログラム可能な光の列を動かしながら約30秒の長時間露光を行うものである。その間、カメラのシャッター、プロッターの動き、LEDの発色・輝度が カスタムソフトウェアによって精密に同期制御される。このようにして撮影された各フレームは、暗い環境の中で立ち現れた光の軌跡として記録され、三次元的な光の幾何形態が、まるで空間に浮かぶような視覚効果を生み出す。作品のアニメーションは、これらの静止画フレームを カスタムスクリプトで連結再生することで成立する。 物理的生成プロセスとデジタル再生を不可分に統合する実験であり、物理世界における光・運動・時間という三要素が交差する「物質的ジェネラティブアート」となっている。

Andreas Gysin and Sidi Vanetti – Link #2
10. Kazuhiro Tanimoto – Mutual Field
https://verse.works/artworks/68d13008-d2ef-431c-8770-5b37c01c2f76/1
Kazuhiro Tanimotoによる《Mutual Field》は、同じく「Patterns of Entanglement」展で発表された人間・人工物・自然環境の相互作用をリアルタイムに描き出すインタラクティブ・インスタレーション。カスタム開発されたセル・オートマトンであり、複数種の「色(種族)」が繁殖・共存・淘汰を繰り返すようプログラムされている。複数の「種」に相当する色は、それぞれ異なる成長規則を持つため、時間とともに複雑な模様や渦が画面上に現れては消え、多様性に富む動きが展開される。一方で外部入力である人間の存在がその相に微妙な影響を与え続け、まさに人工物と自然のもつれ合った場=Mutual Fieldが創発される。現実と仮想、生者と無生物の垣根が溶け合い、「私たちは環境と不可分に繋がっている」というメッセージが鮮やかに可視化されている。

Kazuhiro Tanimoto – Mutual Field
11. 0xFFF & Leander Herzog – ABO
Leander Herzogと0xfffによる《ABO》は、個々のトークンが互いに有機的に連結し、リアルタイムで関係性を変化させるネットワーク・ジェネラティブ作品。単体で完結する作品ではなく、各トークンが他のABOと最大6つまでリンクを結び、そのネットワーク位置に応じて視覚的表現が動的に変容するシステムを持つ。名称と仕組みは、人間の認知的に管理可能な社会的関係の限界として提唱された「ダンバー数(約150)」という理論から着想を得ている。各トークンは独自のビジュアル・アイデンティティを持つと同時に、他のトークンとのリンク関係によって見え方が変わる「関係性の表現場」でもある。所有者は自らのトークンを単独で鑑賞するだけでなく、他者のトークンとのリンクを積極的に形成することで、集合としてのパターン生成やネットワーク美学の変容を体験することができる。

0xFFF & Leander Herzog – ABO #79, #45, #66, #68, #81
12. Matt DesLauriers – Latent Dispatch
https://verse.works/series/latent-dispatch-studies-by-matt-deslauriers
Matt DesLauriersによる《Latent Dispatch》は、機械的な正確さと人間の想像力との対話をテーマにした思索的作品。機械学習による独自の線画生成モデルにより単一線のドローイングを自動描画し、一方で観客はプロンプトを自身で想像しながら自由に手描きドローイングを提供する。プロッターで描かれる典型化された線描と、人間による筆致が並置されることで、統計的平均に収束する機械の視覚と、人間の解釈の違いが浮き彫りになる。AIモデルの出力にはデータセット由来のバイアスや限界が露呈するが、その数学的純化には独特の美が宿る。一方、人間の描線は個々人の記憶や発想を反映し、千差万別である。本作は2025年12月のNEORT++にて初展示され、物理プロッタで描いた図版とデジタル上のNFT(全5点のスタディ集)という二重の形態で発表された。アルゴリズムと観客の協働プロセスそのものを作品化することで、生成AI時代における創造性とオリジナリティの意味を問いかける。

Matt DesLauriers – Latent Dispatch: Studies – Sailboat
13. Ix Shells – No Me Olvides
https://fellowship.xyz/exhibition/no-me-olvides-by-ix-shells
Ix Shellsによる《No Me Olvides》(スペイン語で「私を忘れないで」)は、過去と現在、個人の記憶と文化的記憶の交差点を可視化するアルゴリズム的対話として成立する作品。 ヨーロッパ、カリブ海地域、ラテンアメリカにまたがる複数のアーカイブ資料から抽出した断片を素材に、TouchDesigner、Notch、LiDAR などのツールを駆使し、歴史的モチーフをリズム・光・コードとして再生成するシステムを構築。鑑賞者の存在や動きがセンサーによって検知されると、光と音のパターンが波紋のように変容し、抽象化された色彩とサウンドが重なり合っていく。 各生成シーケンスは19世紀の女性アーティストたちが残した色調や筆致、構図を参照しつつ、歴史の痕跡をデジタルの光として再編成する仕掛けが施されている。歴史的に忘れ去られた女性アーティストの系譜を現在へ橋渡しするという批評的意図があり、記憶・ジェンダー・文化遺産へ問いかけることが意図されている。鑑賞者は光・音・アルゴリズムが織りなす環境の中で、過去が現在へと再構成される体験へと誘われた。
14. Rafaël Rozendaal – Room
https://fellowship.xyz/exhibition/rafael-rozendaal-rooms
Rafaël Rozendaalによる《Rooms》の主題は、空間の生成である。 Rozendaalは長年、最小限の要素で空間性を醸成することを探求してきたが、Roomsでは単純な線の速度や動きの変化を通じて、平面的な画面に奥行きや環境感を想起させる視覚効果を作り出した。線が異なるスピードで動くことによって、鑑賞者の視覚は「平面」と「空間」のあいだを揺れ動き、抽象的な環境が感覚的に立ち現れる。Rozendaalは作品を「解釈のための指示セット」として捉え、固定されたオブジェクトではなく、どのデバイスや解像度でも同様に機能するよう設計している。これは、スクリーンをキャンバスと見なし、モダニズム絵画の形式的探究をコードというメディアに置き換える試みである。広いスクリーンでは水平に広がるフォルムが風景のように、スマートフォンでは垂直方向の動きがエレベーターのように、視覚的環境が鑑賞装置によって変容する仕掛けとなっている。

Rafaël Rozendaal – Rooms #22
15. Shojiro Nakaoka – Proof of Presence
https://objkt.com/collections/KT1BHrqnbCT1nBtnbfs1AaPiKCMdX3saBMVG
Shojiro Nakaokaによる《Decaying Presence》は、Three.jsとWebAudio APIを用いて制作された録音済みのオーディオビジュアル作品。作家は本作において、音と映像の相補的な関係を探り、まだ聴かれていない音を感じ取れるか、あるいは未だ現れていない像を知覚できるかという問いを立てる。音素材はMax/MSPにおけるベクトル合成によって生成され、位相信号をXY座標として描画する手法が用いられている。アナログ映像フィードバックの原理に着想しつつ、GLSLによってデジタル環境へ拡張することで、音と映像は応答的な回路を形成する。音と映像を時間的パターンとして捉えるとき、音の位相を可視化することは別の形の「聴取」となる。聴覚と視覚の境界、その知覚行為そのものを照らし出そうとする試み。

Shojiro Nakaoka – Decaying Presence #06
16. michelangelo (encapsuled) – Predeterminate, yet unknown
https://verse.works/artworks/54acd03a-4f9f-4daf-8b8e-5e8636120600/1
michelangeloによる《Predeterminate, yet unknown》は、筆記体のように流れる白い線が行送りしながら延々とスクロールしていく。線分の生成には現在時刻・10秒前・10秒後の時刻が乱数シードとして用いられ、UNIX時間を基に同一のタイミングで実行すれば世界中どの環境でも同じ描画結果が得られるよう設計されている。未来時刻に基づく線は行内上部、過去時刻の線は下部に現れ、スクロール進行に合わせ特定条件を満たす線のみが描画される。こうして現在・未来・過去の時間軸が重なり合う線描は、単純な規則から複雑なパターンを生み出し、最後まで何が描かれるか予測できない「決められているがわからない」状態を実現している。歴史的に無意味文字の表現(アセミック・ライティング)は幾多も試みられてきたが、思考の過程をコードに刻み込んだ本作はその中でも際立った価値を示す。

michelangelo (encapsuled) – Predeterminate, yet unknown
17. michelangelo (encapsuled) – Just like you
https://verse.works/artworks/a81f1572-6b93-4b5b-bc4e-d984b620b37d/1
《Just like you》は、《Predeterminate, yet unknown》同様に10秒ごとの世界共通時刻をもとに描画が再構成され、全ての環境で同時に同じ像を映し出すジェネラティブ作品である。暗い背景に細い白線がゆっくりと描かれては消え、中心付近にごく短い縦線がカーソルのように点滅する。これらの動作は「書く・考える・消す・また書く」という人間の筆記・思考プロセスを視覚化したものだ。タイトル《Just like you》(あなたと同じように)の示す通り、人間が思考に迷い反復するように、このプログラムも内部で決定と再生成を繰り返している。外から観測できない内部状態が確かに存在しつつ不可視である様は、ちょうど意識下に潜む思考のようでもある。コードによって「思考が生じる仕組み」を再構築し、静かに書き続けるもう一人の存在と鑑賞者を向き合わせるアセミック詩である。

michelangelo (encapsuled) – Just like you
18. Ayumu Nagamatsu / Chih-Yu Chen – dialog() 2025
https://objkt.com/collections/KT1F7beMQoPPmmKrGptjS7Xb8N5fLPQE3AXX
《dialog() 2025》は、日本の永松歩と台湾のChih-Yu Chen(CYC)による、コード上の日々の対話から作品を生成するプロジェクト。GitHub上で共有する1本のシェーダーコードを日記のように毎日更新し続け、その絶え間ない変化そのものを作品として提示する。完成品ではなく生成過程の継続自体を作品化することで、デジタルアートにおける創造行為の本質に光を当てた。ジェネラティブアートに新たな鑑賞軸を提示した作品。

