Seaketa - Gion ぎおん

ロンドンをベースに活動するアジアに焦点を当てたコレクティブ〈CHINABOT〉より、京都を拠点に置くミュージシャンSeaketaの作品。京都の地名とオノマトペのダブルミーニングになっているのと同じように、各トラック名も擬音語をモチーフにしている。それは、彼が経験を音に変換することに夢中になっていることと関連しているという。予測の難しいほど断片化され、加工されたその音の混合物は、もちろん心休まるものではないが、複雑に見えるその奥にはシンプルに原初的な快楽を刺激してくる感覚もある。見慣れぬ質感が作り出す不気味さとポップさ、時間によって変化していく複雑な模様、不定形なゆらぎとミニマルなリズムが作り出す没入を誘う酩酊まで、境界を問いながら音そのものが拡張する遊びを続けていく。

Akiko Haruna - Delusions

イギリスを拠点に活動するサウンドデザイナー、オーディオビジュアルアーティストAkiko HarunaのデビューEP。張り詰めた緊張に響くビートのなかを、切り刻まれ歪んだヴォーカルがときにセンセーショナルに、ときに感情の抑制された言葉を刻んでいく。ミニマルな要素によって形作られていくその音響は、繊細に研ぎ澄まされており、派手さはないものの強固な軸を作り出している。静かだが確かな跳躍とその新鮮な驚きの積み重ねが生み出す空間性を持ったサウンドは、ダンサーとしてのバックグラウンドから生み出されているようにも思う。その寡黙なスタイルを持ったサウンドは、間違いなく脱構築されたダンスミュージックのはてに生み出されつつある今日的な感性の一つだろう。

Former_Airline - Rewritten Memories by the Future

よりクリアに、明晰な意思を持って進化した軌跡が感じられる、Masaki KuboのプロジェクトFormer_Airlineの新作。どこまでも浮上することなく抑えられたトーンを維持しながら、反復するギターや電子音響の響きがソリッドかつハードな質感の、多様な表情を持ったアンビエンスを織りなしていく。そのサウンドのスタイルはクラウトロックからインダストリアル、ドローンノイズまでもを飲み込み、その前衛性のもつ跳躍と躍動を、張り詰めた緊張のなかに閉じ込める。その幅広い楽曲のスタイルの中には、一本の弦の振動を聴くかのようなシンプルさと、それがゆえの強さがある。新しさや古さを乗り越えた先にしかたどり着くことのできないい、清々しく開けた地平を感じることができる作品。

メトロノリ Metoronori - “​?​” letter

誰に当てられた手紙かわからないまま、さまようような宙に浮いてしまった感覚。日々の生活のような普通な佇まいに、どこかしらスペシャルな感じがある。ふれたら壊れてしまいそうなほど繊細さを持ったゆらぎがギリギリのバランスで保たれていて、聴いているあいだ中ドキドキしてしまう。突然の休止によってうまれた空白のようなもどかしさと不安、ほのかに刺しこんだ希望のような感情が形を得ないまま、回り灯篭のように微かに浮かび上がっては消える。奇妙な愛おしさに満ちた作品。

Hideo Nakasako - Texture of Days

奈良を拠点に活動するレーベル〈Muzan Editions〉から大阪を拠点に活動する電子音楽家/トラックメーカー、Hideo Nakasakoの作品。くすんだ色調を持った音色と、ざらざらした粒子感のあるノイズが反復しながら、温かな感触を持った豊かなテクスチャーを描き出す。呼吸するように反復するパルスとビートは、催眠的な反復の中で溶け出して、ただ空気の流れのような穏やかな感覚だけを残し、ゆっくりと体を通り抜けていく。オーガニックな響きにより形作られていく音像が、人肌のようなちょうどよい温かみが聴くものを心地よく包み込んでくれる電子音響作品。

Hegira Moya - Palace

アートギャラリーのように楽曲を展示することをコンセプトに、一曲長尺のみの作品をラインナップし続けてきたシドニーのレーベル〈Longform Editions〉から、Hegira Moyaによる、ゆったりとした時間感覚に貫かれた丁寧に織り上げられた電子音響の世界。深く音の波の間を潜水し、ゆっくりと変化していくその光景を楽しむことができる20分の組曲。儚い軌道を描きながら形をなした音は、その静けさに満ち溢れたサウンドスケープの中で、響きの中に互いに共鳴し、溶け合い、消えていく。次第に没入感を増しながらエモーショナルに物語を描き出す、幻想的な美しさを持ったディープリスニング作品。

