Wen – EPHEM:ERA

Wenはこれまで〈Keysound〉や〈Tempa〉などからリリースを重ねてきた。2012年頃にはBeneathやVisonistといった面々と並べて語られ、そして2015年頃にMumdanceやLogos、そしてRinse FMにて番組を共にホストする盟友Parrisなどのユニークなアーティストとともに、ダブステップやグライムという力強い音楽を、その重量への批評的視点から進化させ(彼らはサブジャンルとしてのWeightlessの立役者である)、またジャンルを横断することでその地平を切り開いてきた。本作はそんな若いパイオニアの2作目のフル・アルバムである。しかし、常に新しいものが求められる消費社会である今日では、音楽においてジャンルを横断することだけで称賛されることはない。特にアルバムというフォーマットでは、そのテーマやビジョンが重要だろう。プレスリリースによれば、現代社会における儚さ、消費サイクルへの応答として本作が位置付けられているという。このコンセプトから、EPHEM:ERAというephemera(「はかなさ」)という語がera(「時代」)という部分を強調するようにタイトルとして置かれているその意味は容易に理解されよう。すべてがとてつもないスピードで消費される現代社会において、語られるべきテーマの一つがインターネットであることに異論はないだろう。それぞれのトラックは綿密に構成されつつも、それぞれの尺は全体的に短いものが多い。全体で38分というアルバムはあっという間に終わってしまう。楽曲の多くは基礎となるフレーズをくりかえしながら、しかしDJユースというには短か過ぎる長さで楽曲は次へとつながっていく。また、本作はイタリアの建築家であり、素材やその土地の歴史などに敬意を払った作風で知られるCarlo Scarpaからもインスパイアされている。ジャンルを横断しつつも、それが130ほどのBPMにむかって楽曲が組み立てられていく。クライマックスに向かうにしたがってよりグライム寄りのアプローチが増えていくが、柔らかく伸びのある高音域と、タイトな中・低音域がどちらも同じレベルで主張しつつ、美しい一つの音楽を構成する。すべての音が必要なところにあるその音の配置からは、建築を学んだWenらしいアプローチを感じることができる。クラブであれどこであれ、彼の楽曲はその美しさを失うことはない。現代社会へのまなざしと抵抗はその緻密な構造の基礎であり、耽美さを生み出している。