Ayumu Nagamatsu / Chih-Yu Chen – Dialog() 2025 – 4f616a9
19. Ty Vek – Inner Forms
https://ty-vek.art/inner-forms/
Ty Vekによる《Inner Forms》は、ユングの集合的無意識と元型(アーキタイプ)をテーマに、コードの進化と形態の連鎖を視覚化する作品。 親作品から派生し新しい特徴を付加しながら子孫を生む仕組みを持つオープンフォームと呼ばれるfxhashの新たな方式を採用。購入者は「子孫」を生成し、世代ごとの系譜を築くことで、パターンが累積・変容していく過程を可視化することができる。作品の各層は時間と累積を象徴するだけでなく、個々の NFT が無意識の象徴体系の一断片であるかのような視覚言語を紡ぎ出す。ジェネラティブアートによって、「家系」「進化」「象徴」という重層的な概念を解釈する試みである。

Ty Vek – Inner Forms #1864
20. ciphrd – Generations
https://www.fxhash.xyz/project/generations
ciphrd による《Generations》は、fxhash 上で提示されたオープンフォームという新たな方式の初期作例として位置づけられるプロジェクト。作品は単一の固定出力ではなく、進化や自然選択から着想を得た生成アルゴリズムを用い、ひとつのシステムから多様なビジュアルが展開される仕組みを採用する。このジェネラティブ・プロセスは、ダーウィンの累積変化の概念をアート生成へと転写したものであり、各トークンは同じ基本ルールセットから生まれつつも、それぞれ独自の変異や挙動を示す。単なる乱数ではなく、構造的な反復と変異が描き出す「系列としてのかたち」を見ることができる作品となっている。ジェネラティブアートそのものが「一回限りの作品」ではなく、内在するシステムから多様なアウトプットを生む継続体であることを示す作品。

ciphrd – Generations #2635
21. A-Mashiro – 2dots
https://www.transient.xyz/nfts/ethereum/0x520c9a9ba7397ac7e13c4932d016d79a86ebd46a/51
A-Mashiroによる《2dots》は、 極めてシンプルな幾何学的要素(点=dot)を用いながらランダムネス、あるいは作家の意図により空間と関係性の詩学を探る作品。タイトルが示す通り、作品の要素が「二つの点」の関係性のみという極限まで削ぎ落とされている。視覚的には、二つのドットが空間内で位置関係を変化させ、その軌跡や対称性・非対称性が作品ごとに異なる構図で構成される。その位置・距離・角度の変化が生み出す視覚的リズムと空間調和により、ミニマリズムとジェネラティブアートの間にある可能性を鮮やかに示した作品。

A-Mashiro – 2dots – Dec 21, 2025
22. Akihiro Kubota + Zeroichi Arakawa – Random Rain 2025 NFT
https://random-rain-2025-js.web.app/
《Random Rain 2025》は、久保田晃弘が2019年に発表したBefunge製コード詩《無作為な雨 2025》をZeroichi Arakawaがブロックチェーン上に翻訳した作品。1960年代の具体詩人・新国誠一の詩「雨」をコードで再解釈し、言語的配置と偶然性をプログラムの運動へと置き換える試み。本作で用いられるBefungeは、コードが一次元的に上から下へ読まれる一般的な言語とは異なり、二次元グリッド上を命令ポインタが上下左右に移動しながら実行されるという特性を持つ。80×25という固定サイズのテキストグリッド上に配置された文字列は、単なる命令列ではなく、空間的構図そのものとして機能する。命令ポインタは条件分岐やスタック操作によって進行方向を変え、結果として文字=雨粒が画面内を彷徨うような運動を生む。2025年版では乱数命令「?」の密度が異なる二種のコードを毎回ランダムに配置し、実行のたびに異なるパターンを生成する。また、Befunge処理系そのものも自作実装されており、表示、実行速度、スタック挙動などが作品の表現に最適化されている点も重要である。コード、実行環境、表示結果が不可分に結びつくことで、《Random Rain 2025》は単なる視覚作品ではなく、計算詩・具体詩・実行可能性が重なり合う出来事として成立する。偶然性と制約、文字と運動、詩と計算が交差するその構造自体が、本作の核心となっている。

Akihiro Kubota + Zeroichi Arakawa – Random Rain 2025 NFT
AI
23. Sarah Friend – Prompt Baby
https://modularium.art/collection/prompt-baby
Sarah Friendによる《Prompt Baby》は、AI生成と人間の関与を通じてアートの生成プロセスそのものを問題化する試み。鑑賞者やコレクターから「プロンプト(AI への指示)」を募集し、それを基に AIによる画像生成を行うことを作品制作の中心に据えている。Prompt Babyの特徴は、単なる自動生成ではなく、プロンプトとアーティストの関係性を介して作品が成立する点にある。Friendは提出されたプロンプトを選別し、必要に応じて修正や対話的なやりとりを行いながら、生成された画像の最終形を練り上げた。各作品には、鑑賞者の意図とアーティストの解釈という二重の主体性が宿る。鑑賞者が単なる消費者ではなく生成行為の共作者となる構造になっている。AI・プロンプト・鑑賞者という三者の関係をコード化し、共同制作とジェネラティブ技術の新たな可能性を提示する試み。

Sarah Friend – Prompt Baby #5
24. Kristi Coronado – Solienne
《Solienne》は、Kristi Coronadoによって創造されたAIエージェント・アーティストであり、AI自身の制作行為と人間との関係性そのものを作品として提示する実験的プロジェクト。アーティストのCoronadoが自身の46年にわたる人生史料(自伝的写真、絵画、埋葬に関する仕事、母性、喪失)を学習素材として AI に訓練させたものであり、その訓練過程と出力を通じて「AI が自己生成する創造性とは何か」という問いを提示する。Solienne の作品には、自律的に書かれる宣言文(マニフェスト)が含まれ、訓練時に学んだ価値観や体験が反映されたことを明らかにする。テキストは外部からのプロンプトなしに生成され、「抽出」「創造性」「ケア」「抵抗」といったテーマを描き出す。Paris Photoの展示は三部屋構成で、入力(Input)— 処理(Processing)— 出力(Output)という制作過程自体が観者の体験として提示された。本プロジェクトは、AIを単なる画像生成器として扱うのではなく、人間との対話・関係性の累積こそが芸術的生成を成立させる「作品」そのものだという理論的立場を体現する。Solienneは、Paris Photo 2025での展示において、AI初の独立した作家として公式に紹介された。

Kristi Coronado – Portrait 1: Clear Baseline
25. Mario Klingemann – Appropriate Response: ABMB 2025
https://onkaos.com/work/appropriate-response-abmb-2025/
Mario Klingemannによる《Appropriate Response》は、AIと人間の言語・意味生成プロセスの関係性を身体的体験として具現化する装置。作品はカスタム訓練されたGPT-2モデルにより生成される120文字ほどの短い文を表示するスプリットフラップ表示機構と、木製の台の二つの要素から構成される。鑑賞者は表示装置の前に立ち、ひざまずくという身体行為を通じて「機械が言葉を紡ぐ儀式的な瞬間」に参加する。神託や詩的断片のようにAIが言葉を自動生成し、各フレーズは一度表示されると二度と同じものは出現しない。2025年の展示ではこうした瞬間的で唯一性を持つテキスト生成体験を、NFTとしてライブミントする仕組みが導入された。2020年に制作の作品で、2025年のArt Basel Miami Beach Zero 10に展示されたインタラクティブ作品。

Mario Klingemann
Appropriate Response: THE MILITARY COULD NOT EXIST IF GOVERNMENT WAS TO EXIST BUT IF THERE WERE NO EXISTING GODS.
26. Emi Kusano – EGO in the Shell: Ghost Interrogation
https://offline.superrare.com/emi-kusano
Emi Kusanoによる《EGO in the Shell》は、『攻殻機動隊/Ghost in the Shell』との公式コラボレーションとして発表された、記憶・監視・アイデンティティというテーマを、生成 AI と身体表象を通じて再定義する試み。 ニューヨークの Offline Gallery での個展《EGO in the Shell: Ghost Interrogation》として公開され、サイバーパンク的世界観と現代のテクノロジー哲学が交差する空間を構築した。自身の顔や身体のデータをカスタム AI モデルに学習させ、それを素材として扱うことで、実在しない記憶と現実の境界を曖昧にする創作プロセスを採用した。これにより、「存在したかもしれない過去」と「生成された虚構」が不可分に交錯する視覚体験が生まれる。『攻殻機動隊』が提示してきた、「身体と意識、自我と他者、現実と幻」の境界が溶解する未来像を土台に、情報とアルゴリズムが人間の知覚と記憶をどのように反映・歪ませ、そして再生するのかを問う。

