Local Visions – Onerionaut


2018年3月25日にコンピレーションアルバム『Megadrive』でスタートしたレーベル〈Local VIsions〉。ちょうど1年後の今年3月25日に再びコンピレーションアルバム『Oneironaut』がリリースされた。参加アーティストは17組から21組に増え、これがそのまま昨年1年間のレーベルの広がりを表わしているといえるだろう。これまでに作品をリリースしたアーティストから、これからのリリースを期待させるアーティストまで、その幅はひとつのジャンルには収まらないほどに広い。それでいて、やはり1枚のアルバムとしてのカラーがある。アルバムタイトルの“oneironaut”は「これは夢だと自覚しつつ夢の中を旅する人」を意味する。リアルワールドへとどんどん広がっていきながらも、どこかそれもすべてインターネットという夢の中だとわかっているような〈Local Visions〉がoneironautそのものなのかもしれない。彼らと一緒なら、私たちもoneironautになって夢の中で遊ぶことができる。そして夢と現実は溶け合って、徐々にあいまいになり、その境界線がなくなる……そんな日もそのうちにくるのだろう。

feather shuttles forever - 図上のシーサイドタウン


小確幸と呼ばれるものについてよく考える。大きな期待をせず、過度な刺激を求めず、目の前にある小さいけれど確かなものを喜び、楽しみ、そこに幸福を感じられたら、と。feather shuttles foreverの『図上のシーサイドタウン』(には小確幸がある。サボテンの鉢を抱えてドイツ車に乗ったり、くらい遊びをしたり、ボルシチを食べたり、時には、スタンプばかりのメッセージなら夜は9時に寝ると静かに怒ったり(船出が早いのは漁村だからだろうか。そんなことを想像するのも楽しい)、そして、「失踪しませんか?」と誘ってみたり。ほどよい脱力感と浮かれ具合と風通しの良さ。このアルバムを聴いていると、自分もそんな日常を過ごす人になれたみたいに錯覚できる。それも、小さいけれど幸せなことなのかもしれない。

Gimgigam - The Trip


まだ寒い2月にリリースされたGimgigamの『The Trip』は、ジャケットのイメージそのままのサウンドに暖かい季節が待ちどおしくなるアルバム。1曲ごとに少しずつ曲の持つ空気は変化し、さまざまな国のリゾート地を訪れる贅沢な旅をしているようにも感じられるので、実際にこれからのシーズンの旅行に携えていって、車窓から景色を眺めたり、歩いて目に入るものを見たりしながら楽しむのもいいし、あるいは、ジャケットのイラストそのままにホテルの部屋やプールサイドで聴くのも最高だろう。けれど、あえて日常の中で聴くのが一番いい気もする。今いる場所からトリップしてしまえるだけでなく、きっと時間までタイムスリップして、不思議におもしろい感覚を味わえるのではないかと思うから。

NO喫茶 – NO KISSA


好きなのだけれど理由をうまく説明できないものやことや人というのがある。説明しようとすればするほど、自分の中にある好きの本質から遠ざかっていくような、好きという感情の周りをぐるぐる回っているだけみたいな、そんな感じになる。すぐそこに見えているのに歩けど歩けどたどり着けない目的地だ。また逆に、理由をいくつも説明できるほうがそれを好きな気持ちが疑わしくなってくることもある。“それ”が好きなのではなく、“それ”を覆っていたり、“それ”に付帯していたりするものが好きなだけなのではないか、“それ”の内側が好きなのではなく外側が好きなだけなのではないか、そんなふうに思える。外側といっても見た目が好きとかそういった話ではない。わけもなく好きな見た目はむしろそれ自体が説明のしようのない、かつ、強い理由となり得るだろう。『NO KISSA』を聴いていると、そんなことを考えてしまう。NO喫茶のサウンドにはひかれるが、その理由を説明するのは難しいからだ。それでも、置いてきた記憶のかけらを含んでいそうな空気を持つそのサウンドは心地良い。もっとも、「膨大なレコードライブラリーの中から生み出されるトラック群」ということなので、どこかにノスタルジーのスイッチを押す何かが隠れている可能性もおおいにあるのだが。何にしても、上手く説明できないけれどなんとなく好きだなあというのは、きちんと言語化できるよりも確かで幸せだということもあるのだ。

