64controll - JUSCO

関西学院大学の音楽研究部のレーベルONKENからリリースされたEP。タイトルはずばり『JUSCO』、2色刷りのスーパーのチラシを思わせるアートワーク……といっても、サウンドはいわゆるjuscotechやmallsoftとは異なっている。1曲目の“Jusco”はスーパーやショッピングセンター内ではおなじみのアナウンスがちりばめられたダンスナンバー、2曲目の“Food Court”は今や有名となったあの曲を思い出させるようなイントロから始まる浮遊感ある1曲になっている。Yu-kohとzenemosのふたりのユニット、64controll。これからどんなふうに展開していくのかを楽しみにしておきたい。

Kankyō Ongaku - Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980​-​1990

日本の音楽のアーカイブシリーズを制作しているLight in the Atticからリリースされたこのアルバムは、Bandcampの“The Best Albums of 2019”に選ばれていることからも日本国外での注目度の高さがわかる。日本のニューエイジ、アンビエントミュージックの人気は、YouTube、DJ mix、このジャンルに特化したブログなどを中心にここ7〜8年で海外で広がりを見せた動きだが、高速で変化する都会の喧騒の中で作られていた静かでクリーンな音楽が今インターネットを中心に広がり、多くの人々に好まれるという現象が起こっているのは、そのころとはまた違った喧騒が溢れているからなのかもしれない。そして、その中にいる現代の人々を癒すのもやはり音楽なのだろう。

French Disco Boogie Sounds Vol​.​4 - Favorite Recordings

フランスのレーベルFavorite Recordingsからの人気シリーズ「French Disco Boogie Sound」の第4弾『French Disco Boogie Sounds Vol​.​4』。 1977年から1991年までの楽曲からフレンチ・ディスコDJ、Charles Mauriceがコンパイルした13曲。1曲目は“Georgy Porgy (Disco Version)”。おなじみのメロディに乗って耳に入ってくる歌詞はフランス語。青い海をバックに風になびくシアーな白と赤のドレスがまぶしいジャケット写真(もちろんトリコロール)の印象もあいまって、軽くヴァカンス気分さえも漂ってくる。ほとんど聴かれることのなかった音源や未発表作品なども含まれているということだが、それはさておき、これからの時期、お出かけの車中で楽しく気持ち良く聴きたい1枚。

Soviet Freakout - Soviet Freakout Volume 2

タイトル『Soviet Freakout Volume 2』(Volume1は今年1月にリリース)、レーベル名(もくしはアーティスト名)はSoviet Freakout、場所はアメリカ、マサチューセッツ州のマリオンとなっている。Bandcampのページの情報はこれだけで、作品解説にも何も記入されていない。ただ、Instagramのアカウントは存在していて、ロシア語が書かれたレコードジャケットの画像が多数アップされている。マイケル・ジャクソンやルイ・アームストロングやビートルズもある(中にはブートもあるもよう)。再生してみると、ジャケットに書かれているとおり、「サイケデリック、ファンク、ディスコ、ロック」が何を言っているのかまったくわからない歌詞で次々に流れてくる。カセットの曲目リストによると、収録されているのは、ポーランド、モルドバ、ロシア、ハンガリー、ラトビア、カザフスタン、エストニア、セルビアで70年代〜80年代にリリースされた曲。これがなんともいい。国も時代も今いる「ここ」とはズレている感覚に心地良さを感じる。どこかで聞いたことがある気がする(もちろん知っているあの曲ではない)メロディに出くわしたりすることもたびたび。誰か違う人の記憶の中に入り込んだみたいなみょうな感じがある。時代の持つ空気感のせいだろう、まるでインターネットなどなかった時代のリビングのソファにでも座っているような……そんなことをとりとめもなく考えていたら、いつの間にかSide Oneは終わっていて、Side Twoもあと数分になっている。スマホもWi-Fiも存在しない世界の空気の中に少しの間トリップしてみるのも楽しいものだ。とはいえ、インターネットがなければこの作品を知ることもなかったのだけれど。