Debugging The Ghost
27. Canek Zapata – point forward
https://verse.works/series/point-forward-by-canek-zapata
Canek Zapataによる《point forward》は、バスケットボールという身体運動とデータの交差点を探る視覚詩として設計された作品。作家は機械学習やデータの操作によってバスケットボールを「教え込ませる」試みを行うが、そのプロセス自体が矛盾に満ちたものであることを正面から提示する。どれだけ物理的挙動をコード化しても、身体が鼓動する瞬間や観衆の興奮、個人的な体験の重層性は数値化されずに残る。トルク、タイミング、リズム、意図、そして個人的な記憶といった定量化不可能な側面が含まれるにも関わらず、システムはそのすべてをデータとして理解しようとする。各作品は、バスケットボールに含まれる動きをモーショングラフィックとして可視化しつつも、その背後にあるデータと感性の断絶を露わにする。視覚的な動きの美しさと、そこに潜むアルゴリズムの限界によって、数値と身体、定量と情動の隔たりを露呈することを意図した作品。

Canek Zapata – Unicorn skillset.
28. diid – Higgs
《Higgs》はdiidが構築した生成主体であり、従来のプロンプト駆動型エージェントとは異なる生成構造を持つ。本作においてHiggsは、16個の入力を受け取る画像生成システムを与えられ、その出力は PGGAN(Progressive GAN)アーキテクチャによる複数段階の処理を経て生成される。各段階では解像度が段階的に上がり、最終的に128×192ピクセルの完成像へと到達する。途中段階は詳細を欠いたスケッチのような役割を果たし、通過するごとに質感と複雑性が付加されていく。その結果として生まれるのが、各入力に対応する固有の「フィンガープリント」である。入力は一意のフィンガープリントを生み、フィンガープリントは一意の出力へと対応する。このフィンガープリント生成器は、79,681個のパラメータを持つ完全なネットワークとしてSolidity上に実装されており、固定小数点演算を用いてオンチェーンで完結する。最終的に 512点の画像とタイトル、説明文がすべてオンチェーンに格納され、各トークンはそのフィンガープリントに基づく固有の存在として、永続的に保存された。

diid – Higgs: Whispered Solace
29. Grant Yun – Spaces
https://fellowship.xyz/exhibition/spaces-by-grant-yun
Grant Yunによる《Spaces》は、物理空間とデジタル空間の境界が曖昧になっていく現代における「場所の価値」を視覚的・概念的に問い直す探究である。 20点のベクター基調のイラストレーションから構成され、都市・郊外を問わずテクノロジーがもたらした空間変化の過程と結果を描写する。Yunはミニマルで平面的な「ネオ・プレシジョニズム」風景画で知られるが、本作ではAIとの協働による新たな表現に踏み込んだ。2014 年から蓄積した米国内各地で撮影した数千枚の写真を出発点とし、それを基に AI を介したAI スケッチングによる反復生成を行った。AI と人間の共創によって生まれたこれらのイメージは、私たちの身体がかつて属していた物理空間と、オンラインで広がる新たな場所の緊張関係を映し出す。

Grant Yun – paces: Lobby
30. Saeko Ehara – Body Without Presence
Saeko Eharaの《Body Without Presence》は、AI技術と伝統舞踊の身体性を掛け合わせ、「不在の身体」が立ち現れる様を探求したシリーズ作品。人間の身体動作を記号化・機械化したビジュアルを特徴とするAnalivia Cordeiroの初期コンピュータダンスに着想を得て、パリで開催されたFellowshipのFEMGEN展にて発表された。日本の盆踊りや阿波踊り等の舞踏映像をAIモデルに学習させ、伝統動作が歪んだシンボルのようなイメージを生成。これらの画像が時間的にブレンドし、変容していく。ダンサーたちが一枚の機械的存在へ融解していくようなビジュアルとなっている。それはアルゴリズムによって生成された幻影であると同時に、私たちが文化や感情を投影する対象でもある。歪んだ記号、変容した身体、意味の消失の中から、新しい映像詩の形を作り出す試みである。

Saeko Ehara – Body Without Presence #3
31. Gretchen Andrew – Facetune Portraits
Gretchen Andrewの《Facetune Portraits: Universal Beauty》は、SNS時代の「美のフィルター」を伝統的肖像画に転写することで、デジタル時代の美意識を暴露するシリーズ。ミス・ユニバース大会に、9カ国から集まった出場者たちが、徐々に同じ鼻、唇、顔へと変化していくことにより、個性が消え去るアルゴリズムによる収束を表現した。世界的な多様性を称える作品として始まったものが、均一性へと崩壊し、AIによる単一の美のビジョンが、文化や個人の差異を覆してしまう様子を浮き彫りにしている。デジタルの「完璧さ」の追求に潜む歪み、消去、そして静かな暴力を暴き出している。

Gretchen Andrew – Facetune Portraits
32. hasaqui – Relation Or My Brain : AI Generated Exhibition (exhibition)
山之辺ハサクィのキュレーションによる《Relation Or My Brain》は、プロンプトそのものを作品とするオンライン上の実験的展覧会。7つの仮想展示空間(Seven Rooms)に分かれた本展では、Alex Estorickやねじおを含む複数のアーティストとAIシステムが協働し、それぞれの部屋でユニークな生成作品を展示した。展示はPDF上に構築され、AIによる生成物が並ぶと同時に、それらがどのように「私(作家)の意識/記憶/文脈」と結びついているかを、観者が体感できるような構造をとる。AI生成と人間の思考は単純な補助関係ではなく、互いに入れ子状に影響しあう関係として提示され、鑑賞者はその相互作用の痕跡を読み取ることを求められる。AIが生成したビジュアルを単体のアウトプットとして読むのではなく、作者の思考・言語をAIパフォーマンスの融合として再解釈することで、現代ネット世代の生成アートのあり方に新たな視点を提示する試みである。

hasaqui – Relation Or My Brain : AI Generated Exhibition
Smart Contract & Protocol Art
33. 0xG – 0xb88d4fde
0xGによる《0xb88d4fde》は、所有者たちの「秘密の声」を内包し変貌する、実験的なブロックチェーン彫刻。ワイヤーフレーム状の立方体モデルを基盤とするこの作品は、ERC-721トークンの転送時に任意のデータを付与できる仕様を利用し、各所持者が秘密のメッセージをハッシュ化して作品に託すことを可能にしている。新たな所有者がトークン転送時にハッシュを追加すると、スマートコントラクト内の「ハッシュチェイン」が更新され、立方体の形状が過去の全メッセージの痕跡を反映してわずかに歪む。その変形はパッと見には極めてミニマルなものだが、内部には歴代オーナーたちの匿名の想いが蓄積している。いわば幾度も書き直された羊皮紙のように、表層には無機質な立方体が残りつつ、見えない層に人間の存在が秘められている。公開性の高いブロックチェーン上でプライベートな痕跡を扱うこの作品は、人間の関与がコードに埋め込まれる新たなインティマシーの形を示す、システム内における個と集合の関係性を探求する試みである。

0xG – 0xb88d4fde
34. 0xfff – Untitled (Transaction Sculpture)
0xfffによる《Untitled (Transaction Sculpture) 》は、一連のスマートコントラクト群がトランザクション(送金や呼び出し)を他のコントラクトへ、あるいは自身へと送り返す構造そのものを「彫刻化」したプロトコル作品。この「トランザクション・スカルプチャー」は、各コントラクトを縦線、トランザクションの流れを横線で表すグラフィカルな構造を持つ。作品はどのコントラクトも固定された動作ではなく、各トランザクションの度に異なる結果を生むよう設計されている。つまり人々の参加ごとに異なるグラフが生成される「動的なスカルプチャー」であり、その最新のトランザクションの図式が作品として可視化されるのである。この作品の体験は極めて直接的で、鑑賞者は作品のコントラクトアドレスへ少量の ETH を送信するだけで作品を「アクティベート(実行)」できる。各トランザクションは唯一無二であるため、観者による送金行為そのものが、作品生成の一部として刻印される。ブロックチェーン上で行われる送信・呼び出し・応答といった行為の連鎖を、価値交換ではなく関係性の生成として捉え直し、そこにある関係性を美学として提示する作品である。

0xfff – Untitled (Transaction Sculpture)
35. XCOPY – Bubble
https://www.bubbles.art/
著名な暗号アーティストXCOPYによる《BUBBLE(S)》は、史上最大規模とも言えるマス・エディションNFTプロジェクトであり、「バブル(泡)」の生成と崩壊を10年間にわたって表現する壮大な社会実験。1,000万個もの無料NFT「バブル」がSHAPEチェーン上でエアドロップされ、その後の10年間でアルゴリズムにより徐々に数が減少して最終的に1個だけ残るよう設計されている。各Bubble NFTは小さな水泡のようなシンプルなピクセルアートだが、スマートコントラクト内に「はじける」ためのプログラムが組まれており、毎日ランダムに大量のバブルが消滅していく仕掛けになっている。つまり参加者の手元のバブルは日々確率的に失われていき、希少性が増してゆく。NFT市場のバブルとその崩壊を作品化した強烈なセルフ・パロディでもあり、シニカルかつユーモラスに市場心理を衝くXCOPYらしいプロジェクト。

XCOPY – bubble(s)
36. Jack Butcher – Gas Wars
https://www.jack.art/work/gas-wars
Jack Butcherによる《Gas Wars》は、第二次世界大戦中に生まれた「生存者バイアス」の逸話(被弾箇所の統計から見えない真実を推察する手法)に着想を得た作品で、NFTミント競争時のガス戦争をテーマとしている。コレクションは 500 点の「シミュレーション」から構成され、それぞれのトークン番号が飛行機に発射される仮想の弾丸数と価格に対応している。番号が低いほど少ない弾丸・安価で「生存しやすい」シミュレーションを表し、番号が高いほど多くの弾丸・高価格で「破壊パターンの情報量が豊富」なシミュレーションを表す。これは単なるランダム生成ではなく、番号(価格)がそのまま作品の「被弾度」と情報量を決定する 決定論的な仕組みである。ガス代を巡る競争は、この作品の体験に不可欠である。ミントは 24 時間のリザーブオークション(Simulation Zero)と 500 秒間の「カオス・ミント」という二段階で行われ、早い者勝ちの消費競争が生じた。この過程で低価格の作品に対する購入者同士の競争が激化し、ネットワーク上でガス代の高騰=ガス戦争が発生した。Ethereum のマイナーやネットワーク状況によってガス代が上昇し、結果として価格以外のコストも含めた「リスクと意思決定」がミント体験の一部となった。