Joey Dosik – Inside Voice


Joey Dosikの歌声を初めて聴いた時のことは今でもよく覚えている。それはあるアーティストの来日公演だった。バンドメンバーのひとりである彼はさらりと紹介された。オリジナル曲を披露するという。失礼ながら彼のことを知らなかった私は、特にこれといった感情は持たずにステージを見ていた。彼が歌い始めた瞬間、いわばニュートラルな状態だった私の中の針がぐわんとふれた。その場の空気が変わったのがはっきりとわかった。歌い出したとたん、その歌声に誰もがはっとしてひきつけられる……なんて物語の中だけのことだと思っていた。その時に披露された曲が、アルバム『Inside Voice』のタイトル曲“Inside Voice”。この曲の発売を、私は3年近く待っていたことになる。歌声からもジャケットの写真からも、彼の音楽をやる喜びが伝わってくる。そしてその喜びは、聴いているものを心地良くゆるめ、柔らかく満たしていく。

🐴 – Garden City


何かを好きになる時、その理由が比較的明確にわかることもあれば、なんだかわからないけど好きだと思うこともある。たまたま聴いた10分にも満たないこの作品は明らかに後者だ。好きというほどにもはっきりしていなくて、なんとなく気になるとでも言ったほうがいいかもしれない。けれど、初めて聴いた時は手を止めて最後まで聴いてしまったし、その後もついつい再生ボタンを押してしまう。そこにあるのは、誰も知っている人がいない雑踏に身を置くような心地良さ、それでいて暑かったり寒かったり風に吹かれたり雨に濡れたりすることもない安心感、意味とか別に考えなくてもいいのかもしれないという安堵感。「あともう少しここにいたら、立ち上がっていくことにしよう。ずっとここに座ってはいられない」 そう言われているみたいに音はとうとつに切れた。

パソコン音楽クラブ – DREAM WALKER


パソコン音楽クラブの音楽は不思議だといつも思う。1980~90年代の機材を鳴らして作られたそのサウンドには確かに懐かしい空気がある。それなら何か過去に似たものはあるかと探してみるけれど、ない。過去の記憶を持つ機材で作られた新しい音楽。そんな奇妙なパラドックスのようなものがノスタルジーと高揚感を生む。ほんとうにあったかどうかもよくわからない記憶、初めてきたはずなのになぜか懐かしい場所、聴いたことがあるようで聴いたことがない音楽……すべてをはっきりとさせる必要もないのかもしれない。あいまいなまま、すべてが夢の中のできごとように進んでいってもいいのだろう。たぶん。

Tsudio Studio – Port Island


上質なリリースを続けるレーベル Local Visions。7月のリリースは2作品。部屋でひとり過ごす夏の夜更かしの幸福感に満ちたCristal Colaの『L8 NITE TV』。そして、Tsudio Studioの『Port Island』。Tsudio Studioは「このアルバムの舞台は神戸ですが架空の神戸です。不況も震災も悲惨な事件なんて無かった都合の良いお洒落と恋の架空の都市」ということばをこの『Port Land』に添えている。ふわふわと霞を食べて、でも地面にしっかりと足を着けて、携帯電話のない日常を生きている。そんな人々の住むパラレルワールド。私たちもいつでもここへ遊びにこれる、このアルバムがあれば。

Hugo LX- Desiderata


Danilo Plessow (aka Motor City Drum Ensemble)とPablo Valentinoが運営するレーベル、MCDE Recordingsからのニューリリースは、フレンチアーティストHugo LXのドラマチックな5曲が収録されたEP。A-1“Phone Games”はそのタイトルどおり、電話の呼び出し音やプッシュ音が印象的な曲。ふたりのすれ違いを描いた物語のようにも聞こえる。せつないメロディが鳴るB-1“Desire”はエモーショナルでありながらひんやりとした空気が漂っていて、どこかオリエンタルな香りもあわせ持っている。タイトルの『Desiderata』はイタリア語で「切なる願い」を意味するという。それぞれの「願い」を描いた短編オムニバス映画を観るような1枚。

