Joni Void – Mise En Abyme

モントリオールを拠点とするフランス人ミュージシャンJoni Void。哲学者メルロ・ポンティなどが知覚を主題とした現象学の思考を音的に解釈して、マイクロサンプリングや偶然を用いて試みた作曲を行なっている。音楽を聴くということ自体すでに聴覚的には受身であるのだが、このアルバムを聴くたび印象を忘れていることに気づき、一つの複雑なストーリーに入り混むように聴きなれない音を耳にしている。シュールレアリスムの系譜も色濃いアートワークは音とも親和性を感じる。

Nils Berg Cinemascope – The Missing Piece

2018年10月神保町にある光明寺で行われた”お寺の音楽会 誰そ彼”では、スウェーデンのゴセンバーグ出身のジャズトリオNils Berg Cinemascopeがメインアクトだった。その前日に青森県でいくつかライブし、その内容は伝統的な三味線ホールでの三味線奏者とのコラボレーション、舞踏家と森の中でコラボレーションしていた。ここまではまあ珍しくはないジャズミュージシャンの活動ぶり。しかし彼らのスタイルが一味違うのは、それ過去のライブを映像に残し、次のライブで投影して過去の音と合わせて演奏するという点。楽器はドラム、サックス、フルート、シンセサイザー、ベース、コントラバス。映像の音と合わせれば単純にダブルベースやダブルドラムスになる。それでも彼らは、どのタイミングでどんな音が鳴るか把握しているため絶妙な音数で流れていく。またこのライブでは舞踏家の福士正一氏が参加しており、映像を投影したスクリーンを掻き分け背面から登場する。目にした光景から、音の響きに対しても虚と実を不思議と考えさせられた。バンド名に”Cinemascope”が入るのもこのライブで理解した。普段のライブでは撮り貯めた演奏映像を流し、その音に合わせて演奏するスタイル。世界中を旅しては各地域の民俗音楽を取り入れた彼らの音楽が楽しみだ。

SWARVY – No. 1 | Lavender Blend

記憶に残る2016年春のStones Throw 20th Anniversary FestivalでのMNDSGNのDJ。まだバンド編成でリリースしたアルバム”BodySoap”を発表する前だった。彼のパートナーでもあり、Akashik Recordsを主催するAlima Leeがアナログのカメラを回し後ろで踊っていた。時にレコードをかけるMNDSGNは自身昇天フロアも上がっていた。その後彼のSoundCloudを聴いていると、Swarvyというベーシストの音源が良い感じに実験的かつグルーブ感ある音が流れていた。よくよく掘っていくとMNDSGNのバンドメンバーで多くのミュージシャンに曲を提供するキーマンのようだった。8月に入り彼のリリースをBandcampでチェックしていると、最近デジタルで”Blend”シリーズで立て続けにリリースされている。ここで紹介するのはその第一弾、”Lavender Blend”。楽器の演奏とサンプリングで新旧織り交ぜて厚みのある音に仕上がっている。BlendシリーズのジャケットはLAのアーティストkeren ooの作品で統一されている。

Duppy Gun Productions – Miro Tape

ジャマイカレゲエとLAのエクスペリメンタルミュージック、二つの異質な音楽が溶け合うのでなく明らかに別のレイヤーにありながら共鳴している。Matthewdavidの主催する〈Leaving Records〉からもリリースのあるSun ArawとM.Geddesがモジュラーシンセを持って、現地のレゲエシンガーを見つけてレコーディングした音源が2014年「Multiply: Duppy Gun Productions, Vol. 1」としてリリースされた。その音源を軸とし、多くの未発表曲で新たに構成されたミックステープ。緩くてパンチのあるDuppy Gun ProductionsのキャップやTシャツなどグラフィックも要チェック。

YAGI – HAVE A NICE MONDAY

Dil WithersやSeenmrなど数多くの洗練されたビートをリリースするUKのカセットレーベルAcorn Tapesから初めて日本のビートメイカーがリリースされた。Yagiの音は、水が滴るように滑らかなメロディに転がり弾けるようなビートが特徴。サンプリングミュージックでありながらも限りなくヒップホップから離れて行く彼の姿勢は独自の音の像を描いているようだ。それも見つけた、あるいは撮り貯めた音を丁寧に磨いていくプロセスが思い浮かぶ。今後も彼の様々なテクスチャ際立つ音楽が楽しみだ。