Wichelroedeのオーナーが新しく始動したレーベル〈Queeste〉より、そのリリース第1作となったオランダ在住Haronの『Wandelaar』。〈BAAK〉からのいくつかのリリースで知られるように、アムスのダンスミュージックシーンで結構名を知られている彼ですが、今作では持ち味の脱力系テクノ路線から離れ、グランドピアノを軸に置いたクラシカル/アンビエントな作風に。タイトルの『Wandelaar』(≒Walker, Hiker)という言葉が示すように、音の移動と、その表情や様子の変化を楽しむ作品となっています。深いレゾナンスを漂わせつつ音たちが消えゆく瞬間、視界が開けるかのように現れる清澄な空気感は、美しい瞬間のひとつ。個人的には、なぜか数年前に飛騨高山近くの高原を訪れた記憶が思い出され、あの美味い空気や、静動が収斂する光景と重なり合いました。今回のような音楽性の大きな転回は彼にとって過去との分断という訳ではなくきっと延長線上に繋がっていて、それは音に付いていったり、寄り添ったり、軌跡を辿ったりする行為自体を「音楽」と捉えているように思えるから。ダンスフロアを離れ、喧騒から離れた草原に移ったHaronがその鋭敏で繊細な感覚を使って、次はどんな音の「場所」に移動するのか、楽しみに待ちたいと思います。