ブリストルを拠点とするBruceのフルアルバムが自身の初リリース元である〈Hessle Audio〉から届けられた。この現在のイギリス、そして世界のクラブ・ミュージックをリードする3人の目利きから成るレーベルからリリースされたこと、そしてBruceは他にも〈Dunos Ytivil〉、 〈Hemlock〉や〈idlehands〉、また〈Timedance〉からもリリースを重ねていることから、これらに馴染みのある人々には彼の音楽が想像できるだろう。ダブステップを起点にテクノやエクリペリメンタルな方面へ触手を伸ばし、広がり続けるポスト・ダブステップの流れを代表するようなレーベル勢であり、そのいずれからも引く手あまたの存在であるのがこのBruceである。Bruceの名を見たら、そこに未来があると言っても過言ではない。彼の音楽は常に未来を向いている。
Bruceの音楽はそのパーツのそれぞれがまるで細胞のように組織され、機能している。曲によって多様なリズムが採用され、キックが鳴らすリズムはフロアでの鳴りが意識されたものである。その一方で、中高音域には様々なメロディが飛び交う。全体としてはポスト・タブステップの流れにおけるテクノへの傾倒が見られる中、そこにはデトロイト・テクノまで遡って想起させるような荒さも備えたエネルギッシュな音に加え、たとえば(他のレビューですでに触れられていたが)Monolakeのような硬いダブ・テクノを連想されるような音も聞こえてくる。さらにノイズや急なビートの変化など様々な音響的なしかけも綿密に設計されている。先に述べたような「未来的」という表現がふさわしいような、歪んだ叫び声やノイズが全体を塗り替えていく。ブレイクの入り方や極端に音数が少なくなる展開、そしてBPMの異なる楽曲たちがスムーズにノイズなどで繋がれていく様は美しく、冷たい。
Bruceの音楽はクラブでどのように鳴り響くのだろう。冷たく、時に全てを引き裂くような叫び声やノイズが入る彼の音楽は、フロアがある種のコミュニティであるとすればそこに亀裂を入れるような機能をもつのかもしれない。このアルバムの狙いは「フロアで、少しの間その周囲の環境から人々を引き離しながら、彼らが自分が誰だかわからなくさせるという変形をもたらす生々しい感覚」を描くこととされている。また、アルバムのタイトルは『Sonder Somatic』という。前者はThe Dictionary of Obscure Sorrowsによれば「通り過ぎていく人々も自分と同じように鮮やかで複雑な人生を歩んでいることに気づく感覚」であり、後者は細胞の意味をもつ。彼のもつアルバムの狙いとタイトルを合わせれば、クラブというコミュニティにおける細胞である一人ひとりに向けられた音楽であることは明らかであろう。それは躍らせるという機能性だけを持ったものではない、美しく冷たい未来の音楽であるが。