MASSAGE MONTHLY REVIEW 5-6
現行リリースの作品の広大な大海原から、5~6月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
現行リリースの作品の広大な大海原から、5~6月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
CVNがキュレーションを手掛け、CVNとEM Recordsの江村幸紀が選曲に携わった12インチ、CDでリリースされたコンピレーションアルバム。「いつか名付けられるかもしれない日本の2020s音楽シーンの<今>」を封入したというコンセプト文どおり、まさに今きわだった存在感をはなつミュージシャンたちの作品が詰まった音源集となっている。実験的なエレクトロミュージックから、ベースミュージック、ラップに至るまで、多様なジャンル渡り歩きながら、境界が溶解しつつある現代に、記号的な価値に変わるもっとフリーキーで新鮮な価値を描いてみせた。それは、ベッドルームという個人的な場所でなければ生み出し得なかった、フェティシズムとエネルギーに満ちた今のシーンに固有の感覚だろう。どんなときも時代の先端だけに存在する、血湧き肉躍る熱さと、カオティックな多様性。そして探求の果てにのみ出現するピュアネス。儚くも生命力に満ちた新鮮な感性をぜひ味わってほしい。
〈Eco Futurism Corporation〉から、グラフィックデザイナーでもあるsilént philによる作品「Just Sonds」。アーティフィシャルでソフトな質感を持った電子音響が、寄せてはかえす波のように聴くものの上に心地よく降り注ぐ。〈Eco Futurism〉の自然と融合したユートピア的な未来像を再現するかのように、自然音と思しきSEと、抽象的な音響言語を綴っているかのように切り刻まれたボーカルサンプルが交錯する。テクノロジーと自然という対極のものが、互いに等価なものとして交互に響きながら融合する、未来像を描いていく。ランダムネスが紡ぎ出す新鮮さと、ゆらぎながら存在感を増していくアンビエンスのバランス感覚が絶妙。一貫した姿勢でヴィジョンを描き続けている本レーベルの、Vaporwaveから飛び出したeco grimeという未来主義的なコンセプトをくっきりと浮かび上がらせる作品。
K404とのユニットTRAKS BOYSやDK SoundのレジデントDJとしても知られる長野在住のXTALによる、ソロ2作目。きらびやかな多幸感に満ちた4年前にリリースされた前作とは大きく変化し、ビートのない、よりエクスペリメンタルで抽象性な風景が広がる。鳴り響くビートとともに非日常の時間と空間を横断していくのが前作だとしたら、本作にはもっと日常に近い、パーソナルな感覚が綴られているように思う。くぐもった少し丸みを帯びた質感のサウンドはどこか懐かしいような空気感を孕み、アブストラクトでほどよいランダムネスを含んだ展開は、純粋に展開していく遊びの世界をただ眺めているよう。鳴り響く音の連なりが導く叙情性と、微細な感覚が花開いた鮮やかな感覚が宿った作品。
飛行機や電車の中、通り、スーパーマーケット、カフェ、レストラン……さまざまな音が並ぶ「Bandcamp最大のサウンドライブラリー」、freetousesounds。空港のラウンジに座ってみるのもいいし、窓の外に花火が打ち上がっているのもいい。博物館に入ったり、新幹線のホームに立ったり(このほかにも日本で録音されたサウンドもいくつもある)、静かな学校に忍び込んだりすることまでできてしまう。街中だけでなく、海、ジャングル、川や滝などの自然の中もいい。今、部屋の中にいながらにして、好きな場所の音に囲まれる……というのも、ひとつの楽しみ方になるのかもしれない。
シンプルな音が持つ、強烈な熱量と高揚感。
「Strange Reality 奇妙な現実」は、それを存分に感じさせてくれる作品だ。
King Rambo Soundは、仙台を拠点に活動する音楽家でありDJのAtsushi Akamaによるソロプロジェクト。本作品は、ダブ、テクノ、レゲエなどのリズムがベース音とともにループし、静かに淡々と繰り返す空間に人の気配と熱気を感じる。
ループの中に時折ちらりと現れるオーガニックなフレーズ、ガリガリとしたグリッチ音、シンセ音などがとてもファニーで、それらの音とループ音の対話が、まるでブラックユーモアの物語に出てくる人物たちの話の掛け合いのように滑稽で奇妙だけれども、その巧妙さに気づいた瞬間に高揚感のギアが一瞬でドンと上がり、その世界観にどんどん身を任せたくなる。
King Rambo Soundは作品紹介で「僕の目に映る世界はとても奇妙で時にグロテスクだ」と語っているが、本作品の聴衆が高揚感と共に自由に踊る姿は、彼にとっての不思議な世界のひとつなのかもしれない。