梅沢英樹 + 上村洋一 - re/ports

梅沢英樹と上村洋一、二人のアーティストの共同制作による、およそ40分にわたる音響作品。流氷や海底に広がる音、波や雨の音、温泉施設の反響音や鐘楼など、世界の様々な場所で録音された自然と人工物の環境音が、電子音による変調や加工、あるいはミュージックコンクレートの手法によって編集されながら(そこには具体音も含まれている)、多様な色彩やイメージを含んだサウンドのストリームへと溶け合い、曖昧模糊としたアンビエンスを紡いでいく。彼らはフィールドレコーディングという録音の手法に対し、集中して聴く行為に眠る純粋な発見や、あるいは環境音がもたらすリラクゼーションといった要素に加えて、意識的に複数性という視点を、様々なレベルにおいて含ませている。リリース文の言葉を引用すれば、それは「自然と人工の境界が曖昧で、一聴して判断がつきにくい状態」を設け、「いま、聴いている音は一体何なのだろうか」と問いを立ててみる、つまり対象が常に別のものへと成り代わる可能性や矛盾の余地を、予め考慮しておくということである。自然や生態系という大きな存在に対し、従来の画一的な接し方や恒常的な思考では、もはや関係が存続できないと自明となったいま、彼らが自然と音に向けるプルーラルな捉え方は、現代において有効的な視座だと言えるし、同時にとてもナチュラルな態度である。そうした彼らのアプローチにフィードバックするかのように、音たちもまた、制作者である二人の意匠を超えて、いくつもの意味をおのずから語り始めるだろう。ちなみに、環境音と楽器、そしてコラボレーションという制作方法の組み合わせからは、ピーター・ブロッツマンとハン・ベニンクが、アウフェンの森林で録音した「Schwarzwaldfahrt」というレコードを思い出した。