脳BRAIN - Cock Sucking Freaks

toplessdeath名義での楽曲発表や、ForestlimitでのDJやライブなどの活動を行っている脳BRAINによる1stコラージュカセット作品。現代音楽からレトロムービーまで、あらゆる領域からサンプリングされた元ネタから絞り採った果汁を、カオティックなグルーヴのなかへとかき混ぜていく。圧倒されるほどに濃密な情報量は、フリッカーの明滅のような目眩の感覚を引き起こす。高密度に圧縮された引用の嵐にみられるような、濃密な即興性もさることながら、友人の乱雑な自室に招かれたような不思議な居心地よさも感じられる。溢れ出る文化への愛を、音に溶かし合わせて作られたような小宇宙。

OCA - Aging

ベルリンを拠点とするYo van LenzとFlorian T M ZeisigによるデュオOCAによる2枚目のアルバム。Kelelaがリリースしたミックス「Aquaphoria」に楽曲が収録された前作「Preset Music」に続く本作は、記憶、経験、時間の経過に焦点を当て、クリアなサウンドの共鳴により色彩豊かな景色を描き出した現代的アンビエントミュージック。Alesis QS6シンセサイザーのみで作成されたというメロディをミニマルに反復するそのサウンドは、点と線のみで構成された多次元的な絵画のように、汲み取りきれないほど複雑な側面を垣間見せていく。そこにある楽しげでゆったりとした時間感覚は、一見普通であるものが内包している複雑性を拡大して見せている。慣れ親しんだものがときおり見せる奇妙さのような感覚。いろいろな温度を持つ、私たちの身の回りにある普通さのすべて。親しみと、豊かさを内包した普通さ。それはさまよいながら広がり私たちを包み込む、変化に飛んたサウンドスケープである。

Fire-Toolz ⚡️ Nonlocal Forecast - Triangular Reformat

Angel MarcloidのメインプロジェクトであるFire-Toolzと、彼女の別名義であるNonlocal Forecastによるリミックス、マッシュアップなどを集めた音源集。32曲もの楽曲の中には、Nmesh、Machine Girl、Vaperror、Golden Living Room、P A T H S パス、Equip、toret status、woopheadclrms、Koeosaeme、CVNなどが参加している。今のシーンの最も濃いところを凝縮したようなゲスト陣もさることながら、Vaporwave、ゲーム音楽、インダストリアル、ニューエイジ、フュージョン、アンビエントからブラックメタルまで、あらゆる音楽ジャンルにある持つ快楽を煮詰めた結果、抽出されたかのようなピュアネスに満ちた電子音楽。この混沌の時代には、そんなピュアネスこそが必要なものかもしれない。ネットのその先に躁転した澄んだ朝の空気のような、晴れやかな光景。その楽しさに満ち溢れた混沌が映し出す幻想の領域で、いつまでも遊んでいたい。

Le Makeup - Aisou

ウィーンのレーベル〈Ashida Park〉からリリースされた、大阪のトラックメイカーLe Makeupの作品。独特のからりとした叙情性を携えた作品。靄がかかったようなローファイなサウンドが郷愁を誘う「Aisou」から、エレクトロニックなサウンドがリズミカルに響く「Galfy」、ギターのゆらぎが歌詞の世界とゆるやかに溶け合う「Bangkok」まで、エクスペンタルでありながら、爽やかなひねりの効いた楽曲が揃う。夢のような余韻を持った連なりを持った日本語詩はより後景に引き、その印象だけが曖昧な響きを持つ電子音響と混じりあいながら、軽やかに吹き抜けていく。「Galfy」はccontraryによるリミックも収録。

Lena Tsibizova - S/T

モスクワを拠点に活動する写真家でもあるLena Tsibizovaの作り出したヴィンテージな感触を持つドローンサウンド。聴くものを心の奥底へと引き込むような瞑想的なランダムネスとゆらぎの心地よさには、どこか遠くから知らない国の映像をただ眺めているような寂しさがある。短期記憶のように像が現れては消えるまばゆい音の反射が、次第に曖昧で断片的な幻想の世界を展開する。音の響きが作り出す包みこむようなぬくもりのなかにある、暗い道を一人行くようなかすかな不安。その繊細な感情を守りながら、けして引き返すことなく前へと進んでいく。永遠にも思える波のように打ち寄せるその音の粒子のゆらぎは、あなたの孤独すら至福の時間へと変えてくれるだろう。

