30年にわたりNYで活動するヴィデオアートのアーティストでありミュージシャンでもあるYoshi Sodeoka。デジタルとアナログの間を横断しながら、まるでRGBの色彩で視覚をハッキングするようなサイケデリアが広がる、実験的な映像作品を作り出してきた。その作品は抽象的だが、独特の温かみと有機的複雑性、そして純粋な映像的快楽にも満ちている。また、その活動歴は、その作品と同じように多彩である。まだブラウザがNetscapeだった1990年台の、GIFアニメすらサポートされていなかった時代に、オンライン上で作品を閲覧することができるオンライン上のプラットフォーム「Word Magazin」にアートディレクターとして携わる。また、当時では珍しかった映像作品を集めたDVD作品集のリリースや、近年もまた実験的な映像作品をリリースするプラットフォーム「Undervolt&Co」を立ち上げるなど、自らの作品を発表するだけでなく、アーティストたちのハブとなるような空間の創造も行ってきた。今回、PHENOMENON: RGB展にも作品を出品中で来日中だった彼に、直接話を聞くことができた。
NYはもう30年になるそうですが、最初に映像の作品を作るようになったきっかけなどはあるのでしょうか?
95年ぐらいだったと思うんですけど、最初はインターネットアートのプロジェクトの「Word.com」というのをやっていたんです。マルチメディアでプレゼンテーションをする、GIFや映像が鑑賞できるサイトです。そのプロジェクトに、アートディレクターとして5年ぐらい携わりました。でも、テクノロジーはすごく変わってしまう。1年前に作った仕事が、ブラウザが新しくなってもう観られられなくなる。Shockwaveというソフトがあって、それもよく使ってたけどもう使えなくなったりとか。そういうことが頻繁にあって、そのことが結構フラストレーションだったんです。そこで、やっぱり表現するメディアとして、ヴィデオがよいのかもしれないと考えるようになりました。
たしかに、映像のテクノロジーはブラウザに比べたら変化が緩やかですよね。
そもそもヴィデオというのはシンプルなんです。たとえばQuickTimeがなくなっても、ほかのフォーマットにコンバートすることはそんなに難しくない。ソフトウェア会社に振り回されるのは嫌だ、というのもあります。企業は経済的な判断を優先しますから。それなら自分で自分の信じていることをやりたい、と思うようになりました。そこから、ヴィデオ作品を作ることに集中し始めたんです。2001年には、DVDの作品集も作りました。出版も自分で。その頃はそういうことをやってくれる人はだれもいなかったから自分でやるほかなかったんです。とりあえずお金を集めて、ハリーポッターを出版してるDVDの会社に頼んでマスターを作ってもらいました。そのときは結構珍しいものだったから、日本でも売ってもらったり、雑誌なんかで取り上げてもらいました。今はDVDの時代も終わっちゃっいましたけどね。2004年くらいに第二弾もリリースしました。
確かに当時は映像を見る手段はほかにはあまりなかったですよね。
YouTubeが始まったのが2005年だから、当時はオンラインでヴィデオは観る簡単な方法がなかったんです。ギャラリーでも、こういった実験映像の展示などはあまり行われていませんでした。だからDVDを作ることが、一番いい方法だと考えたんです。音楽もやってたので、CDを自分で焼いて聴いてもらうということにも慣れいていた。だから、映像も同じアイデアでやればいいかなと。
そこからどうやってミュージックビデオなどを手がけるようになったのでしょうか?
そういう活動が少しづつ人に知られるようになって、〈WARP〉の仕事を手がけ始めたのが、2010年くらいです。彼らって変わったことをやりたい人たちなんですよね。小さいレーベルだからお金が凄くあるわけじゃないんだけど、実験的なことができる。だからやりがいがありました。そういう仕事をするようになって、こういうふうにお金を作る方法もある、ということを知ったんです。仕事は仕事なんだけど。自分では仕事のようには思ってなかったですね。コミッションワークみたいな感じです。
内容に関して自由にやらせてもらえる、ということでしょうか?
そうですね。これは最初に言うんですけど、細かく指示される仕事はあまりやりたくないんです。だから、最初に自由に作らせてくださいということは言うようにしています。その点でいうと、大抵のレーベルの人たちは理解があります。ミュージシャンもヴィジュアルアートの人たちも、アーティスト同士ですから。
ミュージックビデオの仕事で、特に印象に残っている仕事はありますか?
大きかったのは、Tame Impalaとの作品ですね。まだ彼らも、今ほどの人気ではなかったんですが、僕が作ったシングルのヴィデオですごく人気が出たんです。そこからそういった仕事が増えました。だけどポップミュージックではなくて、実験的なスタイルのアーティストから頼まれることが多い。IDMもあれば、ロックのバンドも。
他のアーティストとコラボレーションもよくされていますね。ほかのアーティストと一緒に仕事をするのは好きですか?