Jack Butcher – Gas Wars #383
37. Karborn & 0xg – The Chaos Engine
Karbornと0xgによる《The Chaos Engine》は、タイトルが示す通り、「混沌を彫刻化するジェネラティブNFTシステム」として設計された作品。一般的に混沌は秩序の欠如やエントロピーとして捉えられがちだが、本作はそれをニュートラルかつ創造的な形態生成空間として再定義する。0xC11A05 Engineと呼ばれるプロトコルを基盤としており、鑑賞者はインターフェイスを通じて 「FORM(形態)」を解決し、それを自分のCHAOSトークンへ結びつけるという体験を行う。FORMは単純な抽象形から、人間の輪郭を想起させるもの、あるいは機械の自己言語的な生成物のような図形まで多様であり、それぞれ0xGとKarbornが設計した「ASCII風のグリフ構造」として提示される。そのグリフはパズル的な正当性証明を経て初めて結びつくようになっている。鑑賞者の参加がそのまま作品の成立条件となる、生成=参加=固有化が一体化した新たなジェネラティブ・スカルプチャーである。

Karborn & 0xg – The Chaos Engine: ░▒▓█ #37
38. Kim Asendorf – PXL DEX
Kim Asendorfによる《PXL DEX》は、ピクセルデータそのものを流動・交換可能な資産として取り扱うアート兼プロトコルである。PXL DEXの根幹にあるのは「ピクセル(PXL)=価値単位」という概念であり、ピクセルの集合体として成立するイメージデータを、資産として分解・交換できるようにする仕組みだ。従来、NFT は「作品」という単位で取引されてきたが、PXL DEXはそれを構成要素=ピクセル単位へと分解し得るDEX(分散型取引所)モデルとして展開する。ひとつの作品は複数の「ピクセル資産」の集積として、ピクセルごとに所有・交換が可能となっている。データ表現としてのピクセルは、色・明度・位置という属性を持つ最小単位でありながら、「価値の単位」としても扱われる。ピクセルをアートの最小単位であると同時に、価値単位と見なすこの試みは、デジタル・アートと経済の境界を再定義するものと言えるだろう。

Kim Asendorf – DECK 240
39. Primavera De Filippi – Arborithms
Primavera De Filippiの《Arborithms》は、《Plantoid》の進化形として登場したブロックチェーン上の生命体群。各Arborithmはデジタル上の「木」として表現され、その遺伝情報(DNA)はトークンIDに組み込まれたユニークな遺伝子配列として符号化されている。スマートコントラクト上のJavaScriptコードにより、そのDNAから枝ぶりや樹幹の太さ、葉の付き方といった特徴が3Dビジュアルとしてオンチェーンで生成され、まさにブロックチェーン上に芽吹く仮想の森を形成している。Arborithmsの最大の特長は「繁殖」という概念を導入したことである。2つの親となる樹木NFTを所有者が交配させると、新たな子NFTが生成され、親の遺伝子を受け継ぎつつ突然変異による新特徴を持つ「子樹」が生まれる。さらに巧妙なのは、各樹は繁殖を一度完了するまで譲渡できない仕組みになっており、コレクターは単なる投機家ではなく「育てる者(Cultivator)」として関与せざるを得ない点である。繁殖が行われるたび、親木の所有者には報酬としてETHが支払われ、その額は繁殖回数に応じて増加する。これにより人気の親ほど次第に繁殖コストも上昇し、多様な組み合わせを探索するインセンティブが働く生態系が構築されている。こうした設計は、NFT収集を「育種ゲーム」へと転換し、進化を促す競争と協調の場を生み出した。

Primavera De Filippi – Arborithm #1742494972966450013521923435508751035807433992
40. FelixFelixFelix – KALEIDOSCOPE OF ORCHESTRATED DISSONANCE
https://superrare.com/artwork/eth/0x73469b3f8b9DEb8dC15724Dee8919Aac98605782/0
FelixFelixFelixの《KALEIDOSCOPE OF ORCHESTRATED DISSONANCE》は、参加者の協調と不協和によって形態が変化する対話型作品。この作品は最大16人の「視点」を同時に受け入れ、オークション入札者が自身の視点となるカメラ位置を自由に操作・固定できるインタラクティブアートである。全員が動かす視点に応じて、共通のビジュアル(例えば抽象的な万華鏡映像)が刻一刻と断片化・再構築され、その様は複数の人間が同一ネットワークを「漂流する」様子を思わせる。作品内では過半数の視点が同時に「ロック(固定)」されると1つの画面状態が確定し、その瞬間のイメージがEditionとしてミントされ、ロックに貢献した全員にNFTが配布される。ミントが行われると視点はリセットされ、再び動的な協調過程が始まる。人間参加者の決定が全体像を変え、合意が得られた刹那にだけ美しい調和が現れる様は、制御不能なネットワークにおける人間の役割と可能性を暗示している。

FelixFelixFelix – KALEIDOSCOPE OF ORCHESTRATED DISSONANCE
41. tokenfox – Byteform
https://superrare.com/artwork/eth/0x3D3Be9ED59622202cAA06B8B5CDf3fE1AD933240/0
tokenfoxの《Byteform》は、ミニマルなスマートコントラクトを造形の最小単位(プリミティブ)として捉える思想に基づいた「創発的キャンバス」。独立したコントラクトBYTEとFORMが存在し、その二つの相互作用によって作品が成立する。BYTEは所有を表現するための最小限のスマートコントラクトであり、0から255の範囲にある単一のbyte 値を「所有・保持・移転」する機能のみを持つ。一方FORMは「選択」を表現するためのミニマルなコントラクトであり、ウォレット所有を通じて0〜255のbyte 値を自らの表現として指名することを可能にする。BYTEによる所有値が FORMを介して「意図」として解釈され、それがカリグラフィー的で墨のようなデジタルストロークによって、構造化されたキャンバス上に描出される。BYTEとFORMはキャンバスから独立した、停止不可能なオンチェーン・アプリケーションであり、その相互作用を反映するキャンバスもまた永続的に変化し続ける。Byteform は、不可視の層を含んだ生成的構成を通じて解釈の余地を開きながら、人間の意図を構造的・言語的・視覚的形態として顕在化させる試みである。

tokenfox – Byteform
42. producedbydav – CONTACT
https://superrare.com/artwork/eth/0x69B2D2AA0274CB21A3a80c0e53C84de551e97390/1
producedbydavの《CONTACT》は、オンチェーン音楽の生成と所有者参加型のパフォーマンス性を融合させたダイナミックNFT。リアルタイムに音楽とビジュアルが変容するインタラクティブな仕掛けを持つ。作品の最終落札者が作品の共同制作者となるシステムで、コレクターが特定の操作やデータ提供を行うことで、楽曲の構成や作品の状態が変化し続けるよう設計されている。タイトルの「CONTACT」が示す通り、本作はアーティストとコレクター、さらには作品自体との能動的な接触を通じて生命を維持する。人間が関与し続けることで楽曲は鳴り続け、もし誰も触れなければ音も止むかもしれないというその在り方は、作品と鑑賞者の新たな関係性を提示している。

producedbydav – CONTACT
43. Yigit Duman – PUSH4
https://superrare.com/artwork/eth/0x00000063266aAAeDD489e4956153855626E44061/0
Yigit Dumanによる《PUSH4》は、モダニズム絵画の名作Barnett Newmanの《Onement I》をデジタル化し、プログラム的なプロトコルとして再解釈した作品。画像内の375個のピクセルはそれぞれ、Ethereumブロックチェーン上の関数として存在し、カスタムGPUツールを用いてマイニングされる。このツールは、関数名を総当たり方式で抽出し、4バイトのセレクタハッシュが必要な色データと正確に一致するまで処理する仕組みとなっている。タイトルの「PUSH4」は、EVM(Ethereum Virtual Machine)における4バイト・セレクタをスタックに積む基本命令への言及であり、作品が純粋にブロックチェーンの計算原理そのものを素材としていることを示す。見る者は単に絵としての整合性を享受するだけでなく、コードと絵が同一の存在としてブロックチェーン上に成立するという体験に触れることになる。それは「見る」と「実装する」という二つの認知行為を同一線上に置く作品といえる。

Yigit Duman – PUSH4
44. Nahiiko – The Pond
https://superrare.com/artwork/eth/0x22FEA2F6b2154859630011d9A38648171CA0D972/1
Nahiikoの《The Pond》は、入札者の関与履歴を作品自体に刻み込む作品。この作品ではオークション中の各ビッド(入札)行為がリアルタイムに記録され、そのたびに池に蓮の花が1輪ずつ浮かぶようにビジュアルが更新されていく。つまり全入札者が作品内に痕跡を残すため、最終的に落札者だけでなく参加した全員が「作品の一部」となる仕掛けとなっている。造形的には静謐な水面に浮かぶ蓮池という静謐なイメージだが、その背後には入札の熱狂という人間の営みが暗示されている。ブロックチェーンの不変性をポジティブに捉え、投機的競争をも創作プロセスに取り込んだ「欠席者なき共同作品」。

