NEORT++とNFT。デジタルとフィジカルの狭間から、
その一年を振り返る。

Text: Yusuke Shono

オンラインアートのためのプラットフォームNEORTがNFTにフォーカスした展示空間を作るという話を聞いてから、丸一年が経つ。その後、NEORT++と名付けられた馬喰町に作られたその空間は、デジタルの領域で活動するアーティストたちの稀有な作品発表の場として、コンスタントにNFTの持つ可能性を提示し続けてきた。1年前といえば僕らはまだNFTに関する書籍のためのリサーチをしていた最中で、海外から伝わってくる膨大な情報を整理するので精一杯の頃だった。だから正直日本の状況にはあまり目が行っていなかったと思う。同時に世界的なNFTの盛り上がりを受けて、この日本でも新たな潮流が生まれてくることを期待してもいた。しかしそこに本当に必要だったのは、新しい作品を作ったり、それを広めたり、さまざまなトピックについて議論したりといった、草の根から生み出される自分たち自身の動きだったのだ。まだ海のものとも山のものとも分からない新しい領域に賭け、人々が活動できる土台を作りだす。リアルな空間を通じて様々な展示を行い、その試みを通じて対話や議論が行ってきたNEORT++の実践は、日本のNFTの文化にとっても大いに意味を持つ動きであったに違いない。振り返るには短い期間かもしれないが、流れの早いクリプトの世界では一年は大いに長い時間と言えるかもしれない。節目となる一年を記念する意味も兼ねて、その成果をここで振り返ってみたいと思う。

NEORT / Ayumu Nagamatsu / 避雷「MOMENT」

NEORT++の初回を担う象徴的な展示作品であり、NFTの持つ特性を活かした鑑賞体験について考える作品でもある。春の展覧会にふさわしく、桜をモチーフにした1000個の花からなるNFTコレクションと、それらを組み合わせた桜の木から構成された。展示作品である桜の木は、NFTが購入されるたびにリアルタイムに花を咲かせ、1000人のオーナーが生まれた時に満開を迎える。展示された桜の木はオンライン上で誰でも閲覧可能だが、花をつけるのは展示期間である春の間のみ。桜の持つ儚さと実空間における特定の期間だけの展示であることの意味を、デジタル作品にも反映させる試み。一年たった二回目の春、果たしてその桜の木は満開の花を咲かせるのだろうか。

高尾俊介「Tiny Sketches」

クリエイティブコーダーであり、NFTプロジェクト「Generativemasks」でも注目を浴びた高尾俊介。2015年1月1日から開始したという、「スケッチ」と呼ばれる素描のような短いコードを日々作り出す彼の活動は、その後デイリーコーディングと名付けられ、日常とコーディングが結びついた独自の創作の姿勢となっていった。その活動の形は、気軽にモノづくりに参加し、創作を通じて交流や、学びを生見出す方法論として定着。小さなアイデアを試したり、SNSを通じてそんな発想の成果を発表する、そんな行為の積み重ね自体を讃えるあり方である。そうして作り出される共有地(知)は、今のNFTの創造と所有を通じて作り出される共創の場もととても似ている。まるで詩を書くようにモノづくりをする、そんな日々から生まれた作品から200点を厳選し、プリントとして展示。またNFT作品としても販売された。

Alexis André「Slices」

アーティストであり、研究者のAlexis Andréは、玩具プラットフォーム「toio」の制作者で、Art Blocksの「Friendship Bracelets」の作者としても世界的に知られる存在。その彼がこのNEORT++の空間を包み込むように展開されるインスタレーション作品「Slices」を発表した。時間と空間をテーマにした本作は、日毎に複雑な形状へと進化していく。そのイメージは、ブロックチェーン上のスマートコントラクトによりハッシュ値を元に生成されるため、空間上にミントされた一種のジェネラティブアートであるとも言える。

Reva「A heaven in a wild flower」

2020年からクリプトアートの世界に足を踏み入れたというRevaは、中国生まれのアルゴリズムアーティストで、クリプトアーティスト。その彼女の作品「A heaven in a wild flower」は、花を通して世界がわかる、あるいは花は世界であるという意味を持つ「一花一世界」という言葉から着想を得て作られた作品。中国の磁器、青磁や七宝、中国画の色彩を思わせる多様な花のイメージを制作。アルゴリズムで生成された花の世界により、平和で開放的な心の状態を表現した。