INTERNET CLUB - SOUND CANVAS

10月、George Clanton主宰のレーベル 100% Electronicaが開催するイベント、100% ElectroniCONの第2回がロサンゼルスで開催された(1回目は今年8月にニューヨークで開かれている)。前回は参加していなかったINTERNET CLUBが今回は登場した。パフォーマンスを行なうこと自体が初めてだったという彼は、インターネットだけでつながっていた人々と会う、リスナーと話をする、物販のテーブルに座る……など、すべてが新鮮な感動だったようだ。この100% ElectroniCON 2でCD-Rが販売され、その3日後にデジタルリリースされたのが、この『SOUND CANVAS』。2013年7月の『Digital Water -Perfect Edition-』以来、6年ぶりのINTERNET CLUBのBandcampページ更新となる。何かが浄化されていくところを描いたかのようなアートワークの、穏やかでキラキラしたサウンドで始まるこのアルバムは、Robin Burnettの今の心情をそのまま写し取った作品なのではないかと思わせる。もちろん、はっとさせられる瞬間やするりとはいかない部分もやはりそこにはある。彼はBandcampを通じて送られるメッセージで、「『SOUND CANVAS』は特に、ある意味ラブレターみたいなものだってすごく感じてる。そうしようと思ってそうなったのかどうかはわからないけど」と書いている。また、「焦る必要はない。なんでも可能。INTERNET CLUBは……フィーリング!とかそんな感じ」とも。だからとりあえず今は、Burnett称するところの「a very dreamy little record」の充足感すら感じさせるサウンドに身をゆだねていようと思う。

TWRP – Return to Wherever(帰る場所は自由)

カナダ出身のバンド、Tupper Ware Remix Party、略してTWRP。まず目をひいたのはそのアートワーク。80年代のレコードそのもの帯、英語タイトルと日本語タイトル(秀逸)が併記されている。ジャケットのイラストは日本のアニメのようであり、アメコミのようであり、ちょっとオズの魔法使いのような童話ものに見えたりもした。実際の彼らもこのアートワークそのままの姿をしている。「Elite squad of Rock Stars from the future(未来のロックスターからきたエリート集団)」とのこと。80年代にインスパイアされたサウンドは、Daft Punk、YMO、80’sのディスコ、AOR、ジャパニーズ・シティポップなどからインスピレーションを得ているという。L.A.D.Y Radioという架空のラジオステーションからの放送を聴いている気分にさせてくれるこのアルバムは、ごきげんなディスコからクールなギターサウンドまでがコンパクトに詰まったハッピーな1枚。日本が大好きだという彼ら。「日本が好きで、とにかく日本に行きたい!」と言っている。日本をイメージして作ったという“Japan Quest”という曲もある。サブタイトルは「Search For the Japanese Booking Agent(日本のエージェントを探して)」。昨年、日本限定盤のベストアルバムもリリースされているが、来日公演はまだのもよう。ぜひ日本のステージで楽しむ彼らを見て、一緒に楽しんでみたいものだ。

death’s dynamic shroud – Live From Japan

途中から観始めた深夜放送の知らない映画。何度チューニングし直しても途切れるラジオ。どこかの無線が入ってきて怖くなってしまったトランシーバー。100匹目の猿。バタフライ・エフェクト。vaporwaveにはそういったものにどこか近いものを感じていた。楽しい時間を引き伸ばしたいスクリュー。好きな瞬間だけを切り刻んで詰め込んだカットアップ。気に入ったところを何度もかみしめるためのリピート。だらだらと見ていられたテレビ番組やCMをザッピングするみたいなコラージュ。得体がしれないけど、得体がしれないからこそ気になる。今、わからないものはずいぶん少なくなっている。わからなかったら検索すれば大概の情報は転がっている。そこには別の恐ろしさがある。そのうち、わからないものなど何もなくなってしまうかもしれない。わかったと思ったことが実際ほんとうかどうかもわからなくなるかもしれない。そうなる前に、なんだかわからないものをなんだかわからないままにしておくという感覚をもう少し楽しんでいたいと思う。『Live From Japan』は昨年日本で行なわれたNEO GAIA PHANTASYツアーでのdeath’s dynamic shroudのプレイを録音したnuwrld mixtape。これまでの作品とリリースされていなかった6曲が含まれている。気持ち良い音の洪水だ。もともとは、インターネットで発表される音楽にはライブで披露する予定などないものが多かったのではないだろうか。ベッドルームのモニターの前で踊っていた人たちは演者の前で踊るようになった。そして、これからどこへいくのだろう。