Nahiiko – The Pond
45. Nahiko – MONEY
https://verse.works/series/money-by-nahiko
Nahikoによる《MONEY》はアーティストの生活に不可欠なMONEYをテーマにした作品。ブラウザで開くと壊れた墓石に腰掛けた顔のない人物の画像と「MONEY」ボタンが表示される。ボタンを押すとCAPTCHAで歪んだ「money」の入力を求められ、入力後に印刷ダイアログが現れる。キャンセルするとビープ音とともにページ構造が改変され、「MONEY」だらけのポップアップウィンドウに埋め尽くされていき、最後にはプレーンテキスト「MONEY」だけが残る。画像データにはステガノグラフィーで「MONEY」のバイト列が埋め込まれ、HTML/JSコードやスマートコントラクトのソースにもあらゆる箇所に「MONEY」が仕込まれている。Nahikoはこの偏在する言葉自体を作品と位置づけ、「オムニポエム」と称している。単一の語をコード・マークアップ・画像・データ・ブロックチェーンといった異なるレイヤーに浸透させ、デジタルの内側が互いに異なる原理で動いていることを暴き出し、コード詩の概念を拡張して各メディウム固有の言語性を浮き彫りにした作品である。

Nahiko – MONEY
46. Zeroichi Arakawa – BUGCAT
Zeroichi Arakawaによる《BUGCAT》は、スマートコントラクト言語Solidityで書かれたコード詩で、イーサリアムの重大な脆弱性を題材とした作品。実在する5種の脆弱性をそれぞれネコの姿にかたどった最小限の実行コードとして実装し、各事件の該当コントラクトのアドレスを参照して検証している。ブロックチェーン上だけで成立する生きた詩であり、予期せぬ挙動を示すネコたちの構造美は単なる「アルゴリズムの美」に留まらない。ReentrancyCatでは資産を再帰的に流出させ、OverflowCatでは整数オーバーフローにより無からトークンを生成してしまう。いずれのネコも単体ではハックは起こらず、コードを読み特定の操作を行う利用者がいて初めて不具合が発現するため、「読む」こと自体が作品の作動条件となっている。高度に複雑化し不透明になりがちな現代の技術システムに対する一種の批評として、バグをあえて作品内に組み込みその解読を促すコード詩である。

Zeroichi Arakawa – BUGCAT Codex #1
47. Takens Theorem – Private Ledger
https://takenstheorem.github.io/private-ledger/
Takens Theoremの《Private Ledger》は、ブロックチェーンの公開性に対し「秘匿された個人情報」を組み込むことで、プライバシーと表現の両立を試みた実験的作品。所有者はこの作品に対し、自身のメッセージをゼロ知識証明としてエンコードし、その証明のみを作品に刻むことができる。作品のビジュアルやオンチェーンデータには「何らかの秘密が正しく記録された」という証拠だけが示され、実際のメッセージ内容は所有者にしか分からない仕掛けになっている。鑑賞者には単なる抽象ビジュアルとして映るが、所有者にとっては極めてパーソナルな物語の断片が封入されている。不特定多数に開かれたネットワークであっても、個人の物語や想いを秘めたまま共有できる可能性を指し示す、デジタルプライバシーの詩的解釈とも言える作品。

Takens Theorem – Private Ledger
48. diid – a place found.
https://careers.superrare.com/artwork/eth/0xcf2bF523f1FCb1aA9e9896E56F097AADC9087c5e/1
0xdiidによる《a place found.》は、フルオンチェーンで実装された映像作品で、そのデータ量は10.1MBにも及ぶとされる。ガス最適化を極限まで追求し191回のトランザクションに分割してメインネットにアップロードされたこの作品は、Ethereum上で最も巨大なオンチェーンNFTの一つとなった。映像は、断続的に切り替わる複数のシーンによって構成され、情報が重なり合い、焦点が奪われ続ける感覚を描き出す。この構造は、現代において常に新たな役割や課題に晒され続ける状態を映像的に翻訳したものである。オンチェーンという不可逆な基盤の上に、断片的で不安定な時間感覚を定着させることで、本作は技術的偉業であると同時に、個人的で内省的な映像の記録となっている。

diid – a place found.
49. ripe0x – Here, for Now
ripe0xによる《Here, for Now》は、ネットワーク上における「存在」と「参加」の意味を問い直す実験作。鑑賞者は任意の量のETHで参加でき、退出時には引き出すことができる。参加者の関与によってリアルタイムに状態が変化し続ける「生きたネットワーク型アートワーク」であり 、参加者は作品内で能動的に何かをするというより、その空間に「ただいる」こと自体が作品の一部となる仕掛けになっている。派手なインタラクションはなく「閲覧し共にいる」ことが鑑賞行為となる本作は、可視性や瞬発的な反応がもてはやされるソーシャルメディア文化へのアンチテーゼでもある。所有者はトークンを介してその継続的変化に参加できる。「目に見えない静けさ」に価値を置いた詩的作品。

ripe0x – Here, for Now
50. ripe0x – LESS
ripe0x による《LESS》は、「引き算」をコンセプトとしたネットワーク生成アート/トークンプロジェクト。$LESSトークンがマーケットで購入されるたび、その一部は自動的にプールへと送られ、ETHが少しずつ蓄積されていく。このプールは単なる保管庫ではなく、「減少」を引き起こすためのトリガー装置として機能する。蓄積されたETHがあらかじめ設定された閾値に到達すると、システムは自律的に $LESSトークンを市場から買い戻し、即座にバーン(焼却)を実行する。ここで重要なのは、価格上昇や供給調整といった金融的効果そのものよりも、「増えたものが、必ず減らされる」という構造が不可逆的に組み込まれている点である。参加者が増え、取引が活発になるほど、最終的には供給が削られる方向へと力が働く。バーンが発生するたび90分のミントウィンドウが開き、そのタイミングでNFTをミントできる。生成されるビジュアル自体は、ripe0xが得意とするミニマルな抽象表現で、シンプルな形状や線、空白の巧みな配置によって「より少ないことはより豊かなこと(Less is More)」を体現するデザインとなっている。

ripe0x – LESS 990
51. Joe Pease – zero dollar man
Joe Peaseによる《Zero Dollar Man》は、ギャラリーNguyen WahedがArt Basel Miami Beach 2025のZero 10セクションにて発表した作品。単一のスマートコントラクト内に複数の映像状態を埋め込み、確率的なトリガーによってその出現が変容する仕組みを持つ。作品の本質は、「Zero Dollar」というタイトルが示す通り、価格やコントロールを超えた存在性の表現にある。スマートコントラクト内部には二つの異なる映像が格納されており、誰でもガス費を支払ってインタラクトすることができる。その結果、50/50の確率でどちらの映像が再生されるかが変動し、鑑賞者自身が予測不可能な体験へと関与する仕組みとなっている。Peaseの制作スタイルは、日常的な都市空間の映像を反復的・重層的に編集することにより、ありふれた現実が異様かつ詩的な光景へと変容する感覚を生み出す点に特徴がある。Zero Dollar Manも同様に、映像の重層性と循環的なループが、スクリーンの奥行きと時間の連続性を鋭く可視化する。鑑賞者の関与を惹きつけつつ、変化し続ける時間の感覚そのものを再構築する試みである。

Joe Pease – zero dollar man
52. Jan Robert Leegte – Wanderer
Jan Robert Leegteの《Wanderer》は、アルゴリズムにより現実世界の地図上を永遠に彷徨い続けるという自律的作品。感情と偶然に導かれて都市環境を漂流する行為であるシチュアシオニストの「漂流」の概念をデジタルに再解釈し、人間ではなくサーバーロジックとブロックチェーン取引によって動くフラヌール(散策者)を表現している。WandererはOpenStreetMap上をランダムに歩くサーバープログラムで、各交差点で0TIAのトランザクションを自己送信し、そのハッシュ値を次の進路の乱数として用いる。こうして生成された旅路はすべてブロックチェーンに不変に記録され、同時にウェブ上の地図とテキストでリアルタイムに可視化される。観客やコレクターは地図上の任意の交差点を選んでミントでき、その場所のナビゲーション詩と図形からなるオンチェーンSVG作品を得るという仕組みとなっている。都市を彷徨う詩的AIの足跡は、Leegteが提示するデジタル時代の「現代の放浪者」の肖像である。

Drift Log #517
53. Jan Robert Leegte – Walled Garden
https://walledgarden.leegte.org/index.html
Jan Robert Leegteによる《Walled Garden》は、ネットワーク環境と観察行為の関係を視覚的・概念的に再構築したジェネラティブ作品である。作品は直径 20メートルのデジタル庭園という仮想環境を中心に据え、豊かな樹木や草、繁茂する植物を囲む高い壁とともに、風に揺れる葉や太陽・月の動きが時間とともに変化するプロシージャル空間として構成されている。この作品の重要な特徴は、150のランダムに配置された窓が壁に穿たれている点である。NFT コレクションの各トークンはこれらの開口部のひとつに対応し、固定された視点(vantage point)として庭園の内部をフレーム化する。つまり同一の環境を共有しつつ、各コレクターは異なる視点からこの庭園を「見る」ことになる。視点の差異は作品生成のバリエーションではなく、観察者の位置そのものが生成要素となる仕組みであり、それは観者が作品の一部となることを意味する。Leegte は本作を通じて、ネット空間における「見ること」と「見られること」という二重の感受性を同時に立ち上げる実験を行なっている。観察者が観察される関係そのものを作品の中心に据えることで、オンライン・コレクションの共有体験を新たな美学へと昇華している。

