MASSAGE MONTHLY REVIEW – 11
現行リリースの作品の広大な大海原から、11月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
現行リリースの作品の広大な大海原から、11月に出会った素晴らしいリリースをご紹介。
“Blush” は紅潮。頬を赤らめること。言葉にできない戸惑いや恥じらいの感情が体を駆け巡った証。
もしかすると ”Blush” は、少女の頃にだけ許される最高の魅力なのかもしれない。
ドイツはベルリンのアーティストでプロデューサーのava*による初アルバム「Blush」は、香港のレーベル〈Absurd Trax〉よりリリースされた。5年間にわたるフィールドレコーディングを織り込んだ本作品は、やわらかで繊細なテクスチャー。水彩画のような曖昧な輪郭を描きながらゆっくりと時に激しく展開するアンビエントな作品。
自由に飛び回るサウンドは、まるで少女の感情を表したかのようにどこかはかなくて、ゆるやかに上ったり下りたりするシンセのメロディーと一緒に聴いていると、瞑想中のような遠い日の記憶を見ているような感覚になり、その曖昧さがまた心地よい。
ぼんやり先に見えてきたのは幼い頃の記憶。空を眺めていると今日はやけに雲の流れが早い。いつもと違う速度で目の前の景色が変わっていく。これから何か起こるのかしら?胸がざわつく…なんだか不安…その感覚を鮮明に思い出すとアルバムは終わっていた。
どこでもいい。どこか遠く離れた場所へ。記憶を辿る旅に出るのもいいだろう。
Angel MarcloidのメインプロジェクトであるFire-Toolzと、彼女の別名義であるNonlocal Forecastによるリミックス、マッシュアップなどを集めた音源集。32曲もの楽曲の中には、Nmesh、Machine Girl、Vaperror、Golden Living Room、P A T H S パス、Equip、toret status、woopheadclrms、Koeosaeme、CVNなどが参加している。今のシーンの最も濃いところを凝縮したようなゲスト陣もさることながら、Vaporwave、ゲーム音楽、インダストリアル、ニューエイジ、フュージョン、アンビエントからブラックメタルまで、あらゆる音楽ジャンルにある持つ快楽を煮詰めた結果、抽出されたかのようなピュアネスに満ちた電子音楽。この混沌の時代には、そんなピュアネスこそが必要なものかもしれない。ネットのその先に躁転した澄んだ朝の空気のような、晴れやかな光景。その楽しさに満ち溢れた混沌が映し出す幻想の領域で、いつまでも遊んでいたい。
フランスのレーベルFavorite Recordingsからの人気シリーズ「French Disco Boogie Sound」の第4弾『French Disco Boogie Sounds Vol.4』。 1977年から1991年までの楽曲からフレンチ・ディスコDJ、Charles Mauriceがコンパイルした13曲。1曲目は“Georgy Porgy (Disco Version)”。おなじみのメロディに乗って耳に入ってくる歌詞はフランス語。青い海をバックに風になびくシアーな白と赤のドレスがまぶしいジャケット写真(もちろんトリコロール)の印象もあいまって、軽くヴァカンス気分さえも漂ってくる。ほとんど聴かれることのなかった音源や未発表作品なども含まれているということだが、それはさておき、これからの時期、お出かけの車中で楽しく気持ち良く聴きたい1枚。
ベルリンを拠点とするYo van LenzとFlorian T M ZeisigによるデュオOCAによる2枚目のアルバム。Kelelaがリリースしたミックス「Aquaphoria」に楽曲が収録された前作「Preset Music」に続く本作は、記憶、経験、時間の経過に焦点を当て、クリアなサウンドの共鳴により色彩豊かな景色を描き出した現代的アンビエントミュージック。Alesis QS6シンセサイザーのみで作成されたというメロディをミニマルに反復するそのサウンドは、点と線のみで構成された多次元的な絵画のように、汲み取りきれないほど複雑な側面を垣間見せていく。そこにある楽しげでゆったりとした時間感覚は、一見普通であるものが内包している複雑性を拡大して見せている。慣れ親しんだものがときおり見せる奇妙さのような感覚。いろいろな温度を持つ、私たちの身の回りにある普通さのすべて。親しみと、豊かさを内包した普通さ。それはさまよいながら広がり私たちを包み込む、変化に飛んたサウンドスケープである。