Glåsbird – Svalbarð

謎の匿名アーティスト、Glåsbirdのセカンドアルバム『Svalbarð』。ひんやりとしていながらも、どこか温かみを感じるサウンドはあまりに心地良く、聴いているとすっぽりと何かに覆われたかのような感覚になる。あるときは聴きながら思いのほかやっていたことに集中してしまい、聞こえているはずの音が聞こえなくなっていた。けれど、ふと集中が途切れて再び音が耳に流れ込んでくると、旅先から自分の家に帰ってきたときの安堵感のような、また格別の心地良さが訪れてくる。この「a sonic expedition of Greenland(音のグリーンランド遠征)」は、Google Earth、360° photos、グリーンランドに住む人のブログ、地図、動画などを参考に作られているという。Glåsbird自身がグリーンランドに滞在して制作した作品ではないということだろう。ひょっとすると、グリーンランドを訪れたこともないのかもしれない。実際にその場に行くだけがイマジネーションを広げる手段なわけではないこともある。行ったことがないからこそ、自由に広がるイメージもある。1年の半分が昼間ばかりの日、残りの半分は夜ばかりの日で、全土の80パーセント以上が雪と氷に覆われていて、人間より白クマの数のほうが多い……そんな北極圏の国、グリーンランド。今こうしている部屋の窓を開けたら、外はまっくらで静かな雪景色なのではないだろうかという気がしてくる。

COEO – Tonic Edits Vol. 6 (The Japan Reworks)

TOY TONICSからリリースされた、ミュンヘンのユニットCOEOによる80年代のジャパニーズポップのエディット集。レーベルには「トイトニックスは日本が大好き」と書かれている。小さい文字だけれども、このことばがちょっと目をひく。例えば英語なら、「TOY TONICS loves Japan」となるわけで、ロゴなどでよく見かけるフレーズのような印象。それをそのまま日本語にするだけで、シンプル、かつ、ストレートなことばになる。そんなところからも複数の文化が交差するおもしろさを感じずにはいられない。“Japanese Woman”、“Tibetan Dance”、“What’s Going On”は原曲のタイトルがそのままつけられているが、“Girl In The Box〜22時までの君は…”は“Matchbox”に、“とばしてTaxi Man”は“Uber Man”となっているのもおもしろい。ドリンク片手にフロアで踊りたくなるダンストラックへとさらなる進化を遂げたシティポップチューンの全5曲。

Rachel Bonch-Bruevich – –>

Rachel Bonch-Breuvich、ソビエト連邦時代のロシアのアウトサイダーピアニスト、コンポーザー。Bandcampのページにある写真に写っているのは、袖なしのワンピースを着て、白い花の咲く庭にたたずむ女性。この人がRachel Bonch-Bruevichなのだろうか。その表情は、微笑んでいるようにも、今にも泣き出しそうにも見える。横にある木にはわずかに赤みを帯びた丸い果実がいくつも熟っている。練習曲のように次々に奏でられるピアノの音の背景には、時折、赤ん坊の声らしきものも聞こえる。しばらくすると音は突然途切れ、まったく脈略のない音が一瞬流れる。そしてまた、なにごともなかったかのようにピアノの音が流れ始める。おそらくテープの重ね録りのためだろう。なんとも雑な録音だ。それにしても、Rachel Bonch-Breuvichとは誰なのか。実在の人物なのか。この重ね録りはどういうことなのか。何もかもが不確かだ。それでも彼女の(おそらく)ピアノの音は響く。晴れた土曜日の午後、どこかの家から流れてくるピアノの音のように。時間は永遠だと思っていたころ、そもそも、そんなことを考えてもいなかったころの甘い感覚が蘇る。危険だ。そんなことをよそに、彼女のエチュードは時を超えて(おそらく)こうして流れている。