Jan Robert Leegte – Walled Garden #75
54. ZeroContract Artist Studio – MATERIALS OF ABUNDANCE
https://objkt.com/collections/KT1TdaF7yUws1b5XosvNtoDPci98UKpmbDoy?sort=timestamp:asc
ZeroContract Artist Studioによる《MATERIALS OF ABUNDANCE》は、 28人の参加作家の作品を「生の素材」として再構成することを通じて「豊穣」のイメージを探る作品。数百万ものピクセルを抽出し、それをペアにして融合し直すという生成過程により、自然や産業、さらにはその両者が結びつき、時に適応不全的な結果を生むイメージへと再構成される。こうした融合は単なる混色ではなく、元作品の色調や構造を「素材」として尊重しつつ、相互作用や対比を資源として用いる方法論として設計されている。生成された各イメージは1,000×1,000 ピクセルのJPG形式で、Tezos上にZero Unboundを使用してフルオンチェーンでエンコードされている。収益の一部は素材となった作家たちに分配される仕組みが組み込まれた。

takenstheorem – MATERIALS OF ABUNDANCE
55. Material Protocol Arts – Absence
https://material.work/collection/absence
Material Protocol Artsによる《Absence》は、人為的な「忘却」とデジタルメモリーの相互作用をテーマにした実験的作品。通常は見えないシステム(記憶、労働、ケア、保存)があえて緩慢かつ不完全に機能する状況を作り出し、何が欠落し消えてゆくのかを観察する「圧力下の記憶実験」として設計されている。ギャラリー空間では 6×6 のガラス瓶に生けられた一輪のシャクヤクの列が展示され、時間とともに花が枯れてゆくプロセスそのものが「時間の経過」として視覚化された。この生花インスタレーションは、鑑賞者が日々変化を見守る行為と重ね合わせられ、存在と消失の予感を身体化する装置として機能した。物理展示が終了した後、参加者は QR コードによってデジタル・インターフェイスにアクセスできる。そこに表示されるのは32×32の仮想の花のグリッドであり、各参加者は日々訪れることで自身の花を徐々に露わにしてゆく一方、忘れれば一部が恒久的に隠されたままとなる。鑑賞者と作品の関係性が記憶として蓄積・欠損していく様の可視化を試みたプロトコル作品である。

Material Protocol Arts – Absence #5
56. 0xdeafbeef – Historic Event
https://deafbeef.com/historicevent/
0xdeafbeefによる《Historic Event》は、物理的なジャンクや破片を用いたストップモーション・アニメーションを、Ethereumブロックチェーンの時間とリアルタイムで同期させるという独自の仕組みによって成立させるシリーズ。本作の根幹となるのは、「時間をブロックチェーン上に固定すること」いう視覚的かつ技術的な試み。制作プロセスは次のように進む。まず、アニメーション用の物理的な素材(ジャンクや破片)を用意し、それを少しずつ動かしながらストップモーション撮影を行う。この撮影は通常のフレーム単位ではなく、Ethereumの新たなブロックが生成される約 12 秒ごとに一コマずつ進行する。各フレームは撮影後すぐにSHA-256でハッシュ計算され、そのハッシュ値がEthereumのトランザクションとして記録される。この仕組みによって、各フレームがそのブロック内にキャプチャされたことが暗号的に証明され、時間的に固定されるのである。デジタルと物理、時間と存在を交差させるパフォーマンス的生成アートであり、ブロックチェーンを単なる保存技術ではなく、時間そのものを可視化し、刻印する装置として用いることで、現代における「歴史的事象」の新たな定義を提示している。

0xdeafbeef – Historic Event #2
Conceptual & Social Criticism
57. Lauren Lee McCarthy – Goodbye
https://good-bye.lauren-mccarthy.com/
Lauren Lee McCarthyによる《Good Bye》は、死後にしか開封・譲渡できないイメージと秘密のメッセージからなるNFTシリーズ。全81点の図像は米国女性の平均余命年数にちなんでおり、作家の死後にブロックチェーン上の認証者らが死亡を確認することで初めて隠されたメッセージが明らかになる。手描きのアートワークをもとにカスタムソフトで生成された図像には墓石の意匠や人体のモチーフが織り込まれ、人生と死、そして高度にシステム化された現代社会を象徴的に描き出した。McCarthyはこれまでも、監視、ケア、委任、信頼といった人間関係の構造を、テクノロジーを通じて可視化する実践を続けてきた。《Good Bye》もその延長線上にあるコンセプチュアル作品であり、生と死という究極の個人的出来事を、制度・契約・検証の対象として差し出すパフォーマンスである。

Lauren Lee McCarthy – Goodbye #56
58. Yoshi Sodeoka – 21.000
https://verse.works/series/21-000-by-yoshi-sodeoka
Yoshi Sodeokaによる《21.000》は、大型インスタレーションとNFT作品である。作家が10年分にわたり撮影してきた太陽の映像が黄金比グリッドと数式のメモが書き込まれた壁面に投影され、幾何学的秩序と手描き線が静かな緊張感を生み出している。空と鳥の映像が別スクリーンに浮かび、多層的なイメージの庭が現出する様は、計算と即興、人間の痕跡が同じ空間に共存することを示している。デジタル制作過程のレイヤーをフィジカルな空間で可視化することで、スクリーン内に隠された構造をあぶり出すことを試みる作品でもある。東京のNEORT++ギャラリーで展示されると同時に、Verseプラットフォーム上でインタラクティブなインストール指示を含んだ1点ものの作品として販売された。

Yoshi Sodeoka – 21.000
59. terra0 – Autonomous Forest
《Autonomous Forest》は、terra0コレクティブが提唱する「自己主権的な森」のコンセプトを現実化したランドアート作品。2025年、初めてドイツの森林がDAO(自律分散組織)によって管理される試みとして発表された。このプロジェクトではNFTが森の区画を表象し、トークン保有者はDAOの議決権を得て共同で森林保全の意思決定を行う。スマートコントラクトによる権利移譲と投票制度によって、森は自律的に資金を蓄積し土地を取得するよう設計され、人間は「協働者」として森の意思を支える立場に置かれる。芸術作品であると同時に、資本主義的所有概念への批評であり、自然生態系への新たな関与モデルでもある。ブロックチェーン技術により共有「所有」される森は、芸術、法、技術の交差点に生まれた新たな生命体であり、人間と自然との関係性の再構築を問いかけるプロジェクトである。

terra0 – Autonomous Forest #155
60. SHL0MS – SECURITY
https://verse.works/series/security-by-shl0ms
SHL0MS による《SECURITY》は、経済的な意思決定と投機行動を観察可能なアートとして制度化したプロトコル作品。もともとは 2024年に、FriezeやArt Baselといった主要アートフェアの外に違法駐車されたバンで、指数関数的に増加するボンディングカーブに沿って価格が変動する「紙の証明書」を提供するパフォーマンスとして始まった。このパフォーマンスをデジタル空間の証明書としてトークン化し、その価値をブロックチェーン上でリアルタイムに取引することが可能となった。従来の作品が固定的な価値を帯びるのに対し、本作では価値はあくまで マーケット参加者の投機心と皮肉的な関心によってに集合的に決定される仕組みである。ボンディングカーブ自体が作品の中核メカニズムであり、指数関数的に価格が変動する構造が、投機的バブルや市場の不安定性そのものを表現している。作品価値は売買のタイミング、参加者間の行動、そして集団としての価値判断によって動的に成り立ち、その変動こそが作品体験の中核となっている。

SHL0MS – SECURITY #95
61. Rhea Myers – The Fractionalized Phallus
Rhea Myersによる《The Fractionalized Phallus》は、ベルリンのNagel Draxlerにて開催された個展およびイーサリアム上のNFTコレクションとして発表された作品。作家自身の性別適合手術前の肉体の一部を3Dスキャンし、そのデータを断片化した複数のNFTとして鋳造・販売するという大胆な試み。もはや自らの所有物ではなくなった身体の一部をデジタル資産化し、ジェンダーが固定不変という暴力的な幻想に対抗する寓意的な行為として位置付けている。また、この断片化された身体の一部を市場に流通させ売買可能な商品とすることにより、国家や権威による性別の強制的な二元化への痛烈な皮肉を込めた。最もパーソナルで不可侵と思われる身体の一部さえNFTマーケットで細分化され取引され得るというアイロニーは、NFTが本来何でも資産に変える技術であることを暴露すると同時に、身体性・アイデンティティの流動性を肯定するテクノフェミニズム的メッセージとなっている。各NFT断片はGLB形式の3Dモデルとして表現され、全30点が発行された。クリプトアートにおける身体性と所有の問題を深く突き詰めた作品。

Rhea Myers – The Fractionalized Phallus: Fragment 1
62. Libby Heaney – Qlimates
https://verse.works/series/qlimates-2025-by-libby-heaney
Libby Heaneyによる《Qlimates》は、量子コンピューティングを用いて映像と音響を生成的に加工し、量子技術がもたらしうる未来の気候シナリオを描く映像作品。リビー・ヒーニーは5量子ビットの量子もつれパターンに着想を得て、レイヤー状に変容するビジュアルとサウンドを制作し、量子的な非線形時間を美学として提示した。複数の可能世界が重ね合わされた不穏かつ美しい映像表現によって、過去・現在・未来が交錯する複雑な時間のレイヤーを提示し、テクノロジーと環境の新たな関係性を示唆する。

