先月インドネシアを訪れ、一週間くらいジョグジャカルタに滞在した。ジョグジャカルタは首都のジャカルタより物価が安い上、ジャワの芸術文化と縁の深い都市で、国内のアーティストの多くがジョグジャか、あるいは第3の都市と言われてるバンドゥンのどちらかに集まっている。今回の滞在目的はジャワ民衆文化のリサーチだったが、現行の音楽/コンテンポラリーアートのシーンに触れる機会もいくらかあり、色々面白い動きが拡散的に起きているのを肌身で感じた。
それで現地の人と話している際に、最近地元で面白いアーティストがいるか聞いてみると、みんなこぞって口にしていたのが2人組のGabber Modus Operandiだった。バリ島のデンパサールを拠点に活動する彼らは、2018年結成とまだ活動歴は浅いながら、ジョグジャカルタのYes No Waveからリリースしたファーストアルバム『Puxxximaxxx』が注目を集め、CTM FestivalやUnsound、そしてNyege Nyegeなどの海外フェスに出演、今急速にその名が広がっている。上海のSVBKVLTから先日リリースされた『Hoxxxya』は、ガバ/ハードコアとインドネシアのポップスや民族音楽をミングルさせた、異形のハイブリゼーションともいえるダンスミュージック。ジャワの憑依儀礼である、ジャティランのスピリットを原動力としながら、BPM180以上で刻まれるインダストリアルなビート、大衆音楽として親しまれているダンドゥットの奇怪なメロディ、そしてサロンペットと呼ばれる笛や、ガムランのスレンドロ/ペダン音階を用いた旋律がもたらす明滅的な響きが一緒くたになって、トランシーな空間を形成していく。
他宗教、多民族というバックグラウンドを持つインドネシアは、交配と継承を繰り返しながら、単一のアイデンティティでは束ねられないほどに、非常に多面的で豊穣な音楽文化を生み出してきた歴史を持つのだが、そのローカリティを自分たちの表現に結びつけるような発想は、この数年前までシーンには存在しなかったらしい。しかしエクスペリメンタル・デュオのSenyawaの登場によって状況は大きく変わり、彼らに感化された若いアーティスト達(もちろんGabberも)が、自国の文化に目を向け、現代的なスタイルを模索し始めたのだという。かつての交配の歴史を受け継ぐかのように、また新しいサウンドが作られつつあろうとしている。