Interview with mera takeru
初期シーンからOrdinalsまで。
クリプトアートの先駆者が見たNFTの現在。

Text: Yusuke Shono

2019年という初期段階からSuperRareやOpenSeaなどのプラットフォームでNFT作品の発表を行なってきたクリプトアーティスト、メラタケル。誰もが想像できなかったであろう「NFTの夏」と呼ばれた2021年を経て、その彼が新たなプロジェクトを立ち上げた。「SHARI」と名付けられた444のユニークなスカルをモチーフにした作品は、活動歴4周年を祝う作品であり、米粒で作られた背景には彼が作り上げてきた数々の作品が使用されている。OpenSeaで登場したばかりのDropsという機能を使ってリリースされたこの作品は、瞬く間にソールドアウト。その勢いに乗って、一年をかけて「SHARI」を起点としたプロジェクトを発展させていくという。その彼にNFTの初期シーン、そして「SHARI」の今後の展開について話を聞いた。

まず初期の活動についてお聞きしたいと思います。NFT以前には、アーティストとして活動されていたのでしょうか?

実はそれ以前はやってなかったんです。2017年ごろから暗号資産やDAppsと言われるブロックチェーンゲームやサービスをリサーチしていたんですが、2019年の4月に手軽にiPhoneでアートを投稿できて、ブロックチェーンに関連づけられるエディショナルというiOSのアプリに出会ったんです。それから独学で作品を制作し、出品したのが最初です。

その頃もブロックチェーンは盛り上がっていました?

はい。2017年にCryptoKittiesをきっかけにNFTが拡まったと思うんですけど、そのときは一部の人だけが面白がっている感じでした。NFTを個人でもできるところまで降りてきたのを感じられたのが、2019年だったんです。その可能性に興味が湧いて、全力でそこへベットしました。

その頃に、今みたいな状況になる予感みたいなものはありました?

2019年から、毎年「今年はブロックチェーンNFT元年だ」って言ってたんですけど、2~3年ぐらいは無風でした。でも当時から「何かよく分かんないけど面白いことをやってるぞ、俺たちは」って思ってましたね。エディショナルには、海外のデジタルアーティストや、活動歴のあるアーティストもいたりして、小規模ですけどコミュニティがあったんです。それで細々とですけど孤立することなく活動を続けてこれたって感じです。

そういう繋がりから作家活動が始まったわけですね。当時は、NFTのどういう部分に可能性を感じていましたか?

ブロックチェーンは関係ないんですけど、作品にすぐリアクションをもらえるところですね。エディショナルはInstagramに近い感覚のアプリで、投稿したものに気軽にメッセージを投稿できたんです。僕が作品を投稿すると、気軽にコレクターやアーティストが感想を伝えてくれる。今まで美術作品を作ったことなかったのですが、そういうリアクションしてもらえるのが楽しい、面白いっていう気持ちが創作意欲の根源になっています。

ちなみにアーティストとして名乗るようになったのは、どのタイミングなんでしょうか?

今のTwitterアカウントを作ったのが2018年の6月なんですけど、そこではじめて「メラタケル」を名乗りました。アーティスト活動する1年前には、メラタケルはすでにいて、その大喜利サイトの独自トークンが米粒っていう名前だったんですけど、その「米粒」トークンをたくさん持ってると、リアルの日本米と交換できるみたいな仕組みを考えていました。その構想から、メラタケルという頭が米になってる人間が生まれて、そいつが1年後にアーティストとして活動し始めたという感じです。

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「中3の時に描いたこの世界の全ての青の絵があって、それをずっと携帯電話に保存していた。と、思い込んでいた。僕の初めてのクリプトアートは、偶然その構図とよく似た、もうどこかも覚えていない水族館の写真だった。」

ちなみに、最初に売れた作品を覚えてますか?

エディショナルは無料でクレームできるようにしていたので、欲しい人が早いもの合戦でクレームするような感じでした。その後、自分の名が広まるようになるにつれ、OpenSeaでオファーや値段が付いて、そこで初めて取引しました。初期は1000円とか。そのぐらいの値段でも売れた時は「すごい値段付いた!」と一人で盛り上がってた記憶があります。

その後、SuperRareやほかのマーケットにも進出していくんですよね。

エディショナルを始めた1週間後ぐらいにSuperRareにも受かって、それからOpenSea、KnownOrigin、MakersPlaceへと進出しました。

その頃のSuperRareってどんな雰囲気だったのでしょうか?

SuperRare自体は2018年からあったんですが、まだ全然黎明期ですね。今も名を残すような有名アーティストHackatao、XCOPY、Coldieなどもまだ全然売れてなかった。2019年終わりまではその流れが続いてたような気がします。

その後2021年になって、Beeple作品をきっかけに「NFTの夏」と呼ばれるブームが来ます。その時はどんな気持ちでしたか?

「ついに来た!」と、うれしい気持ちもありながら、広まる時ってこんなに早く広まるんだという驚きもありました。まだ準備ができてなくて、ちょっと焦りました。本当にバブルっていうのに似合わしい期間だったなと思います。

NFTの夏に頭角を表したアーティストに話を聞くと、コロナがきっかけで作品作りにフォーカスしたという方も多くいます。メラさんにはコロナ禍が活動に影響した部分はありましたか?

コロナの時は「世界が狂ったな」と思っていて、実は制作活動はあまりやっていなかったような気がします。ショックな気持ちが大きくて、「自分はこのままやってていいのかな?」と思っていたので、世界と逆の動きをしてしまいましたね。そのタイミングでNFTに金融系の人たちがたくさん入ってきたので、NFTが今まで僕が好きだったアートじゃなくなるのかな、という不安もありました。

なるほど、複雑な思いもあったということですね。どちらかというとブームを冷静に受け止めていて、そこに乗ろうという感じでもなかったのでしょうか?