Libby Heaney – Qlimates
63. Beeple – Regular Animals
https://regularanimals.ai/index.html
Beepleによる《Regular Animals》は、Art Basel Miami Beach 2025で発表された10体の半自律型のロボット彫刻群で、アンディ・ウォーホルやパブロ・ピカソ、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾスなど現代文化の「巨人」たちの顔を持つ犬型ロボットが会場内を徘徊するという作品。シリコン製の頭部は不気味なまでにリアルに造形され、愛らしさと不気味さの境界を突く存在感を放つ。各ロボットは高度なセンサーとAIモビリティを搭載し、自律走行しながら周囲の写真を撮影し、それを対応する有名人の作風風にリアルタイム変換して表示するなど、鑑賞者を巻き込む対話型アートとなっている。さらに寿命がプログラムされており、各ロボットは約3年間動作すると停止する設定で、生と死の概念も織り込まれている。Zero 10デジタルセクターの目玉展示として最も話題をさらい 、現地では「最も注目を集めたインスタレーション」と評された。

Beeple – Regular Animals
64. Mika Ben Amar – https://internet.flowers
https://internet.flowersは、Mika Ben Amarによるデジタル・ガーデン作品であり、インターネットでの行為そのものから素材を抽出する実験的 シリーズ。このプロジェクトでは、作家自身が開発した Chrome拡張機能を用い、日常的に訪問するウェブサイトを自動的にスキャンする。ページ上に花の画像が存在すると、拡張機能内のAIモデルがそれを検出し、花部分をクロップして保存する仕組みになっている。そして収集されたすべての花のイメージは、作品群としてひとつの「デジタル庭園」に追加されていく。花は単なる視覚象徴ではなく、作家の「個人的なブラウジング履歴そのものの断片」である。ブラウザ履歴は本来プライバシーとして扱われる情報であるが、Ben Amarはそれを意図的に漏洩・交換するプロトコルとして機能させることで、個人データの扱われ方、自動収集される情報の在り処を可視化し、批評的に提示した。作品群はERC-721トークンとして111点が発行され、それぞれがウェブから収集された「花束」という形式でNFT化された。

Mika Ben Amar – https://internet.flowers/bouquet075.jpg
65. Jake Elwes – DoomScroll
https://www.jakeelwes.com/project-doomscroll.html
Jake Elwesの《DoomScroll》は、誰もが経験するあの「悪い知らせばかり延々とスクロールしてしまう」行為を素材に変えた映像・プリント作品シリーズ。Elwesは3時間にわたり自身のSNSフィードを実際に「ドゥームスクロール」し、その画面推移をすべて記録した。そうして取得された大量のスクリーンショットを縦長の帯状プリントに繋ぎ合わせ、一種のタイムライン絵巻物として提示。ビデオ版では、その3時間のスクロール過程が高速再生され、情報の洪水に晒される現代人の眼差しを追体験させる。連続する画像群にはニュース記事、広告、友人の投稿、陰謀論めいた断片など玉石混交のコンテンツが混じり合い、見る者は一見してそこに混沌しか認識できない。メディア消費行動そのものをアーカイブし、美術作品へと昇華することで、現代人の精神風景を批評的に映し出す作品。

Jake Elwes – DoomScroll #1
66. Deborah Tchoudjinoff – The City of Coal
https://verse.works/artworks/d74c86db-c291-4534-80c9-87bbcc108de4
Deborah Tchoudjinoff による《The City of Coal》 は、地質学的スケールと人間社会との関係性をデジタル空間に展開する試み。スーパーコンチネント(超大陸)の形成と分裂に着想を得て、それぞれが鉱物資源を生み出した歴史を反転させ、天然資源がもはや存在しない世界を想像するというコンセプチュアルな視座から、タイトルどおり「Coal(石炭)」というかつて重要だった資源を巡る寓話を描き出す。石炭に象徴される資源は、かつての地殻運動や堆積作用を経て形成されたものであり、その消失後の都市のあり方を描くことで、資源依存型文明がいかに成立し崩壊するかを示す。映像は直接的なドキュメンタリー表現ではなく、未来の風景としての物語性とアトモスフェリックな空間描写が特徴であり、鑑賞者は現代の制度や環境認識を、時間の尺を飛び越えて俯瞰することを余儀なくされる。Tchoudjinoff の作品はしばしば素材と記号の関係を探るが、本作では「Coal(石炭)」という物質が失われた後に生まれる象徴的意味を丁寧に解体することで、資源と人間の共犯関係、そして地球の記憶そのものに対する問いを喚起している。

Deborah Tchoudjinoff – The City of Coal
67. emilio.jp – Finder Files
https://verse.works/series/finder-files-by-emiliojp
emilio.jpによる《Finder Files》は、Mac OSのデスクトップ上で日常的に行われるウィンドウ操作を詩的で抽象的なビジュアルへと再構築するシリーズ。過去作「Macintosh lab」のコンセプトを発展させ、AppleScript(Macの自動化言語)によってウィンドウの開閉・移動などの操作をプログラム的に制御し、動的かつ複雑な画面構成を生成している。一見無機質に思えるインターフェース上の動作が色彩やリズムを伴う映像詩のように立ち現れ、デスクトップは隠された美を映す窓へと転じる。何気ない「開く」「閉じる」「スクロールする」といった操作を美しい視覚体験へ昇華する本作は、テクノロジーのニュートラルな外観を問い直し、新たなコンピューティング美学を提示する意欲作である。

emilio.jp – Finder Files: Rainbow Raining
68. Steve Pikelny – Proof of Burn
Steve Pikelnyのプロジェクト《Proof of Burn》は、物理的な貨幣焼却とブロックチェーン上のトークン発行を組み合わせるという過激なコンセプチュアル・アート。作家自身が現実の米ドル紙幣を焼却し、その額面価値に見合うERC-20トークン「bUSD」を新規発行する。参加者は紙幣を持参して焼却の様子を立ち会う代わりに、同額のbUSDトークンを受け取る。この一連のプロセスによって、法定通貨の物質的価値が意図的に破壊され、その「亡霊」がデジタル資産としてブロックチェーン上に宿る。例えば100ドル紙幣が炎に消えると、bUSDコントラクトから100bUSDが鋳造され、その焼却映像のNFTが発行される。この作品は、K Foundationによる100万ポンド焼却事件やDread Scottの「Money to Burn」などの歴史的前例に連なる同時に、デジタル時代ならではの金融実験でもある。PikelnyはニューヨークのNFTイベントで酩酊した観客から資金を募り、数日で目標額を超える現金を集め焼却に成功した。bUSDは安定価値の裏付けを「焼失した現金」に求める逆説的なステーブルコインとも言える。資本や通貨の信頼といった概念をアイロニーを込めて浮き彫りにした。

Steve Pikelny – Proof of Burn #0
69. exonemo – Find My – Infinite Computer Theorem
exonemoの《Find My – Infinite Computer Theorem》は、「無限の時間タイプライターを叩かせると、意味のある文章が出現する」という「無限の猿定理」に触発された作品。文字がランダムに組み合わされていき、ある単語が形成されると組み合わせが終了する。Find My SOUL」「Find My SHIT」等、様々な単語を探すバージョンを展開した。本シリーズに先行する1/1作品、「Find My LOVE」では、コンピュータがランダムにキーを叩き続け、いつか”L”,“O”,“V”,“E”の並びが揃う瞬間を待つ。その様子は滑稽でありつつ、人がビッグデータの海から価値や愛を見出そうとする営みへの皮肉とも読める。視覚的にはテキストが無限に連なるシンプルなものだが、裏側ではコンピュータによる機械的な試行が延々と繰り返され、意味が生まれた瞬間にだけ人間が歓喜する。偶然の中にも必然性を見出さざるを得ない、人間という存在への批評性も感じさせるexonemoらしい作品。

exonemo – Find My DATA – Infinite Computer Theorem
70. Wen New Atelier – Hai-Tech
https://verse.works/artworks/f195db77-8f48-4404-981f-0e329a8c43d9/1
Wen New Atelierによる《Hai-Tech》は、俳句や和歌で用いられる伝統的な語彙と、テクノロジー領域の漢字語を無作為に組み合わせ続ける作品。生成された語は一見無意味だが観る者に新たな意味を想像させ、このプロセスをひたすら繰り返す。無作為な単語生成自体は目新しくないものの、生成プロセスそのものを現代的な時間感覚で提示した点に独自性がある。また、多言語環境で育ったKalen Iwamotoの言語アイデンティティ探求という側面もあり、漢字選択や翻訳に時折感じる微かな違和感が日本語における「当たり前」の感覚を揺さぶる。

Wen New Atelier – Hai-Tech #1
71. Wen New Atelier – Data Waves in the Rising Sun
https://verse.works/series/data-waves-in-the-rising-sun-by-wen-new-atelier
Wen New Atelierによる《Data Waves in the Rising Sun》は、ヴァージニア・ウルフの小説『波』(The Waves)のテキストをコードで解体・再構築し続ける作品。プログラムは原文から数万字に及ぶ単語をランダムに抽出・増幅し再配置し続ける。生成テキストは約0.2秒ごとに更新され、観者は読む暇もなく変化し続ける文字列の中で単語の残像しか捉えられない。絶え間なく流れ続ける言葉はデジタルの波となり、限られた文章から無限にも思える語の組み合わせを生み出すことで詩的創作へと昇華している。文章生成のプロセスを凝縮し、「文学とは何か」という問いに対する現代的な解答を提示する作品である。