https://itunes.apple.com/jp/album/desiderata-ep/1408659700?l=en

Guggenz – A New Day


聴いたことのない音楽を聴く。そのきっかけとなるのがジャケットであることは多い。ジャケ買いということばもある。インターネットでのランダムな出会いでは、再生するかどうかはアートワーク次第と言い切ってもいいくらいだろう。実際は、そのアートワークに対して(勝手ながら)持ったイメージに合う音が流れてくることはそれほど多くはない。それでも毎回期待しつつ再生ボタンを押す。うっすら黄味ががった白地にエメラルドグリーンとパステルピンク、ヤシの木のシルエット……Guggenzの『A New Day』は、ほんとうにこのアートワークどおりの音が流れてくるから、ちょっと再生ボタンを押してみてもらいたい。

AOTQ – e-muzak


3月にスタートしたレーベル〈Local Visions〉。第1弾のコンピレーションアルバム『メガドライブ』での華やかな幕開けの次にLV-001としてリリースされたのは、コンピレーションの中でもひときわ清涼感のある“愛はタックス・フリー”を提供していたAOTQの「e-muzak」。柔らかいものでくるまれたような心地良いサウンドの浮遊感は、AOTQ自身が手がけているというアートワークのイメージそのまま。切れ目なく曲がどんどん流れてくるところが非常にBGM的ではあるけれども、そのとうとつな終わり方と次の曲までの間合いのなさはインターネットのプレイヤーで曲を視聴している時のようだと気づく。ただこのアルバムでは、その瞬間は自分でスキップボタンを押すよりも前にやってくる。

DJ Exilevevo – Pure Trance (Mixtape)


ゴダール映画のカットアップのように、さまざまな音が次々に飛び出してくる。ポップで、美しくて、少し恐ろしい。その一見めちゃくちゃに思える音の洪水が新鮮な刺激を生み、それが心地良さに変わる。そして、私たちの日常もこんなふうなのかもしれないとふと気づく。キラキラとした時間もあれば、おどろおどろしい感情が渦巻くときもある(外には出さなくても)。ぼんやりと安らかな気持ちになる時間もあるだろう。自分の目線の外側に出て、そこからそんな日常を見たら、きれいに編集された映画とは違って、起こるできごとには脈略がなく、バラバラで、混沌としているに違いない。そういう日々を私たちは生き抜いている。それだけでもほめられるに値すると思ってもいいのかもしれない……と、内緒話のようなささやきに耳をくすぐられながら思う。「こんにちは。あなたは僕にとって100パーセントの女の子なんですよ」(C)

Elemental 95 – WEB / そ の 意 味 で


海外でのTumblrやMTVなどに続いて、日本でも、ゲームや広告、インターネット界隈で、また、インターネットの外で、これまでvaporwaveを知らなかった人々がvaporwaveに触れる機会が増えた2018年。そんな2018年が始まったばかりの1月に、日本のseaketaのキュレーションによって制作されたコンピレーションアルバム。ゲームをしたりテレビを観たりして過ごした80年代から90年代の幸福な記憶に思いをはせてジェネレーターたちが作ったのが初期のvaporwaveだとすれば、その頃のvaporwaveに思いをはせて作られたこのアルバムは、vaporwaveがある意味一周したということを表しているのかもしれない。そして、そんな入れ子のような、合わせ鏡のような状況、それもまたvaporwaveなのだろうと思う。

feather shuttles forever – 提案 (feat. Tenma Tenma, kyooo, hikaru yamada, 入江陽, SNJO, 西海マリ) & 提案 (feat. Tenma Tenma, kyooo, hikaru yamada, 入江陽, SNJO, 西海マリ) 折りたたみedit


「失踪しませんか?」というフレーズで始まる(なんというインパクト!)、キャッチーで疾走感のある1曲。“提案”の5ヶ月ほどのちにリリースされた“提案 折りたたみedit”がまたとても奇妙で楽しい。hikaru yamadaは、“折りたたみedit”とは「1番(左ch:Tenma Tenma, kyooo)と2番(右ch:SNJO, 西海マリ, 入江陽)を同時に聴けるようにしたものです。左右で失踪するので頭おかしくなれます。あと後半はインストになっているのでみんなで歌ってそれぞれの“提案”を完成させてください」と解説している。それぞれが好き勝手に、かつ、気分良く歌っているかのように左右から聞こえてくる歌声がちょっとしたカオスを作り出す。しかもそれがまったく不快ではなく、むしろ心地良い。なぜそんなふうに感じるのだろうか……と考えているうちにこのカオスの中で失踪してしまう。こんな気持ち良く誰かと失踪してみたい、と思う。

