実験的なパフォーマンスを行うユニットMIRA新伝統。

Ultrastudioによるアジアの前衛芸術シーンに特化した展覧会のキュレーションで、二人が表現するものとは


MIRA新伝統という実験的なパフォーマンスを行うユニットがある。ダンサーであり、映像編集、3DCGを担当するHonami Higuchiと、フランス出身の音楽家であり、監督、プロデューサーのRaphael Lerayによって構成され、東京を拠点に活動する二人組だ。MIRA新伝統結成のきっかけとなった、Honamiのトラウマとなる体験のカルタルシスをテーマにした1時間の舞台作品や、その作品を再構成した約20分間のボディパフォーマンスと実験音楽によるショートフィルムなど、身体と心の関係性を問い直すような儀式的な作品を作り出してきた。その二人が、イタリアのぺスカーラで創立され、アメリカにも支部を持つアートディレクションスタジオUltrastudioの東京支部の代表として、アジアの前衛芸術シーンに特化した展覧会・イベント・出版物のキュレーションを行なっていくことになった。3スタジオの共通テーマを“Body”と定め、2020年、2021年に展覧会が開催予定になっている。日本の前衛的な音楽シーンとも深い縁を持ち、あくまでも草の根的な視点を保ちながら、国やカテゴリーを横断する強固な表現を作りだそうとしている、このユニットは稀有な存在と言えるだろう。コロナ禍の真っ只中の変わりゆく状況で、そんな強い意志を持ち新領域に挑もうとしている二人に話を聞いた。

Animation: Ivan Divanto – Sound: MIRA 新伝統

まず最初にお二人についてお聞きしたいです。MIRA新伝統が設立された経緯について教えて下さい。

メンバーのRaphaelは音楽家、Honamiは舞踊家として其々のバックグラウンドがあり、共通の知人を介して出会いました。共にクリエイションを進める中で相乗効果が高まり、最初は“MIRA”として、のちに”MIRA新伝統”へと発展しています。2018年に“TORQUE”という舞台作品をTPAM国際舞台芸術ミーティングin横浜のプログラム内で制作、発表しました。この舞台の記録映像と、その後1年の経過を構成した短編映画作品を、2019年オーストリアのウィーンを拠点とするAMEN recordsからサウンドトラックと共にリリースしました。この一連の活動はMIRA新伝統にとって重要な分岐点となったと思います。

どのようなコンセプトあるいはヴィジョンに基づいて活動していますか?

現状、ライブ活動とリリース作品では、アプローチ方法に変化を加えています。ライブ活動については、快楽主義的なエンターテイメントとは距離を置き、ドラマトゥルギー、儀式、カタルシスをクラブやレイヴの群衆に齎します。多幸感から不協和音へと揺れ動く旅に参加し、高いレベルの熱気と遊び心を維持しつつ、最高潮に達した時には自分自身に深く内在する体験を、提供する事を目指しています。

次のリリースに向けて我々は制作を進めていますが、MVのフォーマットを用いて、私たちを取り巻く社会的・精神的なテーマを物語る、まるで短編SF小説のようなアプローチをしていきます。社会革命が絶対に必要だと考えている一方で、現在のリベラルな世界では、消費だけがアイデンティティを超越していることも認識する必要があります。過去に生まれた伝統や儀式(例えば茶道など)は、地域的・宗教的な特殊性にかかわらず、国全体を統一してきました。私たちは、「伝統」や「儀式」という概念をアップグレードし、今日のアイデンティティーを擁護しつつ、より広い共同体の中へ浸透させる必要があると考えています。これを遂行することは現存するアーティストの責任の一つだと考えます。

どのような経緯でUltrastudio Tokyoの代表になったのでしょうか?

