Rafto – Island
日本のレーベル〈Solitude Solutions〉より、初のフィジカルリリース。Islandをテーマに抽象的な世界を描いた8つの楽曲からなる。シャワーのように降り注ぐそのサウンドはこなれていて、持続する一貫した世界を作り出している。描かれるその世界は基本的にモノクロームだが、その硬質さの奥にどこかリラックスしたムードも漂う。自然のような超然とした佇まいに、光の波長のような眩しさを持つ音響が響き渡る。hakkeによるジャケットワークもマッチしていてよい。
日本のレーベル〈Solitude Solutions〉より、初のフィジカルリリース。Islandをテーマに抽象的な世界を描いた8つの楽曲からなる。シャワーのように降り注ぐそのサウンドはこなれていて、持続する一貫した世界を作り出している。描かれるその世界は基本的にモノクロームだが、その硬質さの奥にどこかリラックスしたムードも漂う。自然のような超然とした佇まいに、光の波長のような眩しさを持つ音響が響き渡る。hakkeによるジャケットワークもマッチしていてよい。
ホストの体験からゲームから影響まで、その濃い経歴をニコニコ動画、YouTubeを通じて発信してきた彼が、トラックメイキングからマスタリングまでセルフプロデュースしたという作品。スペーシーでゴシックなトラップビートに載せたそのライミングは、まったく力みのない姿勢のまま変則的なリズムを自由自在に乗りこなす。流れるように紡ぎ出されるそのリリックは、赤裸々だがなぜだかとても爽やかな響きを持つ。その特異な存在はきっとこのシーンの次の領域を切り拓くにちがいない。そんな刺激的な予感に満ちた作品。
久保正樹によるソロ・プロジェクトformer_airlineとニューヨーク出身の音楽家、shotahiramaによるレーベル〈SIGNALDADA〉からのスプリット作品。shotahiramaサイドはエレクトロニクスとノイズが粘土のように変幻自在に形を変え交錯するトリッキーなサウンドコラージュ、former_airlineサイドはな螺旋のようなパターンを響かせながら上昇を描くダビーで催眠的なミニマルビート。ショーケース的にそれぞれの特性をシンクロさせた良作。
とめどなく溢れ出る命のように喜びに満ちた音楽。瞬間瞬間に音のイメージが、色鮮やかに変転し続け、踊りを踊るようにさまざまな形を描いていく。言語化を拒むように掴んでは転げていくその抽象的な形態は難解というよりも、未だ名付けられぬものが持つ純粋さと、喜びに満ちあふれているように感じる。わたしたちはそれを音楽と呼んでもよいのだし、たぶんそう呼ばなくともよいのだ。ただ泡のように次々と生まれ出ては消える心地よい驚きが続けばよいのだから。
大阪を拠点に活動するTAKAHIRO MUKAÏの〈ERR REC〉からとなる、独特の歪を見せるノイジーな感触を持つミニマルミュージック。輪郭のぼやけた音のテクスチャーに、柔らかなリズムが波のように寄せては返すうねりを重ねていく。8ミリフィルムのモンタージュのような抽象的かつ柔らかな音像で脳をかき回し、跳ねるように躍動するリズムの持つ優しい狂気で聴くものを包み込む作品。
マンスリーでも取り上げたけれど、その後めでたく〈EM RECORDS〉からリリースされたtakaoによる作品。カテゴライズするとしたらもちろんアンビエント・ニューエイジということになるのだろうけど、室内楽的な作品にしてはその存在感はあまりに苛烈だ。アコースティックな響きに垣間見える柔らかい優しさに満ちたエレクトロニックなテクスチャー、その調和が幸福なユートピア像を浮かび上がらせる。レトロスペクティブともいえる不可侵の気分が支配する現代において、そんな時代性とは全く無関係に、叙情性やスピリチュアリティの代わりとなる今を示す。そこに接続するその先を示してくれた作品。
山口で活動するToiret Statusによる、〈PLUS100 Records〉からの作品。知らないならばとにかく何が何でも聴いてもらいたいアーティストの一人。そのグルーヴは更新されており、独自のフリーキーさを保ちながらもより身体性を獲得していっているように思う。そこで獲得されるのは踊れる身体というだけでなく、あらたな身体感覚にほかならない。だけど、このような唯一無二のスタイルを持つ作家において進化とは何かという問題ほど難しい問題もほかにない。比べるべき尺度がほかにまったくないからだ。無重力に放り出されるかのような、甘美なめくるめく転回。ここにあるその自由の感覚は、オンライン以降に切り開かれた感覚の解放の最も良質な結実ともいえるだろう。