Howie Lee – 天地不仁 Tiān Dì Bù Rén

Howie Leeは、これまで国境を超えてあらゆる感覚が均質化していいく流れに対抗し、時間や地理における差異を融合するのではなく、対立させることで新しい世界を創造することを試みてきた。それは北京という場所から導かれた必然的な応答のような気もするし、アジアという場所が今持つ可能性の最も明晰な例であるとも思う。4年ぶりとなる本作のタイトルは無慈悲な神の視線を表す、老子の言葉「天地不仁」から取られたものだという。中国の伝統的な楽器と実験的でエレクトロニックなサウンドの融合は更に推し進められ洗練されている。しなやかで優しく響きの中のそのなかにさまざまな感情が折り重なるように溶けていく。都市文化から離れた場所から生み出されるような緩やかな時間感覚を持つそのサウンドの作り出す緊張と抑揚は、自然と人工、ローカルとグローバル、西洋と東洋、そして過去と未来といった、多様な相克を含んでいる。未視感の中にある懐かしさに身を委ねれば、そこにある豊かで新鮮な感覚を楽しむことができるだろう。

天地不仁 Tiān Dì Bù Rén by Howie Lee

SUBURBAN MUSÏK - TAZUNA

並べられた小さな火が並ぶ厳かな儀式のような張り詰めた緊張のなかを、対称的な雰囲気を持った2人が作り出した轟音が響きわたる。その時代、その場所でしか聴くことのできない、紛れもないアンダーグラウンドの音楽。そこには、全てを包み込むような暖かさを持った暴力と、優しく繊細な凶暴さがあった。閉鎖された酒の匂いと埃に満ちた空間の、世界とはパラレルに存在する静止した時間の中でしか見つけることの出来ない、その次にやってくる世界。いつも目撃者は数少ない。バカバカしいことを喋りながら、ときどき去っていった人々のことを思いながら、その強すぎる光のような振動の眩しさの中でつかの間の安らぎを得る。それよりほかに重要なものなどあるだろうか。

Anne Imhof – Faust

2017年のヴェネチア・ビエンナーレで金獅子賞を受賞したAnne Imhofのパフォーマンス作品「Faust」のサウンドトラック。〈PAN〉レーベルのオフシュートとしてリリースされた。ヴェネツィアに旅行した際に幸運にも遭遇することができたビエンナーレの会場で展開されていた彼女の作品は、ドイツ館の建物をガラスの床板と壁で仕切った空間の中で、インスタレーション作品の中で散発的に行われるパフォーマンスを鑑賞するというもの。優美な動きを見せるドーベルマン(動物愛護の観点から後に廃止された)、さまざまな場所に配された存在感を放つパフォーマー、日常を切り出したかのうような断片的で幻想的なイメージがオペラとともに観客と演者の間に折り重ねられていくという、多層的な構造を持った作品だった。多くの人々が詰めかける場で鑑賞するには複雑すぎる作品であり、そのエッセンスを掴めたとは言い難いが、そのような場でも印象に残ったのはサウンドであった。中心となるのはパフォーマであるEliza DouglasとFranziska Aignerによって書かれ歌われる物語性を持った3つのオペラだが、Billy Bultheelによるインダストリアルに歪められた抽象的なピースが、インターリュードのように場面を転換する。その基底にあるのはメタリックで電子的な響きを持った憂鬱なムードであり、その多次元的な構造を展開しながらゆっくりと聴くものを人工的な高揚へと導いていく。20代には、クラブやテクノの文化が花開いていたフランクフルトで、クラブのバウンサーとして働き、コミューンで作曲などを手掛けていたという彼女の作品には、アートや音楽だけでない多様な文化の壁を横断するような姿勢を感じる。空間と時間をイメージの力で繋ぎその閉塞を外へと打ち破ろうという意思を感じるパフォーマンスの一方で、ヨーロッパの音楽の歴史性を反映したかのようにも聴こえるこのサウンドには、むしろカオティックなエネルギーを内向きに凝縮させたような印象を放つ。

Faust by Anne Imhof

CVN – I.C.