Ultrastudioから最初の連絡があったのは2017年、Raphaelがセカンドアルバムをリリースしたデンマークを拠点とするレーベル〈Phinery Tapes〉を通じてでした。2017年MIArt Official OFF Eventsの一環として行われた、ミラノのFuturDomeでのグループ展「Endless Backup」
で、Raphaelが初めてUltrastudioへサウンドトラックを提供しました。展覧会のテキストとして書かれた散文詩をもとに、ASMRのような口語を使った曲です。サウンドトラックはウクライナの写真家Synchrodogsの作品と共にインスタレーションとして発表されました。その後もわたしたちはUltrastudioの大ファンでした。彼らがロサンゼルスにオフィスを創設して間もなく、わたしたちに日本でのオフィス創設を提案してくれたので、すぐに承諾したのです。

アジアの前衛芸術シーンに特化するということですが、現在のアジアのシーンについてどのような印象を持っていますか?

まず最初に我々のキュレーションはオーディオビジュアルとパフォーマンスに特化していることをお伝えします。二つ目に、ここでお話しする前衛=“Avant-guarde”という言葉は、大手アート機関が定義し、付加価値として使用され、閉鎖的で上流階級の市場となっているものとは異なります。フランス語で“Avant-guarde”という表現の本来の意味は、反動的な勢力に対抗して最前線で行進する抗議者を意味します。その意味では、政治的、精神的な意識を持って創作活動を行っているアーティストを指します。

美的観点から(我々の個人的で理論的ではない問題も考慮した上で)いくつか名前を挙げるとすれば、中国のSVBKVLTや33EMYBW、Genome66.6、Tianzhuo Chen (Asian Dope Boys)、Howie Lee、香港のAbsurd Trax、日本のDark Ninjaのような、儀式、ビジュアル、パフォーマンスをミックスしたアーティスト等に大きな関心を寄せています。これらの新しいシーンに共通しているのは、美的に大いに革新し、ローカルシーンを超えて拡大し、強い社会的・精神的底力を持っているという点です。

Exhibition: BUT LOVE LEFT NO ROOM FOR HYDRATION 2019 – Artist: Roxman Gatt – Place_ Los Angeles – USA

日本のアンダーグラウンドの音楽シーンとも繋がりを持っていると思いますが、よければ音楽面での履歴についても教えていただけますか?

Raphaelは17年前にパリでノイズや即興音楽のイベント企画や、無政府団体によるラジオ番組にて隔月でホストや、イベントを企画等していました。当時日本に住んでいたKouhei Matsunaga(aka NHK yx Koyxen)、Aki Onda、Goth Trad、Rudolf Eb.er 、Zbigniew Karkowski などと共同して働いた時に、日本のアンダーグラウンド・シーンに関心を寄せました。

その後、日本に拠点を移して、Hakobune、Chihei Hatakeyama、H-Takahashi、食品まつり、
DJのSobriety等とラインナップを共有していました。MIRA新伝統として、最近ではSpeedy Lee Genesisがオーガナイズする”Neoplasia3”にてYves Tumorのライブのオープニングアクトを務めました。我々が展開しているシーンに集中すると、Kazuki Koga、AMEN recordsからもリリースしているKeita Sekiharaや、Ψυχή 、DJのMari Sakurai、BGKNB 等との交流があります。
最近では、KLONNS主催、lIlIなどが出演した”DISCIPLINE#22”でのライブストリーミングに参加しました。プライベートではforest limit、soup、bonobo、WWWなどでパーティーしたり遊んだりすることが多いです。

Exhibition: Endless Backup 2017 for Miart off events – Artists: Benoit Menard, Olivier Pauk, Andrea Martinucci, Zsofia Keresztes, Dominik, Sebastian Wickeroth, Raphael Leray, Synchrodogs. – Place_ Milan – Italy

パフォーマンスや音楽制作、キュレーションとさまざまな領域を横断する活動になっていきそうですね。そのようなシフトにおいても変わらないお二人のコアの部分はなんだと思いすか?また、そのような横断の可能性についてお二人はどのように考えているのでしょうか?

