NFTの可能性を拡張する、展示 「ALTERNATIVE MACHINE」解説

Text=Yusuke Shono

新宿のアートスペースWHITEHOUSEにてALTERNATIVE MACHINEによる展示がひっそりと開催された。ALTERNATIVE MACHINEは⼈⼯⽣命研究から⽣まれた理論や技術の社会応⽤を目指して活動している研究者集団で、人工生命や人工知能の研究成果を用いた作品などで知られている。研究と表現活動がまさしく一体となった活動を特徴とする。今回展示されたのはコアとなる部分にNFTの技術を用いた2作品。どちらもNFTの可能性を拡張を意図した、実験的な作品である。そこで今回は、その2作品「SNOWCRASH」「LIFE」の解説を試みたい。

ALTERNATIVE MACHINE
https://alternativemachine.co.jp/

展示空間をストレージとして使用するNFT作品「SNOWCRASH」

ひとつめの作品はWHITEHOUSE一階部分に展開されたインスタレーション、「SNOWCRASH」である。オンライン上での「SNOWCRASH」は、Opensea上で販売されている“The Chord”というタイトルのNFTアートの形をとっている。5つの音から構成された和音が60秒間かけてゆっくりと減衰していくというミニマルなサウンドアート作品である。

一般的にブロックチェーンに保存されるのは参照URLだけで、画像や音声などのデータはIPFSなどの分散型サーバに保存されることが多い。チェーン上に大容量のデータを保存するには高いコストがかかってしまうためである。「SNOWCRASH」が参照するのは、展示会場に保存された音のデータだが、展示が一時的であるため会期終了後はサイトに接続することができなくなる。展示終了により、リンク切れとなったアドレスは、過去に存在したデータの在処を指し示すだけのものとなる。

一方で、展示空間における「SNOWCRASH」は、NFTの参照元のデータを保存する構造体の役割を果たしている。会場には透明の筒が壁面に立てかけられており、各管には音として6bitのデータが保存される。6bitのうち3bitには音の高さが、残りの3bitは音が減衰していくまでの時間が保存されている。実空間における「SNOWCRASH」は、展示空間をデータストレージとして用いた作品なのだ。

データ構造体のアイデアは、黎明期のコンピュータであるENIACの設計者であるジョン・プレスパー・エッカートが提唱した「遅延記憶装置」を元に作られた。遅延記憶装置は、液体などの媒体が音を伝える際の遅れを利用して信号を循環させ、記憶装置として使用する真空管式コンピュータのための技術である。

しかし遅延記憶装置は原理上、外部からの干渉に脆弱であり、少しの音の干渉でもデータが変化してしまう。干渉により変化したデータは、元のデータから見れば破壊されたデータだが、音響遅延線メモリの面白い点は、その容量が極めて低ビットのデータであるため破壊がシンプルにサウンドの変化として現れることにある。すなわち「SNOWCRASH」は展示会場に生じるさまざまな干渉により、変化し続ける作品なのである。

ここまで見てきたように、「SNOWCRASH」にはオンライン上のNFTと、展示空間に存在するストレージという2つの側面が存在した。空間をストレージとして使用するという発想自体とても興味深いが、サウンドアートが持つ空間や時間といった特性にオンラインという次元を付け加えシームレスに両者を繋ぐ作品でもある。そしてその作品は、会期後の現在もう存在していない。ストレージの消失による参照先の消失というNFTにおける構造上の問題を露わにしながら、その不在自体が「作品が存在した証拠」という形で延命し続けている。

自己複製しながら進化するコントラクト「LIFE」

続いて2つめの作品は、WHITEHOUSE2階部分にて展開された作品「LIFE」である。スクリーン上にはバッタのような形態が、その形を変化させながら樹形図状に連なる様子が映し出されている。そのツリーは、ブロックチェーン上で複製されたスマートコントラクトの子孫関係を表しているという。この作品は、自律的に自己複製する機能を持った、「スマートコントラクト」そのものなのである。「LIFE」のスマートコントラクトは以下のように動作する。

まずスマートコントラクトを介して、ユーザがNFTを購入する。次に、販売報酬が一定程度貯まると、コントラクトは自身に保持したETHを用いて、自分自身を複製する。その際に、新しく生まれたコントラクトのNFTは、その親から特徴を受け継ぐことになる。そのサイクルを繰り返すことで、コントラクトは変化しながら無限に増殖していく。

スマートコトントラクトは一度デプロイされると、二度と改変することはできない。そのため、デプロイされたすべてのコントラクトは必然的に作者の手を離れる運命にある。見知らぬ第三者が、そのコントラクトを別のアプリに組み込むことすら可能だ。これもコンポーザビリティと呼ばれる、ブロックチェーン技術の興味深い特徴である。さらに「LIFE」では、コントラクトは自己複製する能力を与えられている。複製は親の持つパラメータの変化を伴うので、複製されるたびにNFTの形状が系統的に進化していく。たとえば多くの報酬を溜め込んだコントラクトはより多くの子孫を残せるため、繁殖に有利な形態を持つNFTが生き残るといった自然選択が生じる可能性もある。「LIFE」のコントラクトは、NFTの購入という人の行為をエネルギーに変え、人と共生することで進化し続ける一種の人工生命となるのである。

まとめ

コンピュータを用いたアートは1950年代にまでさかのぼる。50年代といえば、いまだコンピュータが研究室にしか存在しなかった時代である。そんなもっとも初期の段階から、テクノロジーとアートの関係は結ばれていた。ノンファンジブルトークン標準であるERC-721の策定は、2018年。そこから4年目となる今をNFTの黎明期といってよいならば、わたしたちはまだ可能性の拡張期とも呼ぶべき段階にいる。そのような段階において、アーティストの役割は技術が持つ臨界に触れることにある。ALTERNATIVE MACHINEの二つの作品は、NFTの技術を人工生命の研究に基づく実践と接続することで、その可能性の検証を行う。その実験的な試みはわたしたちに、見通しの良い展望を与えてくれている。それは技術とアートが築いてきた関係の歴史を継承する、新しい展望である。

https://7768697465686f757365.com/portfolio/wh015-alternativemachine/