Masayuki Akamatsu「Thales’ Engraving / タレスの刻印」

「タレスの刻印」はメディア作家であり、IAMASで教鞭をとるMasayuki Akamatsuによる作品。古代ギリシャの哲学者タレスが星空を見上げながら歩いていたところ道端の溝に気が付かず転倒したエピソードから、移動しながら天体を観測するという通常ではない観測方法を着想する。運動する天体を移動しながら観測すれば、極めて複雑な事態が引き起こされる。そうした複雑な星々の運動を、実際に数十分から数時間かけて独自のプログラムで制御したカメラで撮影することにより、舞い踊るような予測不可能な複雑性を持つイメージを生成する。得られるイメージは、場所や時間、気象によって異なる。そのため、「タレスの刻印」を一種のジェネラティブアートと呼ぶこともできるだろう。

Michibumi Ito「CONATUS / 私であることの試み」

VRなどを用いた映像やインスタレーションによって、鑑賞者の身体に別なありようを提示するアーティストMichibumi Itoによる展示「CONATUS / 私であることの試み」。タイトルの「CONATUS」は、「事物が本来持っている、生存しつづける努力」あるいは「生きる意思」を意味する。筋萎縮性側索硬化症(ALS)と作者が出会って生まれた時間を、VRというニューメディアでドキュメントした作品、VR睡眠という行為をするバーチャルワールドの人々の対話や回想をめぐる3DCGを用いた映像作品が発表された。

「CURATION FREE」

「CURATION FREE」は、これまでの展示の流れとは打って変わってノーキュレーションで行われた展覧会。2022年の締めくくりに、誰でも参加可能な場としてNEORT++を解放した。ノーキュレーションといえば、無審査・無賞・自由出品を原則とするアンデパンダン展が思い浮かぶが、検閲不能なブロックチェーンの世界は、そのアンデパンダンの発展形だといえなくもない。多数の参加者を集め、今のクリプトの世界における自由と多様性を体現した作品群が展開された。

NIINOMI, bouze, 0xhaiku「Made in Contract」

NFTと既存のアートの違いはなんなのか。その問いの答えの一つが「スマートコントラクト」の存在である。ブロックチェーン上で永続的に動き続けるそのプログラムは、デプロイした瞬間から誰もがアクセスできる、自立し作動する存在となる。そうしたブロックチェーン固有のプログラムを活用する作品群を、スマートコントラクトアートと呼ぶ人もいる。ブロックチェーンを新たなメディウムとして捉え、その隠された仕組みを浮き彫りにしたり、その活用の新たな可能性を提示したり、議論を引き起こす使い方を提案したりする、そうした表現形態である。そんなNFTのコアの部分に特に重きを置いて活動している3人のアーティストたちが集まり、作品の展示を行った。

NEORT, Junni, NOLL「Reincarnation」

アートとテクノロジーを統合することを試みる3つの会社、NEORT、NOLL、Junniによるコラボレーション展示。魂や霊といった不死なる根源が存在し生まれ変わりの中で成長するという考え方「Reincarnation=転生」をコンセプトに据え、フィジカルとデジタルの両軸で展開。両者の境界を曖昧にするフィジタルな作品性を打ち出したインスタレーションである。入力された個人情報をもとに3Dプリンタで再生可能な素材を使用し、人工生命を造形。生成したデジタルアートをNFT化し販売した。

Shinsei Galverse「Gal Pals!」

「Gal Pals!」は懐かしい日本のアニメーションのスタイルで描かれる8888のPFPコレクション、新生ギャルバースが作り出した、コミュニティドリブンな展示。その独自の世界観と美学を展開すべく、ホルダーがお気に入りのGalverseを選び、チェーンメールのようなやり方で他のホルダーにメッセージを転送する。そのように選ばれたイメージと、VTuberブースなどが展示された。NFT保有者にって作り出されるコミュニティの可能性を引き出すことを試みた展覧会。

まとめ

ここではその活動のアウトラインを描くことしかできなかったが、それでも方向性の多彩さは感じていただけたかもしれない。ジェネラティブアート、スマートコントラクトアート、メディアアート、そしてPFPプロジェクトまで。なぜ世界でNFTがこれだけ多くの人々を惹きつけるのか。その実践がもし定着したら、この世界はどのように変わるのか。その先にはさまざまな問いが待っている。しかしその前に、私たちにはもっと多くの実験と、もっと多くの議論、そしてもっと多くの観客が必要である。そしてそこで見つけた価値を分け合うための共有地をもっと広げていかなくてはならない。そのための実践はさらに多面的で、多様なものとなっていくだろう。

ひとまずNEORT++の設立から1年となる4月1日と2日、探索の日々の輪を閉じるかのように、第1回目で行われた展示がふたたびNEORT++に出現する。今はNFTの探求がたどり着いたその現在地で、あらたなる探求の始まりを象徴する開花を祝いたい。

MOMENT 2023
開催期間 2023/4/1 _ 2023/4/2
https://two.neort.io/ja/exhibitions/moment2023

NEORT++
https://two.neort.io/