前述した儀式性、そして人生においての経験は、表現や作品へ繋がりがあることを尊重します。
我々の定義は“考えさせる”ことであり、その基準に満たない場合はやる気になりません。
サービスや商業目的でもありません。そして文化と共存し、政治意見を持つことです。エステティックは変化し続けるものなので、常にワーキングプログレスを継続する必要性があります。現状、特にオーディオビジュアルの場合は、アーティストとキュレーターの違いは曖昧だと思います。ある意味、アーティストは自己キュレーションを行なっています。作れるか作れないかではなく、素材の組み合わせの選択、そしてテーマの決断や、エステティックを整えることが主な作業となっています。キュレーターとアーティストの力関係は取っ払って、フラットな関係を築いていきます。 

Exhibition: COALESCENCE w- Scandale Project for Re_Act 2018 – Artist: Daniel Van Straalen

来年のテーマ”Body”ですが、なぜこのテーマが選ばれたのでしょう?

新型コロナのパンデミックの最中、Ultrastudioペスカーラ、ロサンゼルス、東京のメンバーでオンラインミーティングを行いました。
・様々なパラドックスを感じていて、自身の身体を守るためにリモートワークを行なっているはずが、感覚的には自身の身体の所在を見失いかねない状況である。
・エッセンシャルワーカーはリスクを伴っている状況で、現在の社会において、身体についての価値観はどうなっているか。
・政府からの体を守ろうという勧告の意味は資本主義における会社のリソースとしてなのか、各人の健康や人類愛としてなのか、どちらなのか。
という話題があがりました。”Body”について今一度考察する機会であるとして、テーマが確定しました。

お二人の活動とも相性の良さそうなテーマですね。もしよければお二人が「Body」というテーマをどのように捉えているかお聞きしてもよろしいでしょうか?

そうですね。「Body」というテーマは、我々にとって非常に強く響いてきました。最初に述べた、リリース作品 “TORQUE”は、性暴力を受けたHonamiが、性産業へ堕落したことを描いたもので、自分の身体を売ること、常に病気と向き合うこと、そこから立ち直ること、などを繰り返してきました。資本主義は労働者階級の体を利用し、破壊し、性産業は「すべては売り物」という論理の究極の形です。それは「自由」の名の下に行われているが、現実はほとんどがトラウマを抱えた不自由な人々へ対する搾取であり、彼らは生き残るために必死なのです。あまりにも多くの人が自分の体から離れてしまう傾向があるようです。彼らは、自分たちのアイデンティティは、切り離された、浮遊する「心」の中にのみ存在し、身体はそれとは無関係であり、使い捨てのものであると考えているようです。基本的に、彼らはそれを知らずに繰り返しており、非常に古いキリスト教の二分法的概念のようです。

また、ノンバイナリー、トランスジェンダーの人々は、自己イメージと一致するために身体を変えるという葛藤を経験し、それに伴う精神的な旅を経験するため、それらの問題に対してより鋭敏になる傾向があると考えています。Arcaは彼女のトラック“Metrefeque” でそのことを美しく形容しています。

新型コロナウィルスの影響で、これからの東京も大きく変化していかざるを得ない気がしています。あなたにとってこの東京という場所はどのように見えていますか?またどのようになっていくと思いますか?

革命と協力が必要な時だと思います。我々も大好きなスペースの継続が危ぶまれており、クラウドファンディングなどで支援を行いましたが、まだまだ厳しい状態です。もしコロナの第二波が来たら、しばらくはストリーミングを続けていくことになるでしょう。でも経済的にはもう手遅れであり、今の政府は明らかに文化全般に関心がないし、アンダーグラウンド・シーンにも関心がありません。アーティストが積極行動主義として取り組むべき時だと考えています。自我や我儘を言っている場合ではありません。

また、誰もが生き延びるためには、昔のレイヴパーティーや自治区のように、必要に応じて違法な手段を使うことも覚悟しなければならないと考えています。もし私たちがルールに従うだけならば、脆弱なアンダーグラウンドシーンは絶望的なものになってしまいます。“アンダーグラウンド”という言葉の意味を忘れてはいけません。

MIRA新伝統

https://www.instagram.com/__m_i_r_a___/

Discipline #22 (パフォーマンス動画)
https://www.youtube.com/watch?v=znkRaTSZcDw

Neoplasia #3 (パフォーマンス動画)
https://www.youtube.com/watch?v=ivCg9aUEtco

Torque (リリース作品)
https://www.youtube.com/watch?v=9dvrBn-Nxqg&t=1s