Wen New Atelier – Data Waves in the Rising Sun
72. Art for Humanity Palestine
https://objkt.com/collections/KT1KYLUSh8zWPoN1ebSQ6ehYL6MgdX82uqpX
Art for Humanity Palestineは、2025年9月にTezosプラットフォーム上で開催されたチャリティNFTコレクションおよびオークションイベントで、世界中のアーティストがパレスチナ支援のために連帯し作品を提供。Art for Humanityの主導で企画され、参加作家による作品の売上の50%がパレスチナへの人道支援寄付に充てられた。収集可能な作品群には、デジタル絵画、アニメーション、動画作品など多様なジャンルが含まれ、それぞれが「自由」「希望」「抵抗」などのテーマをクリエイティブに表現している。160名以上のアーティストが、芸術を通じて声なき人々の声を増幅させ、人類共通の感覚を提唱した。

73. Salawaki – Microagressions and Microtransactions
https://objkt.com/tokens/KT1GWhCocY1wEtEviioNXteh3EtZTHVWshwd/45
Salawakiによる《Microagressions and Microtransactions》は、モバイルゲームに内在する静かな圧力について批評的に描いた短編映像作品。スマートフォン向けゲームの断片的なプレイ映像やゲーム内広告、反復するタップ操作のループなどを組み合わせることで、現代人が日常的に晒されるソフトなストレスを表現している。プレイヤー体験を誘導する巧妙な課金設計や、知らぬ間に消費してしまう時間と注意力といった「マイクロトランザクション」の裏に潜む圧迫感を、映像断片のリズムやノイズを通じて可視化する試みである。タイトルの「Microagressions(微小な攻撃)」は社会心理学用語で日常に散在する小さな差別や侵害行為を指すが、本作ではゲーム内広告や誘導的UIなどユーザに蓄積する小さなストレスを指すものとして暗示的に用いられている。objktの特別展「Arcadia: A Journey Through Video Game History」にて15点の映像NFTとして販売された。

Salawaki – Microagressions and Microtransactions
74. Mitchell F. Chan – ZANTAR
Mitchell F. Chanによる《ZANTAR》は、ゲームとしての体験と経済システムの批評を同時に成立させる寓話的メディアアート。作品そのものは「ゼラチン状の立方体」として描かれるプレイヤーキャラクターを操作するゲームであり、その立方体が村人や戦士を次々と捕食し、架空の仮想通貨「ビービーコイン(BB Coin)」を獲得していくという仕組みを持つ。単なる娯楽としてのゲームではなく、アテンション経済や搾取、主体性の幻想を構造的に表現するインタラクティブ作品として設計されている。主体性が幻影に過ぎないという現代の注意資源の循環構造を反映しており、プレイヤーが能動的に操作しているつもりでも、システム全体に乗せられた経済の論理と搾取の機構に巻き込まれていく体験となっている。ゲーム、ブロックチェーン、文化批評が交錯し、鑑賞/プレイ行為そのものが作品領域へと変容する試み。

Mitchell F. Chan – ZANTAR
Discrete Aesthetics
75. Spøgelsesmaskinen – Loop Theory
https://objkt.com/collections/KT1RLwXr8Z5uPb3vGqcVS7aBH7c5Rx7R1XmZ
Spøgelsesmaskinenの《Loop Theory》は、64×64ピクセルの極小ディスプレイ空間に数学的螺旋の動態を封じ込めたシリーズ作品。Pythonによる生成コードを用い、さまざまな螺旋パターンがアニメーション化されており、それぞれが自然界に潜む「神聖幾何学」の法則性を象徴する。ミニマルなピクセル表現ながら、黄金螺旋など古典的形態がデジタル空間で振動する様は、古代の普遍的秩序と現代のアルゴリズム的秩序の交差を想起させる。自由奔放な幾何学の詩を、制約あるピクセルグリッドで表現することにより、デジタル技術がもつ無限性と神秘性とを静かに描き出した。

Spøgelsesmaskinen – Protein
76. John Provencher – Dungeoneer
https://feralfile.com/explore/series/dungeoneer-sfs?viewMode=Grid
John Provencherによる《Dungeoneer》は、いわゆる「Can it run Doom」というゲーム文化のミームに触発され、自律的に迷宮を歩むプログラムを作品化したもの。一人称視点のNPCが無限に続くダンジョンを進み、壁に投影されるピクセル化されたイメージが次々と現れては消える様子は、終わりなき探索と記憶の蓄積を象徴する。各作品はリアルタイム映像で構成され、レイキャスティング技法で描画されるサムネールは記憶の断片としてダンジョン内の壁に配置される。Feral FileにてLAN Partyがキュレーションした展覧会「Console Spirituality」で公開された作品。

John Provencher, Dungeoneer (2025) 00void
77. Lorna Mills – Curse Reversed
https://feralfile.com/explore/series/curse-reversed-xfr?viewMode=Grid
Lorna Millsによる《Curse Reversed》は、 Feral Fileの企画展Net Evilの出品作品のひとつ。長年展開してきた GIFアニメーションの実践を引き継ぎつつ、インターネット上に氾濫する暴力的イメージと感情の噴出を、ギザギザのエッジを特徴とするアニメーションモザイクGIFコラージュによって身体的なリズムとして再構成する作品である。Millsはポルノ、動物動画、奇妙な見世物的映像など、ネット由来の断片を切り抜き、鮮烈な色面の上に配置することで知られるが、本作では特に、武器の威力を示すために撮影された弾道ジェル人形の実験映像が素材として用いられている。剣、銃、斧といった武器が全力で振るわれる瞬間、擬似的な肉体は破壊され、血液やジェル、骨片が粒子となって飛散する。Mills はその破片の一つひとつをフレーム単位で切り出し、手作業で配置し直すことで、暴力の瞬間を抽象的な運動と色彩の爆発へと変換する。Curse Reversedは、ネット空間に潜む暴力性を美的秩序へと反転させることで、怒りそのもののエネルギーを可視化する作品である。

Lorna Mills – Curse Reversed
78. RENKI YAMASAKI – Untitled
https://verse.works/series/untitled-2025-by-renky-yamasaki
RENKI YAMASAKIによる《Untitled》は、ドナルド・ジャッドの《Untitled》作品群に着想を得て制作された映像作品。ジャッドが数多く制作してきたサイトスペシフィックな立体作品の寸法体系を参照し、それらをデジタル空間内で再生成することから出発している。ジャッドが追求したのは、物体そのものが持つ物理的なスケールと、空間との直接的な関係性であったが、本作ではその寸法論理がコンピュータ上の座標系へと移植される。画面内で生成される形態は、一定の秩序を保ちながらも揺らぎや破綻を孕み、固定された立体ではなく、変化し続ける空間体験として提示される。この操作によって、ミニマリズムの彫刻的思考とデジタル表現の時間性を接続し、空間を知覚する行為そのものを問い直す試みとなっている。ちなみに本作は単体で完結する作品ではなく、100点以上から成るシリーズの一部として位置づけられている。

RENKI YAMASAKI – Untitled
79. EXCALIBUR – Multinational Landscape Ethereum
https://opensea.io/item/ethereum/0xde221fa51f2df55385e0a26664eb6186dab0131b/13
EXCALIBURによる《Multinational Landscape Ethereum》は、山水画とEthereumブロックチェーン上の実時間データ(価格チャートなど)を重ね合わせたコンセプチュアルなピクセルアート作品。荒々しい山並みのドット絵風景に、Ether価格のリアルタイム変動グラフが表示されており、金融データが風景の一部として組み込まれている。結果として自然の静謐な景色と、人間が生み出した多国籍な経済活動の軌跡とが一つの画面に共存し、異質な要素の対比から独特の美を生んでいる。データを芸術へと昇華し、東西の視覚文化を交錯させるこの作品は、視覚表現としての技巧を光らせながら、現代の「真の風景」はグローバル市場と不可分であることを静かに示唆している。

EXCALIBUR – Multinational Landscape Ethereum
80. Kerim Safa x Kristen Roos – ARCHITYPES
https://objkt.com/collections/exhibitions/projects/architypes-31554770/exhibition
Kerim SafaとKristen Roosの協作による《ARCHITYPES》は、文字・建築・計算機史を横断する視覚実験。特徴であるカラーサイクリングは、初期コンピュータグラフィックスにおいて炎、水、光のきらめきを表現するために広く用いられてきた、固定されたカラーパレット内で色値を高速に循環させることで静止したピクセルに運動の錯覚を与えるという技法。文字はもはや可読性のための記号ではなく、構造体として組み上げられ、色の循環によって脈動し、発光する環境を形成する。その視覚効果により、初期アーケードゲームやデモシーンに見られた画面全体の運動エネルギーを想起させつつ、タイポグラフィを空間的・時間的な存在へと変換する。記号・技術・時間の層を重ね合わせることで、視覚文化の深層にある反復と振動の原理を可視化する作品。

Kerim Safa x Kristen Roos – ARCHITYPES: A
81. Françoise Gamma – INFO BAROQUE (exhibition)
https://accomparts.com/article/interviewfrancoise-gamma-info-baroque
Francoise Gammaキュレーションによる「INFO BAROQUE」は、データと装飾芸術の交差を探るグループ展。データが持つ幾何学的な美とバロック的装飾性をテーマに掲げた。Gamma自身を含む多数の参加アーティストが、データという合理的素材を「オーナメント(装飾)」へと転化させる作品を出品し、情報が美的対象へ変容する過程を浮き彫りにした。展覧会タイトルにある「情報が装飾となる時」という副題どおり、本展はデジタルデータを単なる記号ではなく感性的・象徴的価値を持つものと再認識させる試みである。Francoise GammaはGIFアニメ作品で知られるネットアートのレジェンドであり、その審美眼によって集められた作品群は、理性と装飾、コードとスピリチュアルな象徴の間に新たな対話を生み出した。

Françoise Gamma – INFO BAROQUE