1970年代を中心にフィリピンで活動した二人組のバンド、Hotdog。メンバーのRene Garciaは2018年、Dennis Garciaは今年と相次いで亡くなっている。Hotdogの記憶が薄れて消えていってしまわないようにと、Dennisの息子で、自身もミュージシャンのPaolo Garciaがリリースしたトリビュートアルバムが、この『Muling Kagat』。タイトルはタガログ語で「もうひとつの味」を表わす。Hotdogの最初のレコードのタイトルが『Unang Kagat』(「最初の味」の意味)だったところからつけられた。何十年もの間フィリピンの人たちに愛され続けているという、ファンク、ジャズ、ディスコ、ポップ、ロック、サイケ、サルサ、サンバ、ブギー、そして、kundimanと呼ばれるフィリピンミュージックのテイストが混ざり合ったサウンドは、冬のない国から運ばれてきた風のように明るくまろやかで心地良い。それでいて、その中にはどこかせつなさの気配も感じさせる。せつなさのさじ加減は絶妙で、それがこのHotdogの隠し味となって極上のテイストを作り出しているのだろうと思う。