Hajime Iida – Rubber Band EP


レーベル・HIHATから今年11月にリリースされた『Rubber Band EP』。曲名には数字が並ぶのみというシンプルさに加えて、Hajime Iidaに関しては鳥取の日本人ハウスミュージックプロデューサーであるということ以外はアーティスト情報がない(この感じは2017年にMartine RecordsからリリースされたOtenba Kidにも近いものがある。Otenba KidはHajime Iida以上にまったく情報がないが。奇しくもどちらも“ちょうど良い塩梅のハウスミュージック”)。リリース作品のページにはアーティストのSNSのリンクがあるのが当たり前となっている今、手にした作品のみで判断することがあるというのはある意味嬉しいことでもある。そして、そのことにどこかほっとしている自分もいる。音はソリッドな感じのものから軽やかなものまでどれも気持ち良く踊れるものばかり。購入した人だけが楽しめるしかけもあるので、ぜひ所有して楽しんでもらいたいと思う。

Local Visions – Megadrive


今年3月にスタートしたばかりにもかかわらず、すでに上質な作品を数多くリリースしている日本発信のレーベル・Local Visions。その第1弾『Megadrive』は華やかな幕開けにふさわしいコンピレーションアルバム。さまざまなアーティストのそれぞれの色があるトラックが並ぶものの、単純なアソートではなくレーベルとしてのカラーできちんとパッケージングされているのは、主宰の捨てアカウントによるところが大きいのではないだろうか。17曲目の“Megadrive”はアルバムの最後の曲でありながら、トレイラーのような空気を漂わせている。これからLocal Visionsはどこへ向かっていくのか……という期待を写し出しているようにも思える。「部屋の窓から、都市を眺めているような雰囲気」というのはこの曲についての捨てアカ氏のことばだが、きっと、窓から見えているのはLocal Visionsの未来だろう。

Orangeade – Broccoli is Here


12月26日発売、かけ込み2018年リリースとなったこの作品。メンバーの佐藤望より「音楽性を大幅に刷新」というどことなく不安にさせるようなコメントが出ていたが、なんのことはない、確かな完成度と心地良さ、そこは前作『Orangeade』と変わらず。しかし、英語詞、ニュークラッシックあるいはアンビエントの趣きのインストゥルメンタル、予想を裏切り続けるように1曲の中でどんどん変化していくメロディ……と確かにシティ感の強い前作とは異なったさまざまな試みが行なわれている。彼らとともに新しいアドベンチャーを楽しむような心踊る1枚。年末ぎりぎりの発売日はあえて年間ベストに入らないようにしようとする意図なのか……と思うのは考えすぎだろうか。こちらは、Orangeadeのショップからの直接通販分は完売ながら、CDショップなどでまだ購入できるもよう。

https://shop.orangeade.love/items/15786776

Orangeade – Orangeade


リリース前のストリーミングやSNSでの視聴はなく、通販でCDを購入するというのがこの作品を聴く唯一の手段だった(のちに7インチレコードが全国流通盤としてリリースされている)。しかし、これがデビュー作品となるOrangeadeとしての音はどこにもない。ほぼジャケ買いということになる。しばらくして届いたCDを再生したときには思わずガッツポーズ、くらいの気持ちだった。潔いほどに良質のポップス、そのサウンドはどこか太陽の匂いがする。どう考えても初めて聴く音楽なのに、よく知っている懐かしい人やもの、あるいは場所のようでもあり、不思議な安心感と心地良さ、そして高揚感がある。そんな作品を選ばないわけにはいかないのでこうして書いているものの、今すぐに聴いてもらえないのが残念に思う。でも、なんらかの機会があったらぜひ聴いてもらいたいので、ここにこうして書いておくことにする。(これを書き終わった日に、アルバム『Broccoli is Here』のリリースがアナウンスされた。メンバーの佐藤望によると「前作から音楽性を大幅に刷新」とのこと)

http://orangeade.love