好きですね。今回の展示にも出品しているSabrina Rattéと一緒にアートディレクションをやったことがあります。もう10年位付き合いがあるかな。国外の人と働くことが多いですね。だからみなオンラインでやりとりしますね。NYに住んでるけど、やっぱりヨーロッパ。あとはLAの人が多いかもしれない。
Yoshiさんが最近映像を手がけたレーベルの〈RVNG〉もNY拠点ですが、NYは実験的なことをやっている人は多いんでしょうか?
多いですね。アートの中心ですから。だけどやっぱり家賃とか生活費とかが高いから結構逃げていっちゃう人も多いですね。
Yoshiさんの制作活動は普段はどんな感じなんでしょうか?
スタジオはトライベッカの方にあって、ローワーイーストサイドの自宅を自転車で行き来しています。朝10時には出勤して6時には帰るっていうスケジュールを保つようにしてます。コミッションでやる仕事と自分の作品を作る時間を分けて、開いてる時間にはずっと自分の作品を作っていますね。
今回RGB展に出品されている作品にはどのような背景があるのでしょうか?
最近、ブラジルのMYMKというミュージシャンとよく一緒に作品を作っているのですけど、今回の作品はそのシリーズです。いままでとは、ちょっと違った路線の作品です。オーディオリアクティブになっているんですが、以前はそういった作品は好きじゃなかった。音に反応するというと単純な動きを作る人が多い。この作品は音との反応を微妙にわかりにくくしています。
確かに音との連動性はそこまで直接的には見えてこないですね。
彼の音楽の方向性が割とリズムがなく、抽象的だからかもしれません。あと、オンラインに作品を上げたりすると、どういうふうに作るのか聞かれることが多いんです。プロセスがすごくややこしくて説明するのも難しいというのもあるんですけど、あまり手法のことは聞かれたくないんです。実は、小さいときから油絵を習っていたんですが、トラディショナルなアートは、その手法自体に興味を持たれることが少ない。観ることに意識が行っていて、筆をどう使うかということには関心がない。デジタルアートというのもそういう風になっていかないといけないんじゃないかなと思うんです。
なるほどですね。それでいうとYoshiさんの作品には、油絵の具を重ねるときのようなレイヤー感も感じます。作品のスタイルもとても幅広いですけど、普段の作品の実験が作品化されていく、というような進め方になるのでしょうか?
プエジェクトによっても違うんですけど、いろいろなフェーズがあります。まずはアナログでやって、それがうまく理解できるようになったら次に挑戦するという感じで。今は新しいスタイルを作り出しているけど、実験したことは全部後で役に立ちます。映像で編み出した手法を使ってグラフィックも作るしね。
たしかに、映像作品に掲載されているスチールが印象的でした。
一つ一つのカットの見た目が良くないといけないと考えてます。ヴィデオを作っているんだけど、ポートフォリオにスティールも入れるでしょ。止まった状態の絵でよいか悪いかを判断する制作プロセスも影響している気もします。映像を止めて静止画を確認して、またちょっと止めてというのを、一日中やっていますから。
しっかりプランして作るというより、自然のままに任せて作るという感じでしょうか?
最初に思い描いたイメージは、作っていくうちにだいたい変わっていきますね。仕事だと最初にプロポーザルを出すプロセスがありますよね。予め仕上がりを見せるのはあんまり得意じゃないんです。作っていくプロセスで新しい発見をすることが多いですから。一つ一つが実験という作り方なんですけど、長年やっているので、そこは信頼してくれる人が多いです。あとは一番最初に、そこをはっきりと伝えますね。どうなるかわからないけど、絶対良くなるから信頼してくれって。そしたら、なんとかなりますよ。
PHENOMENON: RGB 展示情報
会期:2019年2月23日(土)~3月11日(月)時間:11am~21pm会場:ラフォーレミュージアム原宿 入場料:無料 主催:ラフォーレ原宿
協賛:FRAMED*、八紘美術
機材協力:株式会社 映像システム
企画制作:ラフォーレ原宿、CALM&PUNK GALLERY(GAS AS INTERFACE)
会場デザイン、グラフィックデザイン:YAR
会場には、ファッション、アートの分野で活躍する アーティスト・Jonathan Zawada、グラフィックアーティスト・YOSHIROTTEN、視覚ディレクター・河野未彩による新作大型インスタレーションが立ち現れる。また、その周りを取り囲むように、国内外6名のアーティスト ― 藤倉麻子、Kim Laughton、Natalia Stuyk、MSHR、Sabrina Ratté、Yoshi Sodeokaの映像作品が会場全体を鮮やかな光で包む。