高円寺の商店街を脇道に入り5~6分の距離にWorkstation.はある。Workstation.はギャラリーの名前であり、6名の作家から成るアーティスト集団の名前だ。毎月、メンバーによる展示が行われ、個々のアート作品が発表される。貸しギャラリーとは違い、メンバーがギャラリーという場を持ち自分たちで運営している。しかも自然発生的にメンバーはつながりコミュニティーが生まれ、互いの作風が共鳴している。そんなスタイル、なかなか無いと思う。各々の作品発表と、メンバー全員が参加するギャラリーの運営。このWorkstation.としての活動は、どのようなきっかけで始まったのだろうか。
「もともとは清水と二人で、アートブックのレーベルとして立ち上げたのが初めで。ZINEをDIYで作るという活動からスタートしたんです。アートブックレーベルとしては一昨年まで活動していて、そのレーベル名がWorkstation.。その後、互いの作品などを通じてメンバーと知りあっていき作家同士のコミュニティー、ギャラリーの名前としてWorkstation.を運営していくことになったんです。コンセプトは、しいて言えば作品づくりを『ちゃんとやる』ってことかな(矢満田)」
「この場所で作品の展示を行うというアイデアは矢満田くんから。矢満田くんがフキンさんにこの場所を引き渡すから何かやる?と誘ってもらって。そのちょっと前に僕が矢満田くんと知り合って、大学は違うけど予備校のつながりだったり、友達の友達という感じで集まってきて今の6人の体制になったんです。この場所はもともとASOKOというフリースペースだったんだけど、僕たちがやるならギャラリーがいいんじゃないかと(丸目)」
2名のアートブックレーベルから始まり6名で構成されるアーティストのコミュニティーへと成長、そしてフリースペースから彼ら自身のギャラリーへと展開したWorkstation.。そのメンバーは次のとおりだ。矢満田一輝(東京芸術大学院在籍中)、丸目龍介(東京芸術大学院在籍中)、鈴木夏海(東京芸術大学院修了)、安部悠介(多摩美術大学在籍中)、高見澤優海(多摩美術大学卒業)、清水将吾(多摩美術大学卒業)。メンバーの専攻は多岐におよび、個々の作風や作品に込められた価値や意図、さらにメンバー自身のキャラクターもバラバラだ。でも、Workstation.のグループ展で全員の作品を観てみると、そこには通底している部分があるように感じる。6名の作品は別々に成立しながらも、時代性とかカルチャーとかを共有しているように思える。
「僕は多摩美に通っていたんですが、4年前に北海道から東京に来て、大学では意気投合できる友達を見つけようと意気込んでいました。でも、1年半くらい友達ができなくて……。そんな時期に高見澤くんと作品を通して打ち解け合え、その流れで丸目さんや鈴木さんとも知り合えて。メンバーは個々の作品を本当に好きだと思っているんですよ。だから、作品だけでなく人間性にも共感できる(清水)」
Workstation.になる前のASOKOはDJやミュージシャン、アーティストなど種々雑多なジャンルの人々が不定期に集まり、ライブやトークショーをUstreamで配信したり、アルコール片手になんとなく集結しだべり合ったりというユルくて何でもありな場であった。いわゆるオルタナティブスペースみたいな感じ。しかし、Workstation.になってからは、メンバーの作品発表の場として役割や目的が明確になっている。端的にいえば、いたって真面目でストイック。そこには、どんな作品制作の意図やギャラリー運営の狙いがあるのか。
「うーん、アートのみにとらわれるのではなくて、僕が好きなストリートカルチャーの文脈もベースになっているし、自分たちにとって新しい表現や作品の価値を創り出せたらいいかなと。自分の思う芸術っていうのはこれまで習ってきたアートへの対抗というような意識は無くて、ただ今までにはない価値を提示する作品をつくりたいと思っているだけかな(丸目)」
丸目をはじめWorkstation.のメンバーは美術大学および大学院に在籍・卒業している。美術の教育をみっちり受けてきた彼らだが、これまで勉強してきたアートの変遷の歴史や文脈にぎっちり縛られることはない。実際、メンバーそれぞれが影響を受けてきたカルチャーをベースに、自分たちにとってカッコイイ・新しい価値を追求して作品づくりを続けている。高見澤はキャンバスにチャンピオンの靴下を幾つも貼り付けてみたり、清水は商品を取り出した後のパッケージのようなものを加工し作品にしてみたり、これはなんだ?という表現を行っている。
例えば、矢満田は大学の卒業制作としてOneohtrix Point Neverというアーティストのライブステージを作り上げた。丸目はTシャツの型に切った厚紙に抽象や具象のペインティングを描く。街中に散在するグラフィティを意識したような作品もある。安部は子供の頃に親しんだゲームのキャラクターを模してユーモラスかつ迫力ある筆致で絵画を制作している。本人が好きだった人や物をモチーフにまっすぐ作品づくりを行っている。単に流行りをなぞるのではなく、ストリートに溢れるアイテムやカルチャーをメンバーそれぞれが作品世界に表現している。
矢満田一輝 左 「kazuki#02」 右 「kazuki#01」 清水将吾 上「Blu-ray package and reversible camo」下「Standee #0」
「僕はここに展示されている作品のような感じでしか絵画を描けないんですよ。自分が形づくられてきたもの、例えばゲームのキャラクターだったりで自分の絵を成立できればいいなと今は思っていて。それで最終的には崇高なというか抽象的な絵画と同じレベルで自分の作品が語られるようになればいいかなと(安部)」
「個々が好きな物やカルチャーが作品にどれだけ表出されているかは、メンバーによって様々かな。でも、Workstation.に共通して言えるのは、カルチャーがベースになって作品が作られているということだと思う。共通して好きなカルチャーもあるし、共感し合える部分があるんですよ(高見澤)」
今回のグループ展では全員の作品が一挙に展示された。そこで見えた通底した感覚には、過去・現在に影響を受けた事柄が個々の作品に表れているように思えた。今後、Workstation.は現在の6名体制からさらにメンバーが増えていくのだろうか。そして、集団でギャラリーをオーガナイズしていくなかでどんな展開をしていくのだろうか。
「作品を見て、あっ!この人ならWorkstation.でやれるという感覚があれば、ギャラリーで展示してもらいたいし、メンバーに加わってもらうことも積極的に考えています。べつにこの6名に限定しているわけではないし。まだまだ美術のフィールドでの認知はないけど、展示を継続し個々が成長していきながら制作活動とギャラリー運営を続けていきたいと思っています(丸目)」
Workstation.
東京都杉並区高円寺北3-31-19
exhibition#07 “愛に正直なメロン” 鈴木夏海 開催中
2016/5/27-2016/6/1 14:00-21:00
http://work-station.tumblr.com