カニエウェストの新作アルバムPabroを聴かずに架空のアルバムとして構成してしまった作品で話題になったTOYOMUのデビュー作品となるアルバム。京都に古くから伝わるわらべうたをテーマにしたMABOROSHIをはじめ、ファニーかつ才能のスケールの大きさを感じる作品が並ぶ。題材から想像される幻想的でノスタルジックな光景とはまた異なり、ユーモラスでありながらも奇妙に乾いた不思議な世界観が広がっている。
Kouhei FukuzumiことUltrafogによるアメリカのレーベル〈Motion Ward〉からのヴァイナル作品。凛とした緊張感を纏った分厚い音響のテクスチャーが、聴覚の世界を非現実的な幻想により覆い尽くす。ミニマルで現代的なアンビエント作品だが、身を委ねられるような心地よさというより、ゆらぎを持った荘厳な響きの中に身を晒しているような感覚がある。硬質だが彩り豊な音に包まれるダイナミズムを感じることのできる作品。
日記のような日常世界の感覚から始まった前作、前前作から、タイトル通り「宇宙」をテーマにしたという本作は、日常から空想的な果ての世界へと至る旅の物語として聴くことができる。サウンドトラックのように描かれたその楽曲には、記憶の彼方に触れるような心やさしく穏やかな光景が広がり、その奥には微かな既視感がずっと響き続けている。この感覚はノスタルジーという現代に顕著なモードである。文化的に洗練された逃避行を続けながら、日常から音の生命を汲み出し続けるという試み。小庭的な作品だが、そこには私的な空間に穿たれた穴から世界を眺めているような展望が広がっている。
〈Wasabi Tapes〉からのリリースはちょっと意外だったのだけど、中身を聴いてみて納得。ホワイトノイズとまでは行かないが、まるで自然音のような異様な音像、とても自然に次の場所へと展開していくより引き伸ばされた奇妙なゆらぎは、自然のゆったりとした時間の流れを都市のビルの合間から垣間見ているような気持ちになる。その情景は、そこにあるのにけして近づくことのできない光景のように、わたしたちの窮屈な日常にピッタリとはまり込む。
ビートメーカーとして活動してきたVaVaによるEP。ゲームなどのディスプレイの向こうにあるバーチャルな文化への愛を赤裸々にラップした作品。ハスリングする日常を描いたり、セルフボーストを決めてみせるHIPHOPもよいけれど、オタクっぽい歌詞内容が逆に新鮮。ジャケットがカセットを模したものだったり、Vaporwave的な感触もあるけれど、それより同時代の文化を自然と歌にしたという佇まいが感じとれる。もちろんラップにおいて素直さは価値だけれど、その率直さがふとした瞬間に心に刺さる良品。
愛知県在住のトラックメイカーwoopheadclrmsによる〈Genot Centre〉からの作品。カットアップコラージュによるこのような抽象表現的なサウンドが、これほどポップに昇華されたことはなかったのではないか。見たことのないほどの豊かさと驚きが、その響きのなかに満ちわたる。シーンをつなぎ合わせることにより物語が生み出される映画のように、さまざまな色彩やテクスチャーを持つ音の組み合わせが、切り貼りされて非言語的な物語を紡いでいく。それはオンラインの片隅で集合無意識が生み出した非人間的な美学だ。感情とか理解などといった地平を超えて、ただシンプルに美しさと出会えるという幸せ。これまで見たことがない、その奇妙で驚くべき光景をただただずっと眺めていたい。
〈PYRAMIDS〉レーベルからリリースされた、Japanese Ghostsシリーズの3作目。日本という風土が持つ霊性を音により具体化するこの連作は、伝統が未来的なヴィジョンをも形作れることを証明した。ゴーストとは幽霊でもあり、存在しない何者かの痕跡を捉えるための言葉でもある。存在と存在の間にあるその非存在は、音が作り出す響きのように豊かな色彩を持つ。あらゆるものが生命のような固有の響きを持つとしたら? 不安以上に、そんな楽しみに満ちた世界はほかにはない。不確定性原理のようなパラドキシカルなその曖昧さは、オンライン以降を生きるわたしたちのリアルにこそふさわしいだろう。
Sim Forartや〈Wasabi Tapes〉を主催するKenji Yamamotoの名義のひとつ+youとspace xによる作品。space xはイーロン・マスクに刺激を受けてのKenji Yamamotoによるネーミング。断片的な音のコラージュによって作られるその世界像はとても明朗なヴィジョンを紡ぎ出す。そこには、まだ見ぬ世界へのノスタルジーやフューチャリスティックな幻想性など、ありとあらゆる豊かな感覚を感じ取ることができる。ジャケットのアートワークにも現れているように、このザッピングによって織りなされる名状しがたい感情は、現代のメディア環境が作り出した知覚がもたらす新しい感覚を示しているようにも思える。