Grey Matter ArchivesのキュレーションやAvyss Magazineの運営者としても知られるCVNの〈Orange Milk〉からとなる新作。ジャケットは「PHENOMENON:RGB」展にも参加したSabrina Rattéであり、NTsKiや、Cemetery、Le Makeup、LSTNGT、ROTTENLAVAなど盟友たちとのコラボレーションを繰り広げた、まさに現行のシーンをアルバムの上に広げたマガジンのような作品となっている。印象的な一曲目のNTsKiをフィーチャーした「成分」はまどろんだアトモスフィアの中を彼女の柔らかな声質が響き渡り、都市的な背景のもとノスタルジックな和やかさと安心感で包み込む。ノイジーでインダストリアルな感触を持つ楽曲からリズミカルに聴くものを揺さぶるダンストラックまで、よりフリーキーにより自由に組み合わされたサウンドで心地よく耳を刺激する。静と動、秩序と無秩序の間で引き起こされてきた駆け引きを紐解きながら、即興のさなかに生み出された解を目撃しているかのような研ぎ澄まされた洗練。音の振動すべてが楽器であるような、録音上の徹底呈した平等性は、デジタルによりもたらされた現代の音の洗練の極地と言ってよいだろう。異質なもの同士の重ね合わせと結合により作られたそれらは、調和を否定することによって逆説的に美しさを生成するという、現代におけるバロック的な美であるといってよいかもしれない。(S)

POINTLESS GEOMETRY JAKUB LEMISZEWSKI – 2019

季節のように移ろう日々の感覚の変化に焦点を合わせながら、研ぎますように聴覚を微細に調整し、音を聴くという行為の中にある確からしさの在処を確かめる。ダンスという機能的な行為の中にも、次のステップを生み出すためには、常に未知の感覚へと飛び出していく開かれた跳躍的な態度が必要である。どのようなときも次に来るサウンドは、曖昧に広がる広大な領域から、感覚の照準を定め、触れることができる実態へと突如として形成されたものでなくてはならない。それは未知の創造というよりも、発掘にも似た行為だろう。2017年から2018年にかけてポーランドで録音されたJakub Lemiszewskiによるこの作品は、リズミカルに刻まれた低音の振動と、奇妙でありながら心地よく響くそのサウンドにより、身体あるいは感覚の中にある新たな可能性を探索する。洗練されたといってもよいほど多角的な音響と質感の楽しさが織り交ぜられながら、けして一点に収束しない多様な文脈が交雑したキメラのような異形の音楽電子音を形作っている。身体の奥に眠る未知の感覚を呼び覚ます、可能性としてのダンスミュージック。それは土地の記憶と結びつき、そこにあった歴史を改変しながら、固有の質感を鳴り響かせている。

AH, DOCKA MORPHER – RAFT OF TRASH

Raft of Trashは、環境との対話による自然のリズムとサウンドシステムにインスパイアされた活動を行う、Thom Isom、Andrew PM Hunt、JC LeisureによるMIDIコラボレーションプロジェクト。都市開発シミュレーションゲームであるシムシティ3000で使用されているサウンドトラックを使用して、即興的に絶えず変化するライブのMIDIデータを生成する。前作「Grouw」で即興的に作り出された、4つの「ゾーン」(楽曲)は、今作の5つのゾーンに引き継がれそのユートピア的なニュアンスを奏でている。非生命の存在がささやきあうような響きは人工的なそれではなく、どこまでも有機的。身を委ねたくなるソフトな電子音の流れが心地よいランダムネスの中に溶けて、複雑な対話を重ねながら入り組んだ模様を次々と紡いでいく。人間中心的な視線から解放された自由を獲得したその響きは、どこまでも広がっていく生命的なディテールを持っている。テクノロジーから自然へというグラデーションを描きながら、人間の不在の可能性を描き出したこのアルバムはまた、エコロジーへの意識を高めるツールとして音を使用することについての進行中の対話のための実験でもある。すべての収入はプラスチック汚染の分析と調査の活動を行っている非営利団体5 Gyresに寄付されるとのこと。

AH, DOCKA MORPHER by RAFT OF TRASH

Xosar – The Possessor Possesses Nothing

アラブ首長国連邦のレーベル〈Bedouin Records〉から、絡まりあったドラゴンのカバーアートが印象的な、XOSARことSheela Rahmanによる4年ぶりのリリース。実際にサイキックパワーを持っている家族のいる環境で育った彼女が、超常現象や異世界への関心を自身の創造性へと昇華させたインダストリアルテクノの質感を持つテクノミュージック。深みを潜水していくかのような未来的なその想像力は、音楽を作ることを自己療法と考える彼女の創作コンセプトに由来する。錬金術、クンダリーニヨガ、フラクタル、DNAの構造、黄金比、バイオフィードバック、準結晶などといったあらゆるアイデアを研究し、そして最終的には自分自身の受容へと至る。その神秘への探求は、自己を暴いていく過程であり、創造とその行為は深くつながっている。その探求は聴くものを時間と空間を超越する恍惚の旅へと導く。