「イン・ア・ゲームスケープ ヴィデオ・ゲームの風景,リアリティ,物語,自我」

ゲームの可能性を検証する、2人のキュレーターによる展示の試み

土居伸彰と谷口暁彦の共同キュレーションによる展示、「イン・ア・ゲームスケープ ヴィデオ・ゲームの風景,リアリティ,物語,自我」が現在開催されている。ゲームに関する展覧会は過去にいくつか開催されているものの、アートの側からゲームの可能性を問う展示として、この規模のものは初となるのではないだろうか。さまざまな方向からゲームの可能性を実践する作品が世界各地で多く誕生している中で、ようやく日本でもまとまった作品を見ることができるという喜びは、とても大きい。

「イン・ア・ゲームスケープ」展の最大の特徴は、異なった視点を持つ2人のキュレーションであるという点だろう。2つのテーマが並走するという前例のない挑戦的な展示である。2人が持つ視点のズレや重なりは、そのまま今のこの領域の可能性をも代表している。表立って批判されているように、2人の視線は明確なだけに、異なる機会でそれぞれが企画すれば、より際立った形でそれぞれの可能性を伝える展示が成立したかもしれない。だが、それでは今回の展示が持つ奥行きは生まれなかっただろう。むしろ私はその差異の衝突と重なりにこそ、今回の展示において重要な点が存在しているように感じた。このテキストでは、駆け足にはなるがその点について確認しておきたい。

まず、土居伸彰によるキュレーションは、自身の専門であるアニメーションの領域から見たゲームの可能性の提示ということになるだろう。近年のインディゲームの興隆は、かつてのアートアニメーションの持っていたような、「個人的」な体験を普遍的な作品性へと拡張する回路を作り出す可能性を拓いた。特に、アニメーションからゲームという接続で、近年で鮮烈な印象を残したのは、David Oreillyの《Mountain》や《Everything》といった作品である。

David Oreillyのゲームにおいては、アニメーション作品からの断絶も特徴的である。彼が破壊的なナラティブで紡いできたポエジーは、ゲームにおいては世界の創造に立ち会っているかのような神秘の感覚に置き換わっている。その変化は、アニメーションが直線的な時間性を追体験するメディアであるのに対して、ゲームが多元的な空間や時間の特性を持っていることによって生み出されているように感じる。

一方で、谷口暁彦のキュレーションはメディアアートの側からのビデオゲームへの回答ともいえるものである。より具体的にいえば、環境としてのゲームを利用した作品群ということになろう。それは、ネットアートがネット上を表現の場としながら、単にそれを空間的に利用するだけでなく、あたかもインターネット自体を拡張するかのようにその可能性を伸ばしていった様子にも類似している。彼の視点が、ひとつの歴史を辿るような印象をあたえるのはそこにも理由があるかもしれない。

彼のキュレーションの中心をなすのは、イップ・ユック゠ユーの《プラスチック・ガーデン》や、ジョナタン・ヴィネルによる《マルタンは咆哮する》などからなる、ゲームからインタラクションを廃したマシニマ作品である。彼はマシニマという一見狭く思えるテーマを、時代を超えて展開することにより、クリアにその可能性の広がりを描き出している。特に、若い世代のマシニマ作品は、ゲームの中での個人的な体験が滲み出している、という点に特徴があるように思われる。ゲームが作り出す環境によって、私たちのゲームの中で過ごす時間は所与のものとなり、日常の一部となっていく。そしてそこで起こる出来事は、現実と同じような意味を持つようになり、記憶に刻みつけられていく。それとは対照的に、《Parallel I–IV》でHarun Farockiはゲームへのもっと無垢な視線を投げかける。そこにはゴダールのシネマのような、メディアが映し出す世界そのものに対しての存在論的な問いかけが存在している。

しかし2人のキュレーションが見せた、ゲームそのものの作品性へと向かうベクトル、そしてゲームを出発点とし、そこから別種の作品を生み出そうとする2つのベクトルの間には断絶も見られる。異なる文化風土から来たそれらはやはり交わってはいないが、その奥にはどちらも同時代的な視線から切り取られた個人的な風景が横たわっている。この地点こそ、異なる場所を出自とする土居伸彰と谷口暁彦のキュレーションが交差している場所といえるだろう。

そして、最後にもう一点付け加えておきたいのは、両者ともにゲームという領域の外側からアプローチされたものである、ということである。そこに導入されている外部性こそ、産業としてのゲームとは異なる可能性をこの領域に拓くのに必要な要素のように私には思われる。領域の枷から解き放たれることによってのみ、メディアそのものの可能性を探求し、開拓することができる。そしてその試みは、盤石なるわたしたちの生きる世界が構成する時間や空間の概念と自由に遊びながら、これからもそれらを更新していくだろう。

会期:2018年12月15日(土)—2019年3月10日(日)
会場:NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] ギャラリーA
開館時間:午前11時—午後6時(入館は閉館の30分前まで)
http://www.ntticc.or.jp/ja/exhibitions/2018/in-a-gamescape/