さて、今回はちょっとだけ過去の話題に触れたいと思います。2000年代初頭から音楽シーンを追っている人なら、〈Beta Bodega〉というレーベルが存在したことを覚えている方もいるかもしれません。自身のルーツである南アメリカへの思いと、力強い政治的メッセージが込められたそのビジュアルは、レーベルオーナーであるLa Mano Friaによるもの。音楽への情熱をグラフィックのみならずレーベル運営という形で表現し、また〈Rice And Beans〉や〈Botanica Del Jibaro〉などといったサブレーベルへと枝葉を伸ばしながら、さまざまな活動を精力的に行ってきました。
その彼が来日するというので久しぶりに会うことになり、そこで彼が新しいレーベル〈Sud Swap〉を立ち上げ活動しているということ、そしてそれがVaporwaveのレーベルであるということを聞いてとても驚きました。Bandcampのページを見てみると、今年だけでもかなりの量の作品がリリースされていて、かなりエネルギッシュに活動していることがわかります。
https://sudswapaudiobrewing.bandcamp.com
そのネットワークは拡大しつつあり、パートナーレーベルとして同じくマイアミのU-HALL法人営業のメンバーが運営する〈Botanica1〉が参加。また、日本のパートナーとしてはレーベル〈Seikomart〉があり、〈Sud Swap〉の限定リリースの作品などを買うことができるようです。
最新作は「Bottle Share 1」というコンピレーションです。U-HALL法人営業や、ミスターハンセン病患者などといったレーベルでリリースを行なっているアーティストたちの作品がパッケージされており、レーベルの全体像を知ることができる一枚となっています。
その内容は、レトロでドリーミーなアンビエントから、サンプルが引き伸ばされスクリューされたコラージュミュージックなど、Vaporwaveの定番的なスタイルを踏襲したものがメインとなっていますが、レゲエをコンセプトにしているというU-HALL法人営業のダビーなサウンドは、Vaporwaveのコンセプトとレゲエの手法に共通点を見出したものだそうで、そのあたりはマイアミならではの解釈、といえそうです。
「Vaporwaveとはコンセプチュアルな音楽」というのは彼の談ですが、強すぎる主張を盛り込むのは今の時代に合わないと言っていたのも印象的でした。強固な政治的メッセージが込められていた〈Beta Bodega〉のオーナーがそう言うのを聞くと、とても複雑な気持ちになります。かつてより困難な時代に突入しているからこその実感なのでしょう。けれど変わっていないこともあります。それは、彼がDIYで作られていく音楽シーンに可能性を見い出し続けているという点です。続けていくために変わっていくこと、それもまた必要な戦いなのかもしれません。
そんなLa Mano Friaさんですが来年はふたたび来日して、展示やライブなどを精力的に行うよう。予定は以下のような感じです。
1.5 SAPPORO @ 札幌駅地下歩道空間 チ・カ・ホ (exhibition)
1.7 CHITOSE @ 千歳市タウンプラザ (live/workshop)
1.8 TOMAKOMAI @ CLUB ROOTS (live)
1.12-16 TOKYO @ UPLINK GALLERY (exhibition)
1.14 NIIGATA @ TBA (live)
是非、La Mano Friaの新しい展開を体験して見てください。
Related Posts
- 「流れのパターン / Patterns of Flow」展について −川野洋の探究心を再び−
-
2023 NFT Scene Highlights (Part2)
Events and Works Surrounding NFTs: Timeline (365) -
2023 NFT Scene Highlights (Part 1)
NFTをめぐる出来事と作品、2023年のハイライト - 草野絵美が、Bright Momentsと共にAIアートコレクション「Techno-Animism」で世界ツアーを展開
- NYを拠点に活動する日本人アーティストKaryn Nakamuraが個展「noise pile」を開催。