ベルリンに拠点を置くサウンドアーティスト/DJのLukas Grundmanによる、Oqkoからの新作。インスタレーションの発表やワークショップの開催といった活動が中心で、まとまったソロ名義の音源をリリースしたことはこれまで多分なかったはず。2014年にアーティストのMonika Dorniakとコラボレーションした『Emological Symphony』は、パフォーマンス中のダンサーの心拍数や呼吸速度、体温などを測定し、そのスコアを音のパラメーターに変換するという試みで、異なるメディウムの相互関係性をリアルタイムに外在化させるという興味深い内容でした。今回の『timestretched-ACID』は、アシッド・ハウスを定義づけたベースシンセサイザーのTB-303にフォーカスして、ダンスミュージックにおけるテクスチャーの考察と脱構築をコンセプトにした作品。IRCAM Labのタイムストレッチソフトを用いて、あの独特な太身のベース音を引き伸ばしながら、ピッチとリズムを自在にずらしていきます。勿論ソフトウェアの影響はかなりありますが、フレーズを消失して逆にうねりが強調されたTB-303は、ぬめりがあって湿気多分、そしてきらびやか。星空の下で沼を眺めているような気持ちになります。アシッド・ハウスという文脈には完全に相応せず、どちらかというと60年期のGRMの作家を彷彿とさせる音響物の仕上がり。ジップ付のビニールにSDカードというフィジカル形態も中々渋みがあって良いです。