一方で自分はその2年も前から活動してることを、知って欲しいという気持ちもありました。ただ、Beepleのオークションより前のタイミングからこれまでとは違った雰囲気があって。その辺りから自分が出品した作品も、すぐに売れるようになって行きました。

どの作品にも物語やメッセージが込められていますが、やはり背景のストーリーも大切にされていますか?

ストーリーも大事にしていますが、根本には新しいものにチャレンジしたいという気持ちがあります。このシーンの変化はとても早いので、新しいサービスやプラットフォームが出来たらまずは飛び込みます。その特性を自分なりに理解した上で、「ここだったらこの作品が出せるな」とか「こういうのが面白いんじゃないかな」と考えて、コンセプトを作って作品にするということが多いですね。

新しいシーンやテクノロジーがまずあり、そこにフィットしたものを自分で作品にしていくということですね。

そうです。その方が作品のネタ切れにもならないし、自分のモチベーションも持続しますしね。

ちなみにクリプトアーティストと名乗ることにこだわりはありますか?

2019年ごろはクリプトアーティストという言葉を皆が使っていたので、それを意識して使っているというだけですね。でもいつかはNFTではない規格でもアートを出したいと考えています。もっといろんな可能性がブロックチェーンで生み出せるんじゃないかと。ブロックチェーンはNFTだけではないので。最近流行っているOrdinals(NFTをビットコインのブロックチェーンに刻める新たなプロトコル)のような、NFTとは異なるものが今後も出てくると思っています。リサーチを続けて新しい動きを一早く取り入れて、アートととして昇華したいと思っています。

Ordinalsへの興味がプロジェクト「SHARI」に繋がっていくのですね。この作品にはどんな成り立ちがあるんですか?

これも技術が始まりなんです。OpenSeaのDropsという機能が去年から一部の人に開放されてたと思うのですが、そのアーリーアクセスにたまたま通過したというのがきっかけです。たくさんの人に届けられる形にしたくて、コレクティブルという形を選びました。また今年がちょうど4周年に当たるので、自分の総まとめのようなプロジェクトとして考えたのがこの「SHARI」というコレクションです。

「SHARI」というネーミングは、お米から発想しているのでしょうか?

そうです。2019年にお米をiPhoneで撮影したものを一粒一粒切り張りして作ったスカルの作品があるんですけど、それをセルフオマージュしてOrdinalsをイメージしたビットコインのロゴを入れてアップデートし、なおかつ背景には2019年から2023年までの僕の作品をいくつかピックアップし取り入れています。すべてハンドメイドの製作で、全パターンを組み合わせると、4周年にちなんでちょうど444個になるようになってます。

しっかりと完売しましたね。SNS上でも大きな話題になってる感じがしました。

それはちょっと予想外でしたね。理由は未だよく分かっていないです。ローンチ前にAllowlistを作ったんですが、海外からのリアクションがこれまでとは全然違っていて、その時点ですごく勢いがありました。

いいですね。Dropsに惹かれた理由はなんでしょうか?

基本的にOpenSeaは2018年から使ってるので好きなんですが、嫌いな部分もあって。この2年くらい、商業的になって個人のアーティストが輝ける場ではなくなってしまった気がしていたんです。だけどそのタイミングで、1つのプロジェクトにフィーチャーできるDropsが発表されて、この形でセールができることにチャンスを感じたんです。なかには売り切れてない方もいて、それが悔しくて「僕は売り切れるように頑張ろう」という勝手な使命感を持って取り組んだことも結果的に良かったかもしれません。

今回、「SHARI」を中心としたロードマップも用意されてますね。

今まで僕の作品には主軸となるプロジェクトがなく、その都度新しい作品を出すやり方で活動してきました。それはそれで良いのですが、1つのものを育てて成長するということに繋がりにくいと思っていました。今回は「SHARI」を主軸に活動を続けていき、界隈が盛り上がっていることをその都度取り入れながら成長していく形を思い描いています。

また4周年プロジェクトと銘打っているので、少なくとも1年間はホルダーの方と自分のアートを楽しんでもらえるプロジェクトにしたいと思っています。先週はOrdinals作品のホルダーに無料でNFTをエアドロップするキャンペーンを行いました。4月8日には、日本にお住まいの方向けのミートアップを開催予定です。あとはスピーカーとしてNFT NYCに初めて出演します。日本のNFTアートの可能性と将来性というテーマで話す予定なのですが、自分の今までやってきたことも紹介しながら日本にもたくさん素晴らしいプロジェクトがあることを伝えたいと思ってます。後はPFPの展開も考えています。例えば、SHARIコレクションは444個なんですが、それを2000個に増やして、その背景の部分を他の日本人アーティストが手がけてもらうのはどうかとか。日本のアーティストとコラボレーションすることで、日本を世界にアピールしたいと思っています。

海外からはどうやって日本のプロジェクトにアクセスしたらいいか分からないという声も結構ありますね。

それは僕も意外でした。日本に興味を持ってくれているんだということが感じられたので、それなら「素晴らしいアーティストたくさん知ってるよ」とアピールしたいなと思っています。AZUKIとか日本モチーフの海外プロジェクトも結構あったりするので、日本からでもこれぐらいできるぞと見せたいという気持ちを持ってるアーティストはたくさんいる。だから自分が少しでもその架け橋になるお手伝いが出来たらいいなと思っています。