〈Quantum Natives〉より、ラトビアの二人組zolitudeによる「zolitude」。その和やかな高揚が呼び覚ます、街の記憶。

これまでにも数多く紹介してきた気鋭のレーベル〈Quantum Natives〉より、ホリデーのタイミングで新作が届きました。ラトビアの首都リガにある町の名を冠した二人組zolitudeの8曲入りコンパイル。メンバーのViktor Timofeev は、暗号をモチーフにした、未来的で凄く独特な作風のアーティスト。もう一人のKaspars Groševsのサイトにも、象形文字のような特徴的なドローイングがならびます。

レーベルからの情報には、zolitudeの町の区画についての説明があって(主要および建設予定の道路の名前やその数など)、つらつらとなんだか物々しいので、ついgoogle mapの航空写真で確認すると、一角には鈍く光る鉤形をした堀や柵、城壁のように配置された建物が。ストリートビューで見たら実際には団地のような集合住宅がなにかの要塞のように見えて、ああ、この既視感は何かと考えたらこれはまるで戦国時代の進軍をあらわす勢力図じゃないかと。「真田丸」ロスのみんなの心も満たしてくれる(?)、その音もまるで戦争叙事詩なのです。単体ではポップなデジタル音も、全体を覆うスモーキーなノイズのせいで銃声の暗喩のように響きます。

たとえば4曲目「Eiko-Klubs」では、ジャズを奏でながら練り歩くキャラバンがインベーダーに出くわし、ビームの応酬に遭いながらも我関せずと行程を変えず突き進んでいったり。次の5曲目、ユニット名でもある「zolitude」では、緩やかに高揚しては墜落していくベース音のループから、荒涼とした砂地に埋まった地雷のごとく予期できない音の欠片が滑り降り、跳ね回り、弾けとんだ挙げ句、防空壕から聞こえるようなくぐもったサイレン音へと収縮していきます。それに続く6曲目の「Dvor」は男前でダンサブルなミニマルでスタートするもやはり暗雲が立ち込めて、ドローンやらアラームやら二転三転し、なんとか生きながらえるかの渾身の14分。1〜2分と切り刻まれた曲が多い彼らの作品のなかでは大作の類で、白眉の作。

ラトビアにはこれまで数ヶ国に植民地支配された蹂躙の歴史があって、そのせめぎあう音の背後には欧州の歴史の重量を感じることもできるかもしれません。こうしてひたすらの感動を長々と書き綴ってしまいましたが、とりあえず1曲目「Zole」の映像を体験してみてください。遠景から映し出された装甲車は、見ればただ地を這う小さな虫なわけで。巨視と微視とをアンリズミカルに往き来するさまは、軽やかというよりもズンズンと重い。ていうかただただカッコイイ、とだけ言ってしまいたいのが本音なので、いますぐぜひ。

ダウンロードはこちら
http://www.mediafire.com/file/j41mawhnuow62fm/Zolitude+-+Zolitude+%28QNR008%29.rar

(文・松屋加奈子)