wai wai music resort – WWMR 1

wai wai music resort。ワイ ワイ ミュージック リゾート。そのサウンドがどんなものなのか、この名前からうまく想像できないかもしれない(少なくとも私はそうだった。そして、それは彼らの狙いどおりなのかもしれないとも思う)。アルバム『WWMR 1』のアートワークは白地の真ん中に刺繍で描かれた海と木々。南国にも見えるし、日本のどこかにも見える。空の色は日暮れのような、明け方のような。音を聴いてみると、リゾート感あるポップサウンドながら、ほど良く温度は低め。ビル街の天気雨、常時接続でない電子メールのやり取り、夜の車の中で聴くFMラジオ。そこには、ぼんやりとした輪かくを探りながら旅という非日常に寄せる期待と日常にまぎれたリゾートが静かに広がっている。

SOUNDWALK COLLECTIVE – WHAT WE LEAVE BEHIND / JEAN​-​LUC GODARD ARCHIVES

例えば、混雑しない程度に人がいるカフェテリア、決まった順路などなく人々が歩き回ったり座ったりしている美術館。適度にざわついていて、みんなそれぞれのことをやっていて、誰もこちらのことなど気にもとめていない。そういった場所では遠慮なく存在していられると感じる。お互いの存在を意識の端に置きつつも、特にそれに対して何かする必要もない。ただ同じ時間に同じ場所に存在しているという事実がそこにあるだけだ。『WHAT WE LEAVE BEHIND / JEAN​-​LUC GODARD ARCHIVES』を聴いていると、そんなざわめきの中に入ることができる。ひどく疲れていたり、気分が沈んでいたりして、聴きたい音楽もない。そんなときも、この「色を持った音」は雑踏のように私たちを包んで、放っておいてくれるだろう。

Local Visions – Onerionaut

2018年3月25日にコンピレーションアルバム『Megadrive』でスタートしたレーベル〈Local VIsions〉。ちょうど1年後の今年3月25日に再びコンピレーションアルバム『Oneironaut』がリリースされた。参加アーティストは17組から21組に増え、これがそのまま昨年1年間のレーベルの広がりを表わしているといえるだろう。これまでに作品をリリースしたアーティストから、これからのリリースを期待させるアーティストまで、その幅はひとつのジャンルには収まらないほどに広い。それでいて、やはり1枚のアルバムとしてのカラーがある。アルバムタイトルの“oneironaut”は「これは夢だと自覚しつつ夢の中を旅する人」を意味する。リアルワールドへとどんどん広がっていきながらも、どこかそれもすべてインターネットという夢の中だとわかっているような〈Local Visions〉がoneironautそのものなのかもしれない。彼らと一緒なら、私たちもoneironautになって夢の中で遊ぶことができる。そして夢と現実は溶け合って、徐々にあいまいになり、その境界線がなくなる……そんな日もそのうちにくるのだろう。

feather shuttles forever - 図上のシーサイドタウン

小確幸と呼ばれるものについてよく考える。大きな期待をせず、過度な刺激を求めず、目の前にある小さいけれど確かなものを喜び、楽しみ、そこに幸福を感じられたら、と。feather shuttles foreverの『図上のシーサイドタウン』(には小確幸がある。サボテンの鉢を抱えてドイツ車に乗ったり、くらい遊びをしたり、ボルシチを食べたり、時には、スタンプばかりのメッセージなら夜は9時に寝ると静かに怒ったり(船出が早いのは漁村だからだろうか。そんなことを想像するのも楽しい)、そして、「失踪しませんか?」と誘ってみたり。ほどよい脱力感と浮かれ具合と風通しの良さ。このアルバムを聴いていると、自分もそんな日常を過ごす人になれたみたいに錯覚できる。それも、小さいけれど幸せなことなのかもしれない。

