デュッセルドルフのJULIA STOSCHEK COLLECTIONにて、デジタル時代のゲームアートをテーマにしたグループ展「WORLDBUILDING」が開催。

Text=Noriko Taguchi

デュッセルドルフのJULIA STOSCHEK COLLECTIONにて、30組以上のアーティストが参加するデジタル時代のゲームアートをテーマにしたグループ展「WORLDBUILDING」が開催されている。キュレーターはHans Ulrich Obris。

本展示会は、ゲームとタイムベースドアートとの関係性を、メディア考古学の視点から考えようとする試み。作品は、VR、AI、1990年代から現代のゲームアートなど約30点におよぶ。ゲームアートの世界が、大衆化するコンピューターやゲームがアイデンティティ、社会、自律性や、フィジカルとバーチャルとの関係性などについて問いかける。また、各作品は、会期期間の1年半をかけて、アーティストのアイデアとコンセプトをもとにバーチャルとフィジカルを拡張する現実空間を行き来しながら徐々に変化していく。

アーティストが独自のゲームアートを制作し発表できる現代。既存の世界の継承だけではなく、新しい世界を所有できる可能性に触れられるかもしれない。

以下は、以前MASSAGEで紹介した2人のアーティスト、Thomas WebbとTheo Triantafyllidisの作品解説。

Thomas Webb「Worldwide Webb」

ピクセルアートゲーム「Worldwide Webb」は、NFTプロジェクトの統合を目指すメタバースだ。「Worldwide Webb」は2020年にAIとリアルタイムデータによってつくられた仮想世界として始まった。ベルリンのKÖNIG GALERIEで開催された個展では、訪問者はスマートフォンのブラウザから参加でき、希望のない懐かしい世界へ招待された。「Worldwide Webb」は、マルチプレイ、シミュレーションゲーム、デジタル展示スペースであり、Thomas Webbが最も影響を受けたというスピルバーグ監督による名作映画「レディ・プレイヤー1」のように、訪問者が相互作用するアートとキャラクターでいっぱいの世界となっている。Thomas Webbはプレーヤーの感情的、論理的な決定を感知する人工知能アバターをトレーニングし、ゲーム内のキャラクターがリアルタイムでストーリーを変更できるようにした。テクノロジーは時々ディストピアと見なされるが、Thomas Webbの世界のAIの目的は、ユートピアを提供することだった。理論家のMark Fisherは「私たちが未来を考えるとき、過去に戻り続け懐かしさに溺れてしまい、未来は私たちからこぼれ落ち失われている。」と述べている。Thomas Webbは、1980年代のピクセルアートで作られた世界をつくり、過去の魅力を体験できるようにした。このレトロなテクノロジーは、Thomas Webbが近い将来の可能性を想像し、完全に相互運用可能なメタバースを構築し続けるための出発点だった。プレイヤーは、NFT(非代替トークン)として所有するPFP(プロフィール写真)で参加できる。NFTの経済は現実世界の上に成り立っている。プレーヤーはNFTを売買したり、ゲームをプレイすることでNFTを獲得することもできる。Mark Zuckerbergがメタに対するビジョンを語った時「機能するメタバースの構築を支援するために、何千人もの『クリエーター』に呼びかけ、彼らがそうすために支払われることを約束する」と、Dean Kissickはニューヨークタイムズに書いた。Thomas Webbはこれを実現し、誰もが住むことができる機能的な仮想世界を構築したのである。

Theo Triantafyllidis「Pastoral」

「Pastoral」(2019)は、Theo TriantafyllidisによるVR(バーチャルリアリティ)インスタレーションの3D作品。プレーヤーはゲーム内の広大な干し草畑の中央に立ち、ゲームコントローラーまたはキーボードのゲームナビゲーションキーを使って、ビキニを着たハイパーボディでハイブリッドジェンダーのオークキャラクターを操作する。彼の他の作品でもアバターとして登場する過剰なほど筋肉質なキャラクターは、大衆文化で描かれるオークとは異なる。他のバーチャル作品では、オークは巨大で恐ろしい存在で、鋭い嗅覚を持った強靭なハンターが退治に向かう。オンラインファンタジーゲーム「WorldofWarcraft」のような大規模なオンラインロールプレイングゲームによくある設定だ。しかし、Triantafyllidisのオークはほぼ裸で、腰のビキニの高さほどある干し草畑を通り抜け、牧歌的で豊かな場所を探索する。プレーヤーは、ハイブリッドジェンダーのオークの穏やかな一面から、オークの孤立と物理的現実の中間を体験する。本作品は、戦闘やバックストーリーを取り除きゲームの要素をなくすことで、プレーヤー自身の想像力で空間を満たすことができる作品となっている。

LuYang, The Great Adventure of Material World, 2019, video game and 3-channel video installation, 26’22“, color, sound. Courtesy of the artist and Société, Berlin.

Sturtevant, Pacman, 2012, HD video, 1′15″, color, sound. Video still. © Estate Sturtevant, Paris. Courtesy Galerie Thaddaeus Ropac, London/Paris/Salzburg/Seoul.

The Institute of Queer Ecology, H.O.R.I.Z.O.N. (Habitat One: Regenerative Interactive Zone of Nurture), 2021, videogame, infiniteduration, color, sound. Courtesy of the artists. Concept & Production: Nicolas Baird, Raphaëlle Cormier, Ceci Moss, Lee Pivnik, Jake Sillen; 3D Modelling & Sound Design: Valerie Caputo; Soundtrack: Mechatok. Commissioned by the Solomon R. Guggenheim Museum, New York, as a form of public programming for Countryside, The Future.

展示会基本情報
展示名: WORLDBUILDING – Gaming And Art In The Digital Age

会期: 2022年6月5日(土) ~2023年12月10日(土)

開館時間: 日曜日 11:00~18:00

会場:
JSC Düsseldorf
Schanzenstrasse 54
40549 Düsseldorf
www.jsc.art./

入場料: 無料

キュレーター: Hans Ulrich Obrist

参加アーティスト:
Larry Achiampong & David Blandy
Peggy Ahwesh
Rebecca Allen
Cory Arcangel
Ed Atkins
LaTurbo Avedon
Meriem Bennani
Danielle Brathwaite-Shirley
Cao Fei
Ian Cheng
Harun Farocki
Basmah Felemban
Ed Fornieles
Sarah Friend
The Institute of Queer Ecology
JODI
Rindon Johnson
KAWS, Keiken
Kim Heecheon
Lawrence Lek
LuYang
Gabriel Massan
Lual Mayen
Sondra Perry
Jacolby Satterwhite
Frances Stark
Jakob Kudsk Steensen
STURTEVANT
Transmoderna
Suzanne Treister
Theo Triantafyllidis
Angela Washko
Thomas Webb

巡回情報:
Centre Pompidou-Metz
2023年6月~2024年1月