Luke Abbottと彼との共作で存在感をアピールしたサックス奏者のJack Willie、そしてPVTのメンバーであるドラマーのLaurence Pikeの3人から構成されるのがSzun Wavesである。Luke Abbottの音楽を知るリスナーは彼の音楽がクラウト・ロックを想起させることを頭に置いて欲しい。そこには、ClusterやHarmoniaなどから続く流れが、また彼がいくつもリリースを重ねてきた〈Border Community〉においてそのカタログが示すような「インテリジェンス」がキーワードとして上ってくるだろう。Abbottの音は多くの曲で前面に出ることはなく一定の位置に留まって基調となる空気を作り、確かに先述したClusterなど偉大なるエレクトロニック・ミュージックの形が生き続けているように感じられる。しかし、決して頭でっかちな音楽ではない。録音が即興演奏かどうかは定かではないが、Willieのサックスが泳ぐように、Pikeのドラムは緩急入り混じりながら川の流れを作っていく。Abbottの作る空気の中で軽やかに踊るように、二つの楽器が決してそれぞれの音域の中でケンカすることなく、美しく絡み合っていく。
この作品をどのように言い表すことができるだろうか。なるほど、他のいくつかのレビューでDon Cherryの””Brown Rice””などが参照されてジャズの視点から語られているように、この作品は複合的な視点から評され得る厚みがある。しかし、聴いている時には彼らのバックグラウンドを意識させるような記名性は強くない。そしてジャズ、エレクトロニカ、そしてエクスペリメンタルやクラウト・ロックというキーワードもこの音楽を捉える際には十分ではないように思う。サックスの音が入っていれば、そしてドラムが即興的な音を立てていれば「ジャズ」だと判断する人も、またAbbottが全体の空気を作る中で、エクスペリメンタルと呼ぶ人もいるかもしれないがそんな考えも包むような開かれた空間を作るような音楽だろう。リリース元のレーベルである〈LEAF〉は、即興演奏におけるリスナーと演奏者の間のギャップを埋める、リスナーを音の中に引き込む音楽であるとのコメントしている。この作品はそれゆえ「アンビエント」の一つとして位置付けることができるかもしれない(私はSun Electricによる20年ほど前にリリースされた傑作のライブ盤を思い出した)。しかし、この「アンビエント」性は音が作り出す雰囲気にとどまらない。その独特のオープンな感覚はCANをも連想させるような、つまり様々な音楽が想起されるようなものなのである。さらに、全体の音色からはBoards of Canadaを思い出すリスナーも多いだろう。アナログとデジタルのどちらの音も絡み合い、柔らかいサイケデリアを描いていく。
実力のあるプレイヤーが集まったバンドではあるが、このレコードでは「誰」が演奏しているのかは問題ではない。そこで鳴っている音が全体としてどんな経験をリスナーに与えるのか。演奏の瞬間を切り取ったもの、もしくは個々に録音された音を重ねたものであれ、録音物としてパッケージングされたものには「死」のイメージが付きまとうかもしれない。しかし、このレコードに入っているものは生きている。それ以外の言葉が見つからない。