昨年には来日も果たし、素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた、ポートランド在住の音楽家ジェフ・ウィッチャーによる新作『Approximately 1,000 Beers』は、本人による作品紹介の言葉を借りるなら《「脱構築」したカントリー・ミュージック》。音声合成エンジンを全面的に用いた本作は、ジェネレーティブ・システムと土地古来的/伝統的なポップミュージックの邂逅という、一見この世の終わりを予感させるかのような印象を与えるが、あたえられた言葉を拾っていくと、ささやかな日常の一端と、記号で形成された閉鎖的空間の、奇妙な繋がり合いが見つけられる。いくつにもねじ曲がって結ばれた関係は「断続」ではなく、「接近」という純粋な愛の形、彼らしいユーモアとふんだんのサーカズムが、対置しあう両者を「自然なほど」不自然にリンクさせていく。数十年後、Arthur Russellの『Love is Overtaking Me』や、今作のクレジットにも記載されている現代的カントリー・ミュージシャンのReginald Wranglerと並べて、この作品が「ポスト・カントリー・ミュージック」として回顧されていれば素直に嬉しく思うし、また地獄だとも思う。