Gimgigam - The Trip

まだ寒い2月にリリースされたGimgigamの『The Trip』は、ジャケットのイメージそのままのサウンドに暖かい季節が待ちどおしくなるアルバム。1曲ごとに少しずつ曲の持つ空気は変化し、さまざまな国のリゾート地を訪れる贅沢な旅をしているようにも感じられるので、実際にこれからのシーズンの旅行に携えていって、車窓から景色を眺めたり、歩いて目に入るものを見たりしながら楽しむのもいいし、あるいは、ジャケットのイラストそのままにホテルの部屋やプールサイドで聴くのも最高だろう。けれど、あえて日常の中で聴くのが一番いい気もする。今いる場所からトリップしてしまえるだけでなく、きっと時間までタイムスリップして、不思議におもしろい感覚を味わえるのではないかと思うから。

NO喫茶 – NO KISSA

好きなのだけれど理由をうまく説明できないものやことや人というのがある。説明しようとすればするほど、自分の中にある好きの本質から遠ざかっていくような、好きという感情の周りをぐるぐる回っているだけみたいな、そんな感じになる。すぐそこに見えているのに歩けど歩けどたどり着けない目的地だ。また逆に、理由をいくつも説明できるほうがそれを好きな気持ちが疑わしくなってくることもある。“それ”が好きなのではなく、“それ”を覆っていたり、“それ”に付帯していたりするものが好きなだけなのではないか、“それ”の内側が好きなのではなく外側が好きなだけなのではないか、そんなふうに思える。外側といっても見た目が好きとかそういった話ではない。わけもなく好きな見た目はむしろそれ自体が説明のしようのない、かつ、強い理由となり得るだろう。『NO KISSA』を聴いていると、そんなことを考えてしまう。NO喫茶のサウンドにはひかれるが、その理由を説明するのは難しいからだ。それでも、置いてきた記憶のかけらを含んでいそうな空気を持つそのサウンドは心地良い。もっとも、「膨大なレコードライブラリーの中から生み出されるトラック群」ということなので、どこかにノスタルジーのスイッチを押す何かが隠れている可能性もおおいにあるのだが。何にしても、上手く説明できないけれどなんとなく好きだなあというのは、きちんと言語化できるよりも確かで幸せだということもあるのだ。

Joey Dosik – Inside Voice

Joey Dosikの歌声を初めて聴いた時のことは今でもよく覚えている。それはあるアーティストの来日公演だった。バンドメンバーのひとりである彼はさらりと紹介された。オリジナル曲を披露するという。失礼ながら彼のことを知らなかった私は、特にこれといった感情は持たずにステージを見ていた。彼が歌い始めた瞬間、いわばニュートラルな状態だった私の中の針がぐわんとふれた。その場の空気が変わったのがはっきりとわかった。歌い出したとたん、その歌声に誰もがはっとしてひきつけられる……なんて物語の中だけのことだと思っていた。その時に披露された曲が、アルバム『Inside Voice』のタイトル曲“Inside Voice”。この曲の発売を、私は3年近く待っていたことになる。歌声からもジャケットの写真からも、彼の音楽をやる喜びが伝わってくる。そしてその喜びは、聴いているものを心地良くゆるめ、柔らかく満たしていく。

🐴 – Garden City

何かを好きになる時、その理由が比較的明確にわかることもあれば、なんだかわからないけど好きだと思うこともある。たまたま聴いた10分にも満たないこの作品は明らかに後者だ。好きというほどにもはっきりしていなくて、なんとなく気になるとでも言ったほうがいいかもしれない。けれど、初めて聴いた時は手を止めて最後まで聴いてしまったし、その後もついつい再生ボタンを押してしまう。そこにあるのは、誰も知っている人がいない雑踏に身を置くような心地良さ、それでいて暑かったり寒かったり風に吹かれたり雨に濡れたりすることもない安心感、意味とか別に考えなくてもいいのかもしれないという安堵感。「あともう少しここにいたら、立ち上がっていくことにしよう。ずっとここに座ってはいられない」 そう言われているみたいに音はとうとつに切れた。